56話 ベルフィント伯爵邸にて
雪華がベルフィント伯爵との会話をしてから1週間、とうとうロイド・三橋の就任式典が開催される前日となった。
約束通り宿屋に迎えが来て、ウィステリア組は主役のロイド・三橋を含め全員ベルフィント伯爵の家に到着、相変わらずの使用人からの出迎えを受けたうえ、伯爵夫人からも歓迎を受けてた。
「ご迷惑をおかけいたします、マリエッタ伯爵夫人」
「お気になさらないで下さい、ウィステリア侯爵、私どもはとてもうれしく思っていますのよ」
「そうですか?」
「えぇ、さぁどうぞ中にお入りになって下さい」
婦人に誘導されるように5人は屋敷の中に入っていった、例の如く世話をするメイドがそれぞれに付き、今夜や泊まる部屋を案内された。その後荷物をおいた後、お茶にしましょうと1階の広い居間に通された、そこでようやくロイド・三橋が苦言を呈した。
「領主様!」
「ん? どうしたの?」
「あの私なんかもここに泊まっていいんですか?」
「えっ、どうしてよ!」
「私は平民です! 領主様とは違って貴族では無いのです!」
「……何言ってんの! 明日の主役はあんたでしょうが!!」
「そうだよ三橋さん、主役だったら堂々としてもいいだろう?」
「そうは言っても……」
「そこ、あまり気にすると、雪華の雷が落ちるぜ三橋さん」
「えっ!」
「確かに身分は大事かもしれない、それは三橋の言うとおりだと思う、思うけど! 今回はあんたが主役なの! 私達は護衛、そのおまけで行くのよ!」
「そうそう姉貴の言うとおり、それにさ俺達が行くことでウィステリアと冒険者ギルドに手を出すなって釘を差すことも出来るって事じゃねぇの?」
「ですが……」
あまりの豪華な屋敷で恐縮してしまっているロイド・三橋に対して、ウィステリアのスキルマスター達は平気な顔をしている。まぁ当然と言えば当然で、ウィステリア侯爵家の方々と親密でありスキルマスターでもあるからだ。
逆に三橋は松永の右腕で貴族と接する事はあっても、まだ松永ほど貴族と直接的な対応には不慣れだった。
「新しく就任なさったギルドマスターのロイド・三橋さんでしたわね、気が回らなくて申し訳ありませんでしたね、ですがどうか緊張を解いて下さいね、私、平民だからと差別するのは嫌いですの、それにウィステリア領には一度行ってみたいと思っているのですよ」
「はぁそれは、ありがとうございます伯爵夫人」
婦人の言葉で少し緊張を解いたロイド・三橋に他のウィステリア組は苦笑していた、そして少しの緊張とゆったりとした時間をお茶を飲みながら過ごしていた。そこに使用人が来て明日の衣装合わせをしたいと伝えてきた。
「衣装合わせ!!?」
「えぇ、明日は王宮に参りますでしょ、冒険者の衣服では少し体裁という物があると夫がもうしておりましたので……」
「あのぉ~それってまさかと思いますが……、婦人がお召しになっているようなドレスですか?」
「はい、そうです、公爵はとてもお美しいですし、お似合いだと存じます」
この婦人の発言に、クラスメートと弟が大爆笑していた、当然である、普段の雪華を知っている者からすれば似合わないのである。
「夏椰様、霧島様、浅井様、領主様に失礼ですよ」
「ははっ、いや悪い、悪い!」
「そうだね、ははは……」
「姉貴にドレスってあまり想像できない」
「だよなぁ~わははは」
「……そうよねぇ、私の柄じゃないというか、そんなの着たくないんですけど!!!」
「領主様まで!!」
「だって動きにくいじゃない、ドレスなんて!」
大爆笑の中、困った顔の婦人と三橋が佇んでた。三橋は申し訳在りませんと婦人に謝っていたが、それは気にしなくても言いと逆に言われた。
「とにかく、正装は三橋だけで良いですよ、それに私達は失礼にならない程度の服を強制的に持たされてきているから、それを着ますよ、主役じゃないですからね。それにこの時代のドレスなんか着たら私じゃなくなりますから」
「ですが、陛下もそのほかの貴族もいらっしゃいますのよ」
「陛下はともかく他の貴族に対して下でに出るつもりは在りませんよ、喧嘩を売るなら買いますけど」
「婦人には申し訳在りませんが、諦めて下さい。言い出したら聞かないのが雪華です、それに陛下はこんな俺達の事をよくご存じですから大丈夫ですよ」
「そうですか……?」
そんな所に伯爵が戻ってきた、そして一部始終の報告が婦人からなされた時、伯爵も笑っていた。
「侯爵の言うとおりにしなさい。このお方々はこういうお方々だから、陛下もよくご存じだ、それにこういうお方々であると貴族連中に知らしめる良いチャンスでもある」
「そうですか、あなたがそう仰るのなら、そういたします」
「ふむそうしなさい、ところで侯爵に話がある、少しおつきあい願えないだろうか?」
「私に話し?」
「えぇ」
「解りました」
「じゃ、書斎にいるから何かあれば呼びなさい」
「解りましたわ」
「他のみなさまは、ごゆっくりお過ごし下さい」
マルク・ベルフィント伯爵がそう言って部屋を出ていくと、雪華も後をついて部屋を出た。向かった先は宣言通り書斎だった。
「でぇお話とは?」
「この間の仮説について陛下の申し上げたのですが」
「そう、それで?」
「陛下もほぼ仮説は筋が通っていると仰ったのです」
「ほぉ~」
「確かに陛下と王妃は愛のない政略結婚です。夜を共にすることもないと言われました」
「って事は子供もいない」
「はい、王妃がその仮説通りならば罪に問うことになるだろうと……」
「ん~、まぁそうなるでしょうね、けど陛下はそれでもいいの?」
「真意は解りませんが、お答えが常にあっさりと返答なさっておりましたので、少々気になっています。それにマーモント公爵が密かにハルシェット辺境伯と通じていると仰いました」
「マーモント公爵がハルシェット辺境伯と通じている……か、可能性が高いわね」
「侯爵もそうお考えですか?」
「仮説が事実なら可能性が高いって話よ、証拠がないから確証がないだけ」
「証拠ですか、そう言えば陛下も証拠がなければどうにもならんと仰っておりました、それに……」
「それに?」
「ハルシェット辺境伯の裏に誰かが居るのではとも仰っていました」
「誰か?」
「はい、誰かがいる可能性も否定できないと」
「誰か……か、例えば……イルレイア大陸の……とか?」
「……侯爵!」
「それこそ可能性の一つでしょう、偽の魔道具はイルレイア大陸から入っているのだから」
「確かに……ですが、イルレイア大陸は獣族や魔族が多く住む大陸です、人族がそう簡単に介入できるでしょうか?」
「魔法が使えないから? それとも人族として蔑まされる?」
「その両方と考えても差し支えございません、こう申し上げては失礼ですが、ウィステリア領には獣族を始め多種族が居ますので、そこからとも……」
「……伯爵は、うちを疑っているわけ?」
ベルフィント伯爵の一言で雪華は伯爵を見据えて少し威圧を放った、当然耐えられるわけがない。
「めっ、滅相もございません、そんな事は決してございません。ただこれも可能性の一つでして……」
雪華の威圧に対して顔を下に向け大汗をかいて耐えていた。それを見た雪華は、威圧を納めて天井を仰いだ、その間威圧から解放された伯爵は大汗をハンカチで拭いながら怖いと思ったのだ。たった一言でこの状況を作ってしまう侯爵である。
「まぁともかくウィステリアにそんなのが居たら私が仕置きするわよ、とはいえハルシェット辺境伯とイルレイア大陸かぁ」
そこに夕食の時間だと使用人が呼びにきた事で、話は終わった。
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その日の夜、夏椰の部屋に雪華が訪れた、姉弟同士の話だからと護衛もメイド達も全て外してもらった。
「どうしたの?」
「あぁ~~、そのね、その母さんの事なんだけど」
「あぁ、母さんの魂の事」
「うん、夏椰ちょっと気にしてたみたいだから」
「うん、まぁ気にはなったけど、姉貴の話が正しいのなら間違いはないんじゃないかと思い直した」
「えっ?」
「肉体を失って霊体になってそれも失えば魂のまま、本来なら転生をする可能性も在るわけで、母さんが亡くなったのって次元移動するずっと前、姉貴が留学する前だっただろう、だからもし人として転生しているのなら、どっかで生きていたかもしれない、でもあの次元移動で死んだんだよな、魂が強ければこっちで転生している事もあるって、陛下に会って思った」
「夏椰……」
「でも姉貴、母さんは大きな罪を犯している、だからもし転生しても、きっとあの次元移動で死んでいると思う、そもそも罪が大きすぎて転生できてないかもしれない。それは仕方ないと思う、だから姉貴は気にしないでいいよ。俺も大丈夫だから、第一姉貴が母さんの事を一番恨んでいても当然だと思うし、転生していない方がずっといいに決まってる、やっと母さんから解放されたんだから、ここに来ても母さんが居ると姉貴辛いだろう、だから……」
夏椰はそう言いながら涙を流していた、そんな末の弟を雪華は優しく抱きしめた、一番末の弟で自分の味方で居てくれた、そして他の家族からも愛情をもらって生きてきた子だったのだ、母親の魂がどうなったのか気にならないはずがない、でも心も優しい雪華の状況をよく理解をし喧嘩をしてでも雪華の味方になっていた弟だったのだ。
「ごめんね……なにもしてあげられない」
「姉貴が悪い訳じゃない、悪いのは母さんだったんだから。ただ魂だけは健やかであってほしいと思っただけだよ、死んだら生きていた時の償いをするってどっかの本で読んだ事がある、たぶん母さんはその罪の償いをしたんだと思う」
「……うん、そうだね、そうだといいね」
雪華は夏椰が泣きやみ、そのまま眠りの縁に落とす魔法をかけた。悲しみの中で明日を迎えてほしくはないから、雪華なりの思いやりだった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。