006. 何故かお勉強会になりました
翌日お会いしたキース様も銀髪だった。黒髪キース様は何処へ?
「禁書関連は地下にある書庫にあるので、表に出ているものは自由に読んで問題ありません。」
男性同士の恋愛本も問題ない本なんですね。こんなに堂々と大量に本棚に置いてあって、キース様達がうっかり手に取るような事故は起こらないのだろうか。
私自身はあまり同性同士の話に関心はないですが、その隣の男女のロマンスはかなり興味があります。気恥ずかしくてこの場では借りれませんが。
ロマンス小説の代わりに、キース様の手には魔術入門なる本が3冊抱えられている。交流を兼ねて教えてくださるらしい。ありがたい。
「先ず、無機物、生物関係なく、大気中にも魔素と呼ばれる成分が含まれています。魔素について知っていることを挙げてみてください。」
「魔法の燃料となる成分ですよね?生まれた時からその含有量は決まっていて、魔法が使えるのは50人に1人くらいと聞いています。あ、あと魔物は魔素の異常増殖による突然変異だとか?」
「概ね合っています。実際には魔法が使える魔素量を有するのは10人に1人はいます。ただ、実用性が出るレベルじゃないと勉強しないという人が多いため、魔法使いと呼ばれる人間は50人に1人くらいしかいません。」
「確かにあまり使えないなら、魔法使いに依頼したり魔導具を使ったりした方が楽ですもんね。」
私も前世の記憶からくる憧れ的なものがなければ、魔導具を買って使うくらいで満足していそうだ。
「あとはダンジョンとかドラゴン、獣人、精霊なんかも魔素が関係しています。血は心臓が身体中を循環させたり、汗になったりするが、魔素も同じような器官があります。」
血を循環させるのは心臓だということは知ってるけど、汗は血じゃないのでは?
「汗は血が汗腺という皮膚表面の近くにある器官で水分、塩分だけにろ過されたものなので、元をたどると血なんです。魔素の器官も同じように気脈や丹田というものがありますが、血と違って魔素は見える人と見えない人がいます。」
そう話すキース様の手から水色と緑の綺麗な光が立ち昇っている。
「ミラ嬢は見える人ですね。これが魔素です。魔素が見えるなら、魔導具を作ったり魔術を理解したりしやすいと思います。」
ファンタジーな世界に転生した甲斐がありますね。ドラゴン、精霊、魔法はファンタジー憧れランキングのトップスリーとかじゃないかな。
いや、ファンタジーなのは、目の前の銀髪とか今の自分の髪とかもだな。灰色とか初めて鏡を見た時はファンタジー感がすごかったもんな。
魔法使いに、オレはなる!
魔法使い、憧れるよね。
魔法、魔術、魔素、、、憧れは憧れのままの方が良いことっていっぱいあるよね。知ってた。
魔法と魔術、区別してある意味、ね。
「算術や言霊などを駆使して作った設計図が魔術で、それを使って起こす事象が魔法。魔術と魔素があって初めて魔法になります。」
魔術入門が薄っぺらい理由が解りました。魔術の基礎知識は、算術とか幾何学とか統計とかとか「魔術」と呼ばれていない学問なんですね。それは確かに勉強したがる人は少ないと思います。
「魔術式を作るとなると大変なので、簡単な魔術式を教えます。これは使えると結構便利だと思います。」
ロベルト公爵家の皆さんは相手の考えていることを読み取れるのでしょうか。何も言ってないのに、ちょっとげんなりしたのが伝わってしまったらしい。
「浮遊の術式なので、魔素量の調整で浮かせずとも、軽くすることができます。」
よくわからない図が重なりあって、ある種の美を感じさせる模様に感嘆すると同時に慄きを覚えずにいられない。
頑張れ、ミラの脳みそ!
前世で習った微分、積分を思い出すんだ!!!
模様の意味を一つ一つ解説してもらいながら模様を書き写していく。位置一つとっても意味のないものはないらしく、丁寧にその理由や原理を教わる。
一つ覚え終わると既に昼食の時間になっていた。疲れた。
「キース様、昼食の用意が整っております。」
キース様のエスコートを受け、セバスさんの後を追う。お腹が鳴らないか心配です。
「好きな食べ物とかはありますか?」
「あっさりしたスープが好きです。キース様は?」
あっさりしたスープ以外は胃もたれするんですとは言えない。多分、満足にご飯を食べてなかったせいなので、少しずつ普通の食べ物も消化できるようになると思います。
キース様は鶏肉がお好きだとのこと。鶏肉は比較的お腹が痛くなりにくいので、私も好きです。
「食べられないものとかはありますか?」
「今まで特に食べれないというものはなかったです。」
食べたことがあるものが少ないので、よくわからないというのが本音ですが。嘘ではない。
「私は強いて言えば、ウリ系の食べ物が苦手です。」
前世の旦那さんもウリ系の独特の苦味が苦手だと言っていたが、キース様もだろうか。
「なんと表現していいか分からないのですが、渋みというか苦味というか、、、アレが苦手なので進んでは食べません。」
堅苦しい丁寧な喋りに表情筋が全く仕事をしていない人だと思っていたので、少し渋い顔が思いの外幼く見えた。
13歳だと言っていたので幼くて当然なのだが、言動や表情が大人びていて忘れていた。
もう朧気にしか思い出せない息子がこの年齢のときはもっとアホだったように思う。こんなに理路整然と話さないし、なんならもっと自分のことばかり話していた気がする。
もう会えない寂しさを隠して笑った。