29話 ベルフィント伯爵と国王が動く
その頃、警備隊長の上司であるジョージ・グラマン大佐が、直属の上官に話そうとしたが、直属の上司というのがブランツ男爵の派閥の人だった。
そして報告に行くが留守のため、熟考した結果マルク・ベルフィント伯爵邸を訊ねた。彼は王宮内の派閥争いを知っており、陛下がスキルマスターやウィステリア領の事を大変気にかけて居ることも知っていた事もあり、上司がいないという事を理由に、マルク・ベルフィント伯爵を訊ねたのだ。
「おやこれはグラマン大佐ではありませんか、どうされました?」
「夜分に申し訳ありません、ベルフィント伯爵に内密でご相談したいことがございまして、訊ねた次第です」
ジョージ・グラマン大佐は執事に対して簡単に説明をした、そして一度伺ってくると話し、暫くして戻っていくと通してくれた。
「どうしたんだね、グラマン大佐、内密の相談とは?」
「実は、今牢にある者達が4名とらえられているのですが、上司に報告に行くと留守だったので、伯爵に報告をと思いまして」
「私に報告しても良いのかね、君の上司は気を悪くするのではないのか、確かブランツ男爵の派閥にいる者だったと思うが」
「えぇ、ですからブランツ男爵に知られる前に、ベルフィントフィント伯爵にと思った次第です」
「ふむ、でぇ何だね、相談とは?」
「現在牢に入れられている者達は皆ウィステリア領の者でスキルマスターを名乗っているのです」
「何っ! ウィステリアのスキルマスターだと! 何故捕らえられている!」
大佐の話を聞いてベルフィントフィント伯爵は、極秘で会ったあの4人を思い出していた。
「それは部下が冒険者ギルドのギルドマスターヘイゼル・ロイズから、偽物の冒険者ギルドカードを持っており、ジャイアントベアを倒したと絵空事を言う不届き者だから捕らえるようにと依頼してきたのです」
「何をバカな!! ジャイアントベアは冒険者でも討伐が出来る筈だ!」
「確かにジャイアントベアは本来冒険者が討伐しても良いのですが、それができないため、軍が討伐しているというのが暗黙の了解となっています、冒険者ギルドでは、他の冒険者達も皆、軍のジャイアントベアを盗んできたんだ等と言っておりまして」
「その者達はなんと言っているのだ?」
「ジャイアントベアを冒険者が討伐してはならないなんて決まりはないは筈なのに、何故換金もしてくれないのかと、それと……冒険者ギルドにあるカード鑑定魔導具は、正規のウィステリア製ではない、他国製の物だと言っています」
「冒険者ギルドの本部はウィステリアにある、そしてカード鑑定の魔導具も全ての支部はウィステリア本部から支給されているはずだ、そこは調べたのか?」
「いえ、まだ……というか、あのギルドマスターはブランツ男爵と繋がりがありますので、それに……」
「ハルシェット辺境伯か……」
「はい、それもあってあのギルドは、本来本部は王都にあるべきだと主張し、自ら本部長と名乗っているのです、どうやらそこも彼らに指摘されたようです」
「当然だ! ウィステリア領の者ならば誰でも知っていることだ、とにかく陛下にご報告するべき案件である」
「陛下にですか?」
「そうだ、彼らは只のウィステリア領民ではない、スキルマスターと言うのも事実だ、だが調べがつくまでは申し訳ないが牢に居て貰うしかないだろう、下手に動くわけには行くまい」
「伯爵は、彼らを知っているのですか?」
「あぁ知っているとも、ウィステリア領から来た4人のスキルマスターとは会っている、いいか決して失礼の無いよう丁重に対応しろ、いいな!」
「畏まりました、ただ直属の上司にはなんと告げたらよいか……」
「……そうだな、一応報告しに行ったが留守だったので私に報告したと素直に話しておいてもいいだろう、この一件最悪の場合はウィステリアを敵に回しかねない状況だ、そうなれば連中も生きてはいまい」
「ウィステリアを敵にですか?」
「そうだ、全く……ギルドマスターめ何をしてくれる」
「それと彼らの冒険者カードですが、ヘイゼル・ロイズが持っているとの事です」
「……返していないのか!」
「偽物だからと返さなかったようです」
「なんてバカなことを自分の首を絞めるような行いをしたな」
「ただそのカードを悪用されないように術はかけてある、と女性は言っておりました」
「そうか、あの方がそう言ったか、ならばとりあえず何かされる事は無いだろうが、それも陛下に報告をする」
マルク・ベルフィントはそう言いながら、執事に王宮に行く為準備しろと命じ、大佐を帰宅させた。
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王宮に来たベルフィント伯爵は、緊急事態の為王に極秘に謁見を申し出て、執務室で待っていた。暫くすると側近が王の来室を報告してきた。その声を聞きドアの方を向きながら頭を下げている。
「こんな夜更けに何事だ、ベルフィント伯爵」
「緊急の極秘事項です、出来ますればお人払いを……」
マルク・ベルフィントとそういうと、レイモンド・フェスリアナ国王は目配せをして全員に部屋から出るよう命じた。2人だけとなった部屋で、王は再度、何があったのか話すよう促す、そしてジョージ・グラマン大佐が話した事を、全て王に報告した。
「……はぁ~、なんて事をしたのだ」
「いかが致しましょうか?」
「取りあえず、冒険者ギルドの捜査をする必要があるな、正規品を使っていないのは違法と見なしている。そしてそこからブランツ男爵やハルシェット辺境伯との関係を示す証拠でも見つかれば良いが、恐らく男爵は捨て駒にされるだろう」
「おそらくは、そうなるでしょうな、ですが時間をかければ証拠なども全て消されてしまう可能性がございます」
「ふむ、ならば私の親衛隊を向かわせよう、私の勅命として書簡を持たせれば、問題なかろう、今から書簡を作り今夜中に捜査をさせればもみ消されることはないだろう、4人の冒険者カードも見つけさせよう」
「男爵たちがいない間に、と言うことですな」
「そうだ、明日まで待っていては面倒事が増えそうだ、お前は証拠が見つかり、ギルドの捜査が終わったら、4人をお迎えする準備をしてくれ」
「畏まりました」
2人で話がまとまると、国王は新鋭隊長のマイク・ゴラン隊長を呼び出し、書簡を渡して説明と命令をした。
ゴラン隊長は命じられたとおり、親衛隊の部隊を連れて冒険者ギルドに入っていき捜査を行い、問題のカード鑑定魔導具を没収した。そして事務所やギルド長室など全てを調べ上げられ、いくつかの書類なども含めて没収された。
冒険者ギルドにいた従業員や冒険者達は驚き、「なんでここに親衛隊が来るのか」「何が起こっているのか」等と騒いでいた。そしてギルドマスターヘイゼル・ロイズと数名の従業員が連行されていった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
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