舞台裏01. ロベルト公爵家事前会議
ロベルト公爵家には、セシリア、ラニア、リリア、ルシア、アリシア、マリア、ミーシャ、アラキア、メルシア、テレジア、トリシア、サシャ、シンシア、カティア、ウルティアと嫡子にはもちろん、婚外子もまた女性ばかりが産まれ、子供は18人もいるのに男子はたったの3人しかいなかった。
長男は今の奥方の子供でもある24歳のカシアス、次男と三男は婚外子で13歳のキースと3歳のライナーと、親子でもおかしくないほどに歳が離れているが、長子であるセシリアと末子のライナーだと、祖母と孫より離れている。
「取り敢えず、次の当主はカシアスとして、ライナーは流石にどこかに養子にするか。」
「私が貰い受けたいわ。」
「後継ぎで揉める可能性があるから、お前のとこは駄目だ。」
「そんなこと言ってたら、みんな駄目じゃない。」
「お母様、ウチはいっぱいいるから、一人増えても別に問題ないわよ。」
「えー、アイラ、ずるーい。」
妻、妾、孫子合わせて、女ばかり20人もいると姦しいが、いつものことなのでセシリアはもちろん、この場の誰一人として気にする様子はない。
「アイラが良いなら、そうしよう。後継ぎは婿を取るなり、夫君と相談して養子をとるなり対応しろ。」
「あ、アイラ、メルシア、トリシア。貴女達の娘は今12歳くらいだったわよね。」
「そうね。どうしたの?キースの嫁??」
「アイラはともかく、ウチの子だと伯父姪になっちゃうじゃない。流石に駄目でしょ。」
「ダメよ。キースはウチのレアの婿に貰おうと思ってたんだから。」
「キースは年下より年上の方が良いわよ。ってことで、ウチのイリアは?」
「違う、違う。今日お屋敷に来た新しいお妾ちゃんの着替えが欲しいのよ。」
現公爵夫人のオリアの言葉に、孫子達はさらに騒がしくなった。必要とは分かっているが、この場で言い出さなくとも、とセシリアは思った。
「えー、またお父様、新しいお妾さん作ってたの?」
「好色過ぎでしょ。」
「元気よね〜。あ、でも、それで死んじゃったんだった。」
故マーカス=ロベルト公爵は伝説になるのではと思うほどに子沢山だったが、その嫁も妾も孫子もそこには特に不満を抱いてはいなかった。
もう60歳になる長子のセシリアだけでなく、セシリアの夫も、男盛りと言っても過言ではないだろう息子や弟のカシアスでさえ何故そこまで色を好むのか理解できないと言っていたので、きっと非常に特殊な人間だったのだろうとセシリアは思っている。
当主の死を笑う家族を微笑ましく眺めながら、セシリアは思った。
「久しぶりに家族全員が集まるのか。楽しみだ。」
セシリアは、故公爵が腹上死というより老衰的な感じで亡くなった上に、夜を共に過ごした女性は既にご帰宅されていたため、誰の心的外傷になることもなかったのは流石だなと思っていた。
傍から見たら泥沼な家系図だが、長子として長く公爵家で過ごしたセシリアから見ても前妻、前々妻含め、家族仲はすこぶる良かった。元々政治的手腕も領地経営も尊敬に値する人だったが、セシリア自身の子育てが終わり、孫を見るようになってからは、子どもに対しても理想と呼んで過言ではないほどだったとさえ思っている。
「最期は家族団らんの贈り物とは、父上には敵わないな。」
セシリア自身、この時点ではまさか息子への嫁まで用意していくとは思っていなかったが、翌日には「跡取り問題の憂いまで取り除いていくとは。流石過ぎる。」と亡き父親との想い出を振り返ってしまったのだった。