68話 王都出発、ウィルシュタイン伯爵家
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
動物園を出たのは12時過ぎ、丁度お昼を回っていた。何故か疲れ切った顔をしているリリアナ・ベルフィント嬢こと小山内琴音は元級友を見て再度ため息を付いた。
「しかし……動物園ねぇ~」
「今は私が許可した者しか入れないのよ、だから次回からは入れないからね」
「えっ! そうなの?」
「うん、危険だからね色んな意味で、飼育員も守らなきゃならないから」
「あぁ~そうか」
ここで雪華が気になることを琴音に尋ねた、生物学の専門家でもある彼女に、この世界でアレをみたか聞いてみたのだ。
「……あれって?」
「あれよ、前の世界で人類の敵である黒いヤツ」
「そうだよ琴音、こっちで見たことないか?」
「………黒い………ってまさか……アレか!」
もの凄ぉ~~~く嫌な顔をした琴音、皆が言わんとすることを思い出してしまった。
「今の所見たことは無いけど……調理場とかは知らないわよ、私行かないから」
「他の誰かに聞いたことなんかないか?」
「もしくは類似したヤツとか!」
「………いたら殺してる!!! 殺虫剤作って殺すわよ!!!!」
「って事は、やっぱり……」
「何よ! やっぱりって!!!」
ウィステリア組と話をしている娘を見ながらベルフィント伯爵はなにやら思い出した、前回の動物園行きでスキルマスター全員が嫌がっていたものの事を。
「リリアナ、Gのヤツとかいうものらしいが知っているのかね?」
「お父様!!! それが居たら私は燃やしますわよ!!!」
「燃やしても死なないかもよ……」
「雪華ぁ~~~あんなの見たくないよぉ~~~、それに何! さっきやっぱりって言ってたけど!!」
「………魔物化しているのでは……と」
「げっ!! あんなのが魔物化してたら最悪どころじゃないわよ! 氷河期でも生きているヤツだよ!!」
「魔物化してたら逃げるわぁ~」
「待て待て、繁殖力旺盛だろうが、アレは見つけたら即刻殺さないと不味いって!!!」
「巨大化してたら、もっと怖い」
「ちょっと! 雪華恐ろしいこと言うな!!!」
「だからあんたに調査をねぇ~」
「ごめん被る! 私は生物学専門だ、あいつは昆虫学だろうが! あれを専門に研究していた研究者がいたのは知っているけど、私は真似できない!! 絶対に!! かかわり合いになりたくない!!!」
「えぇ~~昆虫も一応生物学じゃないの?」
「そうだけど私は昆虫学は専門外だよ!!!」
「前期生の時カエルの解剖したじゃない……」
「カエルの解剖はしたけど、アイツは別物だろうが!! アイツの解剖なんか絶対に! 死んでも!! 嫌だからな!!!」
「そうか~やっぱりダメか、じゃ重力魔法で押しつぶすしかないわね」
「ねぇ医者の拓馬が居るだろう、あいつなら出来るんじゃないか、整形外科医だっただろう?」
「琴音、それは無理だ!」
「何故だ?」
「拓馬もGのヤツだけは苦手だ、もし見つけたらバーナー付きの殺虫剤でも作るかもしれん」
「あぁだねぇ~実際作りかけて先生に止められてたからねぇ~」
「……うっ……そうだった、なんか作って止められてたのってアレのせいだったのか……」
「原子炉でもあれば放り込むんだけどねぇ~」
「それで死んだら万々歳、ってこの世界にないわよね、そんなの!」
「あぁ~それは魔法でね」
「魔法って……」
「太陽フレア級の魔法があるんだよ」
「えっ、マジ?」
「うん、まぁ~俺たちよりも雪華が放つ方が威力は大きいのは確実だ」
「だな、でもまぁあまり使ってほしくはないなぁ」
「どういう事よ」
「地形が壊れるからだよ」
「コイツGに手加減なんかしねえだろ、まぁ俺もしねぇけど」
「………あんたたちスキルマスターってどんだけ強いのよ」
前世の友人たちと話している娘を見ていた家族は、少し驚いていた、いつもの娘じゃない言葉使いと態度をみたのだ。
琴音にしてみればGの話で無意識に300年前の言葉遣いをしていただけである。
「まぁ取りあえず俺たちはウィステリアに帰るから、お前もこっちに来るんだったら、ちゃんとご両親を説得しろよ」
「そうだぜ、お前、今幸せなんだろ?」
「うん、幸せよ、前とは大違い!」
「そう、だったら親を悲しませることだけはするなよ」
「うん、わかった……ねぇ雪華?」
「何? 300年前の私の両親の事とかは話してもいい?」
「……家族以外のことは話さないことを守れるのなら」
「うん、わかった」
動物園前には既にロドリア商会の商隊が列を作っていた、商品を運ぶ馬車が数台ある。またスキルマスター4人が乗る馬もあった。護衛をする為に彼らは馬車には乗らず馬で移動、4人ともゲーム時代に乗馬スキルを獲得しているため乗れるのだった。
「ウィステリア公爵、今回は色々とお世話になりましたな、娘のことも含めて」
「いいえ、私はあくまでもウィステリアを守るためだけに動くだけです、陛下を見守るのは先王との約束があるからですが、政治的に利用するというなら排除するだけですから、伯爵もお忘れ無く、その辺は琴音、リリアナ嬢もよく知っているはずです」
「ふむ、もし娘がそちらに行った場合は宜しく頼みます、もう少し家族で話をしたいと思いますので」
「構いませんよ、彼女は私たちと違って転生者です、私たちのような300年前のままではありませんから、魂と記憶は300年前のものでも、それは思い出しただけです、記憶が戻るまでの彼女の人生や肉体、性格、習慣などはあなた方が教え育てたものですよ、別人ではなく血を分けた大事なご家族だと言うことをお忘れ無きよう、彼女の幸せを願ってください」
「ありがとうございます」
「……もし、ウィルシュタイン伯爵が次男のルイス・ウィルシュタインの事で相談をされたら、私のことは気にせず伯爵が思うようになさいませ」
「承知いたしました」
雪華はベルフィント伯爵にそう告げると、自身の馬に乗ってウィステリアに向かって帰って行った。それを見送るベルフィント伯爵一家の中で級友を見送るリリアナ嬢は少し寂しげな表情をしていたのを父であるマルク・ベルフィントは見逃さなかった。
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雪華達が王都を出発する前日、ルイス・ウィルシュタインは王宮での晩餐の事を思い出していた、雪華との会話を思い出してため息を付いていた。
晩餐会で家族とは殆ど話をせずに、途中で抜け出してルイス・ウィルシュタインは自分のアパートに戻ったのだ。
明日は休みで魔物討伐依頼を受けている為外出する予定になっている、今更家族と話すことなどないのである。
彼は医者になる為に王都で学ぶ、だが親は騎士を目指して欲しかったがそれに反対をした為に、学費を含め一切の援助はされなかった。そのため冒険者登録をし冒険者として仕事をしながら大学で学び生活費を稼いでいた、休みの日には一日中魔物と戦っているという事もある。
晩餐会の当日に兄が使者からの連絡で、日中大学講義を受け、夕方晩餐に強制的に出席させられた事もあり、余り機嫌が良くない。事前にリリアナ嬢より、級友達の話を持ちかけられた為、行きたくもない晩餐に出ることにしたのだ。
その級友達と会うために……そしてダンスに誘って話をすることが出来た。ウィステリアに来ないかと言われた、そして医師免許を取って父や兄を助けて欲しいと言われた。
自身は転生しても次男として生まれた為、家督は継げない、学園を出た後、大学に通うか騎士候補生になるかどちらかの道しかない、また兄が結婚すれば自動的に家を出なければならない、
故に何かの職を見つけなければならないのだ、親は兄のように剣士になって欲しかった様だが、自分には合わないと始めから思っていた、11歳で300年前の記憶を思い出してからは余計にそう思うようになっていた。だったら以前やっていた医者が一番いいと思ったのだ。
「ラルク、晩餐の時ルイスの姿が途中から見えなかった様だが」
「そういえば、ウィステリア公爵とダンスを踊った後から姿を見ていませんね」
「そういえばベルフィント伯爵令嬢も少し話した後はウィステリア公爵とダンスをしていた後は見かけなかったと言っていた」
しかしそのベルフィント伯爵令嬢はウィステリア公爵と何かを話していて、息子はいなかった。暫くするとウィステリア公爵が離れていった時をねらい、ベルフィント伯爵令嬢に声をかけた。
晩餐会が終わってから数日後、王宮で雪華達への襲撃事件が会った日の夜の事。ウィルシュタイン家ではラルクが両親と話をしていた。
「今日昼間、ベルフィント伯爵からルイスとしっかり話をしたのか、彼の気持ちを聞いているかと問われた」
「ベルフィント伯爵からですか?」
「あぁ、そのときあの伯爵令嬢が転生者であることを告白なさった」
「転生者ですって? それって先王陛下と同じなのですか?」
「そのようだ、伯爵も令嬢から聞かされた時は驚いたそうだ」
「嘘ではないのですか?」
「いや本当のようだった、その場にウィステリア公爵やスキルマスターの方々もおられて令嬢の事を『ことね』と呼んでおられた、恐らく300年前の名前なんだと思う」
「まさかルイスもそうではないかとお考えですか?」
「……わからない、ただ伯爵の言い方を考えればその可能性もあると感じた」
「ルイスはずば抜けて頭がいいのは確かです、大学でも成績は常いトップの様です」
「学園に入るときはリリアナ嬢といつも同時トップでしたわね、そう言えば……」
「ラルク、あいつは今こっちでどんな生活をしている? お前からの手紙では喧嘩をしている事の方が多いようだが」
「まぁ確かに喧嘩の話が多いですね」
「それは何故?」
「冒険者になっていたからですよ、いくら次男とはいえ冒険者になるなど恥です」
「冒険者か……何故そんな事をしているのだ?」
「さぁ~、学園にいたときから既に冒険者予備校に通っていたと言っていました」
「……男はこれだからダメね、生活費とが学費を稼ぐためでしょうに」
「何っ?」
「あなたが学費も生活費も出さないと言って支援をしていないでしょ、本来なら私がしたいくらいなのに、それもさせてもらえていませんし、冒険者になって生活費を稼ぐ以外に道がありますか?」
「剣術を持っているのだ、騎士見習いにでもなれば良いものを」
「あの子は剣術を持っていても自分には合わないとハッキリ言ってあなたと大喧嘩して家を飛び出したんですよ、お忘れですか!」
妻の言葉にボイド・ウィルシュタインは、そうだったと思い出したようだ。学園の卒業年度の休みの日に一度実家に戻ってきていた、その時、進路のことで話をして大喧嘩をしたのだ、ルイスはそのまま家を出奔、卒業しても戻ってこなかった為、それ以来一度も会ってはいない。
「あなたとラルクとは話が合わないから家を出ると私に言ってましたよ、仕送りが出来ないことも納得済みでした、そのため冒険者になる為に学園に行きながら予備校に通っていた事を私にだけこっそりと教えてくれましたわよ、家を出るときには」
「お前知っていたのか?」
「えぇ黙っているようにとルイスに言われたので隠しておりました」
「何故だ!」
「言えばまたあの子を叱り喧嘩になるのが目に見えていましたからね、あなた達がそんなだから娘のメアリーもルイスのことをよく思っていないのよ、どうするんですか?」
妻のエリーゼは次男のルイスを心配して時々僅かな食べ物を密かに送っていることがある、お金を送ってあげられないのが申し訳ないと手紙に託した事もあった。
「ラルク、お前ルイスの住んでいる場所は解るのか?」
「ん~~行った事はないけど、聞いたことはある」
「行ったことはない?」
「あぁ教えてくれないって言うか、殆ど冒険者ギルドに行けば会えるからな」
「では、明日家に連れてきてくれないか?」
「そうだ、話がしたい」
「だったら父上も一緒に行きませんか?」
「何、私がか? それはダメだ! 当主がそんな冒険者ギルドなんかに行くわけには行かない」
「だったら私が参ります」
「母上!」
「エリーゼ、お前は女なんだぞ!」
「冒険者には女性もいるではありませんか、ましてやウィステリア公爵は女性でスキルマスターですよ、あなたが行かないのなら私が行きます」
どうも今回は頑な妻を見て、ため息を付いたボイド・ウィルシュタイン伯爵である。
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翌日午後からウィルシュタイン伯爵夫妻と長男のラルク・ウィルシュタインが揃って冒険者ギルドにやってきた。
荒くれどもが多いこの場所に、場違いな貴族が紛れ込んだような感じである、とはいえ少し前は貴族とギルド長と結託していた事件が合った為、可笑しいわけではないが、冒険者からすれば煙たい存在でもある。
「あのぉ~此方に何かご用でしょうか?」
「君は?」
「受付のマリンと申しますが、どちらのお貴族様でしょうか?」
「私はボイド・ウィルシュタイン伯爵である、此方にうちの息子ルイス・ウィルシュタインが冒険者登録をしているときいたのだが、今日は来ているか?」
「ルイスさんのご家族ですか? あいにくと本日は早朝から魔物討伐にお出かけになっておりまして、お戻りはいつか解りかねます」
「魔物討伐……」
「はい、討伐依頼をいくつかお受けになっておられます」
「そうか、ならば戻ったら家に来るよう伝えて欲しい」
「ご実家の方にと言うことでお伝えすれば宜しいですか?」
「あぁ必ずだ、必ず今日来て欲しいと……」
「私からもお願いしますね、必ず息子にお伝えくださいね」
「……あぁはい、畏まりました」
そんな所に新しく就任したギルドマスターのロイド・三橋が姿を見せて詳細を聞いていた。
「伯爵様ご一行ですか? ルイス君になんのご用です?」
「そなたは確か新しく就任したギルドマスターだったか」
「はい、就任式の時にいらっしゃいましたね、ウィルシュタイン伯爵、その節はありがとうございます」
「いや、今回は家族同士の話なのでな」
「でしたら、少しお話を致しませんか? ここでは他の冒険者に迷惑がかかります、ルイス君とは疎遠と伺っていますので」
ギルマスにそう言われてウィルシュタイン伯爵一家は2階の別室に案内された。応接室になっている場所、以前雪華がギルマスの部屋の豪華すぎる家具に辟易した事で家具類をこっちの応接室に移動させて来客との話し合いの場を作ったのだ。
その為ギルマス部屋は仕事がしやすい環境に戻った。ギルマスが勧める椅子に座った一家は周りを見回している。こった調度品である。
「あぁこれは以前ギルマスが使っていたものです、ウィステリア公爵が応接室用にと此方に移させたので、貴族の方々にも失礼はないと思いますが、お気に召しませんか?」
「いや、確かに豪奢な家具だが……」
「元々はギルマスの部屋に合ったのですが、公爵がかなり嫌がっておりまして、捨てるには勿体ない為、応接室に移動するよう命じられたのです」
「なるほど……」
そんな話をしている時に、マリンが人数分のお茶を用意して持ってきた、そして粗相の無いよう並べていき部屋を出ていった。
「さて、ご家族が総出でお越しになるとは、ルイス君に何かございましたか?」
「いや、これは家族の問題だ、ギルマスに迷惑はかけることはない」
「そうですね、ただ彼は冒険者としての腕は良い方なんです、まだまだランクも上がります、ここで止められるのは此方としても少々困りますので、その辺は彼とちゃんと話し合ってください」
「そんなにランクが良いのか?」
「学園を卒業する前から予備校には通っておられましたから、卒業すれば普通はFランクですが、彼は直ぐにランクEに昇格しています、Dランクにアップするのも早いと思いますよ、まだ単独討伐は出来ませんが、腕は良いですよ、それにレベルは既に100を越えています、普通は考えられませんけどね、将来有望なんです」
「そんなにランクやレベルが高いのか?」
「えぇ、もし家でこの冒険者としての話を含めてのお話であれば、ここでなさると良いでしょう、彼もその方が安心して話が出来るのではありませんか?」
「家では出来ないと?」
「常に逃げ道を作っておいてあげるのも愛情というものです、家で話せば彼にとっての逃げ道は無いのではありませんか?」
「ギルマスは此方の状況を解っておいでか?」
「詳しくは存じませんが、ルイス君は家族のことを話したがりませんから、何かあると思っただけです」
「そうですか、ではお言葉に甘えてここで待たせて貰おう」
「それが宜しいかと」
ボイド・ウィルシュタイン公爵は、相手と話してみて状況判断の素早さや的確な助言には、さすがウィステリア公爵が信用している相手である事を認めた。
それから昼食を側仕えに買いに行かせて摂った。時々ギルマスがお茶を持ってゲームをしませんかと誘って時間をつぶしていた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。