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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
12/74

12)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 木津川に面した川場の町では、山から下ろして来た木材を束ねて筏にした上で、購入先まで川を使って運ぶようなことを行うんだ。今は戦、戦、戦の世の中だから、枝打ちした上質の木材は何処でも飛ぶように売れていく。


 先生がこの前戦った辰市城もかなりの短期間で作っているし、あそこのお城にも笠置山の木材が使われているはずだった。売り先を見つけるのは材木問屋の扱いとなるんだけど、この材木問屋の大店が川場の町にも店を構えているってわけさ。


「おお!おお!イチ!ようやっと目が覚めたようだな!」


 川場問屋の主人である八兵衛さんは、先生におんぶされている僕を見て、糸のような目をさらに細めて笑みを浮かべると、

「お前の腕には驚いたよ!流石は徳一の息子だな!」

 と言って、ガハハハッと笑い出したんだよね。


 戦があちこちで起こっているような世の中では、戦に敗れた無頼者が徒党を組んで悪さをしている関係で、それを未然に防ごうと考える町や集落では木戸門を入り口に設けることで人の出入りを制限していたりするわけなのさ。


 この門を破る形で土蜘蛛の奴らは川場の町に侵入をしたんだけど、その木戸門の近くには、奴らの首級がズラーッと並べられている。

 正直に言って、匂いがキツイし、気持ち悪い。

 気持ち悪くなっている僕の様子なんか気にもせずに、でっぷりと太った八兵衛さんは僕の顎に手をかけて、僕の顔を覗き込むように見て来たんだ。


「ふーん、母親が美人なだけあってなかなか人品が良いじゃないか」

 八兵衛さんはフンフン言いながら僕を品定めするような目で見ると、

「良いじゃないか、イチ、お前をうちの養子にしてやろう」

 と、言い出した。


 すると八兵衛さんの腰巾着たちが揉み手をしながら、

「さすが!八兵衛さん!」

「親無しになった子供の面倒を自ら見るだなんて!」

「菩薩のような人とは八兵衛さんのような人のことを言うに違いない!」

 揃っておべっかを言い出した。


 すると、僕らと一緒に来た幸太が声を震わせながら言い出したんだ。

「お前ら!イチを用心棒にしたいだけじゃないか!」

 幸太は自分の手をギュッと握り締めると、

「隣町に何かあったら銀粒三つでイチを派遣させると言っているそうじゃないか!イチはまだ子供なんだぞ!イチに用心棒なんて出来るわけがないじゃないか!」

 大声で抗議をし始めたんだ。そうしたら八兵衛さんの腰巾着の一人が、幸太の胸ぐらを掴んで殴りつけた。


「幸太!」

 地面に転がる幸太に声をかけると、八兵衛さんの腰巾着たちがニタリと笑って言い出した。

「お前のおばさん家族が安心して川場で暮らしていられるのは誰のおかげだと思っているんだね?」

「そうだよ、何処のお店から仕事を貰っていると思っているんだね?」


 男たちはニタニタ笑いながら言い出したんだ。

「徳一は文句も多くて使い勝手も悪い男だったんだが」

「イチだったら問題なく使えそうだ」

「これだけの手練はなかなかいないからな」

「丘向こうの庄屋もかなりの金を積むと言っているしな」

 全く言われている意味がわからない。


「何なの?僕が父さまの代わりなんか出来るわけがないじゃないか?」

「いやいや」

「そんなことを言って」

「お前ほど凄腕の子供は見たことがない」

「まさしく鬼神という奴だな」

「待って!待って!待って!」


 僕には良く分からない、本当の本当に、僕には全く分からない。

 確かに土蜘蛛の奴らの首級がズラーと並べられているんだけど、

「先生、土蜘蛛を殺したのは先生だよね?八兵衛さんたちが誤解をしているだけだよね?」

 僕がブルブル震えながら問いかけると、

「いいや、イチ、あれは全部、お前が殺した奴らの首級だよ」

 と、先生は言い出したんだ。


「嘘だよ!嘘だ!嘘だ!僕みたいな子供が!あんな悪漢どもを退治できるわけがないじゃないか!」

「いいや、イチ、お前が退治したんだよ」

 八兵衛さんはニンマリ笑いながら言い出したんだ。

「イチ、お前は徳一の才能を引き継いだんだろうなあ」

 八兵衛さんの後ろにいる腰巾着たちもニマニマ笑いながら言い出した。

「お前ほど強い子供は見たことがない」

「流石は徳一の子供だよ」

「流石は私の息子になる男だ」

 怖い、怖い、怖い。

 最近、表の方に大人が集まって何かの話をしていることには気が付いていたけれど、僕を養子にするとか何とか、そんな話をしていたってわけなの?


「僕は父さまと母さまの子供だもの!八兵衛さんの子供にはならないよ!」

「何ということを言うのかね」

「川場問屋の息子になれるというのに」

「これほどの幸運はなかなかないことだよ!」

「イチ!ダメだよ!こいつら、イチを利用することしか考えていないって!」

 幸太が這いつくばるようにして起き上がりながらそう言うと、腰巾着の一人が幸太を蹴り飛ばそうと足を振り上げた。


「先生!助けて!先生!先生!」

 僕は先生の首に自分の腕を巻き付けながら大声を上げた。

「先生は僕の父さまの弟弟子なんでしょう!幸太を助けてよ!先生!お願い!」

 すると先生は面倒くさそうに言い出したんだ。

「ああ〜、この世は面倒なことばっかりだよなあ〜」

 先生はぼやくように言いながら、僕を背中におぶったまま幸太を蹴り付けようとした腰巾着の一人を豪快に蹴り飛ばしたんだ。


 そうして僕をおんぶしたままの先生は腰の刀を引き抜くと、八兵衛さんの首元に刀の刃先を向けながら、

「井の中の蛙、大海まで行かずにここで死ぬか?」

 と、川場問屋の主人である八兵衛さんに向かってニタニタ笑いながら言い出したんだ。



ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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