30話 解放、そして伯爵家へ
牢に入れられて1週間が経った。その間取りあえず食事は届けてくれる、トイレには見張りが付けられてそれぞれ行くことは出来た。
ただし風呂はないし寝るのは床の上で痛い。おまけに魔術無効化術まで施されている、だがそこはスキルマスター達である。
「……魔術無効化の魔法かぁ~」
「大したレベルじゃないな、これなら解除可能だけど」
「どうする、姉貴?」
「そうねぇ~このレベルなんだったら放置してもいいんじゃない、いざって時に解除できれば問題ないでしょ」
魔術封じも兼ねた手枷をされても、術封じランクが低ければ意味もなく、無詠唱が使えるスキルマスター達なら手などが使えなくても魔法は使えるし、水魔法や熱魔法等使用してなんとでも出来る。
しかも揃ってあの藤華Sクラスメンバーである。熱加減なども自在に操れるのだ。快適とは言わないまでも、何とか過ごしていた。
そんな時に4人を捕まえた隊長がやってきて、拘束を解かれて出るように言われた。今度はとても丁寧に扱われたのだ。
「何だ? 何がどうした?」
「さぁ、何か合ったんだろうね」
「扱いが全く違うんですけど」
「……あぁ~これは王が動いたわね」
「えっ……マジ?」
そんな話しながら隊長について行くと少し広めの部屋に案内された、すると例の大佐とロドリアさんが居た、確かジョージ・グラマン大佐だったっけ?と雪華が思った時、その大佐は深々と頭を下げてきた。
「大変失礼をいたしました、ウィステリア領主である侯爵様と弟君、そしてスキルマスター様達殿」
「あぁやっぱりバレてる」
「私たちのカードと鑑定はどうしたんですか?」
「はい、冒険者カードはこちらに、また今回は国王陛下から直々に親衛隊を動かして、冒険者ギルド王都支部に対して捜査が入りました、その結果カード鑑定魔導具が認められていない他国の物と判明し、ブランツ男爵の命令で動いていたとの事が解りました。陛下はすでに領主様とお会いなさっていると伺い、此度の件たいそうお怒りでございます」
「なるほど……」
「領主様方、大丈夫ですか?」
「えぇ大丈夫ですよ」
「心配してくれてありがとうロドリアさん」
「本当に心配だったんですよ夏椰様」
ロドリアさんと再会した後、あのレイモンド・フェスリアナ国王が怒っているという話から、その理由も知っている雪華達はやれやれと思った。そう思っている所にマルク・ベルフィント伯爵が姿を現した。
「ウィステリア侯爵、お久しぶりですね。そして夏椰様に霧島様、浅井様」
「ベルフィント伯爵! 何故あなたがこちらにいるんですか?領地は?」
「私は宰相なので陛下のお側におります、領地は息子が次期領主になるべく経験を積む為に代官として領地を治めております」
「そうですか」
「では伯爵は王都にお住まいがおありで?」
「はい、そうです、宰相としての勤めが御座いますので、それと私に敬語は必要ありません、身分は侯爵が上位ですから」
「あぁ~すみません、慣れなくて……」
「ですが慣れてください、それに他の方々もです、夏椰様は侯爵の弟君でSランク冒険者様ですし、他のお二人はLランク冒険者、レジェンドマスター冒険者です、今の世でレジェンド級はおりません、それに侯爵は至高の存在と言われるSLランク冒険者様ですから、Sランク以上の冒険者は現在知る所ではあなた方とウィステリアにいる方々ともうお一人以外いらっしゃいません。それにこれは陛下のご意志でもあります」
マルク・ベルフィント伯爵は4人に対して、敬語は必要ないと言い出した、しかも陛下の意志であるからと、いきなりそんな事を言われても、困るというものだ。
「では私たちは解放されて自由の身と言うわけですか?」
「さようでございます、浅井様、ですがその前に王宮へお越しいただくことになります」
「王宮へ!!」
「なんで!」
「……やっぱりそうなるのね、あんまり関わりたくないんだけどなぁ~」
「致し方ありません、ギルド総本部の責任者はウィステリア領主ですから、それに陛下はウィステリア領と敵対したくないのです」
「……敵対って、また物騒な」
「事実です、迷宮の殆どが存在していると思われる領土で重要な場所です、それに他にも色々な理由がありますから」
「……なるほど、仕方ないわね、解りました」
「では今日は私の屋敷でお泊まりください、そして明日王宮へご案内致します」
伯爵の話を了承し、4人は伯爵家に宿泊する事になった。だがロドリアには雪華から頼みごとをした。
「ロドリアさん、今日は伯爵の屋敷に泊まって明日は王宮に行く事になるんだけど、明日以降の宿泊は宿屋に泊まるから、そっちの確保を頼んで良いかな?」
「えっ、明日以降は宿屋ですか?」
「そうよ、王宮なんかで寝泊まりしたくないし、貴族の屋敷に泊まったりすれば自由がないっと言うか、色々な面倒が出そうで嫌なのよ」
そんな事を言う雪華に困った顔をロドリアはマルク・ベルフィント伯爵の顔と雪華一行の顔を交互に見ていた。
「侯爵、明日以降も我が屋敷ではいけませんか?」
「悪いけど、一番は観光目的なのよ、二番目の目的もあるし、仕事で来たわけでは無いのよ、貴族の煩わしさからは遠ざかりたいわ」
「……解りました」
「悪いわね、解って貰えて良かったわ、とは言え協力して貰うことが出来たら頼んでも良いかしら?」
「はい、それは構いません、何なりとお申し付けください」
何故か嬉しそうな顔をするマルク・ベルフィント伯爵を見て雪華は苦笑いをした。
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マルク・ベルフィント伯爵の馬車で、彼の屋敷に着いた雪華一行を出迎えたのは大勢の使用人たちである、そしてその中央には家族と思しき者達がいた。
「侯爵様、紹介を親します、これが妻のマリエッタです」
「お初にお目にかかります、ウィステリア侯爵様、妻のマリエッタと申します」
「初めまして、雪華・ウィステリアです、こっちは弟の夏椰、友人の霧島廉と浅井賢吾です」
「初めまして弟の夏椰です」
伯爵家の屋敷だけあって立派な建物である、ヨーロッパ貴族といった所か、一行は挨拶を終えて屋敷の中に入ると、少し広いサロンの様な部屋に通された。
そしてそれぞれのお世話をする使用人の紹介が行われた。一行はそのままサロンにてお茶に興じてたわいのない話をしていた。特に奥方の方が興味津々という所である。
「一度ウィステリア領に行ってみたいと思っておりますのよ」
「はぁそれはそれは、しかし何故行ってみたいとお思いに? 私が戻るまでの間は精霊達が結界を張って入れない者もいたと聞いていましたし、それを恐れてと言うか蛮族領と言われているそうですよ」
「えぇ、まぁ少しはその怖いというか多種族がいるので不安はあるのですが、興味がありまして」
「興味?」
「はい、他領と違う体制が多いと噂に聞いていたものですから、どのようなものなのかと気になってしまって」
奥方のマリエッタは年の頃なら50代前半くらいだろうか、どうやらこの世界の人族の住人は前世界の人間より長寿では無いようだ、むしろ戦争前後の日本の寿命よりも短いかもしれない。つまり70代や80代が少ない。70代や60代で寿命が尽きるという感じだろうか、伯爵でも50代半ばくらいである。
「どのようなと言われましても」
「子供はみんな学校に行っているとか、病院も分け隔てなく行くことが出来るとか、王都や他領ではあまり無いものですのよ」
「えっと……、王都や他領では子供は学校に行かないんですか?」
「学校に行くのは貴族の子供だけです」
「貴族の子供だけ??」
「えぇ、そうですわよねあなた」
「あぁ、平民の子供は学校には行っていません、冒険者予備校に入学できる年齢までは、家の手伝いが主で、後は親と一緒に採集に出かける程度です」
「……ですがギルド登録はできませんよね?」
「えぇ、ですから法を破っている者が多くおり、それが暗黙の了解となっているのです」
話を聞いていた他の3人も含めて驚きを隠せない。つまり読み書きが出来る子供が少ないっと言うことである。大人の中でも仕事に関係すること以外の読み書きは出来ないという事になる。
「……300年前からそうだったっけ?」
「300年前の方がまだ読み書きが出来る人族は多かったと聞いたことがありますが、教える者が少なかったという話はあります」
「そういえば、冒険者ギルドに子供はいなかったなぁ~」
「そうだな、ウィステリアでは当たりまえに子供がいるからな」
「そういう事もあり、陛下は改革をしたいと望んでいるのですが、反対する者も多くて」
「反対ねぇ~」
伯爵が言った言葉で雪華は反対の理由の見当をつけていた。要は平民の識字率があがれば、文字を覚え読み本も読み知識や知恵がつく、そうなれば本来知る必要のない事、貴族のしていることや平民に不利益が多いことが知られ暴動を起こされるのを避けたいのだ。
「マリエッタ伯爵夫人はどうお考えですか?」
「私ですか? そうですね平民が文字を読めるようになればお互いに良いことや悪いことはあると思いますが、間違いを正すには必要なことかと存じます」
「ウィステリアと同じ事が出来るかどうかという点では、難しいのではないですか? ウィステリアでは姉が目を光らせているので、嘘も誤魔化しも全く出来ませんから、その反面そういう事が出来ない領土では受け入れる方も大変かと思いますよ」
夏椰の言うとおりである、ウィステリア家と言えば、元は陰陽師一家の神崎家である。陰陽師に魔法が使えるようになったと思えばよい、ついでに雪華は始祖の魂を持つ為普通の魔術師ではない、そんな彼女は自身の力と精霊等を扱い領土を見て目を光らせており、陰陽師でありこの世界で目覚めた元神崎家の使用人陰陽師達が領地管理に指導を行っている事もウィステリアを真似できない要因の一つである。
「取りあえず、明日陛下のお話を聞いてからね、改革等の話は陛下がどうしたいのか等も解れば良いけど、あまり貴族のイザコザに巻き込まれたくないし、今回は観光が第一目的だから、そっち優先で動きますよ」
「はい解っています侯爵様」
雪華は再度念入りに「観光目的」を強調して告げていた。その後は夕食を共にして、それぞれの部屋に入った。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。