34話 動物園
王宮でレイモンド・フェスリアナ国王と会見をした後、雪華一行はロドリア達と合流し宿屋に戻った。
それからは主にロドリアの案内で王都観光をしていた。当然貴族の派遣した尾行が着いていたが、いっこうに気にしない。
そして魔王の遺物の展示している博物館にも行き、王の許可が出ていた事もあり、神殿に保管されている秘物も見に行くことができた、但し神殿長は留守で会えなかった。
そして問題の秘物だがやはり少し影響を受けていることが確認できた。最後に必ず行かなければならないのが動物園である。
「動物園ですか?」
「そう動物園!」
「ありますが、あそこは入れませんよ」
「私たちが居れば入れるわよ」
「しかし警備兵がおりますし」
「そこは大丈夫、陛下の許可書がある」
「陛下の?」
「そう、それにね動物園の管理は私になっているらしいのよ」
「りょ、あっいえレティ様がですか?」
「そう、ウィステリア領主が管理することになっていると精霊達から命令されているらしい」
「……しかしその精霊達は目に見えませんし、その命令ってどうやって?」
「どうも300年前から王室に命令していたらしいわ、本来のスキルマスターは戻ることはないだろうって言われ、代わりにウィステリア領主が管理をすることになる、それまでは精霊達が結界を張り管理するって言われたらしいわ」
「しかし何故、そうなったのでしょうか?」
不思議そうにいうロドリアに対して他の3人が説明をした、一般的には普通の動物園だが、本来は超越者迷宮であると、しかももっとも危険な迷宮だからと説明した。
「……魔物が自由に徘徊……」
「そう、それも見境のない魔物がね」
「入ったらすぐに襲ってくるようなヤツ」
「ランクもレベルも高いわよ、今の冒険者だと瞬殺ね」
「俺たちスキルマスター仲間から危険迷宮と指定したくらいだからなぁ」
「そうそう挑戦するなら最低でも500レベルを越える程度で挑戦を勧めるって言ってきたからな」
4人から話を聞いて身震いをするロドリア、行くのを嫌がったのだが、迷宮は地下だから心配ないと言われた。それに見たこともない動物がみられるかもしれないわよと言う雪華の誘惑とも思われる言葉で、仕方なくついて行くことになった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
その頃王宮では、レイモンド・フェスリアナ国王とマルク・ベルフィント伯爵の2人が話をしながら、外出準備をしていた。
「本当に行かれるんですか?」
「あぁ私も見てみたいのでな」
「お気持ちは解りますが、危険ではありませんか?」
「なにスキルマスターが4人も居るんだぞ、危険などあるものか」
「ですが……」
この2人の話を聞いていたのは、カイゼル・ハルシェット辺境伯である。彼も一応王宮勤めである。
「これは陛下にベルフィント宰相、どちらにお行きですかな?」
「ハルシェット辺境伯!」
「仕事が一段落したのでな、少し時間ができたのですよ宰相」
「なるほど、時間ができたかハルシェット辺境伯。ならばそなたも一緒に来るか?」
「陛下!」
「一緒にとはどちらにですか? 陛下?」
「動物園だ」
「……動物園ですか、しかしあそこは結界が張ってあり入れませんが?」
「何、スキルマスターが居れば入れるだろう、お前も会っておいてはどうだ?」
ベルフィント宰相は陛下が何を言い出すのかと疑問に思った、今回ウィステリアから来た4人を牢に入れた男爵を、子飼いにしていたのは、目の前のハルシェット辺境伯である事は知っているはずなのに、と思って国王を窘めようとしていたが、逆に王がハルシェット辺境伯と4人を会わそうとしているのだ。しかも王は少しばかり面白そうにしている。
「……スキルマスターですか、現在判明している7名のうち4人が王都に来ているという情報は、私も耳にしております、彼らがそこに行くという事ですか?」
「そうだ、許可書を求めてきていたので許可はしてあるが、バカな兵士がまた失礼な事をしかねないと思ったのでな、私自ら行くことにした」
「……なるほど、ではお供いたしましょう」
「あぁ来るが良い」
レイモンド・フェスリアナ国王は少し楽しそうな表情を隠しながらウィステリアから来た4人を、特にウィステリア侯爵がどういう態度を見せるのか見ておきたかったのだ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
ちょうど動物園の前に着いたウィステリア籍の4人とロドリアは当然の様に兵士から止められていた、そして当然の様に国王の許可書を提示したが、入れて貰えそうにない。
「またか……」
「許可書があるのに何故入れてくれないんだ?」
「ウィステリア領の者を簡単に入れるわけが無かろう」
「王の許可があるのにか?」
「これが本物であるかどうか確かめてからだ」
4人はやれやれと思いながら溜息をいつき、ロドリアはハラハラしていた。だがスキルマスター達は強行突破するかなどと話をしていたが、雪華は精霊と話をしていた。
精霊が見えているのは雪華と夏椰だけである。如何にスキルマスターといえど、魔法を使わず精霊と話は出来ない。夏椰の場合は陰陽師の末裔であるが故でもあるが、雪華の場合それに加えて本来の始祖の魂を持つが故である。
『始祖姫様……』
『始祖姫様がお越しだ、皆お迎えの準備を……』
『いや、迎えの準備とか良いから、中はどうなっているのか少し話して貰えない?』
『5名程の人族が代々、動物の世話係をしています』
『以前は7人程居たのですが、だんだん世話が出来る者が減っています』
『その5人は何故世話が出来るの?』
『元々こちらの管理者であるスキルマスターNo.3のエドガー・スティーブン様が、7人に動物の世話の仕方などを徹底的に教えておりました、もちろん強制ではなく』
『興味を示し、動物好きの者が自主的に長きにわたる世話係をしたいと言ってきた者だけです』
『そう、でぇ2人減り、現在は5人という訳? それにしてもそれって300年前の話よね、今の世話係はどうなの?』
『現在残っている5人が代々家系でここの世話をしています』
『……それって、つまり現在はほぼ強制って事よね?』
『本人達はそのように言っていません』
『餌なんかは? 獣医なんかも居ないんじゃないの?』
『餌は我ら精霊が準備をしています』
『獣医は居ませんが、エドガー・スティーブン様が残された手記があり、それを我らが翻訳して教えております』
『……手記、人族が精霊のあなた達を見たり会話をしたりなんて出来るの? 魔法は使えないでしょう?』
『はい、ですから紙に言葉で示します』
『……なるほど、それなら読めると言うことか』
多くの精霊達が雪華に話しかけてくる間だ、他の者達には雪華が結界を睨みつけて空を見ているようにしか見えていなかった。ただ夏椰だけは見えており雪華が会話をしているのも聞こえていた。
「姉貴……」
「夏椰、雪華が突然何も言わないけど……?」
「何を睨みつけているんだ?」
「うぅ~~ん」
「何だ? お前まで難しい顔をして?」
「精霊と話をしていますね?」
「精霊と?」
「えぇ、昔もよくこんな事しているのを見たことがあります、祖父の家には藏があったんですが、その近くをジッと睨みつけているから、聞いてみたことがあって、そのときは妖怪と話していたって言ってました」
「妖怪! 家に妖怪が居たのか?」
「うちの家系は陰陽師ですから、先祖の遺品は藏の中に入れてあったし、その藏の管理は姉貴がしていました。それに藏を守るようにと先祖に命令されているという妖怪達が居たようなんですよ」
「藏を守るようにと命令された妖怪って……」
「なので、今の場合は妖怪ではなく、精霊と話をしています」
「お前見えているのか?」
「えぇ……、まぁ~、話も聞こえてます」
スキルマスター達の話を聞きながら、ロドリアは兵士達から失せろと言う言葉に対応をしていた。
「姉貴?!」
「あぁ~ごめん、それじゃ強固突破しようかね!」
「あぁ~やっぱりそうなるか」
ウィステリア組は溜息をついて雪華の行動を止めない、っというより止めても無駄だった。
「ちょっとあんた達、悪いけどそこを通して貰うわよ」
「だからダメだと言っているだろう女!」
「五月蠅いわね、精霊達から入る許可も貰っているのに、しかも国王の許可書を貰っているにも関わらずに入れないなんて、あんた達の頭の方がおかしいでしょうが! いいから退きなさい! こっちは急いでるのよ!」
「ダメだって言っているだろう! おいコイツ等を拘束しろ!」
殺気だった兵士達が剣を抜いて雪華達に向けて威嚇をし始めた、それに対して雪華は溜息を付きながら反撃にでようとした。
『レイモンド・フェスリアナ国王がきます』
「はぁ?」
「おい雪華、あれって貴族の馬車だよな?」
「あの紋章は、カイゼル・ハルシェット辺境伯の馬車ですよ!」
「カイゼル・ハルシェット辺境伯?」
「辺境伯っていったら例のあれか……」
「その後ろには王家の馬車もありますよ」
皆は馬車が来る方に目を向けると、溜息をつく者と、雪華達に剣を向けたまま安堵してさらに強気に出ようとする兵士達が、先頭を走る馬車を迎えていた。
「これはいったい何の騒ぎだ!」
「はっ、このもの達が動物園に入ろうとするので止めている所であります辺境伯様!」
見張りの兵士達が馬車から降りてきたカイゼル・ハルシェット辺境伯に対して報告をしていた。それを見ていた雪華一行は胡散臭げに相手を見ていた。
今回の一連の騒動の親玉だと思ったのはウィステリア組である、そしてロドリアにとっては出来るだけ関わりは少なくしたい相手でもあった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。