72話 ウィステリアの茶畑と急報
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
茶畑から帰った雪華を待っていたのは、宇宙飛行士こと浅井賢吾だけだった、霧島廉と弟の夏椰はまだ帰宅していない。
「兼吾だけ?」
「あぁ廉はなんか新しい部品の材料を買いに道具屋に行ったきり戻ってない、夏椰は例の如く情報収集のため町中を歩き回っているそうだ」
「そうなの」
「お前の方はどうだったんだ?」
「うん楽しかったわよ茶畑見学、ここの世界は紅茶とハーブティしか製法を知らないみたいね、だから他の製法があることを教えて来ちゃった」
「教えて来ちゃったって大丈夫か?」
「大丈夫よ、屋敷の敷地で家族分の茶畑から緑茶を作っているのよ、教えても問題ないわよ」
「何っ! お前緑茶を栽培しているのか??」
「あれ知らなかったの? うちに来て飲んだこと無かったっけ?」
「あるけど、茶畑はそんなに無かっただろうウィステリアには」
「領民が自由に飲めるだけの量が取れないのよ、それに緑茶よりも紅茶の方が売れるから、農家があまり作りたがらないのよね」
「なるほど一理ある」
「だから茶葉が特産というベルフィント領で緑茶が出来ればいいなぁって思っただけよ」
「ウィステリアの収入が減らないか?」
「今は別に良いわよ、緑茶を飲み慣れている人が少ないし、増えるようなら、ウィステリアでも量産してくれることを期待するしかないわね、こればっかりは農家次第よ」
そんな話をしていたら、霧島廉が帰ってきた、なにやら荷物を多く抱えていた。
「お帰り、買い占めたようね」
「おぅ~雪華達も帰っていたのか」
「その荷物どうするんだよ」
「当然アイテムボックスに放り込む、今後の実験の使えそうな物を買ってきただけだから、それより夏椰は?」
「あぁまだ帰ってきていない、情報収集をしているんだろう」
「でももう19時だぞ、遅過ぎねぇ?」
「あぁ~ちょっと待って」
そこに雪華の一言で二人の男は彼女をみた、なにやら念話でもしている様子である。その様子を見ていたら突然雪華が大声を上げた。そして憮然として二人の男に声をかけてきた。
「どうした?」
「夏椰があんたたち二人だけで、ラビットっていう酒場に来るように伝えてって言ってるの、私は来ちゃダメって言われたわ」
「何で?」
「……姉貴がいると目立つからダメって言われた」
「ははぁ~ん、正体を隠してこいって事かもな、雪華がいると悪目立ちするし」
「スキルマスターが領内にいるのはバレているからな」
「うん、仕方ない、雪華は留守番な!」
「酷い……」
「諦めろ、今回は男だけで楽しんでくる」
そう言いながら男二人は自室に戻って変装準備をして夏椰指定のラビットという酒場に出かけていった。
雪華はそれを見送りながら溜息を付き、1階の食堂で一人寂しく夕食を取った。
男たちが向かったラビットは、いわゆる普通の居酒屋である、フード付きのマントを被って店に入り、夏椰を捜した、二人を見つけた夏椰が手を振っていた、彼自身もまたフードを被っていた。店の奥に陣取っていた。
「よぉ、どうしたんだ?」
「お前一人でここに入ったのかよ」
「姉貴が来ると目立つでしょう、それに俺たちの正体はバレているのでね」
「いやそれは解るけど……」
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「あぁ~黒ビール二つと、適当な摘まみを持ってきて下さい」
「畏まりました」
夏椰は先輩たちとの話の途中で、注文を取りに来た店員に黒ビールと軽食を注文した。
「話なら宿屋でもいいんじゃねぇの?」
「雪華がむくれていた」
「あぁやっぱり機嫌悪かったですか?」
「少しな、でもまぁ大丈夫だとは思うけど」
「だったら大丈夫ですね」
「でぇ夏椰、何で俺たちをここに呼んだんだ?」
「それはですね……」
そう言った夏椰は二人の先輩に後ろを向かないようにと注意を促して、更にフードは外さないようにと、注文も付けて話そうとしたのだが、店員がやってきて黒ビールと軽い摘まみを持ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
テーブルには軽い摘まみ以外にも、先に来ていた夏椰が注文したのだろう、夕食らしき食事も一緒に持ってきていた、当然人数分の取り皿も揃っていた。全てを並べ終えてから、追加の注文があればお呼び下さいと言って、店員は離れていった。
「旨そうだな」
「食事は美味しいって宿屋の店主のお墨付きですから大丈夫ですよ」
「そうか、出かける前に聞いていたのか?」
「えぇ遅くなるかも知れないからとの事で先に聞いていたんですよ」
「でぇいったいどうした?」
「実はここから先輩たちの後ろ直線距離にいる人物が気になりましてね、振り向かないで下さいよ」
「解っている、でぇ何で気になった」
「ハルシェット辺境泊が王都より消えたと言う情報が入っていたんです、それを思い出してたら、あの男を見つけたんですが」
「ハルシェット辺境泊……って王都で捕らえられただろうが」
「えぇそうです、それは俺も姉貴も見ているから間違いはないんですけどね」
「その後ろの人物が辺境泊だというのか?」
「いえ、違います。ただあの人物は男で気配が辺境泊の家にいた誰かの気配と同じだったので気になって……」
「付けたのか……」
「一応隠密スキルを最大にして、認識阻害のスキルも最大にしてあります」
「なるほど、認識阻害のスキルを俺たちも発動しておいて良かったって事だな」
「えぇ助かりました」
「しかし何故辺境泊は消えたんだ?」
「解りません、ただイルレイア大陸との繋がりを考えると、魔族が関わっている可能性があると思いまして」
「なるほど、魔族か……」
「男は誰かと一緒か?」
「いえ一人です」
3人は食事をしながら、その男を警戒していた。
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雪華は一人夕食を食べてから自室に戻った。それから暫くしてロドリアとゴラン隊長が姿を見せていた。
「どうしたんですか? ロドリアさんはともかくゴラン隊長がこちらに来るなんて」
「火急の用にて公爵様にお伝えすることがございます」
「私に?」
「はい、そうじゃ入って」
「失礼します」
「では私はこれで……」
「ああぁロドリアお前も一緒に聞いてくれ」
「私もですか?」
「そうだ」
そんな話をしている間に雪華は二人のためにお茶の用意をしていた。そして他の3人はとゴラン隊長に聞かれた為、正直に雪華は話した。
「なるほど……」
「でぇいったいどうしたんです?」
「実は公爵様が王都を出立した時、辺境泊の姿が消えたのです」
「はぁ? 何それどういう事よ! 私は十分縛り上げて憲兵に引き渡したわよ」
「えぇ、ちゃんと引き渡され、牢に入れておりました、また取り調べも牢の中で数名の憲兵を囲んで執り行ったのです」
「それなのにどうして?」
「取り調べでは、素直にイルレイア大陸と繋がっていた事も白状しておりました、人身売買に手を出していたことも全て白状しており、証拠も見つかっており証言も取れて降ります。そのため後は陛下のご裁可を待つのみとなったのですが、その陛下のご裁可を通達当日に牢を見に行くと姿が無かったのです」
「……姿がなかった? でも彼は魔法を使えないはずよ? 魔素は少なくて魔力がなかったもの」
「えぇそれは此方も確認をしております、ですが姿が無く、憲兵だけではなく親衛隊もかり出されて全ての者で捜索をしたのですが見つかりませんでした、これを重く見た陛下が私に直ぐにウィステリア公爵の後を追って知らせるようにと命じたのです。公爵が出発した翌日に私も出発しました」
「……消えたって事は……イルレイア大陸の誰かが手引きした可能性か?」
「牢に誰かが入れるような手引きは出来ません」
「それは過信よ、辺境泊と繋がりのある貴族がいるでしょう、何らかの方法で出た可能性があるわ」
「なるほど……、あっそれとこの件でベルフィント伯爵のご長男一家も王都滞在を切り上げでお戻りになるそうです」
「そう……」
雪華は今の話を聞いて少し考え込んだ、そして決断をする。
「ちょっと探ってくるけど、二人はここにいて、男3人が戻ってくると思うから」
「公爵様、探るとはいったい何を……」
「良いから動かないでよ」
雪華はそう言うと窓から外に飛んだ、それも空に向かってだ、それを見送った二人は驚いていた、以前浮遊魔法があるとか飛行魔法があるとか聞いた事が合ったのを思い出し、落ち着くことにした。
その雪華は浮遊魔法から飛行魔法に切り替えてベルフィント領全体が見渡せる高さまで飛んだ、そして気配を探ったのだ、消えたハルシェット辺境泊を、だがベルフィント領内にはいない。
そのため更に高度を上げて国全体を見渡し更に気配を探った所、既に王都を出て別の方向に、海に向かっていた、そしてそのまま船のある方に気配が動いているのを確認した。
「これは今からでは間に合わないわね」
雪華が上空に向かってから暫くして、男3人が戻ってきた、そして何故ロドリアさんとゴラン隊長がいるのかと不思議に思ってお互いの情報交換をした。
「では夏椰様はそのハルシェット辺境泊の屋敷にいた男を調べていたのですか?」
「あぁでも食事をした後、別の宿屋に向かいました」
「宿屋の店主に聞いたけど一人で泊まっていると言っていたな」
「いつから泊まっているかなどは?」
「俺たちがこっちに着いたのとほぼ同じ時期だと女将が言っていたな」
そんな情報交換をしているときに、雪華が戻ってきた、しかも溜息付きである。
「戻っていたのね男共! 私をおいて楽しい食事でもしたの?」
「酷いなぁ~ハルシェット辺境泊の家にいた気配を追って付けていたのに」
「やっぱりそうなのね」
「えっ、お前知っていたのかよ?」
「知らないわよ、でもそれ囮よ」
「囮!!?」
「そう、飛行魔法で状況確認をして辺境泊の気配を追ったんだけど、既に王都から離れているわ、しかも港に向かって船に乗ったわよ」
「船ですと!」
「えぇ間に合わないわね、確実に! 恐らく行き先はイルレイア大陸だと思うけど……」
「……イルレイア大陸……」
「魔族が絡んでいたからねぇ~亡命するならそっちで間違いでしょうけど……ちょっと気になる事もあるんだけど……」
「それにしてもどうやって厳重警備の牢から出たんだろうなぁ」
「あの公爵様、その気になることっと言いますのは?」
「ん~~何ていうか、ハルシェット辺境泊の魂のようで、そうではない……っ的な感覚というか……」
「なんだそれ? 雪華解らないのか?」
「ん~~上空からの索敵だったからねぇ~人であるのは間違いないのよ、でもなんか違和感があった」
「違和感?」
「そう、だから確実にハルシェット辺境泊かって言われたら、解らないって感じなのよね、でも辺境泊の気配は少し感じたのよ」「公爵、私はこのまま王都に報告に戻ります」
「えぇその方が良いでしょうね」
「ただ明日あたりにジルベール・ベルフィント様がお戻りになります、出来ましたらお会いになっていただけませんか? 今回の一件も気にされておられましたので」
「ん~明日出発予定だったのだけど、仕方ないわね。用事が済んだら直ぐにウィステリアに戻るけど、それでも良い?」
「構いません」
「解ったわ、じゃゴラン隊長もお気をつけて王都にお戻り下さいね」
「はっ恐縮にございます、では失礼いたします」
ゴラン隊長は挨拶をして直ぐに王都に向かって出発していった。それを見送った一同は、やれやれと溜息を付いた。
「ロドリアさん、毎度毎度ごめんねぇ~」
「いいえ、仕方ございません、ある意味国にとっては一大事ですから」
「……しかし……巻き込まれたくないのに、何でこう巻き込まれるのよ昔も今も? 酷くない?」
「姉貴ってそういうの引き当てるんじゃねぇの?」
「巻き込まれに行っている気はないんだけど、引き当てる気だってさらさらないわよ!」
「お前ってトラブルをまき散らす分、トラブルを引き寄せる才能もあるよな」
「何よそのトラブルをまき散らすって、私そんな事してないわよ」
「嘘付け! 俺たち天神将はお前とピートの喧嘩に巻き込まれることが多かったぞ、それをトラブルをまき散らすって言うんだよ」
「だよなぁ~ピートもそうだけどお前ら規格外はとにかく被害がでかくなるんだよ」
「……これでもセーブしてるんだけど」
「セーブしてそれって事は全開だと、世界が滅ぶんじゃねぇか?」
「それは大げさよ、せいぜい国が一つか二つ消し炭になる程度だと思いたいわね、それに全開なんて出したことないもん」
「……消し炭も被害がデカいんだけど、頼むから全開は止めてくれよ」
「だな、世界が滅ぶのはもう見たくない」
このスキルマスター達の話を聞いてロドリアは、やはり陛下の言うとおり怒らせてはいけない人物だと改めて認識した。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。