70話 リリアナ嬢の300年前の過去
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
冒険者ギルドの応接室でウィルシュタイン家の家族と拓馬が話をしている頃、ベルフィント伯爵家でもリリアナ嬢こと琴音が自身のことを話していた。
「ではお前は家族と仲が悪かったのか?」
「両親の仲が悪くて離婚したのよ。原因は母さんの浪費だった、それで離婚になったの、ただ法律に則り親権は父さんにあった、そしてこれも法律に則り、私たち兄妹は定期的に母さんに会っていた。これは決まりだから仕方なかったけれど……」
「しんけんとは何だ?」
「子供を育てる権利の事よ、親が離婚した場合に裁判所って所で法律に基づき決定がされるの」
「では二人は父親と一緒に生活をしていたのか?」
「父さんは兄と私を学校に行かせるために働きすぎて病気になったわ。養育費を払わないだけマシだったと思う。だから兄は高等学校を卒業して就職をすると言ったのだけど、父さんが許さず大学に行かせたの。また私も大学に行かせてもらえたわ、だから卒業して私が教師になって養えるようになって家計が少し楽になったけど、その頃にはもう父さんの体はボロボロで、苦しまずに死んでいったわね、看取ったのは私と兄だけ、母さんは来なかったわ、結局死ぬまで両親は顔を合わせなかったわね」
「父親は何故死んだのだ?」
「よういくひとは?」
「養育費と言うのは、子供を育てるためのお金の事よ、うちの場合悪いのは母さんのほうだったし、親権は父さんに合ったから母さんに支払う必要は無かったの、もし逆の現象、つまり父さんが悪い場合や中立の場合は養育費を払う必要が出てくるわ。でもうちは全面的に母さんに経済力がないから父さんが親権を取ることができたのよ。その為子供二人の学費をあわせて3人の生活費を稼ぐ必要があったから仕事を掛け持ちをして働き過ぎたのよ、当然私も兄もバイトをして家計の足しにして生活をしていたわ、離婚の原因は母さんの浪費だけど、母さんは父さんの収入が減ったことで気に入らなかったのよ、だから自分の稼ぎと父さんの稼ぎを全部使ってしまうこともあって、生活が大変だったの、このままの状態が続けば子供二人を育てられ無いどころか、生活も出来なくてね、離婚話が出ていた、私は中等科にいて兄も高等科にいたからだいたいの事は理解できた、離婚の理由も理解できたから二人でどっちに付くか話し合って決めていたけど、裁判所が母親に親権がないと決定した事で、私たち兄妹離れ離れにはならなかったのよ、仲が良かったからね、ただ母さんの金銭感覚だけは最悪だったから私たち二人は生活費を節約して父さんの負担にならないように何とか生きていたのよ」
「じゃお兄さんは大学を卒業したのね?」
「兄は高等科を出てから家計の足しにするため、私を大学に行かせるために、昼間は働いて夜は夜間大学に通っていたわ」
「夜間大学とは?」
「夕方からやっている学校、家庭の事情や学校に馴染めなかった等の理由で学校に行けない子が通えるようにって、そういうのがあるの、ただ大学の場合は社会人になってから、もう一度ステップアップの為に夜間大学に行く者もいたわね」
「そんな苦労をしていたのね」
「あの時は生きることに精一杯だったわね、中等科で雪華とクラスメートになれたのも、特待生になるために勉強を頑張って授業料を免除して貰うためだったの、いろんな研究もしたし学校生活は楽しかった、それも全部父さんと兄のおかげでもあるし、クラスメートが色々助けてくれたからなのよ」
「公爵が言っていたが、何かしていたのだろう?」
「あぁクラブの事ね」
「クラブ!」
「クラブってお酒を飲んだりするのか?」
「違います、私たちが通っていた中等教育学校は、授業が終わったら必ずどこかのクラブに参加するのが義務だったの、そのクラブというのはこっちで言うものとは違います」
「では何だというのだ?」
「クラブ活動っていって運動をしたり音楽をやったり演劇をやったり、実験をしたり色々ありましたわよ、私が所属していたのは陸上部でした」
「どんな事をするんだい?」
「陸上部は色々あるのよ、走ったり、飛んだり」
「50mを何秒で走るか、100mを何秒で、マラソンなんかだと何十キロって距離を走って競争するの、障害物競走もあったわね、飛んだりするのは、走り幅跳び、棒高跳びっていうものよ2本の棒を立てて両方にもう一本横に置いて、その高さを変えて、どこまで飛び越えられるか……楽しかったわね、その時だけは家のことを忘れられたわ」
「それはスポーツというのか?」
「えぇそうスポーツよ、よくご存じね」
「公爵がスポーツジム迷宮の話をしていたからな」
「そう、学校のクラブはすべてスポーツジム迷宮に繋がるものよ、雪華だって野球部の選手だったんだから、女子野球部がないのに男子野球部に入って、男子顔負けの球を投げてたわね、あれは異常だったわ」
思い出すようにいう娘リリアナを見て両親や兄達は、前世で苦労した分、今は幸せになろうとしている事は理解できた。だから母親であるマリエッタが娘を抱きしめてきた。
「リリアナ、今は家族がちゃんと居るわ、心配しないでね」
「うん、今は幸せですよお母様、家族が一緒にいられるのですもの、でもねいつかは自立しなければならないでしょ」
「そうね、あなたも学園を卒業したのだから」
「だからねウィステリアの大学に行かせて欲しい、助けてくれたクラスメートにも恩返しをしたいの」
「公爵とスキルマスターの方々か?」
「うん、それもあるけれど、榊家も」
「榊家?」
「そう今のウィステリア家の事よ、300年前は本名の神崎、色々複雑な一族だったから榊って名乗っていたのよ、私は雪華と同じクラスでSAクラス、特に成績優秀者ばかりが選抜試験で合格した者だけのクラスにいたの、クラス全員で雪華の家に行って勉強したり、お夕飯を頂いたりお世話になったのよ、そこに末っ子の夏椰君がいたのね、あの子はまだ初等科の子供だったから遊び相手もしていたわ」
「成績優秀者ばかりのクラスか、ならばウィルシュタイン家の次男もそうなのか?」
「拓馬も同じクラスだったわよ、彼は整形外科医、でも彼のことは私からは言わないわよ、それは彼の問題だから」
「そうか……なぁリリアナ、将来魔王が復活するとなったらどうする?」
「復活する可能性が高いんですか?」
「公爵は300年前にその気配らしき者をみたと言っていた」
「……雪華がそう言うなら、何かありそうね。あの子の予感は当たるのよ、昔から」
「そうなのか?」
「歴史上に出てくる魔王の気配を雪華が知っていれば確証はあるんでしょうけど、知らないから可能性って言ったのかも知れません、とはいえ準備は必要だと思いますわ」
「そうなると、やはり冒険者レベルの上昇が必須って事だな」
「魔物のレベル、ランク、種類を私に調べて欲しいって事なのかも知れませんわね」
「お前にか?」
「これでも私は生物学の専門でしたのよ、前にも言いましたけど魔物も研究したいのです、そうすれば冒険者の方々は対処可能ではなくて?」
「対処か……」
「弱点とかどういった攻撃が有効なのか……とか……、まぁ雪華が言った様に300年前の野生動物が魔物化しているなら、それ相応の対応は必要でしょうけれど、魔素が絡んでくると私の知識でも追いつかない可能性もあります、だから大学で学びたいんです」
熱心に訴えてくる娘の顔を見てマルク・ベルフィントは困った顔をしている、だが既に心は決まっているのだ、送り出すことをあの公爵なら娘を守ってくれるだろうと信じていた。
「リリアナ約束をしてはくれぬか?」
「約束?」
「手紙を……30日に一回でいい、出紙をくれないか?」
「30日に一回手紙を書くのですか?」
「そうだ、お前がどういった生活をし、どういった事を学んでいるのか、そして危なくはないのか……」
「危なくはないって、それはどういう事でしょう?」
「リリアナ、ウィステリア領は多種族共生の領地だぞ、忘れたのか」
「あぁそういう事ですか、大丈夫だと思います、雪華が治めている領地ならば、それにあの子を怒らせるような領民はいないでしょうからね」
「それは……、また何故そう思うのだね?」
「ん~~それは、その良いのかな? 言っても?」
リリアナがそこで少し戸惑いながら困った様な顔をした事で、公爵に口止めされているのだろうかと考えた家族は、無理には言わなくても言いと言い出した、しかしリリアナは白状した。
「ん~~まぁ隠すことでもないかな、というより知っておいた方が良いかもですわね」
「どういう事だ?」
「あまり300年前の事を今の時点では話すなと雪華からは口止めをされています。理由は雪華達もまだ解らないことがあるからという事ですけど、ですからそれは言えません」
「うんそうか、解った」
「ですがこれだけは伝えておきます」
「何だ?」
「雪華を絶対に敵に回さないことです」
「……それは陛下からも聞かされているから知っているが……」
「……えっとね、つまり敵に回すと国が崩壊っていうのは、まぁあるかもですけど、っというか実際あったし……」
「実際にあった!!?」
「えぇまぁ、でもそれだけじゃないのですよ」
「なに、それ以外にもあるのか?」
「えぇ雪華に対して嘘や隠し事など出来ないって事なんです」
「嘘も隠し事も出来ない?」
「えぇあの子の家系は陰陽師の家系なんです、陰陽師とは今で言えば魔術師ではありませんが、似たような事が出来るんです、雪華はその陰陽師の中でもずば抜けていたのです、精霊や妖怪などと会話をし、彼らを使役します」
「えっと、もっとわかりやすく言えないか、知らない言葉があるのだが……」
「あぁ~えっとですね、つまり今で言えば獣魔術師のような力を持っているのです、でも魔物や動物を使役をするわけではないのですが、それに似たような事をするのです、必要なときに必要な時だけ、ですから領内で起こっている事は、兵や使用人を使わなくても、あの子自身が自分で把握出来るんです、なので大きな危険はないと思います」
必死に今の時代でも解るように説明するのが難しいと感じたリリアナこと琴音は、家族が理解できたかどうか不安であった。
「……なるほど、公爵は領内で起こる事に対して他者を介さずとも把握できるスキルを持っている……そういう事だな?」
「はい、そうです」
何とか伝わったようで安心した琴音は大きな溜息ともに安堵した。
「実は陛下がいらっしゃるとき、丁度お前が部屋に入ってくる直前だっだのだが、色々な話を聞いた」
「えっ、あの晩餐の日ですか?」
「そうだ、お前がさっき話した名前が違う事、陰陽師であることを含めてどういった一族だったのかと言うことをだ、難しすぎて理解するには余る話ではあったが、恐らくお前はそれを知っていると言うことだな?」
「あの、いったいどういった内容だったのかとか解りますか?」
「一族の興りと公爵家が直系一族で、もう一つが分家筋、その分家筋の者から命をねらわれていたという様な話だったと思う」
「あぁ~~なるほど、それね、それは本当の話ですわよ。実際あの神崎領には神崎歴史資料館なるものがありましたもの」
「それはどういったものだ?」
「神崎家の歴史などが書かれている書物があったりしましたわね、でもそこに雪華達の家族はというか、本来の直系筋の事は全て書かれていませんでした、雪華達直系筋が見つかって以降に追加修正されましたわね」
「そうなのか?」
「えぇ、神崎領に住む子供たちは、一度は必ず歴史資料館に社会見学として行く行事がありましたの、当時雪華達は榊と名乗っていましたから、その理由も分家筋である神崎家から身を隠すためだったのです」
「身を隠す……か」
「分家筋はずっと直系筋を探して殺そうとしていたようです、雪華達が見つかってからは、当時の当主から数代前の当主が『直系筋を探し出して赦しを請い全ての権利を返せば呪詛が解かれるかも知れない』と遺言を残したそうです、だから300年前の神崎家総帥、当時の当主がその遺言を守ろうとしたのです、それで雪華達直系筋は本名を名乗ることができたと聞いております、それに神崎家の怨霊話は有名でしたから」
「怨霊? あぁそうだそんな言葉があったが意味が分からなかった」
「今で言えばアンデット系の魔物だと思って頂いても差し支えはないと思います」
「アンデット系の魔物……」
「陰陽師というのはそういうのを相手にする人が多いんですのよ」
「相手にするって言うのは戦うのか?」
「いいえ、祓うのです、つまり成仏、本来あるべき場所に返すって言えばわかりやすいでしょうか」
「なるほど、浄化すると言うことか?」
「近いですね、でも恨みが根強い怨霊の場合は、普通の術師では祓えない場合があります、神崎家の術師は結構強い方が多かったと聞いたことがありますが、雪華はその中でも頭一つ二つ飛び抜けていたと言われていたそうです」
娘の話を聞いた家族は、不思議そうな表情をしたり難しそうな表情をしたり、コロコロと表情を変えていた、当然である。現実と300年前では大きく文化も生活も違いすぎているためだ。リリアナはそんな時代に苦労をして生きていた前世の記憶を持って、今生に転生した、この子は今度こそ幸せになるために、いや幸せにしなくてはならないと家族は思ったのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。