55話 悩み多い雪華と在る仮説
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
雪華の過去の生い立ちやら色々な事を、夏椰が先輩二人に話し、最終的に母親の魂の行方が不明であるなどと言ったことで少し塞ぎ込んだ夏椰を見て後悔した雪華、あれから数日が経って冒険者ギルドのギルマスの部屋で予備校の案件の仕事をしていた。
「はぁ~~~」
「……どうされたんですか? さっきから溜息が多いような気がします」
「あっ……、ごめん、ちょっと考え事していたわ」
雪華は夏椰に対しての後悔で溜息が多くなっていたのだ、それをロイド・三橋が指摘していた。
「あまり考え込まない方がいいですよ、そうでないと暗闇に落ちます」
「……暗闇かぁ~」
「はい、最後には答えが出なくて迷路にはまってしまいます」
「うん、そうねぇ、確かにそうだわ、ありがとう三橋、ちょっと気分転換に散歩してくるけど、かまわない?」
「えぇどうぞ、こちらのことはお任せ下さい」
雪華はお礼を言いながらギルマスの部屋をでて廊下を歩きギルド内を観察しながら町に出た。活気ある町はもう昼前である、昼食を摂るために店に並んでいる者も居た。そんな彼女を呼び止める者が目の前で馬車を止めた。貴族の馬車である。
「ウィステリア侯爵」
「……これはベルフィント宰相?」
「今、そちらに向かう所でした」
「こっちって、ギルドに?」
「はい、少々お話がございまして、それより侯爵はどちらに向かわれるのですか?」
「あぁ~ちょっと考え事をしていて、気分転換に散歩をしていた所です」
「ならば我が家にお越しになりませんか、昼食をご一緒してお話が出来ればと思いますが、如何でしょうか?」
「ん~そうね、解ったわ、行きましょう」
雪華はそう決断すると、ゴラン隊長は部下に命じてギルドに報告に行かせた。雪華は馬車に乗り、ゴラン隊長は後で追いかけるとのことだった。その後屋敷につく迄の間伯爵に質問をした。
「でぇ話って何です?」
「三橋氏の任命式の事ですよ、色々と準備をしてきており、その進捗報告をかねてお話もありました」
「あぁ~それか、確か私達も参加するんだったっけ?」
「はい、その件も含めてでございます」
雪華は溜息をついて、そう言えば王がウィステリア組の参加を強制していた。それに対して雪華は猛抗議をしたのだが、前回謁見した時に言った王の言葉を思い出していた。
『何で私達まで出る必要があるんですか!』
『300年ぶりに目覚めたウィステリア侯爵とその一族を国民に知らしてめておく必要がある、それに、侯爵が至高の存在であり、迷宮管理者でも在ることも知らしめて置かなければならない、ウィステリア領は300年前より神々に庇護をされており、先王から独立自治と治外法権を認められているのだ、それを今の人々は忘れている者が多い、今回の一件でそれを思い出させる絶好のチャンスだろう、そうすればウィステリア領やあなたに対して手を出して攻撃など出来ないと思い出すかも知れないし、こっちも貴族どもに対して、彼らに手を出して反撃を食らっても、王室も国も一切便宜は図らないし仲介もしないと宣言しておく事が出来る』
『……、それはまた……泣き言を言う貴族の味方はしない、と言うことですか?』
『当然だろう、ウィステリア侯爵を含めてスキルマスター達と喧嘩をして勝てる者が居ると思うか? 悪いが私は勝てる気がしないんだがね』
等という会話をしたのを思い出した、確かにレイモンド・フェスリアナ国王の言うとおり、今の国民や冒険者では雪華を含めたスキルマスターを倒せるものなど皆無である。そして雪華の将来の読みに関して王は真剣に考えているのだ、魔王が転生している可能性が在るかも知れないという言葉、それ故に雪華が望む冒険者のレベルアップが必要であることも認めており、協力すると言ってくれていた。それを考えての冒険者ギルド王都支部の新ギルドマスター就任式典である。
「……侯爵」
「あぁ、ごめんなさい考え事をしていたわ」
「色々と悩み事が多いようですな、着きましたよ」
「そう」
悩み事などごまんとある、そして一番の悩みの種は夏椰の事、そしてピートである、あれは締め上げる事だけで許せるかどうか、話を聞いてから考えようと思っていた。
侯爵家に入って、いつもので迎えを受けた後は、これもいつもと同じ大きな応接室に通された、使用人が二人のためにお茶を用意して忙しく動いている様子を眺めていると、雪華の護衛であるゴラン隊長ともう一人の護衛が到着したと知らせを受けた。
「ゴラン隊長だけ同席したまえ、そっちの護衛は部屋の外で待機をして置いてくれないか?」
「……かしこまりました」
ゴラン隊長は伯爵の言葉を素直に受け、部下を外に出した。そして自身の執事以外の使用人も外に出し、雪華に結界を張ってもらった。
「結界が必要なほどの話ですか?」
「そうではないが、どこに密偵が潜んでいるか解らんのですよ」
「……宰相に対して密偵ですか?」
「こういう貴族社会は使用人といえど、密偵に成り得る場合もあるんですよ」
「なるほど」
「実はハルシェット辺境泊の動きには注意が必要なのです、亡くなった先王の息子、レイモンド国王のお父上の派閥に居た者なのです」
「陛下の父側の派閥の人間ですか」
「そうです、そしてもう一つ重要な話があります」
「もう一つ?」
「王妃様です」
「王妃? あの謁見の時に一悶着をしたあのエリザベート王妃?」
「えぇ、王妃様のご実家はモーマント公爵家、先王の派閥にいた者だったのです、当然王太子殿下に関する事には関わってはいませんでしたが、モーマント公爵の妹君リズベット嬢がカールトン伯爵家に嫁いでいるのです」
「なるほど……その為王妃様は叔父や叔母に対する逆恨みですか?」
「逆恨みと言うよりは……まぁ似たようなものでしょうか、エリザベート王妃様が幼少の頃は、叔父であるカールトン伯爵に可愛がられていたのもあります、伯爵には二人の子供が居たのです、息子のマッシュと娘のリリアナと言う、同世代でもあった為か仲が良かったそうです。しかしカールトン伯爵家が謀反に関わっていたことが解ったことで、家は断絶し家族は処刑された。モーマント公爵としても妹が処刑されたのだから心穏やかではない」
「なるほど、それで先王派だったマーモント公爵は先王を恨んだ?」
「はい、表だっての事ではなかったのだですが、それ故に娘のエリザベート王妃が在る意味政略結婚をした様なものです」
「……なるほどねぇ、でぇ一つ聞きたいことがあるんですけど」
「何ですか?」
「聞きそびれていたので、先王陛下はなぜ亡くなったの?」
「……それは、魔素過壊病です」
「魔素過壊病? あれは普通子供が多く罹かる病よ、祖父とも言われる年齢でかからないでしょう、在る程度の魔素コントロールは出来ていたはずでは?」
「そうです、陛下は魔素コントロールが出来ていた、やり方を知っているかのようでした。しかし何故か解らなかった、ただウィステリア家の月宮氏には見抜かれていた節がありました」
話を聞いた時点で、雪華は在る程度の筋が見えた気がした、恐らくモーマント公爵はエリザベート王妃を復讐の道具に使った、妹の一族を断絶した上に処刑したのだから当然恨みは募る。
しかし表だっては先王の派閥に属している事もあり、在らぬ噂が立たぬ様にそして先王の寝首を欠く用意周到ぶりか、娘を王太子になったレイモンドに嫁がせたって所か……
「っということは、先王の病は人為的って事になる」
「人為的?」
「えぇ考えなかったの? エリザベート王妃を嫁がせた時点で、まだ先王は生きている。その時点での婚姻ならば、何らかの方法、魔法でもいい魔石でもいい、そう言うもので先王の魔素を増やせば病にかかる」
「………まさか」
「あくまでも可能性の話よ、病なら証拠がなければ罪に問えないでしょ?」
「確かに……」
「あの時、エリザベート王妃が私達ウィステリア組に対してムキなって意を見せたのは、仮説が事実だったとしたら暴かれるかもと恐れたのかもしれないわね」
「今のお話、陛下の申し上げても宜しいでしょうか?」
「……構わないけど、陛下のお気持ちは大丈夫なの? それにあくまでも仮説よ、王妃のいる場所で話すのは厳禁だからね」
「承知しております」
それから任命式についての話が色々された、当日はベルフィント伯爵宅から行くため、前日に迎えをよこすとの話だった。
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マルク・ベルフィント伯爵はその夜、急遽王宮へと向かった。そして陛下と一対一で謁見を申し込んだ。当然宰相でも在るため問題なく通された。
「申し訳在りません陛下」
「いや、お前の緊急は夜が多いからな最近は、……でぇ何だ?」
レイモンド・フェスリアナ国王がそう言うと、マルク・ベルフィント伯爵は、王に対して目配せをした、それを理解した王は、側近を含めて全ての側使えも護衛も席を外させた。
それを見届けてからベルフィント伯爵は、雪華から預かった魔石に魔素を注ぎ込んで床に落とした、すると遮断結界が張られた。
「……おい、これって」
「はい、ウィステリア侯爵様から頂いた遮断結界を閉じこめた魔石です。特別に頂いてきました」
「それほど、重要だというのか?」
「あくまでも仮説でございますが、公爵から聞いた話は陛下のお耳に入れておく必要が在ると判断いたしました」
「なるほど、では聞こうか」
ベルフィント伯爵は昼間、雪華から聞いた話を全て包み隠さずに話していった。あくまでも仮説であるとの前提でである。
「……なるほど、筋の通る仮説だな」
「もし、これが事実なのだとすれば……」
「王殺しに王妃が関わっていた事になる」
「陛下……」
「気にするな、エリザベートとは愛はない、政略結婚だからな、それに子供もおらん」
「ですが……」
「元先王派だったマーモント公爵家がその先王を殺したとなると大事だな、他の派閥にも影響を及ぼしそうだ」
「陛下!」
「とはいえ、証拠がなければどうにもならん、まずは証拠を探さねばな、仮説では意味がない」
「証拠と言いましても、既に先王はいらっしゃいませんし、それに証拠などもうとっくに処分をしているはずです」
「そうだなぁ~、でも必ず何かはある、先王の一件では無理でもな」
「何かとは?」
「マーモント公爵家が密かにハルシェット辺境泊と通じているという情報が入った」
「ハルシェット辺境泊と!」
「あぁもしエリザベートも関係しているのならば……」
「ハルシェット辺境泊は亡き王太子殿下の派閥です」
「エリザベートにとっては叔父に叔母、それに仲の良かったいとこ達が家名断絶の上処刑されている。マーモント公爵にしてみれば妹が処刑されたのだ、娘のエリザベートが復讐を考えてもおかしくは在るまい」
「王妃様が復讐を、ですか?」
「それこそ真実味のある可能性の一つだよ、あれとは結婚以来同じ部屋で寝てはいないし、形だけのものだ、それより私が最近ウィステリア領と関わることに関して癇癪を起こしているくらいだ」
「癇癪ですか?」
「あぁそれほどウィステリアを警戒していると言うことの現れじゃないかと思う、ハルシェット辺境泊の後ろに誰かがいる可能性も否定できないしな、とにかく今は式典の準備が大事だ、無事に住むよう手配を頼む」
「かしこまりました」
ベルフィント伯爵とレイモンド・フェスリアナ国王との密会は終了した。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。