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004. お仕着せが良いのですが

 無事に晩餐会を終えた翌朝。テータとのお茶会前に図書室に行こうと考えていると、ロベルト公爵家の次男であるキースが訪問してきた。


「キース=ロベルトと申します。昨日はご挨拶できず、申し訳ございません。当家に滞在して、ご不便はございませんか?」


「ミラ=リバースと申します。丁寧なご挨拶痛み入ります。こちらこそ、昨日は過分なご配慮ありがとうございました。オリア公爵夫人にも感謝をお伝えいただけますと幸いです。」


 昨日はいなかった銀髪碧眼のイケメンである。キース様は昨日の晩餐では黒髪だったはずだが、銀髪である。なぜ?


「父から私の婚約者にということで、当家に招いたと聞き及んでおります。」


「え?」


「そういうことになったようですので、よろしくお願いします。」


 流石に12歳を妾にしようとしていたとは外聞が悪いのだろう。解ります。

 常識的な人がいてくださって良かったと思う反面、逃げ出すタイミングを失った気もする。


「お互い成人もまだの身ですので、婚儀に関しては成人してからということでよろしいですか?」


 よろしいもなにも、こちらに選択権はあるのだろうか。両親からお金で未成年を買った公爵とのギャップが激し過ぎて、意図が全く読めない。


「私は庶子ですので、それまでに折を見て婚約を破棄頂いても問題ありません。今後どうしていきたいか、将来どうしたいかなど率直に相談いただければ微力ですが尽力させていただきます。」


 10代前半の少年とは思えない思慮深さと配慮は誰かの入れ知恵だろうか。まさか自分と同じ精神年齢サバ読み人間ではないだろう。

 キース様の瑕疵にならないよう円満に婚約破棄しなければ。オバサンと結婚なんて申し訳なさ過ぎる。

 絶対、妾の時より逃げるハードルが爆上がりしたな。


「ご配慮、ありがとうございます。では、あらためまして、キース様のご趣味はなんですか?」


 精神年齢55歳。前世知識にお見合いの決まり文句まで搭載されています。


「趣味、ですか?あらためて尋ねられることもなかったので、、、鍛錬でしょうか。軍部に入ることになっているので、毎日欠かさず行っています。あぁ、でも、魔術書を読むのも好きです。」


 日課は鍛錬、趣味は魔術書を読む。なるほど。騎士なのに脳筋じゃない的な路線か。前世知識で言えば、大変いろんな方面でモテそうですね。薄い本だときっと受け。


「まぁ、魔術書ですか?わたくしもすごく興味がありますの。おすすめの教本などはございますか?」


 前世の世界では魔法は空想上のものでしかなかったため、今世での勉強が楽しくて仕方なかったのだ。令嬢の知識としては歴史くらいしか必要ないため授業はなく、実家の図書室に何か本がないか探し回ったこともある。


「明日、あらためて伺った際に、図書室をご案内しましょう。そこに魔術書も置いてあります。ミラ嬢は何か好きなことはありますか?」


「読書が好きです。」


 嘘ではない。

 読書は好きだ。

 ただ、生まれてこの方、出掛けたのは今回が初めてだし、しゃべるのは家庭教師とだけ。朝から夕方までびっちり授業があり、散歩で外に出ることさえ禁止されていた。できたのは、授業と宿題の合間に図書室にある本を読むことくらいだったのも確かだ。


 夜はランプが切れていることもままあったため、目が悪くならなかったのは幸いだった。


「読書がお好きなら、公爵家の図書室はきっと楽しめると思います。なにせ蔵書数だけで言えば、王都の図書館にも匹敵しますから。」


「キース様は王都の図書館へ行ったことがおありなのですか?」


「私は王都で暮らしているので、よく行きますね。」


「王都にお住まいなのですか?」


 キース様が王都にお住まいなら、婚約者の住まいはどこになるのだろう。


「実は実戦に慣れるために冒険者をしており、王都では市井に紛れて暮らしているんです。」


「まぁ、素晴らしいですね。私は街に降りたこともないので、少し羨ましいですわ。」


 ずっと表情を作っていたので嘘くさい笑みになってるかもしれないが、本心です。ちょっと市民の暮らしとやらをレクチャーしてくれませんかね。


「羨ましい、ですか?」


 貴族的には眉をひそめるべきかもしれないが、どうせ破棄する婚約である。多少常識からズレているのは利にはなれど不利にはならないし、義理立てするような実家でもない。取り繕う必要もないだろう。


「お恥ずかしい話ですが、ずっと家に閉じこもっているのも退屈で。」


 公爵家で閉じこもっていると、婚約破棄の機会も逸しそうですし。


 晴れて庶民暮らしの可能性を手に入れて、初婚約者との顔合わせが終了した。

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