74話 ウィステリアの女王陛下扱い
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ジルベール・ベルフィント代官のご厚意を受け取って、ロドリア商隊は例の小屋で泊まることになり、周辺を夏椰が魔物除けの強力結界を張った、彼らはその小屋で自由に過ごし母屋から夕食や朝食を食べることができた。普通よりも豪華な食事に商隊のロドリアをはじめ皆は喜んでいた。持ってきてくれた屋敷の使用人に礼を言っていた。
そして雪華達スキルマスターも母屋である邸宅の方で夕食をとりジルベール・ベルフィントの夫妻と団欒をした、子供は1男1女でともに学園に行るとのこと。学園は全寮制なのだそうだ。
「では、普段はお二人だけですか?」
「えぇ、夫は仕事が忙しく、家の事は殆ど私が守っております」
そう言ったのはジルベール・ベルフィントの妻セリア・ベルフィントである。長い金髪を綺麗に結い上げ清楚な美人である、優しげな面影を見せており、夫に寄り添う控えめな人物である。
「お子さまがいらっしゃらないと寂しくはございませんか?」
「そうですね、寂しくはありますが、でも学園で頑張っていることを思えば、卒業した時に立派な貴族の子女になっていると信じておりますから、楽しみでもあります」
「そうですか……」
「セリアがいるおかげで、私は領内の仕事に専念できます、本当に助かっています」
「ジルベール様は騎士団の所属でしたわね、では領内の騎士団をまとめていらっしゃるのですか?」
「はい、代官としての仕事と兼任して騎士団を統率しています、憲兵との連携も必要不可欠なので、合同訓練などもしております」
「騎士団も確か国の機関での配属と言うことですよね? 違いましたか?」
「いえ合っていますよ、私は代官ですので他領での騎士団には移動できませんが、他の騎士達はそれぞれの所属が騎士団総本部によって決まります。基本的には出身領となりますが、一応本人の希望も考慮されます」
「なるほど、では憲兵も同じなのですね」
「そうですね国の機関は全てそうなっています、憲兵総本部と騎士団総本部はともに防衛省の所属になっております」
「防衛省? そう呼んでいるんですか?」
「はい、他国との窓口は基本的に外務省と呼んでいます」
「………それって……ほぼ300年前と同じ名称じゃん」
「ん~~~ほんとよくわからん」
「って事は何か?国内に関しては国務省って事になるのかなぁ?」
「えぇ、そうです」
「では一つ聞きますが、教育に関しては教育省?で合ってます?」
「いえ貴族院です」
「………貴族院………何でそうなるの?」
「教育に関しては貴族だけの特権だからです」
「それって平民には教育しない、させないって事???」
「これに関しては異を唱える者もいます、当然平民にも教育をする権利はあると、ですが国を動かしているのは、殆どが貴族ですので、平民には必要ないと考える者が多いのです」
政府関連は300年前と同じ名称のものもあるが、教育に関しては完全に貴族優先となっている、いや基本的に貴族が優遇される制度になっているのだ。名称はだたのお飾り名称に過ぎないと言うことである。
だがウィステリアはそうではない、雪華が領主として指示を出し一見して一つの王国の様相であるが、ちゃんと教育は全ての者が受けられるように指示を出しており、貴族優先などではない。
領民一人一人にちゃんとした権利が保護されている。それ故に多種族共生であるのも差別も許されていない。
また裁判官や弁護士と言った者も居ないわけではない。ちゃんと育てていた。故に不平等や不公平は少ないのである。
「だいぶ、ウィステリアとは違いますね」
「国王陛下はウィステリア領に関して、フェスリアナ王国にある特別な国という認識をされておいでです、また貴族の中でも上級貴族は陛下と同じように一つの国との認識を持っていますよ」
「うちが外国扱いって事なの?」
「そう言えばロドリアさんもそんなことを言っていたなぁ~」
そう言ったのはスキルマスターの男共である、旅の途中関所などでそんな事を言っていたのを思い出した。
「そうでしょうね、彼は行商人ですから、そういう話は知っているでしょう、ですのでそういう理由を考えればウィステリア領は、独立自治領土で治外法権です、我らの法は通用しませんから、ですから王国の中のもう一つの国なのです、いわばウィステリア領主様はウィステリア公国の女王陛下といった所なのですよ」
「……何それ、公国? 私が女王って事?」
「貴族は皆、水面下ではそう思っております、特に今回の晩餐以降は、確信を持てたのではないでしょうか」
「何でそうなるの?」
「陛下が、あなたに対して礼を尽くしているからです」
「……………」
ジルベール・ベルフィント代官の言葉を聞いたスキルマスター全員は唖然とした、まさかそういう意味合いになっているとは思いもしなかったのだ。
確かに陛下にとっては、特に先王にとっては雪華の正体を知っているが故の態度であろうと薄々気づいてはいた、しかし貴族のその認識には驚いたのだ。
「失礼ながら、貴族の方々がそう言う認識であるとは思いも寄りませんでした」
「そうでしたか、では今後は心にお留め置き下さい」
「えぇ貴重はお言葉ありがとうございます」
こうして今現在のフェスリアナ王国という国で生きる貴族達の本音にふれたような話を聞いたスキルマスター達、とりわけ雪華にとっては頭の痛い言葉であった。
翌日早朝、まだ陽も上がりきっていない時刻にロドリア商隊は出発した。
「お世話になりましたジルベール様」
「お気になさらずに、道中お気をつけてお帰り下さい」
「あの公爵様、途中の簡単に食べられるお食事を作りましたの、商隊の皆様の分もございますのでお召し上がり下さい」
婦人がそう言ったため、雪華は商隊の方を見ると使用人達が商隊の馬車になにやら箱詰めにされた物を沢山乗せていた、それを受け取り指示していたのはロドリアである。
「……お気を使わせてしまいましたね、申し訳有りません」
「いいえ、私どもにはこのくらいしか出来ませんから」
雪華は婦人の言葉に笑顔で礼を言い、厚意を受けとった。そしてベルフィント代官夫妻に見送られながら、スキルマスターは馬に乗り、護衛をしながら出発していった。
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チヨリ村までは一日の距離である、車が有れば数時間と言うところだろうが、馬車旅である短時間での移動は皆無だった、正直スキルマスターだけなら一日も掛からないのだが、商隊が一緒となるとそうはいかない。
昼を過ぎたあたりで代官婦人から頂いたお弁当を皆で食べることにした、スキルマスターと商隊の分である。中身は同じメニューとなっているが豪華なお弁当であった。商隊の皆は特に美味しそうに、嬉しそうに食べていた。
「旅をしていてこんな豪華な食事を取ることは有りませんからね」
「そうよねぇ~というか、この時代にお弁当という認識があるの?」
「これはお弁当と言うものなのですか? 普通は自炊するものなので、こういった物は初めてなんです」
「そう、ないんだ……でも貴族の中にはあるって事?」
「いえ、無いはずです、お貴族様の旅の場合は使用人も一緒に移動します、そういう場合ちゃんと料理人がついて行きますので、そこで作ることになっています、こういうのは初めてでございますよ」
「………そう、お弁当という習慣はないんだ、って事は婦人が工夫して料理人に命じたのね」
「そのようだと思います、この箱も手作りのようですし」
こうして安全に食事が出来るのは、言うまでもないスキルマスター達が張った結界のおかげである。本来なら匂いなどに誘われて魔物が来ても可笑しくはないのだ。
「しかしあれだな、魔物に見られて食事をするのって人生で始めてだ」
「全くだ……」
「襲ってこないよね!」
「それは心配ない、俺たちが張った結界だぞ、あの程度の魔物が敗れるものか」
「でも結構強い魔物でしょ」
周りに集まっている魔物はビッグアンテカウやジャイアントベア等の群である、この時代の冒険者では手に余る相手であり、数組の冒険者と組んでも倒せない場合もあるのだ、何より目の前の連中は皆3桁の魔物である。
「まぁ強いと言えば強いかな、260や286ぐらいのレベルだから」
「えぇぇ~~~そんなに強い魔物なんですか?」
「3桁レベルの魔物なんて王都にはいないですよね」
「ウィステリア周辺は3桁レベルは当たり前なんだけどなぁ~」
「いや、当たり前と言うより雪華が目を覚ましてから増えてきた」
「何よ、それ! 私のせいだって言うの?」
「いや別にお前のせいじゃねぇけど、統計的にみても増えてきたってだけだよ」
「……お前等行商人だろう鑑定スキルは持ってないのか?」
「行商人は魔物対象の鑑定は出来ないんですよ」
「マジで??」
「ランクを上げたら魔物鑑定も出来るわよ」
そう言いながら食事をしている雪華は、横目で魔物達を見ながら動向を見守っている、少しでも結界にふれよう物なら容赦せず、指を鳴らしてシトメていた。そんな事を数時間していたら、全ての魔物は死んでいた。片づけを追えて結界を解除したら、魔物の死体が山ほど出来ていた。スキルマスター達はこれを回収し綺麗に解体して、ギルドに持ち込む手はずを整えていた。その間行商人達は出発の準備を整えててウィステリア領に向けて再出発した。
道中魔物は相変わらず出てくるがスキルマスターのおかげで被害はなく進むことができた、途中川辺の近いとこで一夜を過ごす、チヨリ村の少し手前まで来ていた為、村には入る前の休むことにした、夜の見張りはスキルマスターが二人一組で対応した。
「なぁ~雪華よ」
「なに?」
雪華は宇宙飛行士の浅井賢吾と見張り番をしていた、そして薪を火にくべながら賢吾の話を聞いていた。
「お前も知らなかったのか? 代官の話」
「知るわけ無いわよ、あんな話?」
「まぁ確かに、ウィステリアは独立自治権をとって治外法権ではあるよ、まるでメルリア軍基地みたいだよな、でもまさかお前が女王様扱いをされているとは思っていなかったからさ」
「それは私だった同じよ、開いた口が塞がらないし頭が痛い」
「頭が痛いって何でだよ」
「あんた、上級貴族共が私を女王様扱いしているって事は、陛下と同等、対等扱いをしているって事でしょう、でもそれはあくまでも水面下での事、表向きはフェスリアナ王国の国民であるって事なのよ!」
「そりゃそうだとは思うけど……」
「だから、それは言ってみれば私が何らかの形で動けば、謀反扱い、敵対行動と取られかねないって事よ! 国民は私について一介の領主様でスキルマスターという立場であるとしか見ないのだから、上級貴族が変な噂を流せば、識字率の低い国民からすれば謀反と取られかねないって事よ!」
「……でもお前それを放置する気はないだろう?」
「無いわね」
「売られた喧嘩は買うつもりだろう?」
「当然よ!」
「だったら問題ないんじゃねぇ?」
「……………」
「だいたいお前は、スキルマスターの中でも規格外だし、歴史上の始祖の生まれ変わりだし……、神崎家の始祖と同一人物って思うんだけど、なら関係ないんじゃねぇか?」
「それって、どういう意味よ」
「解ってるんだろ、お前を敵に回して勝てる奴などいないって事だよ、まぁ元凶魔王の力がどれほどのものかは知らないが、それ以外ならお前の敵はいないと思うんだよ、まぁピートが相手ならわからんが……」
「……ピートねぇ~アイツはたぶん私相手なら手を抜くだろうよ」
「……どっから来るんだ、その根拠……まぁだとしてもだ、それを知らない貴族や一般の人族から謀反人扱いされたとしても、誰もお前の相手なんか出来ないと思うぜ」
「…………はぁ~~、本当クラスメートってこういう時、隠し事に困るわよねぇ~」
そんな事言う雪華を見た賢吾はニヤッと笑って見返していた、雪華が始祖の生まれ変わりであることは、ウィステリア組は皆知っている事である、まだ覚醒していない状態であっても規格外、もし覚醒した時は人外の神である、手を出せない相手と言うことなのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。