5話 閣僚に呼ばれて
7月下旬、中央政府の政治家と会う事になったため、都心に来ていた雪華、ホテル業分野は雪華が代表となっている。そのホテルの社長室に座って業務を遂行していた。
「雪華様、本当に政府の方とお会いにになるのですか」
「えぇ、今後のことを含めて言い分を聞いてやります、そして何を考えているのか、更に何を画策しているのか全て見てやるわよ」
執事である小花衣が心配そうに聞いていた。だが、雪華の目は獲物をどうやって罠に嵌めようかと目論んでいるような目をしており、側近達も生唾を飲むように警戒をしている。
雪華の術士としての力や霊力が高い事は神崎家の中では歴代最高と言われるほどのため、直系筋に仕える使用人達は皆誇りにさえ思っているが、この主が表向き自由奔放が基本行動であり、実際の主は怒らせれば怖い人間であると言う事は知っている。というより家族に遠慮をしなくて良くなってからの方が顕著に現れていると小花衣などは感じていた。
翌日、官邸のある一室に呼ばれた神崎雪華と神崎圭介の二人は政府執行部の総理を含め全ての大臣達が揃っている部屋に入ることになった。さながら尋問だなと感じた雪華と、そんな者達が顔見知りである圭介はどうなるかと不安な面持ちを表に出さず堂々とした態度で席に座った。
今回は圭介ではなく雪華が主に話をするから助言程度で良いのでと総帥には話していた。
「それではご紹介いたします、正面の方が荒木総理大臣です」
と、大臣や政治家達の紹介を事務官が進行を勧め、最後に神崎家の二人を紹介した。一通りの紹介と現在この場の議題についての詳細が述べられていく。
「神崎雪華さん、と言ったかな、して今回の要件だが、県知事より神崎家の土地の亊など含めて色々上申が来ているのだが、相違ないですか」
「我が土地を県や国が召し上げるなんて本気で言ってますか、総理」
「召し上げるとは言っていない、買い上げるという事だが」
早々に雪華と総理が直接話し始めたため、周りの大臣は腹立ち紛れに総帥に矛先を向ける。
「神崎総帥、これは失礼ではないのですかな、いきなりそちらのお嬢さんから話をするなど、目上の者に対する態度ではないと思うが」
「申し訳ありません、ですが当家の当主は彼女ですので、今回は助言程度でしか私の役目はありません」
「なにっ!」
相手の表情が少し歪む。それは他の大臣も同じだった、総帥は少し目を細める程度で隣の雪華の表情を見るが、少し怒っている様だと感じていた。
「そこの他の大臣達は少し黙っていただけませんかね、私は今総理と話をしているんです」
「何を偉そうなこととを…」
「辞めたまえ副大臣」
「その者は只のお嬢さんではないと思うぞ」
「それはどういう事ですか?」
「噂でしか聞いたことが無かったのだが、神崎家に生まれると言われる始祖の存在がある」
「始祖…とは」
「神崎家の始まりの人と言われていて、人では無いとも言われている」
「人では無い?」
「バカな!」
「神崎家は始祖が人と交わり生まれた一族と言われており、その始祖はいつの日にか再び一族の中から転生して姿を現す…という噂がある」
総理が説明した事を聞いた政治家達は、二人の神崎家に集中している。それに対して総帥は言葉に詰まり固まっている。
だが雪華はという平然として周囲を見てながら最後に総理の所で視線を止めた。
「総理はそんな噂を信じておいでか?」
「あなたがメルリアから帰国する際にTVの映像が流れていましたよ、音声付きで」
「それに始祖という単語は無かったと思いますが」
「確かに、ですが可能性が無いわけでは無い」
「なるほど、私は長い間神崎との関係は無かったので、始祖がどういった者で、始祖の生まれ変わりですか、それがわかる物が何かは知りませんので関係は無いでしょ、それに今回ここに来たのは始祖とやらの話では無いはずです」
「確かにそうですね、ただあなたが始祖の生まれ変わりであるならば、それによっては対応を変えねばらなくなるという事です」
「対応を変える……、それはどういう意味ですか?」
総理の言葉に雪華は少し剣呑な言い方で対応する。横に座る総帥は落ち着いて入るが内心ハラハラしている。
「私も始祖がどういった力を持っているかは知らないが、君があのメルリアの官邸でのやりとりを見る限りでは」
「排除しなければならない…と、そう言いたいんですか?」
「国に対して不利益があるならば……」
「……………、んふふふぅ、国の不利益ですって? 何を寝惚けたことを言っているのです総理、国の不利益どころか、国民の不利益にしかならない政策しか出来ないあなた方に、言う権利などありますか!」
「何だと! 」
「雪華様、さすがに言い過ぎです」
「いいえ総帥、彼らは皆表に出ない隠し財産を持っていますしね、脱税も法の抜け道でしています。人身売買にまで手を出している役人がいても見逃しているようですし……」
「何を証拠に、そんな事を!」
「証拠ですか、小花衣!」
雪華が自身の執事に声をかけ証拠類のコピーをその場で公開した。それぞれ個々にそれを渡し、内容を見た政治家達は全員絶句している。
「この証拠を表沙汰にはしたくないのでしたら、予てより神崎家が要求していることを認めていただけますか? 神崎家の私有地の独立自治権を」
「独立自治権…」
「えぇそうです、もちろん国に対しての税金は払いますよ。でも県税は支払いません。独立自治ですし、神崎家の土地ですからね」
「ライフラインはどうするね」
「そうですね、水は結構です、あれは県からでしょ。電気とガスはまぁぁ領内で確立できるまでの間だけで結構ですから今まで通りにしていただけると助かりますが」
「領内?」
「神崎家の土地ですから、神崎領ですよ、もちろん領民には領民だけの身分証明書を発行しますし、生活に支障は無いでしょ」
そこまで言った雪華を見ていた政治家全員の顔は怒った顔をしているし、隣に座っている総帥自身も表情がこわばっている。
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神崎家が帰った後政治家達は顔をつきあわせて、今までの話をどうするか話し合っていた。
「総理、あの話を受け入れるのですか?」
「そうですよ、独立自治などあり得ませんよ」
「もし、認めると江戸時代の様な藩政時代に逆戻りでは?」
「他県も同様に主張すると」
「……いや、たとえそういう訴えがあったとしても、恐らく神崎家程には統治できないだろう」
「どういう意味ですか副総理」
ここで他の大臣、特に総理経験者以外は不思議でならないので質問してくる、逆に元総理経験者は神崎家の「始祖」という話は疑惑を持ちながらも警戒をしているのだ。
それは「神崎雪華」が生まれた年以降の総理経験者は、密かに天皇から「始祖」に関して話を聞いているからだ。
「荒木総理、ここは多少話せる範囲で公表しても良いのではないか?」
「……しかし……」
「陛下はあの時仰った、逆らうべからず、従うようにと」
総理に対して話したのは前々回の総理経験者の外務大臣森下であった、彼自身も総理就任時に天皇から密かに「始祖」に関して話を聞いていた。そして「始祖」が誰か判明した時に一番最初に天皇に報告した人物だったのだ。
「森下外務大臣、一体何のお話ですか?」
「森下先生、今話しても良いときなのですか?」
「ご本人自ら希望を伝えに来られたのだ、陛下にも報告し確認はとったのだろう?」
「……そうですね、「始祖」については総理経験者しか知り得ぬが、誰かまでは知らされていませんでした、それを見つけたのはあなたでしたね森下先生」
荒木総理と森下外務大臣二人の話を聞いていたその他の者達は、ここで陛下の名前が出てくることに関して首をひねっていた。その為代表して森下外務大臣が陛下から聞いた話を伝えたのだ。
「今から8年前の事だ、私が総理に着任した時、陛下から直々に一対一でお話を得ることがあった、その時に始祖について話があった」
「陛下から直々に一対一?」
「そうだ、陛下はこう仰った……」
ちょうど8年前森下が総理就任時に就任辞令を受けた日、密かに別室にて一対一で拝謁を得て「始祖」について説明がなされたのだ。
「森下さん、あなたが総理になるに当たって一つお話ししておかなければならないことがあります」
「お話とは」
「これは口外してはならない秘密です、守っていただけますか?」
「内容によりますが…勅命とあらばご指示に従います」
「政治に直接関与は出来ませんが、協力を得たいのです」
「何でしょうか?」
「あなたは始祖というのを知っていますか?」
「始祖?」
「そうです、始祖というのは天界の頂点にいる方です」
「天界の頂点にいる方、天照大神では……」
「いいえ、天照大神の上にいるお方で、本来なら我ら人と関わりはないのです、その始祖が人の世界に降臨して出来た一族が神崎家なのです」
「えっ……神崎家、と言うとあの大企業の神崎家ですか?」
「そうです、神崎家はその始祖と人と交わって出来た一族であり、人として命を落とした始祖はその後再び転生をして神崎家に現れるという伝承が我らには伝わっています」
「……転生」
「丁度今から16年前に夢を見たといったら良いのか、祭儀の最中に天啓というものでしょうか、『始祖が生まれた、転生した、心せよ』と…」
「始祖が転生、生まれたという天啓?」
「それは始祖が神崎という一族と契りを結び人として天に還った後、再び転生するという事を意味していました、神崎という一族と契りを結んでいるとう話は、代々天皇になる者にだけ口伝で伝えられている事です」
「それであの大企業の神崎家……?」
「そうです、ただ今の神崎家は分家です、生まれたのは直系筋の者です。ただ何のために始祖が転生し生まれたのか理由はわかりません。直系筋の誰かであるのは確かです、そして見つけた場合は……」
「見つけた場合は……」
「逆らうべからず、従うように……と、これも天啓で言われました」
「逆らうべからず、従うようにですか?」
「始祖の持つ力は計り知れないと伝えられています、いいですか間違っても殺してはなりません、もし怒らせたら国は滅ぶでしょう」
森下外務大臣の話を聞いた者達全てが、唖然とした突拍子も無い話だったのだ。だがこの話は24年前から総理就任時に聞かされていた事で、今まで秘匿とされていたことだったのだ。
「森下外務大臣、その陛下が口外せぬようにと仰せになったことを、我々に話しても良いのか?」
「以前から神崎家直系を探してはいたが、神崎家の当主就任の時に顔合わせをした時に確信を持った。彼女が始祖の生まれ変わりである可能性が高いと」
「確かに、神崎家ではお家騒動のような問題があったな」
「神崎雅彰氏の奥方が榊家というか本名の神崎雪華という人物に手を出しているという噂があった」
「結局彼女は亡くなったんだったな」
「噂では神崎家に伝わる呪いらしいが。神崎家は次期当主以外は皆男女の関係なしに短命だと聞く、それも全て呪いのせいだと聞いているが、もしかしたらそれは神崎雪華が呪っているのか?」
「あの呪いは神崎総帥の先祖で神崎菊にかけられた父親である神崎信之介の呪いだと聞いたぞ」
「神崎家の呪いについてはその辺にして、本題に戻ろう。私は神崎雪華自身が直接来る事は荒木総理を通じて陛下に報告をしている、陛下もメルリアの一件をご覧になっていたそうだ、そして彼女が始祖に間違いは無いだろうと仰った。その為場合によっては執行部にだけ公表することもやむを得ずと仰られたが、くれぐれも内密にするようにと念を押された、ただ神崎雪華自身が始祖と公言したならば、それに従うようにとの事だった」
聞かされた内容に部屋にいる全ての者が顔をしかめて、今後のことを考えどうしたものかと議論を始めた。もし神崎雪華が本当に「始祖」ならば目的を知る必要があるからだ、彼女を怒らせると国が無くなるという言葉も無視は出来ないためである。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。