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雪の社で叶う願いは

 望みがあるならば雪の中に現れる(やしろ)を探せ。雪の中では、どんな願いも叶うから。

 そんな伝承の伝わるある村に、深い皺の刻み込まれた険しい顔をした男がやって来た。


「どのような願いも叶う社があると聞いてやってきた」


 男の言葉に村人たちはやめておけと口を揃える。

 ここに願いの叶う社があるというのは嘘なのかと問う男に対して村人は答える。


「ここがその伝承の伝わる地であることは間違いない。だが、雪の社で願いを叶えて生きて帰った者はいないのだ」


 村人の言葉に男はそうかと頷く。しかしそれでも願いを諦めることはできないと言って、村人の静止を振り切って雪の降りしきる平原へと向かおうとした。そこで村人たちは男を諦めさせるためにさらに言葉を続けた。


「雪の社で叶った願いは、雪の中に消えてしまう。人がその願いに手を伸ばせば、その熱ですべてが消えてなくなるのだ」


 男は一瞬歩みを遅くする。しかし結局は止まることなく歩いて行ってしまった。



 雪の中を男はあてもなく歩く。顔に、腕に、体に雪が降りかかり痛みが走るが、頭に浮かぶのは愛しい妻と子の顔だけだ。

 そんな男の前に、突如として白く大きな鳥居が姿を現した。鳥居の奥には社も見える。

 ああ、ついに雪の社を見つけたのだ。男は思わず駆け出すと、社の前で五体を投げ出し叫んだ。


「一目で良い。もう一度だけ妻と子供に合わせてくれ」


 するとさくり、さくりと雪を踏む二つの足音が響いてくる。顔を上げた男の目には、降りしきる雪の向こうから、二人の人が歩いてくるのが映っていた。



 翌日になり男の行方を捜した村人たちは、雪原の中、なにもない場所で倒れて、雪のように冷たくなった男の亡骸を発見した。

 その顔に浮かんだ穏やかな笑みを見た村人は、男の願いが叶ったことを悟る。


 一度はやんでいた雪が、また優しく降り始めていた。

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