舞台裏02. キースとカシアス
キース=ロベルトは、至って普通の貴族出身の冒険者だ。まだ成人に達していないが、少し年齢を誤魔化していることと名前を少し隠しているなど、少し秘密があること以外は至って普通の冒険者だった。
「キース、迎えにきた。」
今日までは。
「カシアス兄さん。どうしたんだ?」
キースより10歳以上年上のカシアスは、普段は王都で騎士をしている。キースが来年の騎士試験を受けて、晴れて任官されれば、騎士を辞めて政務官に異動する予定だが。
「お父様がお亡くなりになった。。。腹上死だそうだ。」
キース達の父親はもう御歳82。大往生であるが、腹上死というのも違和感は覚えない。そもそも、カシアスでさえ58歳の時の子である。
「あー、御愁傷様。」
「どっちの意味で言っている?」
もちろん、並み居る女傑の相手をしないといけないことだが、そんなことを口に出そうものなら、何故か聞き付けて説教をされるのが目に見えている。ここが領地から転移魔法と早馬とを合わせてさえ1日かかる王都であっても油断してはならない。ロベルト公爵家の女傑は何かしらの異能を持っていると考えておいた方がいい。
「取り敢えず、俺はこのまま帰れるが、兄さんは?」
「俺も、取り敢えず休みをもらった。まぁ、喪が明ければ、退団かもしれんが。」
「退団するのか?」
「流石に俺には領地運営と政治に参加しながら、騎士まではできん。というか、最初の二つも同時は難しい。」
「でも、辞めたくないんだろ?」
カシアスの自己評価が低いだけで、恐らく普通にこなせるとキースは思っている。ただ、父親や姉達に比べると奇抜な発想が出てこないだけで、無難に領地運営はできるだろう。比べる相手が悪い。
「手伝えることがあれば、手伝う。」
「言ったな。言質はとったからな。姉さん達の相手もしてもらうからな。」
早まったかもしれないと思いつつ、キースは応えた。
「たった3人しかいないんだ。団結しないとな。ただ、代わりと言ってはなんだが、婚約の話が出たら止めてくれ。」
キースの姉や従姉達は会うたびに、子や孫を嫁候補としてゴリ推ししてくるのだ。カシアスやキースが家を出たのは、親族と会う機会を減らすためと言っても過言ではない。
「まぁ、俺が後を継ぐと決まったわけでもないしな。」
姉妹達どころか、姉に掌握されたその夫君達にも後継ぎとして見做されていたのに、諦めの悪い長男である。キースでも気付いていたのに、カシアスが気付かないわけがない。キースは呆れた目で兄を見上げた。
「後継ぎどころか、嫁まで決められている可能性も。」
「あ、それ阻止案件だからな。ちゃんと手伝えよ。」
キースはカシアスと並んで雑談しながら、人気のない路地に入ったところで転移魔法を使った。
カシアスが実家に直帰せず、キースの元に来た理由が、この転移魔法の存在だった。魔法の得意なキースは一度行ったことがある場所であれば苦も無く転移魔法が使えた。
親戚が苦手と言いつつも、カシアスもキースも家族は嫌いではなかったし、父親を嫌っているわけでもなかった。訃報を聞けば、即応するくらいには情もある。
キースもそれが分かっていたため、人目がなくなったと同時に魔法を使った。
その数時間後に、カシアスと交わした約束が華麗に反故されるとは露ほどにも気付いてなかった。




