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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
10/74

10)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ふうまとか、ほうじょうとか、本当に良く分からないけれど、見たこともないような上の人の思惑によって父さまは殺されて、母さまは連れて行かれてしまった。


 僕がおばさんの家でようやっと起き上がれるようになったのは、母さまが誘拐されてから二十日後のことになるんだけど、

「お前の母さんはとにかく大事にされているはずだから、お前は心配せずに傷を治すことに専念をしろ」

 と、先生は言うんだよね。


 土蜘蛛の奴らが徒党を組んでやって来て川場の町を滅茶苦茶にしてやろうと考えたみたいなんだけど、プチンとキレた僕が何かをやらかしたみたいで被害は最小限に抑えられたみたい。


 僕は気を失っていたから覚えていないんだけど、供養を終えて山から川場まで戻って来た人たちは、あまりの惨たらしい有様に驚き慌てることになったらしい。

 土蜘蛛という奴らは本当に残忍だし、残酷で有名な奴らだし、奴らに村を滅ぼされたなんて話は最近では良く聞く話でもあったもの。


「先生、土蜘蛛の奴ら、どれだけの家に火をつけて回ったんですか?」


 おばさんの家の奥の部屋で治療を受け続けている僕が問いかけると、先生はキョトンとした顔で、

「火なんかつけていないんだが?」

 と、言い出した。


「奴ら、火をつけて回るのが常套手段みたいなところがあるんだけど」

「火をつけて回ってはいないがな」

「それじゃあ、何であんなに大人が騒いでいるんだろう?」


 表の方では連日のように大人たちが集まって、何かを話し合っているみたい。奥の部屋にいる僕には詳しいことは良く分からないんだけど、何かで揉めているみたいなんだよね。先生に問いかけてみても、

「母さんを早く助けに行きたいんだろう?だったら、早く治さないといけない」

 と言って、取り合ってくれないんだよ。


 何となくモヤモヤしながら時を過ごしていると、僕の様子を見に来た幸太がこっそりと教えてくれたんだ。

「大人たちは連日、イチをどうするかってことで話し合いを続けているんだよ」

「僕をどうするかってどういうこと?僕は傷が治ったら母さまを助けに行くから、どうこうする必要もないんだけど?」


 あぐらをかいた幸太は自分の顔を皺くちゃにしながら言い出したんだ。

「みんな、イチを徳一おじさんの代わりにしたいみたいなんだ」

「父さまの代わり?」

「徳一おじさんは今まで川場の守護神だっただろう?おじさんが居るからならず者も避けて通るようなところがあったんだけど、その守護神の代わりをイチにしてもらおうと言い出している大人が多いんだよ」

 僕には幸太が言っている意味が本当に分からなかったんだ。


「僕には父さまの代わりなんて出来ないよ」

 僕の父さまはとにかく背が高くて熊のような男で、一人で大木の一本や二本は簡単に切ってしまうような人なんだ。


「枝打ち程度ならまだ出来るけど、大木を斧で切り倒すのはちょっと一人じゃ出来ないよ」

「爺さまたちはそんなことを望んでいるわけじゃないんだ」

 まだ顔に痣が残る幸太は大きなため息を吐き出しながら言い出した。


「この川場は徳一おじさんが居たから今まで守られていたわけだろう?」

 確かに、父さまが居たからならず者も寄り付かずにいたけれど。

「肝心の徳一おじさんが亡くなってしまったから、今度はイチに守って欲しいって」

「僕が?」


 思わず呆れ返っちゃったよね。

「僕が川場の町を守れるわけがないじゃないか?」

 僕はまだ子供だよ?

「今回だって土蜘蛛の奴らにやられ放題でこんな大怪我をしているんだよ?そんな僕がならず者をやっつけるだって?」

 冗談にも程がある話に僕が呆れ返っていると、

「え?覚えてないの?」

 と、幸太がびっくりした様子で問いかけてきた。


「まさかとは思うけど、全然覚えていないの?」

「いや、覚えているよ。おばさんは変な男に襲われそうになっているし、幸太は惨たらしく殺されそうになっていたじゃないか」

「そうだよ、そうだよ、それでその後のことなんだけど」

「だからさ、僕ももれなくボコボコにやられちゃって、気を失っているところに丁度よく先生が助けに来てくれたってことになるんだろう?」

「はあああ?」


 幸太は心底呆れ返った様子で僕の顔を見た。

「イチ、お前はキレたんだよ」

「はあ?僕がキレた?」

「そうだよ!またキレちゃったんだよ!」

「確かに僕は一度キレると前後見境なくなることもあるけど、それだって幼い時の子供同士の喧嘩の時の話だろ?」

「違う!違う!違う!」

 幸太は顔色を変えながら言い出した。

「イチはキレて、土蜘蛛の奴らを殺して歩くようなことをしたんだよ」

 幸太は何を言っているのだろうか?

「イチが土蜘蛛の奴らを殺してまわってくれたから!川場の町は守られたんだよ!」

 幸太は一体、何を言っているのだろうか?


「僕に土蜘蛛の奴らを殺して歩き回るなんてことが出来るわけないじゃないか?」

 子供の僕が大人を何人も殺して歩いただって?

「戯言にも程があるっていうか、幸太、もしかしてまだ眠っているの?寝言は寝てから言ってよ」

「違う!違う!違う!」

 幸太は顔を赤くしたり、青くしたりしながら言い出した。


「キレたイチは鬼神のように強かった!さすがは徳一おじさんの子供だよ!その結果イチは傷だらけになっちゃったけど、イチのおかげで川場は守られることになったんだ」


 僕はしばらくの間、幸太の顔を見ながら考え込んじゃったよね。なんで幸太がこんなことを言うのかがよく分からない。


「あのさあ、幸太が拷問を受けている時に、僕も同じように拷問を受けていたはずだよね?」

「イチが拷問を受けるだって?」

「だってこの大怪我だよ?」

 先生が器用に僕の傷を針と糸で縫い合わせてくれたけど、そりゃあもう酷い有様だもの。さすがは冷酷で残忍なことでも有名な土蜘蛛だよ、子供相手にここまでやるかって思わずにはいられないもんね。


 すると幸太が首を横に振りながら言い出したんだ。

「それ、拷問の傷じゃないよ」

 幸太は真っ青な顔で冷や汗を掻きながら言い出したんだ。

「キレたイチが何十人という土蜘蛛の一味を相手にしている間に出来た刀傷だよ」

 いやいやいやいや。

「僕、子供だよ?」

 残忍で冷酷なことで有名な土蜘蛛相手に殺し合いなんか出来るわけがないじゃないか!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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