38話 Gの奴の存在
動物園の事務所でとんでもない発言をした雪華に、ウィステリア組は堅くなった。
「姉貴、つかぬ事を聞くが」
「何?」
「だ・れ・に! 図書館攻略して貰うんだ?」
「そりゃ冒険者に決まっているでしょ」
「だから、今の冒険者レベルじゃ図書館攻略は無理だろうが!!」
「ん~~~仕方ないわね、じゃ私が基礎の基礎だけ翻訳して大学で獣医を育てるか」
「って事は藤華中等教育課程を卒業したヤツしか獣医師にはなれないって事だな」
「一般では無理じゃない、たぶん」
「まぁ~そうだな、読み書きや算術に苦労する者だとウィステリア大学には入れないだろうからな」
この4人の話を聞いていた面々は、理解に追いついていない者の方が多かった、だがクリス・ブランは何となく把握をしているような気でいたのか質問をしてきた。
「あの、動物のお医者を育てるという様な話に聞こえたんですが間違いないですか?」
「えぇ間違いないわよ」
「それって私もなれますか?」
「えっ、えっとなりたいの?」
「はい、沢山の動物を見て病気で苦しんでいるのを助けられない、翻訳資料を読んでも自分では何も出来ず、精霊様にお願いするしかない事が、とても悔しくてたまらないのです」
「えっとクリス・ブランさんだっけ? あなたは算術も読み書きも出来るっと思ってもいいんですか?」
「精霊様が翻訳してくれたものは読めます」
「算術は? 足したり引いたりだけではなく。割合とかも?」
「割合? 何ですか、それ?」
「……えっと買い物をして安くしてくれたりあるじゃない、それのことだけど……元の値段から2割ほど安くなったか……とか」
「安くなったぶんの事なら何となく……」
これを聞いたウィステリア組は頭を抱えた、割合が解らなければ薬品を扱えないとなると獣医にはなれないのだ。
「えっと学校はでてるのかな?」
「学校は行ってません」
「学校に行ってないのにどうやって読み書きを習ったの???」
「精霊様と両親に習いました、動物を飼育するのに絶対必要なものは読む力と教わりましたが……」
この世界でウィステリア以外で学校に通っている者は少ないのが現状であるとレイモンド・フェスリアナ国王が言っていた事を思い出した。
「……学校に行かずして獣医にはなれないですよクリス・ブランさん」
「ウィステリア領以外では子供が学校に行くのは希であるって国王様が言っていたけど、あなたもその口ですかねぇ?」
「……陛下やお貴族様の前で申し訳有りませんが、学校は貴族だけが行く所と教わっております。平民は読み書きを教えて貰えませんが、生活に必要な最低限な事を教えてくれる人が昔いたんです」
「教えてくれる人がいたんだ」
「はい、その方は貴族に知られたら捕まるか殺されるからと内緒にしておくようにと言われていました」
貴族の顔色を伺うようにしながら言葉を続けていくクリス・ブラン、それを雪華は聞きながらカイゼル・ハルシェット辺境伯の様子を見ていた。
「クリス・ブランそのおまえ達平民に教えていた者は、今どこにいる?」
「……死にました」
「死んだ?」
「別の貴族の方に殺されたと、噂が流れていました、その方の家は燃やされてしまって、死んだ後に私の父宛に手紙が来ていました、闇で学術を教えることに反対する貴族に殺されるだろうと書かれていたそうです」
「では他の者もそうなのか?」
「私たちはクリスさんに教わりました、そして平民は親が知っていれば最低限買い物が出来るだけの算術しか教えて貰えません」
このクリス・ブランやそれ以外の飼育係が話した内容を聞いたレイモンド・フェスリアナ国王は難しい顔をしていた。そして怒りも少し籠もっていた。
「やれやれ、学校に行ってなければ獣医にはなれないわ、それでもなりたいと言うのならウィステリアに来る?」
「ウィステリアに?」
「ウィステリア領では子供の頃から全員学校に行くのが義務だ、読み書きに算術は出来て当たり前なんだよ」
「貴族とか平民とか種族とか関係はないぜ、まぁもし来るとなると多種族を受け入れる覚悟は必要だけどな」
「ウィステリアの学校で勉強して冒険者ギルドに入って自分の食い扶持を稼ぐ、そして中等教育課程に進んで卒業する、さらに高等教育課程の入学試験に合格して獣医科を卒業する、その後獣医試験を受けて医療ギルドに登録すれば、晴れて獣医師になれるんだよ」
「とは言っても、まだウィステリアにも獣医師は一人だけなんだけどね、畜産業に関わる者程度だし、動物園の獣医師となると学ぶ量は半端無いわよ、それでもなりたいと思うなら、じっくり考えて連絡をくれたらいいわよ、他の人もね」
「しかし、もしみんないなくなったら、この動物園はどうなるのですか」
「あぁ~~それは心配ないんじゃねぇの? どうせ姉貴が管理するんだし、精霊使いまくって管理させるだろうから」
「……まぁそうね弟の言うとおりよ、だからその辺は心配しなくても良いわよ」
「獣医師が一人いれば十分だけど、ここの動物多いからねぇ~獣医師しながら飼育もする事になるから。覚悟は必要よね」
「でもまぁ、獣医師免許とれたら仕事場所は困らないよね」
「そうね、ここをこのままにするつもりはないわよ、私はちゃんと利益を得られる普通の動物園として開園してお金取るからね、従業員の給料にするつもりだし」
雪華の言葉で驚いたのは貴族達である、ここを開園してお金を取ると言ったのだ、あの動物達を見せ物にするとそう言ったのだ。
「侯爵、今の発言は危険すぎるのでは?」
「別に危険じゃないわよ、元々動物園とはこういう場所なんだから、みんなにこんな動物いますよって、こんな生き方をしていますよって見せるのが目的なんだからね、地上の動物園に魔物はいないわよ」
「しかし……ここは迷宮では?」
「迷宮は地下にあるのよ、地上には出さないように結界も張るつもりで私は来たんだから」
「あぁ~そうだった、最初の目的を忘れる所だった」
「そうだな、あの危険きわまりない場所は閉鎖に限る」
「とはいえいつかは解放するけど」
「いつかっていつだよ」
「そりゃ冒険者が育って3桁レベルが出てきたらって頃よ、じゃないと瞬殺されるだけでしょ」
雪華の言葉に大きく頷いたのはウィステリア組だけである。その後一行は、今日の視察は終了と言うことで、雪華達は宿屋に戻ることになった。
また精霊達に雪華の許可の無い者は絶対に入れないようにと命じた、これを破る者には死なない程度の反撃を認めた。有る意味動物園もウィステリア領と同様に治外法権となった。
これは国王の目の前で決定された為、誰も異を唱えられなかった。
「明日は迷宮だな」
「侯爵、迷宮に行くのであれば我らも同行は……」
「認めません、っというか死にたいんですか?」
「そうですよ、明日迷宮に行くのはスキルマスターの俺たち4人だけです、ロドリアさん達も飼育員達も同行させませんから」
「まぁ~死にたいんなら止めませんけどね」
「見てみたいものだが……」
「魔物のレベルが1階層で300程度だと思って下さいね、実際はもっと高いかもだけど……」
「えっ……」
「あぁ~あり得るな、あいつ見境無く召還してたし、捕まえた魔物をその辺に放り出してたし」
「あの状態だと有る意味蟲毒だよねぇ~」
「蟲毒って……、姉貴そっちの方が怖い」
「……おい夏椰蟲毒ってあの蟲毒か? 共食いさせて生き残ったらってヤツの?」
「そうです、そっちですね」
「何でストラン人がそんな方法知ってんだよ、雪華じゃ有るまいし」
「それはあれじゃ無いですか? 姉貴からこっそり教わってたりするとか」
「あぁぁ~~~教えた記憶はないけど、術の本とか読んでた事が有ったからもしかして気づかれたとか?? それにピートが教えた可能性もあるわよ、うん、きっとそうよ!!」
「………あいつメルリア人だよな」
「メルリア人なら知ってるかもよぉ~~同盟国だったし留学中何度か会ってたじゃない、そのとき本を読まれたかも……ね」
「ピートに何度も会ってたのは確かお前だけだったよな」
えらく誤魔化す雪華を見たウィステリア組、特に同級生はジト目で雪華を睨んだ。絶対雪華かピートが絡んでいると睨んでいた。
「それより、これだけの動物園だけど、誰か昆虫関連はみた?」
「あぁ~そう言えば見てないな」
「そうだな、昆虫館ってのは無かったな」
「あいつは普通の動物専門だろう、昆虫は集めてないんじゃないか?」
「………そうねぇ~、昆虫は生物学関係になるわよね」
「そうだよ生物学研究者なら昆虫を集めているだろうし、昆虫博物館何てのはあったと思うけど……こっちで作ってたって話は聞いてないけどなぁ~」
「だよねぇ~でも本当にそうだと良いんだけどねぇ~」
「何だ? 姉貴なんか気になる事でもあるのか?」
「ん~~んまぁ気になると言えば、気になるでしょ、昆虫だよ」
「トンボ、カブトムシ、クワガタ、カエルとか?」
「蝶やセミもそうだよな」
「それって一応まっとうな昆虫だよね、でも一つだけいるじゃない、ほぼ全ての人類が嫌いで一部の人は研究をしていたあのGの奴は……」
「Gの奴?」
「………Gの奴って……まさか、アイツか!」
雪華の発言で、ウィステリア組は固まった、そうだほぼ全ての人が大嫌いで氷河期でも生きていそうな、アイツだ……
あれがいないのか、それともいるのか? カラスよりも一番気になるやつである。そんなことを考えているウィステリア組に対して飼育員の一人が言った。
「あのぉ~昆虫館は御座います」
「えっ!」
「えっ、あるの?」
「はい、パンダ館の近くです」
「マジっ……」
「はい……」
クリス・ブランがそういって、一同は固まった、誰も昆虫館を見ていない。聞いた面々はため息を付いて、その昆虫館に出向いていった。
中は至って普通の動物園にある昆虫館と変わらない展示方法である。男どもにとっては懐かしく遊んだ記憶があるため何ともないのだが、だた例のGのヤツがいるかどうかで変わってくるのだ。
「おぉ~~カブトムシだ!」
「クワガタもいるなぁ~」
「あっちトンボが飛んでいるぞ」
「ねぇ~~これってムカデ??」
「あっちにはなにやら池みたいになってる所があるなぁ~」
池みたいな場所になったガラス張りにはカエルなど水辺に生息するこの達がいた。
男達が昔を懐かしそうに話している間に雪華はこの広い昆虫館に索敵スキルを使って種類を関知、始祖の残滓とやらが情報を精査していく。
「ねぇ~~ここにヤツはいないわね」
「えっ! マジ??」
「えぇサーチしたけどいない、まぁ~エドガーは生物学を多少なリと基礎学では習っているはずだからね、生物学研究者よりは習ってないとは思うけど」
「……待て、待て、奴は魔物も召喚獣扱いをしていたぞ、もしこっちで魔物化している可能性ってあるか?」
「魔物化!!! あのGの奴が魔物化してるかもってか??」
「いやいや、それは怖いすぎる!!」
「氷河期でもいきられる奴だぞ、可能性は否定できない」
「って事は……、迷宮か」
「迷宮にいるかもって事?? やだよ~~あんなの大群で来たら!!」
「私も嫌よ、灼熱攻撃して滅殺するわよ!!」
「灼熱攻撃で死んでくれれば良いんだけどな」
「ダメだったら、重力魔法で押しつぶす!!!」
「うぇぇ~~~、それも想像しただけで、もう気持ち悪い」
「でも、私たちなら殺せるわよ」
「確かにそうだけど!!」
「できれば見たくない、会いたくない」
「同感!!」
ウィステリア組の会話を聞いて、Gの奴とは何だろか、スキルマスターたこれほど嫌がるGの奴とはどんな魔物か気なるという様子で見ていたのは、当然この世界に生きている周りの者達だった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。