33話 国王との将来の話
王宮のある一室で、王妃との一悶着はあったものの、ウィステリア組と王との話し合いはまだ続いていた。
「陛下、今回の一件で私の正体がバレちゃったので、とりあえずウィステリア領内では戻ったことを公表します、その為間違いなく王都や他の領土にも伝わるでしょうし、他の大陸にも伝わると思います、まぁ時間差はあるでしょうけど」
「そうだな、確かに他の方々の事もバレるだろうが、スキルマスターが誰であるかまでは解らないのではないのか? 確かスキルマスターはそれぞれの印があるはずで、名前の代わりにすスキルマスターNo.公表のみの方もいる様なのでは?」
「そうなんですけどね、私のランクSLランクは男女各一名とバレてるらしいんですよ、なので私のランクは冒険者カードを見ればバレバレなんです」
「なるほど、それは気が付かなかったなぁ、だが現在の冒険者では侯爵ほどのランクをみる事は出来ないのでは?」
「確かにそうなんだけどねぇ~、冒険者ギルドに貴族が絡んでおかしな事になった事を考えると全ての領土のギルド支部から漏れる可能性も有るわけで……、それに私はいつまでも隠し通せるとは思ってないのですよ、有る意味期限付きと思ってください」
「なるほど、解った」
「でぇここから本題ね、私のランクがバレた時点で他領や他の大陸の各国がどう動くか解らないので警戒をしておいてほしいんです」
「と言うと? それは人族から再び魔王がという声の可能性の事を言っているのか?」
「それもある、私が気になっているのは実際に魔王の存在です、前にも言ったと思うけれど、転生している可能性は捨てていないので、していないことを願うだけだけど、今の時点では誰も勝てませんよ」
「君たちスキルマスターが居てもか?」
「私たちでも、と言うか私たちは魔王の力がどの程度か解らないからです、それにスキルマスターが全員居ません、冒険者に強くなって貰うことが最優先です」
雪華の言葉で王は考える、やはりウィステリアのような改革をする必要があると、だが簡単ではない、だから聞いてみた。
「それを踏まえると、やはり前に聞いたウィステリアのような体制が必要かぁ?」
「別にうちと同じじゃなくても良いでしょ、というか反対派が居るんでしょ?」
「侯爵……」
「貴族だけしか学校に行っていないなんて初耳です、平民にも学校に行かせて下さい、初等教育課程を済ませれば冒険者予備校には通えるんです」
「しかし、平民の子供は死亡率が高のだ」
「死亡率の高い原因は何ですか?」
「貧困もあれば原因不明でいつの間にか死んでいたという報告を受けています」
国王の言葉に対して答えをくれたのはベルフィント伯爵である。王都でも魔素コントロールが出来ない子供は魔素過壊病になって死亡しているという。
「魔素過壊病って本当ですか? 侯爵!」
「本当ですよ伯爵、前にも話しましたよね魔素過病の事を、原因不明で死亡となると、それも疑うべきです。」
「なるほど、魔素過壊病だったか……」
生活魔法は使える者が出てきているとはいえ、魔素関知や魔力関知が出来ないために見過ごされて死亡することが圧倒的に多いという。
「でもさ生活魔法を使えるのであれば、魔素関知は出来るんじゃないですか?」
「その方法を知らない者が多いんじゃないかな、恐らく何となく魔法が使えた程度にしか思ってないのでは? 陛下たちはどうですか?」
「私たちも生活魔法程度は使えるが、そう多くはないし長くは持たないので魔素関知までは解らない」
「私もです小さな種火の様なものは作れますが数秒で消えてしまいます」
「そういう者の方が多いため、生活魔法をあえて使う者の方が少ない」
「なるほど、ウィステリアは多種族共生なので、そういう情報は入るのです、ついこの間もその病気で死にかけた子供がいましたが、私たちも目覚めて間もないため詳しく知らず、オーガを先祖に持つ者が教えてくれて知ったのです。対処法は魔素、魔力を使うことです、ため込みすぎたものは出す、それだけです」
「そう言えば、この間話していましたね、初等教育課程で魔素コントロールを教えていると」
「えぇ、いいました、なのでウィステリアの子供はみなコントロールが出来ます」
「まぁ希に多すぎる子供も居て病院に来る子も居ますが」
「なるほど、ではまずその病の事をもっと詳しく調べてみるとしよう、そして出来ればその初等教育課程というものを設立出来るようにするとして、初等教育課程の内容が解らぬ」
「あら、ウィステリアにスパイを入れておいて調べてなかったのですか?」
雪華は嫌みの様に苦笑して言ってみた、それに対して王は笑って済まないと謝ってきた。それを聞いて雪華はウィステリアでの教育体制を隠さず説明をした。
「これはウィステリアだから出来ることだと思います、王都や他領では平民を学校に行かせることに反対する貴族や、平民も家の働き手が無くなるとか苦情を言う者も居るでしょう」
「ウィステリアで、他領の者を受け入れ等はして貰えまいか?」
「現状ウィステリア領で受け入れている他領の学生は、藤華中等教育学校と高等教育課程の大学だけです。
人数は少ないですけど藤華中等教育学校の方は最優秀生しか受験できません、こちらは他領の者も受け入れられますが寮生活になります、一般の中等教育課程は領民以外受け入れていません。
初等教育課程は小さな子供なので親元を離れるのはお勧めしません。それに多種族が居ますので親が許さないのではありませんか?」
雪華の説明に対して確かにと納得する王と伯爵は何か打開策はないかと考え始める。それを見た霧島廉がアドバイスをした。
「陛下、現状王都やその他の領土で平民に読み書きを教えている者は居ませんか? 恐らく地下活動的に……」
「地下活動?」
「あぁですから、その表だって平民に読み書きを教えられない状況ならば、隠れて教えているような者です、貴族が見つけたら間違いなく捕らえられるか処罰対象とか言われるような人達です」
廉のアドバイスを聞いていた浅井賢吾が理解したとばかりに話を続けた。
「恐らく陛下たちの耳にまで届いてないかもしれませんが、居ると思うんです、もし居ればそういう人達をウィステリアに越させて教育機関で研修をして貰えれば、長期的に見ても陛下の助けになりませんか?」
「先輩達の話を通す場合、ウィステリアの多種族に対して免疫がなければ無理ではないですか?」
「それも踏まえてだよ夏椰、平民に教えられるだけの勇気があれば多種族に対しても免疫をつけられるんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど、多種族に対する免疫もつけるって意味ですか」
「あんた達のアドバイスには同意するわよ、初等教育課程で研修を行えば、王都などに戻った時や陛下が初等教育機関を作る時に教師として役に立つわね、後は孤児とか……」
「孤児かぁ、それは考えなかったな、でも姉貴孤児を受け入れる場合施設はどうするんだ?」
「作れば良いじゃない、養護施設」
「おまえ本気で言ってるのか?」
「本気よ、どうせ魔物に襲われて親を亡くした子供もいるし、聞いた所によれば他国なんかでは奴隷扱いらしいじゃい、ウィステリアに奴隷はいらないわよ」
4人の話を聞いた王と伯爵は納得した、現状奴隷まで行かないまでも、それと類似する者は王都にもいる。そういう子供がウィステリアで育てば将来国にとっても益をもたらすかもしれないと考えたのだ。
それにはウィステリアの協力が必要不可欠である。とはいえ独立自治領である、しかも治外法権。国王としてあまり口を挟めないのも事実、特に今の領主は只の領主ではない。それを他の貴族が知らない事もあり、失礼なことになれば大変である。その変の調整も必要だなと考えていた。
「とりあえずウィステリア領主、今の提案はとてもありがたい、だが今すぐという訳には行くまい、お互い準備が必要であろうし、他の貴族への根回しもいる、それにあなたの事は話せないであろうからな」
「……そうね、ウィステリア以外の領土の管轄は陛下ですから、そこはお任せします。ウィステリア内の孤児がどうなっているのか再度調べ、然るべき対処をします。とりあえずそちらの方が整えられればご一報下さい、恐らくこちらの対処の方が早いでしょうから」
「わかった、それと冒険者ギルドの件だが……」
「新しいギルドマスターの派遣は既に手配済みですからご心配なく」
「ではそれまでは侯爵が代理を務めていただけ無いだろうか?」
「はっ? 代理?」
「そうだ、全てのギルドを統括する、ギルド総本部の管理運営者はウィステリア領主となっていると聞く」
「……マジか」
「あぁそう言えば月宮さんがそんな事を言っていたなぁ~、仕事が増えて困るらしいぜ」
「……夏椰あんた」
「なんかそんな事をおじいちゃんが耳にしたって言ってた、姉貴が戻るまでの辛抱だからと言い聞かせていたみたいだけど」
弟の言葉でうんざりした雪華は仕方ないと引き受けることになった。
それから雪華達は動物園について話をした、動物園は300年前から精霊が管理している為、むやみに入れないとの事、また動物園の所有者はスキルマスターNo.3であるが、恐らく戻らないだろうから、その場合はウィステリア領主が管理することになる、それまでは精霊が管理するようになっていると、精霊達から命令されているとの事、それが神々のご意志だという事で、他の貴族も手を出せない状態だという。
そして動物園に元から勤めていた者だけが入れるという事だが、今はどうなっているのか誰も解らないという事だった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
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