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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
11/74

11)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「お前は猿のようにすばしっこいなあ!」

 いつだって父さまは僕のことをそう言って褒めてくれたんだけど、周りが認めるほどのすばしっこさを僕が持っていたのは間違いない。


 それに、このすばしっこさを利用した敵の倒し方というものを父さまや先生から教わってはいたけれど、

「とにかく相手の急所を狙うんだ」

 敵の攻撃を避けながら相手の急所を狙うなんていう訓練は父さまや先生を相手にしていたよ。


 そりゃ父さまも先生も、と〜っても有名な剣術の先生の元で教わっていたわけだから腕は一流だし、その一流の先生たちに手解きを受けた僕は、それなりに剣を使えるとは思う。


 だったとしても、だよ?

「僕が土蜘蛛の奴らを殺して回っただって〜?」

 ありえないよ、ありえない。

 あいつら冷酷で残虐なことで有名な奴らだよ?

 そんな奴らを僕が一人で殺して回るなんて、どんな夢物語だよって思わずにはいられない。


「幸太は土蜘蛛に殴られ続けて夢を見たんだと思うな」

 僕は幸太に言ってやったよ。

「おミツおばさんと幸太が土蜘蛛の奴らに虐められるってことになって、僕は想像以上の瞬発力を発揮したとは思うんだよ」

 父さまからも常々感心されるほどのすばしっこさの持ち主だもんね。


「クルクル走って逃げ回ってさ、それで土蜘蛛の奴らを撹乱することには成功したとは思うんだけど、最終的には捕まって、ボコボコにやられちゃったんだと思うんだ」


 なにしろ全身傷だらけすぎて、器用な先生が針と糸であちこち縫い合わせてくれたくらいだからね?

「すばしっこい僕はクルクル走り回って敵を翻弄することはできたんだろうけど、所詮は子供だもの。捕まって殴る蹴るの暴行を喰らっている間に先生が到着して、あっという間に土蜘蛛の奴らをやっつけてくれたってわけで・・」


「土蜘蛛の奴らをやっつけたのはイチ、お前なんだよ〜!」

 幸太は涙目となって言い出した。

「僕の母さんがイチを追いかけながら、もうやめてくれって言っていたのは覚えてないの?本当の本当に、何もかも覚えていないってことなのか?」

「覚えていない」


 僕は幸太に向かって断言をした。

「土蜘蛛の奴らにボコられて失神していたから、覚えているわけがない」

「だから、お前は土蜘蛛の奴らにボコられていないんだって!」


 僕らの話はこう着状態となり、にっちもさっちも行かない状態に陥ったんだけど、そこで先生が帰って来て言い出したんだよね。

「だったら、川場の入り口に行けばいいだろ?」

「「川場の入り口?」」

 僕と幸太は二人で同時に同じことを問いかけたんだけど、先生は指先で自分の口元をポリポリ掻きながら言い出したんだ。

「今、川場の入り口には悪漢どもの首級がズラーッと並んでいるから、それを見てみりゃいいだろう」

「え?生首が並べられているの?」

 想像するだけで気持ち悪いんだけど〜。


 大きな街なんかでは罪人が処分をされると、刑場の外からも良く見える場所とか、河原とかに首級を並べていたりするらしい。ようするに、こういった悪いことをすると最終的にはこういうことになるんだぞ!という警告も兼ねて並べているわけなんだけど、これは小さな村や町でも行ったりするわけなのさ。


 今はあちこちで戦、戦、戦の状態だから、戦に負けた落武者なんかが徒党を組んで村や町を襲うわけだけど、こういった悪い奴らを倒した上で、町の入り口なんかに首だけ並べて置いておくと、

「あ・・ここは襲撃をかけない方が良さそうだな・・」

 と、無頼漢たちは思うようになる。犯罪を未然に防ぐ抑止力にもなるんだけど、並べられた生首の姿は恐ろしいし、日にちが経つと匂いが酷くなるしで、僕はこういったものを興味本位で見にいくのが好きじゃないんだよ。


「土蜘蛛の首級を見に行きたいのなら、幸太と先生で行ってきたらいいじゃないですか」

 僕が顔を皺くちゃにしながら言うと、

「いや、イチ、お前は絶対に見に行かなくちゃならないよ」

 と、先生は言って譲らないんだ。


 土蜘蛛の奴らにボコボコにされた僕はあちこち傷だらけで、器用な先生に針と糸を使ってあちこち縫い合わされているんだけど、先生が山から採ってきた炎症止めの薬草が効いたのか、痛みと腫れはだいぶ治ってきてはいた。


「それに、いつまでも寝床に居ては、永遠にお前の母さんを助けに行くことが出来ないぞ?」

 先生に言われて我に返ったよね。

「先生!それじゃあもう!起き上がって外に飛び出して!母さまを助けに向かっても良いってことですよね?」

 先生はニターッと笑って言い出したんだ。

「それはお前の歩いている姿をまずは見てみないと判断がつかないよなぁ」


 満身創痍の僕はおミツおばさんの家の一番奥にある小さな部屋で寝たきり状態になっていたんだけど、その奥の部屋から出て来た僕を見て、

「イチ!起き上がって大丈夫なのかい?」

 おばさんは心配の声をあげながら僕の方へとやって来た。


 表の方では連日、大人が集まっているような声が聞こえていたんだけど、今は川場の大人たちもそれぞれ働きに出ていて居ないようだった。

「おばさん・・僕・・」

「ああ!イチ!いいんだよ!いいんだよ!」

 おばさんは僕をぎゅっと抱きしめながら、

「お前は何も悪くない!何も悪いことなんてしていないんだよ!」

 と、言い出した。


 僕は家の前に集まった土蜘蛛相手に、すばしっこさを利用して撹乱攻撃に出たとは思うんだけど、

「だからね、気にする必要はないんだよ!」

 と言って力を込めて抱きしめてくるおばさんの言っている意味が良く分からない。


「おばさん、僕は何も気にしてなんかいないけど?」

 僕の言葉におばさんは呆然とした後に、僕の背中を叩きながら、

「さすがは兄さんの子供だよ!」

 と、言い出したんだ。


 確かに僕はおばさんの兄である徳一の息子だけど・・

 外に出てみると、通りかかった川場の人間がギョッとした様子で僕を見てくるのは何故だろう?


「イチ、まだお前は本調子ではないから川場の入り口までおぶって行ってやろう」

 先生が僕の前にしゃがみ込んで言い出したので、僕は周囲の刺さるような視線を気にしながら先生の背に自分の体を預けたんだ。


 外へは久しぶりに出かけた僕なんだけど、やっぱり、何日も家に引きこもっていただけあって体力の衰えが物凄いことになっている。先生におぶわれながら町の中を歩いていると、家の中から女性が泣きながら飛び出して来て、

「イチ!イチ!あんたのおかげで私は慰み者にならずに済んだんだよ!」

 と、言い出したんだ。


「ありがとう!イチ!ありがとう!」

 来月には隣町の人と祝言をあげる予定のおナオさんがそう言うと、家から飛び出して来た川場の人たちが口々に言い出したんだ。


「イチ!ありがとう!」

「イチ!あんたのお陰で川場の人間は助かったんだよ」

「ありがとう!」

「ありがとう!イチ!」


 隣を歩いていた幸太が『ほら!見ろよ!』という表情を浮かべて僕を見上げているんだけど、全く良く分からない。

 集まった川場の人間の中には感謝と喜びを満面に表している人もいれば、恐れと嫌悪を示している人もいる。


 僕って川場の守り神と言われた父さまの息子だけれど、父さまの息子である僕個人に対して、多くの人々が様々な感情を抱いていることに気が付いたんだ。



ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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