21話 国王からの密書
ベルフィント領の領都の宿屋で遅い昼食を摂っている頃、検問で雪華達と話をした兵士がウィステリア籍の4人の事を上司に報告をとして伝えた、
「それは本当か?」
「はい、この目で確かに確認いたしました」
「ウィステリア籍の者……全て4人に関してはランクもレベル数値も全く見えませんでした」
「全く?? お前はAランク冒険者ではないか、それでも見えないと言うのか?」
「Aランク冒険者の場合、上位ランクであれはレベル数値が高ければ相手のランクは見えると聞いていますが、同じAランクでも下位ランクの場合は全く見ることが出来ません。それ故私が見えないと言うことは、あの4人はAランクの上位ランクか、それ以上で、それもかなりの高レベルに位置する者であると申し上げる以外に言葉がございません」
報告を受けたのはベルフィント領軍に籍を置く警備隊長である。貴族ではなく平民である。だが受けた報告は領主にせねばならない。
「その冒険者達はいまどこにいる?」
「犬族のロドリア商隊と一緒にいたので、宿屋かと思われます。今回はいつもの護衛隊ではなかったので、彼らが護衛をしていたとの事だったので、おそらくは」
「どこの宿屋か調べろ」
「はっ!」
敬礼一つして検問兵は部屋を出ていった。隊長は上官である貴族に報告をしなければならない、その為には情報が正確でなければならないのだ、何故なら相手がウィステリア領籍の上、上級ランク冒険者の可能性があるからである。
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昼食を済ませた一行はそれぞれの部屋に入った、ロドリアは商隊の者達は商品を納めに出かけていった。ロドリアの仕事が終われば直ぐにでも出立する事を申し合わせ、早ければ明日にでも出立をという事になった。
『報告、検問の兵士が、上司に報告をした確率は100%、領主の関係者が出てくる可能性は……90%です』
「高い数字だわね」
『恐らくこの領地に留まることになりそうです』
「……それは困るんだけどなぁ~」
『領主ではなくその関係者の目的はウィステリア籍の者に接触してくる事と思われます』
「確かに……でも、会って何を考えているのかを見極めるチャンスでもある、暫く様子を見るわ、敵対するなら潰すしかないわね」
始祖の残滓のユニークスキル「見通すもの」と話を、いや念話で話し終わった頃、部屋をノックする音がした、相手は弟と同級生である。
「どうしたの?」
「話がある」
「何?」
雪華は3人を部屋に招きながらドアの外に探りを入れたが特に問題はなかった、だが念のために強めの結界を張った。
「どうしたのよ?」
「領主についてだよ、どうするんだ?」
「どうって、もし接触してくるなら会ってやるだけよ」
「お前一人でか? 雪華」
「そりゃ領主どうしとなるとそうなるんじゃない?」
そこまで言うと、雪華一人では危険だと言ってきた。ただ雪華の力は誰よりも強い限界突破である、負けることはないのは皆も承知している。
だが国中の領主がとは言わないまでも、ウィステリア領は有る意味孤立状態であることには変わりないのである。「嫌われている」ただそれだけが懸念材料である。
「それは解っているけど……でもねぇ~私の目的の一つにはピートを探す事よ、となれば結局旅に出ることになるのに、ここで引いたら、旅に出られ無いじゃない」
「ピートを捜すのは俺たちでするから、お前はウィステリア領で待っていろ」
「兼吾の言うとおりだよ、それにウィステリア領に領主が戻ったという報告を公にはまだしてないだろう」
「そうだよ姉貴、だから他領の領主と今会う必要は無いと思うぜ」
「公にしてなくても、恐らく水面下では知られているわよ」
「でも」
「それに、領内のことは把握しているって言ってるでしょ、他領との交渉は私の仕事なのよ」
「小花衣さんがいないのに姉貴一人で会うのは危険だって言っているんだよ」
「心配してくれてありがとうね夏椰、でもこれは私の仕事よ、小花衣がいようが居まいが、関係ない」
言いだしたら聞かないのが雪華である、それも重々承知している面々でも、やはり釘は指しておきたいと思ったのだ。
「わかった、じゃ本当に気をつけるんだぞ」
「えぇ、それよりあんた達3人も気をつけてね」
「解っている、取りあえず出発までは宿屋からでないって事でいいな」
「えぇ」
「姉貴もだぜ」
「解っている」
4人が話をしている頃、ロドリアはこの地で商品を納品していた、そして新たな商品を買い付けていた。そんな所に声をかけられた。
「もし、ロドリア商隊を纏めているものか?」
「えぇ、そうですが、あなたは?」
「あぁ失礼、申し遅れました私はラントと言います。ある方の使いで伝言をお届けに参ったものです」
「ある方の使い」
「はい、この手紙をあなた方商隊の護衛をされている方にお渡し下さい」
「……この手紙を、ですか?」
「よろしくお願いします」
そういうとその場から立ち去っていった。そしてロドリアはその手紙の封蝋を見て驚きのあまり、早々に買い付けを終え宿屋に向かった。そして慌てた様子で雪華の部屋のドアを叩いていた。ドアを開けたのは夏椰である。
「どうしたんですかロドリアさん」
「こっ、これを……」
「……手紙?」
「預かりました、あなた方にお渡しするようにと……」
「ロドリアさん、誰かに付けられていませんでしたか?」
「……誰かって……」
ロドリアの言葉が終わらない内に雪華は外の様子を見て気配を探る、付けられていないかどうかである。そして夏椰もロドリアの背後や廊下、階下まで探りを入れていた。
「いない……」
「こっちも気配はないわね、夏椰、簾と兼吾も呼んできて」
「解った」
「あっ、あのぉ~」
夏椰はそう言って、部屋を出て二人を呼びに行った、雪華はロドリアを部屋に招き入れて、手紙を見ていた、そしてその封蝋を見てロドリアに聞いた。
「ロドリアさん、この封蝋は? どこのですか?」
「この封蝋はベルフィント領主のものです」
「ベルフィント領主の……」
「持ってきた相手の名前は?」
そこに質問をしながら入ってきた兼吾と、簾と夏椰がいた。
「ラントっと名乗っていました」
「ラントねぇ~」
「姉貴、中をみた?」
「まだよ、今あけるけど……」
「けど?」
「なんか分厚いのよね? 何だろう?」
「鑑定してみたらどうだ?」
「うん、したんだけど……手紙がもう一通入ってる感じ」
「もう一通??」
「うん」
全員で顔を見合わせたあと、雪華は手紙の封をあけた、するともう一通の手紙が出てきた、そこにも封蝋があって、それを見た瞬間、雪華は目を細めて睨みつけていた。
「姉貴??」
「どうした雪華……?」
「いい、みんな声を出さないでくれる、何を見ても絶対に声を出さないで!」
「わっ、解った!!」
「ロドリアさんもよ」
「解りました」
そう言うと、ロドリアは両手で口を押さえていた。その様子を見ながら雪華は中に入っていたもう一通の手紙を出してみんなにその封蝋を見せた。
その瞬間口をつぐんでいたロドリアが叫びそうになり、簾が上から手を当てて叫びをおさえた。雪華はその瞬間に遮断結界を張った。これで誰からも聞こえない、外からも見ることが出来ない状態になった。
「姉貴、それって王家だよね」
「うん」
「王家から直接の手紙か?」
「なんて書いてある?」
「読んでみるわ、ちょっと待って」
その内容を見るに、雪華は更に目を細めて溜息をついた。それをみた面々は内容が気になって仕方ない。
「おい」
「あぁ、実に手の込んだやり方よね、こんな風にしか出来なかったと」
そういうと雪華は王家からの手紙を読んだ。
『拝啓、ウィステリア領主殿、私はこの国、フェスリアナ王国の国王、レイモンドと言う。今回ウィステリア領主が冒険者として旅に出たという報告を受け、ベルフィント領主に頼んでこの様な連絡方法を取らせて貰った、出来れば極秘裏にベルフィント領主の屋敷で会いたいのだが、了承して貰えぬだろうか? そして出来ることならばご同行のウィステリア籍のお三方も共に……もし来て貰えるのであれば、明日21時に紅葉の森の入り口に来て貰いたい、迎えのラントを行かせる。』
手紙の内容は王国の国王としての言葉と言うより知人に宛てた手紙という風に感じる内容である。しかも拝啓から始まる手紙を今のこの世界で書くだろうか、そんな事を考えていたのは雪華だけではない、ウィステリア籍の4人全員が思った事だった。
ただロドリアには、何故国王が下でにでる様な手紙を出す筈はない、何かの罠だと言い張った。確かにその可能性も否定は出来ない。しかし……と思ったのは4人だけだった。
「ロドリアさん、ここに書かれている紅葉の森の入り口ってどの辺りですか?」
「それは領主様の城の右側に広がる森のことです」
「あぁあの大きな森ね」
「魔物が出そうだけど」
「俺たちの敵ではないと思うけどね」
「行くんですか?」
「まぁ招待されちゃったし、国王直々だからね」
「そうですか……ではくれぐれもお気をつけ下さい」
「えぇ、でもロドリアさん、私たちが出かけること。国王に会うことは誰にも言っちゃだめですよ」
「解っています」
ロドリアさんは溜息をついて諦め口調で言った。ただ今回は4人揃ってって事なので、何かあっても大丈夫だろうと考えることにした。
そして雪華はこっそりと式神をロドリアに付けていた、人族がロドリアに悪さすれば反撃できる程度の式神を付けたのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。