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002. コレもある意味初夜

 初夜です。

 つまり、初めての夜。

 妾として訪った邸宅での初めての夜。


 言い方を変えてもいかがわしさしか漂いませんが、性的な含みのない初めての夜です。

 正確に言うと、性的な含みがないというか、そもそも妾先がなくなった夜です。


 お妾さんを求めていた老貴族が亡くなったらしく、今、訪れた家では相続争いの真っ最中。

 前妻の産んだお子さん3人と今の奥さんが産んだ5人のお子さん、認知していた私生児が10人。かつ、そこにそのお子さんのお子さん、さらにそのお子さんまでいらっしゃるので、お昼の泥沼テレビドラマも真っ青の展開が期待されます。ちなみに一番年少の息子さんは3歳でした。


 同情という尊い感情を備えていてくださったどなたかのお陰で、通された客室の寝台に座って呆然となっていても責められないと思います。


「あ、月が出てる。」


 この世界の月は5つあり、毎日の如く昇る大小2つの青白い月と季節毎に巡る2つの月、数十年周期で動いている月からなる。

 もう夏も終わりがけなので、夏の夜空を彩る黄色い月は明け方にしか顔を出さない。今出ているのは、小月と呼ばれる毎日出てくる小さな月と青白い光を放つ少し大きめの青月だ。青月が出るのは夜も更けてからなので、今は夜中と言っても過言ではない。


 つい数時間前まで、どのように初夜を回避するかを必至で考えていたのに、今は明日からどうするかを考えなければならない。

なにせ実家から身売り代金の返金を拒否されたようなので、家がない。家どころかお金も替えの服さえないので、下働きとかでも良いので雇ってもらえると助かるが、代金分は借金として計算されるのだろうか。借金となっても良いので、少しは現金支給してもらえると嬉しい。しかし、そうなると自分の代金が気になってくる。貴族が返金拒否する額って、下働きで返済完了できるのだろうか。

 一応、この国では奴隷制度は三百年以上前に廃止され、既に目に見える差別はないと聞いている。ただ、どこにでも法の抜け穴というものはあり、学のない庶民を借金返済と称して生涯無給で雇用とかは未だにあるらしい。


「心象を良くしたら、手心加えてくれないかしら。」 


 明日、先ずは少し時間を割いてもらえそうな責任者級の人に会わせてもらおう。野菜の皮剥きとか洗濯、掃除なら、ワタシでもできるハズ。まだ若いし体力はそこそこあるハズ。


 ずっと屋敷に籠もっていたので、唯一アピールできそうな体力からして不安しかない。


 識字率が低ければ代筆屋とかできたのに。良いことだけど、今の自分には都合が悪い。

 この世界の識字率はかなり高く、実家のような劣悪な領地の庶民でも簡単な文字は読むことができるので、代筆の需要がないのだ。


 この国では、子どもが合法で働ける職は少ないのだ。

 12歳で結婚可能な国なのに。


 夜が明けると、泥沼な状況の中でも非常に優しい方がいらっしゃることが判明した。

 荷物一つ持たずに来たことを知ったどなたかが部屋着等を数着融通してくださったのだ。しかも、持ってきた使用人曰く、喪が明けたら採寸して服を用意してくださると仰っていたらしい。

 お陰で、自分の立ち位置が完全に読めなくなりました。


「少し時間ができたら、で良いんだけれど、執事に来てくださるように伝えてくださる?」


 希望としては、部屋着より御仕着せが欲しい。お妾さんより下働きになりたい。

 お屋敷にいらっしゃる方々の善意に甘えて、執事さんが来てくださるまで図書室にお邪魔しよう。王都の図書館並みに蔵書があると部屋着を持ってきてくれた使用人が豪語していたので、少し楽しみだ。


「昨日はご挨拶もせず申し訳ございませんでした。当家の執事長を任されております、セバス=チャントンと申します。」


 会いたいと言ったのは自分なのに、会って早々ちょっと複雑な感情になってしまったのはこちらこそ申し訳ない。

 前世の記憶が叫んでいる。


「すごい。ここまで執事な名前ってアリなの?」


 今世の人格として、そんな台詞はちゃんと頭の中だけに閉じ込める。知ってる。チャントン伯爵家があるって。セバスって名前もよくあるって。


「先ずは、この度はご当主が御隠れになられたこと、お悔やみ申し上げます。。。忙しい中、呼び立ててしまって、申し訳ございません。私の処遇に困っているのではないかと愚考して、少し意見を聞きたかったのです。」


 情報がなさ過ぎて、世間話すら難しい。流石に、前世でもこんなに難しい状況なかったと思う。


「突然の話で困っていらっしゃるのであれば、私としては成人まで下働きとして雇用していただくとかでも良いとお伝え願えますか?」


「お申し出は御子息様方にお届け致しますが、リバース家のお嬢様をお預かりした後は当家の責任の下で生活されるとお聞きしておりましたので、御養女となられるか、どなたかと御婚約、御結婚となられる可能性が非常に高いかと存じます。」


 少し渋い顔になったセバスさんを見るに、意外と良識がありそうな予感がします。いや、そこまでの良識は求めてないんですとも言えない雰囲気です。


「そうなのですね。」


「今日の夕刻までには皆様到着されるとのことですので、晩餐へのご招待を言付かって参りました。」


「御丁寧にありがとうございます。謹んで伺う旨をお伝え願います。」


 修羅場に巻き込まれたくないとは言えなかった。

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