35話 ハルシェット辺境伯
動物園前で見張りの兵士との一悶着をしていた時、カイゼル・ハルシェット辺境を先頭にレイモンド・フェスリアナ国王と宰相であるマルク・ベルフィントの馬車がやってきた。そして兵士達が辺境伯に対して報告をした。
「君たちがウィステリア領から来たというスキルマスター達か?」
「……人に名前を聞く前に自分の名前を言ったらどう?」
「これは失礼した、私はカイゼル・ハルシェット辺境伯と言う者だ」
「ふーん、あなたがハルシェット辺境伯なの」
「ウィステリア侯爵は、なぜこちらに入りたいなどと言う?」
「……そんな事あなたに言う必要は無いでしょう? こっちは国王の許可書を提示してあるのに入れて貰えなくて困っているんだけど」
「ここがどういう所か知っていての言葉か?」
「知ってるからきたのよ、それに今現在は王国の物ではないし、管理はウィステリアの、私の所有物なんですけど、他人にとやかく言われる筋合いはないわね、カイゼル・ハルシェット辺境伯。ここに陛下と来たと言うことは、私が誰か知っての事だと思うけど、違うのかしら?」
雪華と辺境伯の一騎打ちのやり取りを聞いていた、ウィステリア組とロドリアは様子を伺っていた、そしてまた後ろから来るレイモンド・フェスリアナ国王とマルク・ベルフィント伯爵も同じだった。
とはいえ危険と感じたら止めるために動くつもりであったのは陛下と伯爵だけだが、ウィステリア組は雪華を止める気はサラサラない、どのみちこの国の人間が動物園を扱えるなんてあり得ないからだ。
また夏椰にとっては陰陽師一家の血筋である、ここに来て精霊の気配を感じ取れるようになっっていた。そのため怒っているのも感じているのだ。
「姉貴、ちょっと精霊達が怒っているんだけど!」
「あら夏椰にも気配を感じ取れるようになったのね」
「そりゃね、気配くらいは感じてたけど、ここ最近精霊も見えるし話も聞こえてるようになってんだよ、っか凄く怖いんですけど!! 何とかしてくれぇ!!」
「えっ、夏椰精霊が怒っているって何で???」
「怒っているのは俺たちにじゃありませんよ、姉貴や俺たちを入れない人達に対して怒っているんです、それももの凄く!!! これちょっと怖い、子供の頃に妖怪を見て怖かった時と同じくらい怖いんだけど」
「えっ、マジ!」
「……姉貴が許可したら、攻撃してくる気満々って感じですよ先輩達!!」
既に怖すぎて上空を見てながら雪華に助けをこうている状態である。
「その辺にしておけ辺境伯、ウィステリア領主を怒らせたら。おまえの命がないぞ。既に夏椰様が仰っているだろう精霊が怒っていると」
「陛下……」
「ウィステリア領主、辺境伯の無礼はお詫びする、どうか精霊の怒りを静めていただけると助かるのだが……」
「……私が命じたんじゃ無いわよ……、それに陛下何で来たんです?」
「それはあれだ、私の許可書を偽物として通さない可能性を考えての事だ」
「……それだけじゃ無いですよね」
「あぁもちろん、私も動物園を見てみたい!」
「やっぱり、そっちが本音ですか。……ベルフィント伯爵! どうして止めて頂けなかったのですか?」
「お止めしたのだが、無理だった、しかし陛下の言うとおり許可書を認められなかったようですな、その場合どうするつもりだったのですか?」
「あぁ命を取らずに眠って貰うだけですよ、私たちだけなら結界を通れますから、はじめからこうなることは予想していましたので、別に問題は無かったんですけど」
「予想していたか」
「えぇ前例がございますし」
雪華はそう言うとカイゼル・ハルシェット辺境伯の顔を見つめた、そして人となりの観察とステータスレベルの把握に残滓をフル活用させていた。
一見して紳士的な雰囲気をしているがどこか勝ち気な、それでいてプライドと権力欲が強そうな人物と判断した、また大したステータスに関して言えば、一般的な現在の冒険者ランクでAランクに近いBランク程度の騎士と言うことになる。ウィステリア組の敵ではない。
「では改めて頼もうかウィステリア領主殿よ、我らも中に入れて貰えるだろうか?」
「伯爵もみたいと?」
「興味はある」
雪華はそう言ったマルク・ベルフィント伯爵の顔をジッと見たあと、楽しみいっぱいと言った様な国王の顔と憮然とした顔の辺境伯を見回した、そして後ろで様子を伺っている同行者に向かってどうするか訊ねた。
「まぁ~雪華が良いっていうんなら、いいんじゃない?」
「だな、変な事をしたら精霊達がお仕置きでもしてくれるだろうし、なっ夏椰」
「そうですね、姉貴が命じたら絶対に実行すると思います」
3人の言葉を受けて、雪華は頷き再度兵士や貴族達に向き合って物騒な事を話し出した。
「ふふ、そうね、とりあえずまだ精霊達の支配下に置いておくとして、私達ウィステリア組とロドリアさんと、動物園で世話係をしている人に対して無礼な事をすれば、問答無用で仕置きを頼んでおきましょうか! あぁもちろん中の動物達に対して手を出したり、攻撃でもしたら命で償って貰うわ」
「命で償うとは、貴様何様のつもりだ! 攻撃してくるなら当然こちらも攻撃すべきだろう」
そこで口を出したのはカイゼル・ハルシェット辺境伯である、動物に対して手を出すなとは、動物園は迷宮でもある為閉鎖されていると聞かされているため、動物は危険だから殺さなくてはならないと本気で思っている人物だった。
「悪いけど、動物園は貴重な動物がいるのよ、あなた達の知らない、300年前には普通にいて人と共存していた動物もいるわ、この時代ではお目にかかったことが無い物ばかりだろうし、当然そんな貴重な動物を殺したら命を差し出す覚悟はして貰うわ、これは国王とて関係ないから」
「ウィステリア領主かなんか知らないが、あまりにも失礼な良い草ではないか、陛下の命を差し出せと言うか!」
「……なら代わりにあなたが命を差し出しなさいよ、国に忠誠を誓っているんでしょ?」
「小娘のくせに……」
「ウィステリア領主、その辺でお怒りを納めていただけませんか? 辺境伯もウィステリア領主に対して失礼です、彼女は侯爵ですぞ」
「侯爵だからと言って良い事と悪いことがある!」
「……ならば彼女を怒らせないことだハルシェット辺境伯」
「陛下まで何を仰るのですか! こんな300年前に眠らされて目覚めたなどと戯言を言う様な小娘などに、騙されてはなりません」
「騙されてはいない、彼女らは間違いなく300年前に神々に眠らされて目覚められた者達だ、証拠はあったからな」
「証拠とはいったい何ですか!」
「祖父の残した手紙を読んでいた」
「……あの変な文字の手紙を!」
祖父の手紙と聞いて思い当たる、先王が残した眠らされている者が本物かどうかを確かめる方法としての手紙だ、王妃を始め主要な貴族達の前で書いたと言われたものだ。
だが辺境伯は存在は知っているが中身は知らなかった。彼はまだ若かった為その場に言わせることができなかったのだ、ただ先王は日記を書いていた、その日記は日本語で書かれていた為、誰も読むことが出来なかったのだ。手紙はその日本語で書かれていると言われていた為、それを読めたとなると証拠となる。
「あぁ~良いこと思いついた、国王の命が大事なら手を出さないように気をつければ済むことなのに、それが出来ないのなら、そうね、さっきも言った通りあなたが代表して償えばいいのよね。私が手を下さずに、そのまま迷宮に放り込んであげるわ、地上はただの普通の動物園、迷宮は地下だからね」
雪華の楽しそうに笑いながら言った物騒な言葉に、スキルマスターの面々は顔を嫌な顔をし、貴族達や兵士達は緊張をした。
そして国王はやはり怒らせてはならない相手であると再認識した。
「ウィステリア侯爵、出来れば穏便に願いたい」
「あなた方の行動次第ですけど陛下」
「解った、同行する此方がわの者に対して、あなたの命令に従うと約束させましょう、動物園の所有者はウィステリア領主であるのは300年前から決まっていた事ですから」
「えぇ、そう願います、私も迷宮に放り込みたく無いですからね、あんな危険な所……」
雪華と国王の話が済んだ所で、一応ハルシェット辺境伯も苦虫を潰したような顔をして陛下に従った。ロドリアとウィステリア組はヤレヤレと安堵の溜息を漏らしていた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
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