31話 霊体飛ばして進化した
マルク・ベルフィント伯爵の屋敷で一泊し、今日は王宮へと向かう日だ。その前に明け方から朝食の時間の合間まで、雪華は霊体を飛ばして王都を観察した。
「姉貴、本気?」
「本気! だから私の体を見ていてね」
雪華はそう言うと、屋敷の使用人を自室から全員外に出し、ウィステリアの4人だけになった、そして扉や窓を含めて強力結界を張って目的を3人に説明、理解が出来ているのは当然夏椰のみ、そのため説明は夏椰に任せて雪華は霊体を飛ばした。
「おい夏椰、雪華は何をしているんだ?」
「霊体を飛ばすとか何とか言っていたな、あれは陰陽師の術か?」
「えぇ神崎家の陰陽師の中でも霊体を飛ばせるのは、そう多くなくて姉貴くらいだと月宮さんが言っていました」
「でぇ結界が必要と?」
「霊体を飛ばしている間は、体が空っぽになるので、それを防ぐために術士が側で体を見張り、悪意あるものが入らないようにするんです」
「つまりあれか? 体を乗っ取られないように守るってヤツ?」
「はい、まぁもっとも姉貴の事だから自分の体は守れるんだろうけど、前の世界ではないので油断禁物って事だと思います」
「なるほど……」
「雪華は一体何を見に行ったんだろう?」
仲間が話をしている間だ雪華はというと、うまく霊体を飛ばして屋敷の上空にいた、周りには風の精霊達が嬉しそうに集まっていた。そして雪華の事を「始祖様」と呼んでいる。
「……何でこんなに歓迎されるの?」
『始祖の魂を持っている為、彼らにとっては始祖そのものと言っても過言ではありません』
「……なるほど、まぁ~いいわ、それよりあなたここから見える全てから何か情報はある?」
『今見ている全てを記憶し地図を掌握しました、もう少し上昇しすれば、もっと詳しいデータを獲得可能』
「……データーねぇ~。解った限界ギリギリまで上昇しましょう」
雪華はそう言うと更に上昇、前世界で言えばオゾン層つまり成層圏を突破し、中間圏、熱圏のカーマンラインと言われる場所も突破し、高度800Km近くまで上昇して止まった。人の身でここまでは普通こられない場所である。
本来ならスペースシャトルが飛んでいる場所だからである。だが雪華は対流圏を超え成層圏に入ったあたりで身の回りに結界を張って上昇をしていた。
「おぉ~これは見事、見た目は地球と同じだねぇ~でも大陸の形は全く違うわ」
『元々この世界の星が彼方の世界に移動しただけです、そして次元移動で戻ってきたので地球と変わりません、ただ大地は次元移動時の影響により変わっています』
「磁場なんかのせい?」
『その可能性もあります』
「そうか……」
『スキルが進化を確認しました』
「はっ??進化?」
『この空域まで上昇した事により飛行スキルがエクストラスキル無制限飛行に進化しました』
「……それってぇ~~」
『無重力空間にも移動が可能になりました、次いで重力無効化獲得、また重力魔法も無制限に使用可能、時空間魔法も強化、獲得しました、電磁波耐性、獲得しました』
「えぇ~~~スキルとか魔法とか進化するの!! レベルアップだけじゃなかったの??」
『本来はするはずですが、今のこの世界の生きる者は、進化をするだけの力が無いようです、辛うじて進化の可能性を秘めているのはゲーム参加者のみと推察されます、ただ進化が出来るかは不明』
「そ、そうなの……、でぇ私の進化はともかくあなたにとってのデータ取りは終わったの?」
『ほぼ獲得しました』
「ほぼ……って事はまだ足りないものがあると?」
『もう少し上昇出来れば、他の情報を獲得する事は可能です』
「えっ、まだ上昇するの? っと言うか出来るとは思えないけど?」
『可能です、無重力空間への移動が可能になっており、重力無効化も進化しています、思い通りの場所まで行けます』
「…………それ、ある意味怖いんですけど、まぁ~わかったやってみる……」
雪華はそう言いながらも、もうこれは人間じゃないよと泣き言を言いたくなっていた。と当時に魔力を高めて上昇に転じた。
そのまま体は上昇し外気圏と言われる所を突破、いわゆる宇宙空間に出てしまった。すでに衛生軌道上も超えている。
「このあたりでどう?」
『大丈夫です、では情報の獲得を試みます』
始祖の残滓の声を聞きながら、霊体だからここまでこれたのかもなどと考えていた、そして周りの宇宙空間をみると前世界と特に変わった様子はない、星の位置は変わっているようでも、太陽も月もある。
ただ魔素を感じることだけが違う所だった。しかも魔法でここまで来ている筈だが、全く魔力が減っている感じがしないのだ。
『宇宙空間の位置、磁場の情報等をデータとして獲得しました。また、宇宙線耐性獲得に成功しました』
「……また進化した? いやそんなスキル持ってなかったわね」
『このスキルはアルティメットスキルです、スキルマスターの中でもアルティメットスキルを持つ者は限界突破者のみです』
「はぁ?? 何それそんなの知らないわよ」
『また錬金術の書物を読んでいた事で、錬金術スキルはゲーム時代に獲得していたものと、前世界の時代からの科学知識により強化して獲得しています、その結果、魔法やスキルの分離、再構築、統合も可能となっております』
「錬金術の本なんて読んでないけど?」
『物理学や科学の知識は、錬金術の知識と同義です』
「まぁ、確かにそうかもしれないけど……、ねぇ一つ聞くけど、今私は霊体よね、これって実体に戻ったらどうなるの?」
『問題ありません、獲得したものや進化したものは全て実体でも使用可能です』
「……そっ、そうなの使用可能なのね……」
残滓の言葉を聞いて頭がクラクラしてくる気分だった、これはみんなにどう説明すればいいのだろうか?などと考えていたら。
『説明の必要はありません』
「えっ! 説明の必要はない? ここまで飛んでどこに行ってたなんて言われるわよ!」
『普通に王都の偵察とだけ言えば大丈夫です』
「……本当に?」
『はい』
「そう……まぁいいわ、戻りましょう」
雪華はそう言いながら、地表に降下していく、その間にも色々なスキルアップと進化が行われ、残滓は更に情報を獲得していったのだった。雪華はこの状況に口を挟む余地なく諦めた。
そして地表に近づいた所で始祖の残滓が声をかけてきた。
『このまま実体に戻らず、王都を周回して下さい』
「周回?」
『はい、王都の情勢や貴族などの動向を探ります』
「……わかったけど、この霊体で大丈夫? 情報探りは夏椰に任せてるんだけど?」
『探れないものは存在します』
「そう、わかった、でも手短にね、これ以上長くなるとみんなが心配するし、王宮に行く時間に間に合わなくなる」
『了解です』
そう言うと雪華は王都を周回、残滓の言葉通りに移動していった。ただその移動には雪華も目にして驚いたこともあり、今後に生かせる収穫もあった。
「あっ、戻ってきた? 姉貴!」
「雪華?」
「本当に戻ったのか?」
3人の声を聞きながら雪華は静かにゆっくりと目を開けた、そして盛大な溜息を着いた。
「姉貴?」
「あぁ~~ごめん疲れた」
「当たり前だ! 遅すぎるじゃねぇか、1時間半も霊体を飛ばすなんて普通心配するぞ!」
「えっ、1時間半も経ってたの??」
「気づいてないのか?」
「はっ、ははは時間忘れてた」
「月宮さんと小花衣さんが聞けば怒られるんじゃねぇの?雪華?」
「夏椰が心配していたぜ、霊体飛ばす時間が長すぎるって月宮さん達から怒られるぞって言ってたけど」
「あぁ~~確かに……お願い! あの2人には内緒にして!!」
「……はぁ~時間経過くらいしておけよ、長時間はダメって知ってるんだろう」
「うん、解ってる、もうしないっと言うかしたくないわ」
雪華は夏椰達に月宮達には言わないでと頼み込んだ。陰陽師で霊体を飛ばす危険性は一番よく知っているからだ。とはいえ、この先雪華は時々霊体を飛ばすことはあるだろうなぁ~と思いながら口にはしなかった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。