007. ロベルト一家大集合
故公爵の葬儀はしめやかに内輪だけで行われたが、内輪だけと侮るなかれ。
お子さんだけで、18人。そのうち、男性陣3人以外はご結婚されているかご結婚間近。
お孫さんにも既にご結婚されている方がおり、総勢36世帯。そこにさらに姻戚の方々までいらっしゃるので、軽く百人は超えていた。
「婚約したなら、もっとくだけなさいな。いつまで経っても他人行儀な感じがするわ。」
本日、キース様はお義姉様方にダメ出しばかりされている。婚約者として、恋人としてのダメ出しなので、畢竟、自分にも言われていることだが、中身55歳には想定内なのでダメージはない。
ここで魔術を教えてもらったとでも言おうものなら、さらに小言の種類が増えること請け合いだ。
「素が見せられない人とは一緒に暮らせないわよ。」
政略結婚もあるこの世界では、会ったその日に夫婦というのも珍しくないため、出会って一週間を理由として挙げると却下された。
「ミラもいるし、王都に戻ったらキースはタウンハウスに住むの?」
「ミラは貴族令嬢なんだから、当たり前でしょ。」
キース様は、身分を隠して冒険者をやっている関係で、下町の宿に住んでいるらしい。庶民生活とはまた違うが、それはそれで面白そうだと思うが、この世界には身分があるので私もというのは難しそうだ。
「あら、ミラったら、興味津々な感じね。」
困ったら、笑っとけ。
前世でも擦り切れるほどに活用した技を披露する機会が早速訪れたようです。
「ミラさえ良ければ、試してみても良いんじゃない?使用人もいない方が距離は縮まるわよ。」
この世界だと、婚前に同棲することは普通なのだろうか。後ろで旦那さんがめちゃくちゃ頷いてる。
「精通もまだなお子様でも、婚前に2人っきりは問題でしょ。」
「でも、こっちに残るのは論外として、タウンハウスでも話す機会はもちろん会う機会さえ少なくなっちゃうわよ。」
女性同士だとよくある明け透けな会話に男性陣ドン引き。キース様、ドンマイ。前世の義務教育では第二次性徴も習っているので、男性の生理現象だってちゃんと識ってますよ。
明け透けな会話に脳内でついていきつつ、表面上はよく解っていないフリもお手のものです。大丈夫。
「そんな話題、みんな困るからやめてくれ。これからのことは、葬儀が終わったら2人で話し合うつもりだから。」
「そうなの?使用人が必要だったらウチに言いなさい。テルスの従者教育のついでにテータには侍女教育もしてるから。」
「侍女なら私がなっても良いわよ。ラウルもキースの従者になってもいいわよね?」
この世界はまだまだ男尊女卑は残っていて、貴族だと前世でいう「三歩後ろを歩く」的な女性が理想とされている。 なので、旦那さんの仕事に口出しするなんて貴族の規範からするともっての外なのだが、ラウルと呼ばれた旦那さんは普通に頷いている。他の旦那さん達も普通。あれ?
家庭教師が残念だったのか、ロベルト家が変わっているのか。いや、子どもが18人の時点で普通とは違うわ。ちょっとアウェー過ぎて、自分の常識が揺らいでいるようだ。危ない。
そもそも姪が年上で姪が侍女って、関係性が複雑すぎて、どう答えたら良いかが全く分からない。
「ありがとう。ミラ嬢と話し合って、必要であれば、改めて相談させてもらうよ。」
破婚したときのために下町で暮らしてみたいと言ってみてもいいものだろうか。両親に会うこともなければ、育ててもらった感謝も特に感じられないから、家の誇りとか帰属意識とかがピンとこない。教わった常識が揺らいでいるので世間体的にはよく分からなくなってきたけれど、ロベルト公爵家的には問題なさそう。
でも取り敢えず、ロベルト公爵家あるあると世間一般の常識とを解説できる人が身近に欲しいです。