57話 承認式と謁見
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
翌日、夏椰はスッキリとした顔で起きてきた。そして雪華に礼を言って笑っていた。少しだけ安堵した雪華、心の傷はそう簡単には消えないことを知っている。それでも夏椰は心の整理をすませた様子だった。
「おはよう、姉貴」
「おはよう夏椰、大丈夫ね」
「あぁもう平気だよ、心配かけた」
「うん」
この姉弟の話を聞いて藤華組はちょっと安堵した、例の魂の話をして以降少しぎこちなかったのだ、そのため霧島と浅井は夏椰の相談に乗っていた、家族のことだから深くは話さなかったが雪華と仲違いをするのは不味いと思ったのだ。当然雪華の方にも何度か声をかけていた、雪華も解っていると言っていたので様子を見ることにしていたのだ。それが解消したと思った。
朝食を終えて、王宮に行く準備の為にメイド達が忙しく動いている。今日の主役は冒険者ギルド長のロイド・三橋さんである、スキルマスター4人は護衛と付き添いのおまけであると本人達は主張しているが、ベルフィント伯爵はそうは思っていない。
衣装は前世界では最高位の正装、女性はローブモンタント、男性はモーニングスーツである、昼間の最高位礼装をとりあえず持ってきていた、ついでに夜の礼装の為もローブ・デコルテや夏椰は燕尾服、後の二人はタキシードである、一応この世界の身分にあわせて月宮が用意していた。
今回は昼の最高位礼装を全員が着ることになっており、雪華のローブ・モンタントは薄い小手毬桜の色をしたケープドレスと家紋を象った小さな帽子を被っていた。
昼前にベルフィント伯爵家を出発して王宮に入った。王宮では別室で時間が来るまでゆっくりと過ごせる様にとベルフィント伯爵夫人と共にウィステリアの話をして過ごしていた。ただ雪華だけは何かを感じ取っていたのか、溜息をついていた。
「どうしたんだ、雪華?」
「ん? あぁ~別に」
「別には無いだろう、お前が溜息なんか付いたらこっちは怖いんだよ」
「何でそうなるのよ」
「姉貴の溜息って何かが起こりそうな気配を感じるんじゃねぇ?」
「……何かって何ですか? 領主様」
他のウィステリア組が口々に質問をしてくるのを見て、雪華は更に盛大な溜息をついた。
「……私ってそんなに怖いわけ?」
「いや、怖くはない」
「あぁ俺達スキルマスターにとっては別に怖いとは思わないけどね」
「けど……なによ」
「姉貴さぁ、自覚在る?」
「何の自覚?」
「姉貴はほらアレだ、スキルマスターの中でもトップのランクだぜ、正直周りへの影響の方が怖い」
そういう弟を見て、同じように頷いている同級生がいた。それを見て雪華は改めて思った、やっぱり怖いんじゃない…と、でもここはとりあえず釘を差しておく必要が在ると思った為、感じていることを話しておくことに決めた。
「……正直、今日は王宮に入ってからすごぉ~~~く嫌は気配が多い気がする」
「嫌な気配?」
「何か居るのか?」
「そうね、何かと言うより邪気・邪念といった負の感情がうごめいている感じかね」
「負の感情って……」
「本来王宮とか城とか何かは血の争いが多い場所だから、瘴気がたまっていたり、怨霊が居たりする物なのよ。江戸城やロンドン塔なんか特にね」
「江戸城やロンドン塔って……」
「喧嘩両成敗の例の奴を含めてよ、特に大奥なんてもうドロドロ、ロンドン塔は王や王妃などが幽閉とか処刑場なんかにまでなっていたからねぇ~、見えてたし……」
「うげぇ~~」
「やっぱり居たのか、あのロンドン塔!!」
「えぇ居たわよ、あっちに行けてないのばかりだったけどね、もう殆ど地縛霊だよ」
雪華の言葉で思い出した面々は歴史で習った事を思い出して、テレビのドラマ何かで放送されているのを思い出した。
「この王宮も例外ではないし、でも前に来た時よりも酷いわね」
「それって何で?」
「そりゃ、権力者や為政者の貴族が居るからでしょう、あの連中の欲深さは生き霊にでもなりそうな勢いね」
「おい! 怖いことを言うなよ」
「そうだ! お前が言うと実際に起こりそうで怖い!」
「大丈夫、怨霊や生き霊がいたら祓うだけだし、ただ集まっている貴族の面々の気配がここまでビンビン感じるのよ。それも敵意向きだしのね」
「マジか?」
「えぇ、あんた達でも感じるんじゃない?」
雪華にそう言われて、スキルマスターと三橋が魔力に集中していると、感じ取ったのはスキルマスターのみで三橋はほんの少しと言う程度だった。
「これ酷いねぇ」
「だねぇ、俺達への敵意だな」
「全てって訳じゃなさそうだけど」
「派閥で分かれているって感じかなぁ~」
「派閥……ですか?」
「そう、先王派と王太子派と、後は中立かどっちつかずで決められないって感じだからね」
このウィステリア組の話を聞いていたベルフィント伯爵夫妻が怪訝な表情で聞いていた、何かあるのか?と
「ウィステリア侯爵、何か良くないことでも在るのですか?」
「あぁ~別にそういう訳ではありませんけど……」
「けど……?」
「伯爵、実は……なんて言うか、俺達ウィステリア組に対する敵意を感じるんですよ」
「敵意……ですか?」
「そうですねぇ、妬み、嫉みって感じだけではないですねこれ……」
「おい、夏椰、お前も何かそう言ったの感じるのか? スキルじゃなく」
「えぇまぁ、目を覚ましてから徐々にですが、たぶん家の家族みんな、何らかの力を感じていると思いますけど……」
「それって……まさか……陰陽師の?」
「まぁ~そうですねぇ、たぶん……」
夏椰の言葉を聞いた藤華組は一斉に雪華の顔を見た、すると彼女は天井を青いで眼を細めている。
「おい、雪華?」
「ん~~~」
「夏椰の言った話ってのは本当か?」
「あぁ~~、そうねたぶん陰陽師の家系だし、目覚めちゃったんじゃないかなぁ~」
「マジかぁ!!」
「ん~でも力の差はあるからねぇ、たぶん私の次くらいに強く目覚めたのは夏椰だよ、その次がおじいちゃんかなぁ~」
「えっ、おじいちゃんも??」
雪華は天井を凝視しながら淡々と話をしている、そんな彼女が睨んでいる天井を見るが、何かが居ると言うわけではなかった。
「そう、先祖帰りの私と違って、一番血が濃いのはお爺ちゃんだし、それを色濃く受け継いだのは夏椰だよ、子供の頃から幽霊見てたでしょ? 他の兄姉の事は知らないからねぇ~私」
「じゃ父さんは?」
「父さんは子供の頃なにも見えなかったって言ってたから、たぶん他の兄姉と同じ程度じゃない?」
「……そうなんだ」
「ところで、雪華お前さっきから何で天井睨んでるんだ?」
「だな、逆にそっちが怖いわ」
「あぁ~別になにもないよ、ぼーっと考え事をしているだけだから、気にしなくていいよ」
そんな事を言っている間に、玉座の間に行くようにと知らせの使いが来た、それを受けて全員が立ち上がった、一番緊張しているロイド・三橋さんだけで、後の4人はやれやれと言った感じで立ち上がった。正直関わりたくないと思っている4人である。
先導の使いの騎士の後ろを伯爵夫妻が歩き、その後ろに雪華、夏椰が並んで歩き、霧島、浅井が共に並んで後に続く、最後にロイド・三橋さんがついて行き最後に別の騎士が歩いて玉座の間までやってきた。
当然扉の前にも騎士がおり、侍従らしき者がおり、挨拶をすると扉が開き、侍従が入って扉の横にたち、入場者順に名を読み上げる。
案内をし仲介となったベルフィント伯爵夫妻が最初に入り、所定の位置に着いた後、ウィステリア組の名前を読み上げられて中に入った、当然雪華は領主で在るため最初に呼ばれる。
「うわぁ~やだなぁ~この中通っていくの?」
「っか、まるで中世ヨーロッパのお貴族様達って感じだね」
「衣装もその時代を感じるんだけど、俺達の衣装って目立たない?」
「別にいいんじゃない、私たちは300年前の最高位礼装なんだし、気にしたら負けだ」
等と言いながら、伯爵夫妻が入って所定の位置に着く間話していた。そしてついに雪華の番になり、溜息をつきながらしっかりと顔をあげて正々堂々と歩いていった。
次いで夏椰、霧島、浅井と続く、王の前まで来た時、雪華は軽くカーテシー、男性群はBow and scrapeで挨拶をした、どちらも藤華時代に習ったものである。藤華では必ず社交ダンスの授業やマナーが5年と6年で必須をなるからだ。だが当然この時代の人間には解らない、軽い挨拶を王にするなど失礼なという様な声や田舎者風情だなとか、なんと失礼な服装等々、色々聞こえてくる。
「ウィステリア領主様と弟君、そしてスキルマスターの方々はこちらにお越しくださいませ」
彼ら4人は侍従に言われ、玉座の近くに並ぶよう言われた、当然ベルフィント伯爵よりも王に近い場所である。正直戸惑ったのは言うまでもない、何で王の側まで行く必要があるのかと、そして雪華は王の顔をじっと見ると、頷いている為溜息を付きながら、言われたとおりに従った。
その間にもロイド・三橋の名が呼ばれこっちに向かってきていた。彼は玉座も前で片膝をついて礼をとっていた。
これが本来の王に対する礼儀と言うものだと言った声があちこちから聞こえてきた。それを遮るように今度は王が話し始めた、「よく参った」と、正直これも異例である。
王が先に自ら話をするなどあり得ないのだから、本来なら宰相でもあるベルフィント伯爵が王の言葉を伝えることになっている。しかし彼は事情を知っているため何も言わない。言ったのはただ一言。
「皆の者静かにされよ、陛下のお言葉がある。これより新しい冒険者ギルドマスターの就任式を執り行う、また300年ぶりに目覚められたウィステリア領主様やスキルマスター様方のご紹介もする事とする」
ベルフィント宰相の前置きの言葉を聞いて、貴族・騎士諸侯の皆はそれぞれの思いだ口を閉ざしていった。ただ伯爵の言葉の一部に対して驚いたのはウィステリア4人組である、敬称で呼ばれたのである、そして雪華を見れば何か眼を細めて王を睨み何かに怒っている?っと夏椰達には見て取れた。
「ロイド・三橋は顔を上げよ」
「はっ」
「本日このときをもって、冒険者ギルド王都支部のギルド長として、私レイモンド・フェスリアナ国王の名のもとに承認することとする」
「このロイド・三橋謹んで陛下の意をお受けいたします」
「ふむ、それから諸侯ら全ての者に命ずる、今後貴族が忖度及び私腹に基づいて全てのギルドに近づくことを禁ずる、また王都内に在る動物園とその地下に眠る迷宮に関しては、ウィステリア領の物となり、治外法権とする。これを破った者は、重い処罰を課す」
「陛下、質問をしても宜しいでしょうか?」
「許す」
「何故迷宮と動物園がウィステリア領の物となり治外法権となすのでしょうか? この王都に在るのですから王都の物ではないのですか?」
質問したのは財務官の貴族のようだった。しかし雪華達からすればレイモンド・フェスリアナ国王の言葉は知っていたことでもあるが罰を与えるとは聞いていなかった。
「迷宮は……あの古代迷宮は300年前のもの、しかも現在の迷宮の殆どはウィステリア領にある、管理をウィステリア領主にしてもらった方が何かと助かるのだ」
「しかし、利益が奪われてしまうのでは?」
「地上にある動物園について諸侯等はなにも知らないだろうが、それらを見て攻撃すればウィステリア領主の怒りを買う。また迷宮に関して言えば、今現在の冒険者では誰一人として攻略は出来ん。故にそう決めた」
「しかし……かの領地は、その多種族を受け入れているため……、もし管理者が人族ではない者がくると……」
そんな財務官に続いて騎士からも意見を言ってくる者がいた、この時点で王に意見をするとはな、と雪華は思った。派閥はどこに所属している者達なのだろうかと思ったのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。