71話 自由行動と茶畑見学
第4章の始まりです。
ずっと探し続けている人物と内政のお話になるはず……?
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
王都スリアを出て大分経つ、ウィステリアご一行様はロドリア商隊の護衛をしながら帰宅の途中の旅を楽しんでいた。当然出てくる魔物はビックベアにビッグアンテカウが主でたまにジャイアントベアが出る。
まだ大した強さではないがランク2~3程度の三桁レベルである。この世界の冒険者では無理ゲーな魔物であるが、それをスキルマスター達はあっさり倒していき、獲物を取り放題と喜ぶのを見ながら商隊の皆は呆れる者、笑って楽しんでいる者、安心して旅が出来ると喜んで泣く者など様々である。
半月かけてベルフィント領に到着した、そして今回は獲物を冒険者ギルドで換金する事ができた。冒険者ギルドベルフィント支部長が直々に換金に応じてくれた、そして4人の素性は既に知られている事にため息を付いた。
そのせいかギルド内では他の冒険者諸君からの視線が釘付けである。そんな視線を無視して、4人は宿屋に戻った。
「はぁ~~換金してくれるのはいいんだけど、あの視線何とかならんのか?」
「無理じゃねぇ、俺たちの素性バレちゃってるし」
「いやそれだけではないと思いますよ先輩」
「夏椰の言うとおりだな」
「何でだよ!」
「魔物を取りすぎたと思わない?」
「出てくる魔物は全部狩るって、雪華お前が言ったんだぞ!」
「まぁ~そうだけど、ちょっと反省しているわ、取りすぎて彼らの取り分が無いって事だと思うわ」
「暫くこの街道に魔物の出現は減るだろうねぇ~」
夏椰の最後の言葉で皆が沈黙した、確かにそうかも知れないと思った。スキルマスターに敵は無しって事で、まだこの辺はレベルの低い物ばかりである、
あくまでもスキルマスターにとってはである、しかし、この時代の冒険者にとっては手に余りすぎる程度の魔物であるからだ。
「このあたりの魔物に苦戦する程度の冒険者だったら、ウィステリア周辺の魔物は相手に出来ないだろうなぁ~」
「そうなればレベルやランクも上がらず、魔王に対応出来ないな」
「正直それは困るわね、あぁ~でも魔族は種族だから別に敵対する必要は無いからいいんだけど」
「……魔族って種族だったのか?」
「あれゲームではそうだったでしょ、ピートは魔族だったけど」
「あぁ~そうだった、じゃ何で今魔王復活を気にしてるんだ? 魔王を話して和解すればいいんじゃねぇ?」
「そうなんだけど……私が気になっているのは、この世界があの物理世界に弾き飛ばされる原因になった元凶魔王が復活するのではって事なのよ、魔族が敵対するなら仕方ないけれど、初代魔王は人族だったからねぇ、純粋に魔族からの魔王なら問題ないでしょう?」
「あぁ~そう言えばそんな事言っていたな、忘れていた」
「でもウィステリアには魔族もいるし、気のいい奴もいるからなぁ~」
「取りあえずさ、問題のピートさん見つけて真相を聞いてからにしない? 今ここであれこれ議論しても根本が解らなければ対応って、難しいと思うんだけど?」
「そうねぇ夏椰の言う通りよ! あのピートを見つけだして全て吐かせてやる!」
雪華が最後の言葉が当然の事であるが、しゃれにならんと思っているのは男どもである、雪華はピートを締め上げると言い続けてきた、しかも二人揃って規格外である、この二人の喧嘩に巻き込まれないかと言うことが最大の関心事であり、重要な課題だったからだ。
「あぁ~そうだ、ロドリアさんから明日は不足している物資調達をするから、出発は明後日って言ってたわよね?」
「あぁ~そう言えばそんな事を言っていたな」
「この街の探索ってしてなかったわよねぇ~そう言えば」
「前回は大人しくしていた気がするな」
「襲撃者がいたからなぁ」
「明日はそれぞれ自由行動にする?」
「えっ、いいのか?」
「私茶葉栽培の農家を見てみたいのよ」
「あぁあのお茶美味しかったからねぇ~」
「賛成! 俺もこの街の情報収集したい」
「じゃそれで行こうか」
明日の行動が決定した、この世界でこの4人を敵に回して勝てるものなど皆無である。最後に雪華が、もし絡まれたら適当にあしらって、ベルフィント代官に迷惑をかけないことを約束した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
翌日はそれぞれ自由行動を決めたスキルマスター達は、朝食後それぞれの行動をした。雪華はロドリアに頼んで茶葉生産農家を見てみたいと相談をした。
「あぁそれなら、ご案内します」
「えっ、ダメよ、ロドリアさん仕事があるでしょう?」
「大丈夫です、他の者に任せておけば不足分は調達できます、それに領主様はベルフィント伯爵家で飲まれた茶葉をお気に召していたと、夏椰様からお伺いしましたので」
「夏椰から聞いたの?」
「はい、姉はお茶が大好きなんだと仰っておりました」
「ロドリアさんの所でも茶葉は売っているのでしょ?」
「えぇ、ですがベルフィント伯爵家の所有している茶畑の中ではある一つの茶畑農家以外とは取引は行っておりません」
「えっ、何故?」
「農家の主が獣族嫌いでしたので、取引が出来なかったのです」
「あぁ~そうなんだ」
「でも今からご案内するある農家だけは茶葉の取引をして頂いています」
「なら、そこを案内して貰っても良いかしら?」
「はい、畏まりました」
ロドリアは嬉しそうにそう言うと部下たちにいくつかの指示を与えて、農家に行く準備を始めた。
「さぁ参りましょうか」
「馬車で行くの?」
「農家は町外れですから」
「町外れなら魔物がでるのでは?」
「はい、なので本来なら道中に冒険者を雇う者いますが、今日は領主様がいらっしゃいますから」
「ふ~んなるほどね、了解した」
馬車は農家でよく使うような天幕のない馬車である、馬を引くのはロドリアでその隣に雪華が座った。
街を出て暫くして魔物が出たが雑魚だったので雪華の指一本で始末できた。その後長閑な農村地帯が見えてきた、街からそう遠くはない場所である、所々に何件かの家があり、周辺に畑を持っていた。
「この辺は穀物を育てている農家が多いですね、茶畑はもう少し奥の方です」
「穀物も育てているの?」
「ウィステリア領ほどの穀物量は取れませんが、しかし何故ウィステリアは穀物だけではなく果物や野菜も豊富に取れるのでしょうか?」
「あぁそれはね、災害に備えて前から農家を大事にしてきたのよ、彼らがいるから私たちは食に困らないから、とはいえ彼らの道具を作ってくれる職人も大事、誰一人欠けてはならない者だからね、私はそんな彼らの生活が順調よく流れるように整備をするのが仕事かな、そうじゃなきゃ領民の暮らしは苦しいでしょ」
「仰るとおりですね、ベルフィント領はそんなウィステリア領を真似たと言われているのです。ですから領土は小さくとも、ウィステリアに近づければとベルフィントの領主様はお考えだと街の皆が言っていました」
「魔物と共生しているうちの領地を真似てよく領民が納得したわね」
「確かにそうですが、生活は豊かでしょ、ベルフィント領もそうなればという思いからですね」
そんな話をしている間に茶畑が見えてきた、そして幾つか点在している村も見えている。
ロドリアが言うにはベルフィント領では茶葉が特産であるのは、間違いないのだが、そのために毎年競争をしているというのだ、いわゆるコンテストだ。
どこの茶畑の葉が一番美味しいか、そのため品種改良で美味しいお茶が出来たり、茶の種類が多くなったりしているらしい。フェスリアナ王国随一のお茶の名産領だという。
「さて着きましたよ、ここの農家が去年一番の賞をとった農家です、うちと唯一取引をしてくださっている方です」
「へぇ~そうなんだ」
雪華は馬車から降りて周辺をみた、一般的な農家ではあるが、茶畑が一面に広がる地域である。ロドリアはそのまま農家の主を訪ねていた、そして暫くすると主を連れて戻ってきたのだ、中肉中背の男である。
「お待たせいたしました公爵様、この方がこのあたりの茶畑を所有しているカイル・ロッドさんです」
「初めましてカイルさん、私は雪華・ウィステリアです。リリアナ嬢からベルフィント領の茶葉は特産だと伺って、畑を見に来たのだけれど、急に押し掛けてごめんなさい」
「あぁいえ、此方こそ初めましてカイル・ロッドと言います、あのリリアナ嬢とはベルフィント伯爵令嬢の事でしょうか?」
「えぇそうよ、伯爵宅で飲んだお茶が美味しくてね、リリアナ嬢から特産だと聞いてきたの、それでロドリアさんに頼んだのよ、茶畑が見てみたいって、そしたら此方を案内されたの。去年一番の賞を取ったそうですね、おめでとうございます」
「あっ、ありがとうございます」
「ねぇ畑見せていただける?」
「はい、どうぞ此方です」
そう言ってカイル・ロッドは自身の畑を案内した、まだ刈り取り前の茶葉もある一方、既に刈り取られた葉もある、だが刈り取り前の茶葉はまだ育ち盛りである。雪華は一つ一つ丁寧に葉を見て触り、育ち具合を見ていた。そして土壌の感触もしっかりとチェックしていた。もとよりお茶が好きな雪華は300年前もこうして農家を訪れることもあった、日本茶だけではなく紅茶やハーブティなどもである。
「なぁロドリアさん、あの方が本当にウィステリアの領主様なのか?」
「えぇそうですよ、ウィステリア領主の雪華・ウィステリア公爵様です」
「えらく念入りに見ているけど、解るのか?」
「詳しくは知りませんが、とてもお茶が大好きだそうです、製法にもご興味があるようですね、300年前もこうして茶畑を見に行っていたと弟の夏椰様が仰っておりました、此方で今出せるお茶をお飲みいただいたら如何ですか?」
そんな話をしている二人の所に、雪華は戻ってきた、それも楽しそうに笑顔である。
「とても良い葉の育ち具合ですね、土壌も良いです、これは美味しいお茶が出来そうですね」
「あの、よかったら彼方でお茶をお飲みになりますか?」
「飲めるの? 是非頂きましょう」
雪華は嬉しそうに彼らに付いていった、雪華が一番嬉しかったのは、当然茶葉の成長具合や土壌ではあったが、何よりも精霊達が喜んでいた事である、土の精霊が嬉しそうに美味しい肥料を貰っていると訴えていた、茶葉も精気が漲っていたのだ。
「此方で少しお待ちください、ただいま準備をして参ります」
「えぇ」
「公爵様は何故か凄く嬉しそうですね」
「ここのお茶今年も一番を取るかも知れないわね」
「そうなんですか?」
「えぇ茶葉の状態も良いし、土壌も良かったわ、良い肥料を貰っていると土の精霊が喜んでいた」
「そうなのですか? 土の精霊が……」
「肥料によっては土の精霊も喜ばない事もあるし、茶葉も元気がないのよ、でもここは違ったわね」
「そう言うのが解るのですか?」
「街からここに来るまでの穀物畑が合ったでしょ、あそこでも土の精霊達がお互いの状態を話していたわよ、肥料が悪い、もうちょっと良かったらとかね、でも良い肥料は値段が高いから農家にとっても死活問題なのよ、この農家は無理をしてないかしら」
話の途中でカイル・ロッドがお茶を持ってやってきた、庭先ではあるがお茶を飲める程度のテーブルは合ったので、そこにいすを用意して、カイル・ロッドは部下に命じ準備させていた。
「どうぞ、去年のものですが……お口に合いますかどうか……」
「では頂きます」
雪華は茶器を受け取って転がして色を観察し匂いも嗅ぐ、良い香りがしている、そして少し飲み口の中で転がし堪能、更に二口目更に三口目をぐいっと飲み干した。それを周りの人たちは、固唾をのんで見守る。去年の茶葉である品質は落ちているだろうと思っているからである。
「うん美味しい! ねぇこれベルフィント伯爵家にも卸した?」
「はい、賞を取った茶葉の一部は領主様に献上するのが決まりですので、去年卸したというか献上いたしました」
「そう、じゃ私が飲んだのはここの茶葉だったのかな?」
「多分そうだと思います、ただ今お出ししたのは賞をとった茶葉ですが、もう品質は落ちているはずです、去年ほどには……」
「確かにそうかも知れないわね、でも美味しいわよ、これは紅茶だしね」
「こうちゃ……」
「そう、製法の仕方によってはお茶の種類を変えられるのだけど、知らない?」
「この地域の茶葉はみなこの製法やハーブティのみです」
「そう、紅茶とハーブだけの製法のみかぁ」
「あのぉ~公爵様、これ以外の製法もあるのですか?」
「300年前には合ったわよ」
「本当ですか? 私も長く行商をしていますがこれ以外のお茶は飲んだ事はないのですが」
「茶葉で出来るお茶は、この紅茶だけではなく緑茶やほうじ茶と言うものがあるのよ、大きく分けると4つ、そこから更に分岐してお茶は変わるの、これは紅茶ね、あとプーアル茶と緑茶にほうじ茶、ウーロン茶とあるわよ」
「そんなにあるのですか?」
「他にも有るわよ、例えば大麦からとれる麦茶とかね、茶葉と穀物を炒った物を混ぜた玄米茶とかね」
「聞いたことが有りませんね」
「そうですねぇ~穀物を混ぜるなんて初めて聞きました」
「そうねぇ~ただこの時代の人はたぶん紅茶やハーブティといった物に慣れ親しんでいるだろうから、他のお茶は慣れないと飲めないかも知れない、でも私は基本的に緑茶が好きなのよ、というかうちの家族は緑茶に慣れているからねぇ、後お米という穀物は緑茶ととても合うのよ」
雪華の言葉を聞いてカイル・ロッドは何か気になった様子である。それで質問をしてきた。
「あの公爵様、他の製法を知ることは可能ですか?」
「んっ、作りたいの?」
「あぁえっと、紅茶だけではもうやっていけないと思いまして」
「それはどうして?」
「この地方はこの製法だけしかありません品評会で評価されなければ高値が付かなくて生活に影響します、そうなれば肥料も押さえなくてはならなくて……」
「うん、そうね当然だわ、解った300年前の製法を教えてあげる、でもそれは書物として渡すだけよ、字は読めるの?」
「少しだけならば……」
「ならば製法を記した物をロドリアさんを通じて渡すからチャレンジしてみて、チャレンジするからには失敗は付き物だから諦めないでね、私はあなたが作る緑茶を飲みたいわ、恐らくリリアナ嬢も飲みたいって言うかも知れないわよ」
「そうですか?」
「えぇ品評会に出しても恐らくチャレンジした茶は評価されないでしょうから、評価されるまで頑張って紅茶も続けてね、ロドリアさん此方の紅茶を今後うちにも収めてくれる」
「畏まりました、いつも通りで宜しいのですね」
「当然よ! あぁ~それとカイル・ロッドさん書物を読んでやると決めたら教えてくださいね。製法によっては道具が必要になります、そちらは私が成功報酬として先行投資します」
「そのような事は……」
「新しい製法にチャレンジするには道具がなければ無理でしょう、私は支援するだけ、作って成功させるのはあなた達職人でしょ、同じ道具をベルフィント領で作成できればそれでも良いけれど、たぶん紅茶の製法しか知らないのなら無理だと思うわよ」
「それは、確かに……」
「ウィステリアでも多くは出回っていない緑茶なんだけど、私の家の敷地内に少しだけ茶畑を作って家族分の緑茶を作っているのよ、だから道具を作る職人はいるから心配しなくて良いわよ」
「あ、ありがとうございます!」
雪華は笑顔で答え、お茶のお変わりをした。カイル・ロッドはとても気さくな公爵様だと思ってロドリアに色々聞いていたようだが、雪華の性格や行動を聞かせると、カイル・ロッドは驚いた表情をしていた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。