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今の世の中、毎日、毎日、何処かしらの場所で戦、戦、戦の世の中なんだけど、枝打ちをした高級な木材というのは結構な高値で飛ぶように売れていくんだ。
木津川は昔から木材を運ぶのに利用をされ続けた川なんだけど、山から切り出した材木を筏にして毎日のように買い取り先まで運んでいるような状態なんだ。
だからこそ材木問屋の主人というのはお金もあれば権力も持っているわけで、材木問屋の八兵衛さんは顔役のようなことまでしているってわけさ。
その八兵衛さんと僕の父さまは、決して仲が良かったわけではないんだけど、街を守ってもらいたい八兵衛さんと、町を守るだけの力がある父さまは、互いを利用しあってるようなところがあったんだ。
その父さまが死んでしまったとあって八兵衛さんは相当焦ったとは思うんだ。
周りの集落や町は戦を落ち延びて来た落武者たちの餌食になっていったというのに、川場の町の周辺や山の集落が無事だったのは、一重に父さまのお陰だったんだもの。
八兵衛さんは自分の不安を解消するために、父さまの息子である僕を養子にして悪者対策に当てようと思ったのだろうけれど、そこで他所の町まで用心棒として送り出すだなんて、何を考えているのか全く理解が出来ないよ。
だって僕は子供だよ?
いくら八兵衛さんが顔役だからって、言っていることが無茶苦茶だよねえ?
「イチ!お前は恩を忘れたのか?」
先生から切先を突きつけられた八兵衛さんは、ブルブル震えながら言い出した。
「お前たち親子が山で安穏と暮らせたのは誰のお陰だと思っている?おミツの家族が川場で暮らせているのは誰のお陰だ?全てはわしの慈悲あってのことだろう!」
「何が慈悲だ!徳一おじさんのおかげでどれだけ助けられたかってことはすっかり忘れて、すぐさま金勘定をするようなクソジジイが!イチはお前らの好きにはさせないぞ!」
立ち上がった幸太が怒りの声をあげたけれど、幸太には見向きもしないで八兵衛さんは言い出した。
「イチ、お前にはきっと武甕槌神が後光神としてついているのに違いない!わしがお前の徳を上げるために手伝いをしてやろう!」
「イチ!八兵衛さんの言うことを聞いちゃダメだ!八兵衛さんはお前を使い潰した後には寺に売り飛ばそうと考えているんだよ!」
「幸太!お前はうるさいぞ!」
八兵衛さんの怒りの声が雷のように轟いたけど、幸太の瞳から怒りの炎が消えることはなかった。
僕は先生におんぶされたままの状態だったんだけど、切先を突きつけられている八兵衛さんの後ろには川場の男たちが集まって、ズラーッと並び始めたんだ。
「「「イチ、お前はどうすれば良いのか分かっているよな?」」」
「「「お前のおばさんの家族が無事に暮らすためにはどうすれば良いのか分かるよな?」」」
「「「イチ、頭の良いお前なら分かるだろう?」」」
川場で働く人足たちを八兵衛さんは事前に集めていたのに違いない。
最近、おばさんの家の前で大人たちが言い争うような声が聞こえて来たんだけど、僕の処遇について争っていたのに違いない。
お金に目がない八兵衛さんは、僕を利用してお金を稼ぎたいと考えているし、骨の髄までしゃぶり尽くすつもりでいるに違いない。それに反対しているのは僕の父さまに恩義を感じている大人たちであり、今まで言い争いを続けていたに違いない。
八兵衛さんは川場問屋の主人であり、金もあれば権力もあるのは間違いない。川場の男たちは木材の搬送をしていることもあって、筋骨隆々の男たちの数十人近くが、八兵衛さんの後ろに並んでいる。
すると、今まで八兵衛さんの喉元に剣の切先を突き付けていた先生が、抜き身の剣を鞘へと戻してしまったんだ。
「先生!やめてよ!やめてよ!イチを奴らに引き渡さないで!」
幸太が先生に縋り付きながら訴えたけど、僕はもう、腹を括ることにしたよ。
奴らは今みたいにおミツおばさんや幸太たちを引き合いに出して、僕を好き勝手に利用しようと考えていくのだろう。
だったら今しかチャンスはない。
母さまを助けに行く為には、今ここで八兵衛さんを殺して逃げ出すしか方法はない。
こういったことは時間を置けば置くほど泥沼に嵌りこんでいくことになる。
やるなら今だ、今しかない。
僕は先生の背中におんぶされたままの状態だったんだけど、
「イチ」
先生は僕の方を見ながら、
「お前、いい殺気を出しているな〜」
と、言い出したんだ。
八兵衛さんは先生が剣を鞘に戻した時点で満足そうな笑みを浮かべたし、周りの人間が背負われている僕を引き取ろうと手を伸ばしてきたんだけど、
「誰が渡すって言ったか?」
僕をおんぶしていた先生は、近づいて来た男のうちの一人をあっという間に蹴り飛ばしてしまったんだ。
先生の蹴りを喰らったのは一番の大男だったんだけど、その大男が鞠のように弾みながら飛んでいく。
八兵衛さんも取り巻きたちもあんぐりと口を開けている中で、先生は僕をおんぶしたままの状態でトコトコと藪の方まで歩いて移動をして、ヒョイッと転がっている木の棒を右手に掴んで戻ってくると、
「我が名は伊藤弥五郎、兄弟子徳一の息子イチは我が甥も同然のもの!我が甥を俺の目の前で食い物にしようという発言を散々してくれたわけだが、それをこの伊藤弥五郎が許すと思うてか!」
僕をおんぶしたまま片手に掴んだ木の棒を構えて、先生は大見得を切ったんだよね!
そうしたら八兵衛さんは大笑いをしながら言い出したんだよ。
「たかだか徳一の弟弟子というだけの男だろう!お前らやっちまえ!殺したって構わん!そこのならず者どもの首と一緒に並べてやるわ!」
僕は先生の背中におんぶされたままの状態だったんだけど、幸太はすでに逃げ出している。そうだよ、幸太、ここは逃げ出した方がいいよ。
先生に背負われている僕には先生がどんな表情をしているのか見ることなんて出来ないんだけど、それはもう、何とも言えないような笑みを浮かべているに違いないもの!
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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