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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
14/74

14)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 戦、戦、戦の世の中だから、成人を迎えた男子ともなれば雑兵として戦に駆り出されることになる。

 農村部ともなれば働き手となる若者たちを強制的にかき集めて行くことになるし、老人と女子供だけで畑や田んぼを耕作しなければならなくなる。もちろん生産量なんかはガクッと落ちることになるんだけど、上の奴らはそんなことなんか気にしない。


「戦に必要な兵糧はここに徴収する!」

 と言って容赦無く奪い取っていくことになるんだからさ!

 働き手の男たちがあっという間に戦に連れて行かれる今の世の中で、川場の町にこれだけの筋骨逞しい人足たちが残っているのには理由がある。


 今の時代、何が飛ぶように売れるって?

 木材だよ、木材。何処かで城が燃えている間に、何処かで新しい城が築城されているような世の中だもの。木材、木材、そこかしこで必要になるのは間違いない。しかも上等な木材は高値で売れるとあって重要な資金源になるってわけで、川場の労働力はそのまま留め置かれることになったってわけさ。


 僕らはご先祖さまの時代から植林も行っている関係で、何処の木を切って降ろすべきかということがよく分かっている。上等な木材というものは計画して作られていくものなので、一朝一夕で出来るようなものじゃないんだよ。百年単位の計画で作られていくものなので、流石の守護代さまも、戦に駆り出すようなことは行わなかったというわけさ。


 そこに目を付ける人間(お金がある庄屋さまなど)は、自分の子供たちを戦に駆り出されたくないため、お金を積んで川場に預けるようなことも行うんだ。

 戦が免除されるんだったら!なんてことで、金を積んでやってくる男たちを受け入れるのが川場の材木問屋ということになるんだけど、


「「「てめえ!ふざけんなよ!」」」

「「「死ねや!こらぁあ!」」」


 棍棒片手にこちらに襲いかかって来る人たちは、八兵衛さんがお金で受け入れた余所者たちということになるわけさ。


 こういった余所者たちは、僕の父さまの恐ろしさとか、先生の恐ろしさというものが良く分かっていない。幸太なんか恐ろしくなって逃げ出したけど、在所の者なんかは絶対に襲い掛かろうなんて発想には至らない。

「ぐあぁあああ!」

「ぎゃああああ!」

 根っこがまだついている状態の木の棒を掴んだ先生は、容赦無く向かって来た男の頭を殴りつけ、返す木の棒で後ろから襲い掛かろうとしている男の腹を突き上げたもの。


「ぶっ殺してやる!」

 匕首を片手に突っ込んで来る男もいたんだけど、回転するようにして避けざま、先生は容赦無く木の根っこを男の背中に叩きつけた。木の根っこにこびりついた土が煙となってもうもうと舞い上がっている。


「「「殺す!」」」

「「「後ろから捕まえろ!」」」

「「「ぎゃああああ!」」」

 先生は根っこが付いたままの棒を縦横無尽に振り回して、男たちは血反吐を吐き、頭から血を流して倒れ込む。


 僕を背負ったままでも何の問題もない様子で、最後の一人がゲロを撒き散らしながら倒れるのを見下ろすと、先生は木の根っこを尻餅を付いた八兵衛さんの股の間に振り下ろしたんだよね。


 大事なところは潰されずに済んだけれど、一寸程度の間を置いて地面に叩きつけられた木の根っこから舞い上がる土がもうもうと八兵衛さんを包み込んでいく。


「さあて、最後の一人はどう料理をしてやろうか?」

 先生がそう問いかけたところで、

「お待ちください!お待ちください!」

 木戸門の騒ぎを聞きつけた様子の惣兵衛さんが慌てた様子で駆けつけて来たんだ。


 惣兵衛さんは八兵衛さんの息子なんだけど、連れて来ている男たち全員が弓矢を構えているような状態だよ。


「先生!どうしよう!」

 惣兵衛さんが連れて来た人たちが弓矢を構えてこちらに狙いを定めているんだもの。父さまの死に様を知った奴らは、弓と矢さえあれば誰でも倒すことが出来るとでも思ったのだろうか?


 弓矢を構えているのは八人、先生なら制圧するのは簡単かもしれないけれど僕をおんぶした状態のままだと不利なのは間違いない。

 僕はすぐさま先生の背から飛び降りたんだけど、先生ときたら自分の懐をゴソゴソと漁りながら、

「守護代さまから頂いた書状がここにある!」

 なんてことを言い出したんだ。


 先生は、自分の懐から一枚の書状をなんとか引っ張り出すと、

「守護代さまよりご下知があった!川場の材木を請け負う問屋とその主人に対して、偽りの報告を行ったという嫌疑が上がっている!」

 と、言い出したんだ。


「本来であれば都へ運ばれているはずの木材の一部が届かず、唐律招提に運ばれたということが判明したそうだ。お前ら、中抜きした木材をお寺さん相手に高額で売買しているな?」


 今の世の中、あちこちで戦が起こっているけれど、上質の木材は武将の方々に売り渡すよりも、お寺に売った方が金になる。

「ぬぁあああにを馬鹿げたことを言っているか!」

 尻餅をついたまま八兵衛さんは大声をあげているんだけど、惣兵衛さんの方は顔を真っ青にして震え上がっているような状態だよ。

「そんな書状は偽物だ!守護代さまがお前程度の人間にわざわざ書状を託すわけがないではないか!」


 先生は八兵衛さんの顔を見下ろしながらニターッと笑いながら言い出したんだ。

「兄弟弟子の繋がりを舐めてくれるなよ?俺には俺で、お前などでは思いもよらないような人間との繋がりもあるんだよ。それこそ、守護代が震え上がるような人物との繋がりもあるということになるのだが」


 先生は八兵衛さんの襟首を掴みながら言い出した。


「お前は以前から徳一が邪魔だったのだろう?郷士の兼蔵と手を組めるのなら、徳一などいらぬと思ったのであろう?だからこそ、お前は徳一を簡単に殺せるように手引きをした」


 僕の頭の中でパチパチと駒が動いていく。

 最近、八兵衛さんが金を貰って人足を引き入れたんだけど、この人足たちの所為で川場の雰囲気は物凄く悪くなっていたんだ。


 好き勝手しようとする男たちを父さまが牽制することで何とか川場の均衡は保たれていたわけだけれど、父さまが死んで以降、八兵衛さんたちが好き勝手やり出しているのは日を見るよりも明らかだった。


「まさか・・僕の父さまが殺されるのを八兵衛さんは知っていたの?」

「知っていたというより、こいつ自らが手引きしたと言っても良いだろう」

「兄さんが死ぬのを知っていた!それも手引きしたですって!」


 そこでおばさんの声がその場で轟くことになったんだ。幸太が声をかけて川場の人間をかき集めながら木戸門まで戻って来てくれたんだけど、

「兄さんが今までどれだけ私たちを救ってくれたのかも知った上で!死ぬ手引きをしたって言うのかい!」

 おミツおばさんの悲痛な声が響いたことにより、今まで僕らに弓を向けていた男たちがその弓を下ろした。


「兄さんが!兄さんが今までどれだけ川場の町を守ってきたのは皆んなが知っていることじゃないか!だっていうのにまさか・・あんたが殺しの手引きをしたなんて!」


 僕の父さまはこの地域では豪傑として有名だったんだけど、大勢の無頼者を排除する際には大怪我をすることもあったし、時には自分の命を賭けて町を守った人でもある。

 自分たちの守護神を自ら殺したようなものだもの、非難の目が一斉に八兵衛さんに向かっていくと、

「みんな!これには色々と事情があるんだ!」

 惣兵衛さんが慌てたように言い出した。


「止むに止まれぬ事情というものがあるんだよ!」

 惣兵衛さんは必死に訴えたけど、集まったみんなが軽蔑の眼差しをむけていく。

 なにしろ八兵衛さんの周りには、最近、評判も悪い人足たちが泡を吹いて倒れているし、その横には土蜘蛛の首級がズラーッと並んでいるような状態だもの。


 顔役でもある八兵衛さんがわざと父さまを殺したとするのなら、その結果がずらりと目の前に並べられたような結果となったわけなのさ。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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