44話 新冒険者ギルドマスター
翌日も雪華は冒険者ギルドにいた、弟を含めた男どもは半分遊びのような実験をしながら天球の城に行ったままである。
その間護衛はなくロドリアも自身の家に戻っていた。忙しく仕事をしているのは雪華のみである。
昨日の召喚獣の鷲に捕まって空を遊覧した男はヘロヘロになって店の前で降ろされた、そして仲間と共に帰って行った。とは言ってもだいたい2時間程度の遊覧だったのだ。
「それにしてもあの程度で目を回すかね?」
「普通はあんなもんです」
「……つかぬ事を聞くけどゴラン隊長?」
「はい、何でしょう」
「今の時代、飛行スキルは無いの?」
「飛行スキル? 何ですかそれ?」
「……えっと、空を飛ぶスキルというか魔法なんだけど……」
「そんなスキル持っている人間いませんよ、他の国では知りませんが、この国ではあり得ません」
「……そう、ないんだ、って事は瞬間移動と言うか転移も?」
「高等魔法ではないかと思われます、使用できる人は知りません」
「……マジか……」
雪華はゴラン隊長の話を聞いて、これはもはやピートを閉めあげて何がどうなっているのか早く吐かせないととんでもないことになりそうだと思った。
どれだけの魔法やスキルが無いのか、使えなくなっているのか、大事なことだった。雪華がそんな事を考えながら決裁書類や、依頼書の仕分け作業をしていると、ロジックがやってきて客が来たと告げた。それを取り次いだのは当然、ゴラン隊長である。
「侯爵様、ウィステリアからの使者が到着したそうです」
「名前は?」
「ロイド・三橋と名乗ったそうです」
「三橋がきたのね、通してちょうだい!」
雪華が許可をしたので、ゴラン隊長がロジックに通すよう告げた、暫くしてロジックに案内されて部屋に入ってきた。
「ご無沙汰しております領主様」
「ロイド・三橋、えぇ確かにあなたね、隠していてごめんさい、色々と調べ物があったので、でもあなたは気づいていたんでしょ」
「えぇ、まぁ薄々気づいてはおりましたが、松永ギルド長から詳細を伺い理解はしておりますので、それにウィステリアの領民はみんな喜んでおります、漸くお目覚めになったと、取り急ぎ引継をして領主様はお戻り下さい、そして領民にそのお姿をお見せ下さい、みな楽しみにしております」
「ふふ、そうねみんなにも心配かけちゃったわね、よく300年もの間だ、私の目覚めを待てたわねぇ~」
「信じていたからです、みな領主家が戻ってくると信じていた、だから代々子孫に伝え続けていたのですよ、それに我が領は多種族共生、長命種族もおりますから、領主家の方々の事やスキルマスター様の事も彼らが伝えてまいりましたし、精霊様達が守っていることも、彼らが伝えていました、そのためですよ皆が待ち望んで来られたのは」
「そうなの、お礼を言わなきゃね。それよりいきなり王都支部のギルマスに決められて驚いたでしょうに、よく引き受けてくれたわね、礼を言うわ」
「王都支部からの連絡が途絶えがち、事後承諾などが増えてきていた事は松永本部長もかなり気にされておりましたから、今回の一件でしっかり立て直すようにと言いつかっておりますのでお気になさらずに」
「そう、ならいいのだけど、今回の引継なんだけど、かなり込み入った引継になるのよ、一度国王にも会って貰いたいし、宰相のマルク・ベルフィント伯爵にも会って貰いたいの」
「貴族ですね、大丈夫でしょうか、他領は特に貴族は我が領を目の敵にしておりますが」
「そうね、大半がそれだけど、詳しい話はあとにしましょう、着いて直ぐでしょ、お昼は?」
「いえまだでございます、急いで参りましたので」
「ならば美味しい食堂があるのよ、そこに行きましょう」
ギルド支部の近くに美味しいお見せを見つけていた雪華は、仕事の合間に食事に来ていたのだ。
「ふむ、美味しいですね」
「でしょ、私のお気に入りなの」
「でぇ領主様は何故、貴族と会えと仰るのですか?」
「あぁそれね、ちょっと外では難しいから、その人達に会ったときに説明するわ、まずは食事後にギルドの引継をするわね」
「今回領主様がギルマス代理をする羽目になったのも貴族の仕業だったと伺っております、大丈夫でしょうか?」
「その貴族のせいで牢にぶち込まれたけど、助けてくれたのも貴族だったのよ、それもかなり大物だった、ウィステリア家も一応貴族なんだけど、私はそんな感覚ないんだよね」
「はははっ、そうですねウィステリア家の方々はみな平民と変わらず接してくださいます、時々侯爵家であることも忘れるくらいですよ、これは少々困ったことです」
「えっ、困るの?」
「はい、困ります、身分というものがございますから」
「身分ねぇ~それで差別なんて出来たら嫌なんだけど」
「領主家のお考えはみな知っておりますから、その辺はご安心を、でなければ多種族と共生なんて出来ませんから」
「そうだと良いなぁ、でぇリザードマンや兎人族とか元気にしているかしら?」
「みな元気ですよ、あぁそうそう、領主様が鍛えるようにと命じていたあの暁のファルコンのメンバーですが、さすが領主様が見込んだ者達ですね、レベルが少し上がってきていますし、きつい鍛錬にも耐えているようですよ」
「そうなの?」
「はい、初心者の塔に挑むまでは、まだまだですが小花衣さんからは期待されているようです」
「そう、小花衣が期待をするなら安心ね」
懐かしいウィステリア領の話を楽しそうに聞く雪華を見て、護衛をしている親衛隊の二人も少し表情を緩めた、侯爵が信頼をしている相手であるのは間違いなさそうだと思ったのだ。
「そういえば夏椰様や浅井様、霧島様たちはどちらにいらっしゃるのですか?」
「あぁ男3人でなんか楽しそうに実験してるわよ、しかも天球の城の迷宮でね、あそこは兼吾の迷宮だからスキルマスター以外は行けないでしょう」
「そうですか、しかしどうやって天球の城迷宮に行くんですか? 空の上と聞いていますが」
「飛行魔法ってのがあるのよ、それを使って行くんだけど、今の時代無いみたいね」
「聞いたこと有りませんね」
「……三橋も聞いたこと無いの?」
「はい、浮遊魔法と言うのは聞いた事がありますが……」
「浮遊かぁ~、浮いてその場で漂うだけよね、移動出来なかった魔法だったわね、それの上位魔法とでも思ったらいいわ」
「なるほど」
楽しい食事の時間を終えて、再びギルド支部に戻り、雪華からの引継を行った、まず始めに事の経緯を話すとこから始め、これにはゴラン隊長も助言をしてくれた。そして支部であるにも関わらず本部と偽っていたことも知らされると、三橋は怒りを見せた。
それを雪華が宥めて事件のあらましを全て語り、結果幹部全員が逮捕にいたり、支部運営に支障をきたした事で新たなギルド長が必要になった事、そして新しいギルド長が来るまでの間だけ、雪華がギルド長代理として運営をしていた事、現状の冒険者レベルと魔物レベルに相違が有るため、精査したことも告げた。
「なるほど、領主様の采配はお見事です、ウィステリア領周辺の討伐対応だと、冒険者に死者が出る可能性が高くなります」
「そんなに違うのか? ギルド長」
「はい、ウィステリア周辺は迷宮がいくつも集まっている事だけではなく、領地事態に魔素量が多すぎて魔物の発生率が高いのです、しかもランクもレベルも高い、ウィステリア家が言われる通り魔物のレベルやランクは300年前と同じなのです。そのため現状の冒険者レベルでは対応が難しい為、領主家の方々やスキルマスターの方々のお手を煩わせている状況なのです、それもあって領主様はウィステリアの冒険者のレベルアップを図っている最中なのです」
「冒険者のレベルアップはそんなに簡単ではないだろう」
「ウィステリアでは種族や平民、貴族などの区別なく子供は全員学校に通うのが義務なのです、そのため初等科を卒業した子供達は中等教育課程に進み、同時に冒険者予備校に通って必要な知識を得て、子供の頃から採集をしてレベルをあげていきます」
「子供の頃から??」
「そう、子供の頃から採集を始めてお小遣いを稼ぐ、薬草や香草の知識を得ながら、どんな魔物がいるのかを知っていく、もちろん予備校に通っている間は討伐は禁止です、でも武術訓練は必修なんですよ」
「それだけじゃありません、迷宮攻略のための知識も学んでいきます」
「あぁそれね、もっぱらスポーツジム迷宮に関するものだけど」
笑いながら言う雪華と三橋ギルド長はとても楽しそうに話すため何がそんなに楽しいのかと問うて見た。
「スポーツジム迷宮を攻略するにはゲームのルールを覚えなければなりません、それを学校や家族でも出来るものなんですよ、初めて聞いた時には驚きましたが、ウィステリア家やスキルマスターの方に教えて貰って、休日の日には親子でゲームをして楽しんでいます」
「ゲームの一部は体育の時間に授業としてするものもあるからね、勝ち負けを体験するんですよ」
「そのゲームのルールを覚えるためですか?」
「そう、元々はただのゲームだからね、危険はないのよ。まぁ中には注意しなければならないものも有るけれどルールさえ守っていれば怪我はしないしね」
「おかげで職人ギルドや商業ギルドの方々は仕事が忙しいと言っていました」
「そうねぇ、ゲームに道具は必要だからね、頑張って作って貰って、売って貰わなきゃね」
「じゃ迷宮は攻略できるのでは?」
「出来ないわね、迷宮にいる対戦相手は全て魔物だもの、魔物とゲームをして勝てばよし、負ければ戦闘になるからね」
「その魔物ってまさか、やっぱり3桁レベルですか?」
「そう3桁以下の魔物は迷宮にいないと思った方が良いわね」
「……3桁……」
ゴラン隊長に説明をした後は、三橋からいくつかのゲームをチーム毎で対戦とか出来ないかと質問があった、それに対して雪華は出来ると答えた。ならば次はその件について話を今度しましょうと言う声が聞こえた。
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ギルド支部で一部の引継が終わり、ロイド・三橋氏は雪華達が泊まっている宿屋にやってきて驚いた、侯爵家の方々がこのような一般的な安い宿屋に泊まっているとは思っていなかったのだ。
「あの領主様? 本当にここにお泊まりなんですか?」
「そうよ、安いからね、長期滞在にはもってこいよ」
「しかし……」
「あのね、一応冒険者レティとして王都観光を目的に来ているのよ、節約しなきゃね」
「はぁ」
雪華はそう言いながら、納得しかねるロイド・三橋氏と共に宿屋に入った。そして女将に頼んでもう一室用意して貰った。
雪華の護衛をしている親衛隊ゴラン隊長には、内密でも良いから王と彼を謁見できないかと尋ねて欲しいと頼んだ。
「畏まりました、謁見が叶うようお力添えをいたします」
「ごめんね、余計な仕事を頼んでしまって」
「いえ、お気になさらず、私は陛下直属の親衛隊ですので、では、決まり次第お知らせに参ります、部屋の前に護衛を数名残しておきます」
「えぇ、知らせは待っているけど、護衛は置いていくの?」
「当然です! この宿屋には侯爵様と弟の夏椰様もいらっしゃいますから」
「夏椰たちは迷宮に行ってるわよ、たぶん暫く戻らないと思うけど?」
「それでもいつお戻りになっても良いようにです」
「そう、仕方ないわね」
「ご許可頂きありがとうございます、では私はこれで失礼いたします」
ゴラン隊長はそう言って部屋を出ていき、部下にいくつか指示を出してから宿屋を後にした。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。