001. 中身は55歳のおばさんです
ミラ=リバース、12歳。
見た目は灰色の髪に青い瞳のそこそこにかわいいと思われる女の子だが、中身は55歳のおばさんです。
中身が55歳なのは、なんの手違いか前世と思われる記憶があるからです。
一応貴族なので、金銭的な余裕がうかがえる暮らしぶりではあるものの、父親は賭博好きで愛人複数、母親も買い物好きの愛人複数いて、それぞれ郊外の別荘で暮らしています。
本邸に放置されて12年。
料理人もメイドもいるため衣食住には困らないけど、前世の価値観でいけば立派なネグレクトである。
優しいメイドとか執事とかいればまだ救いもあるが、着替えや風呂はもちろん、水や食料さえ忘れられることもあることを考えると、中身が55歳でホントに良かった。
しかも、最低限の教育のために雇われた教師曰く、これから80歳を越える老貴族の妾として嫁ぐことになっているらしいので、心底中身が55歳で良かったと思う。初潮も迎えていない少女に夫婦の営みを求めるハズはないと思いたいが、80歳にもなって妾をとろうとするという時点でそんな常識は持っていないとみるべきだろう。
一応、この世界でも、偉い哲学者さんとかは人権とか男女格差を論議していたり帝王学的な感じの教本には弱者を守ることで世の中は回る的な話が書いてあったりするらしい。でも、法律上は別になんの規制もないので気にしない人は気にしない。私生活が乱れに乱れまくっている父母が気にするわけもなく、そんな人の周りに気にする人が寄ってくるわけもない。
若干ブカブカではあるものの、人生初の綺麗なドレスを着せられ、これまた人生初の馬車に乗る。
12年過ごした屋敷は深い林に囲まれており、街まではかなりの距離がある。幼子の足では日暮れまでに街までたどり着けるはずもないと、ミラとして生を受けてから一度も屋敷から出たことはなかった。
これが本物の12歳であれば、暴れたり着の身着のまま飛び出したりしたのだろうか。中身がオバサンだからだろうか、逃げ出した先を考えると怖くて動けなかった。だからといって、見知らぬ老人との初夜も御免被りたい。後門の狼に前門の虎とはこのことか。
こんなの中身55歳でも無理ゲーだと思います。
そんな思いも関係なく、結婚相手が送ってきた騎魔法使いや騎士だという人達が杖や剣を頭上に掲げた。
転移魔法を使うのであれば、何故馬車に乗せたんだ。てっきり道中の護衛とばかり思っていましたよ。
前世含めて初めて見る魔法に興奮する暇もなく、見慣れた屋敷が視界から消えていた。