17話 最初の関所とチヨリ村
無事に夏椰とロドリア商隊と合流してから出発、山を越えて下りきった所に関所が見える。この関所を越えるとベルフィント領内となるのだ。
ウィステリア領程大きくはない中堅クラスの領土でベルフィント伯爵家の領内となるのだ。そしてこの領内での最初の村に到着する事になる。
「関所だな……」
「そのようだ」
「守護者が言っていた警戒しているってのはこの領主ってことかな?」
「ウィステリア家は侯爵の地位にあるって月宮が言っていたけど、五階に当てはめると、うちの方が上位らしいぜ」
「五階かぁ~、嫌な事を思い出したわ……」
雪華が嫌な事と言ったのは、クエストをこなしたり、領土拡大をする度階位が上がっていき、その都度王宮に呼び出されたからだ、それも楽しいはずのゲームでだ。
故に冒険者領主として認められ、冒険者家令を置くことも認められていた。なぜそんな事になっているのか理由がさっぱり解らなかったのだ。
「公・候・辺境泊・伯・子・男爵って奴だよな」
「あれ、辺境泊の方が上位だったっけ?」
「正しくは中央から離れて大きな権限を認められた地方長官って意味だよ、単なる伯爵より上位で侯爵に近かったりする。前の世界で、特に俺たちの国では貧乏貴族っていう意味合いが強かったけど、事実は異なるのさ、とはいえこっちではどういう扱いだろうね」
「とりあえず行きましょう、何も悪いことはしていないし、同じ国民だからね」
「とはいえ、警戒はして置いて下さいよ、レティさんとサマーさん、お二人のお立場がお立場ですから」
「解っています」
「了解です」
そう言って一行は関所に向かった。そこでは冒険者カードを提示するだけでよい。冒険者カードには所属国と所属領が示されているためである。
他領の者でも基本的に異国の者でない限り、足止めを食らうことはない。「領」とは前世界の都道府県に当たるためである。
また冒険者ではない者は身分証明書(IDカード)を示せば良いだけである。ロドリア商隊の者達にとっては、商業ギルドのギルドカードを示せば良いのだった。
ただ雪華たちの所属領が「ウィステリア領」という独立自治領で治外法権という事もあり、ある意味多国籍と認識されかねないのだ、そのための注意勧告であった。当然ウィステリア領では領主の許可がない者は入領出来ない決まりである。
「よし通れ」
「ありがとうございます」
一行は足止めをされずに、とりあえずは関所を通過し、一安心である。それから暫く下りが続いて、20分程馬車を進めた場所にある小さな里山の「チヨリ村」という所だ。30世帯程が住んでいる小さな村である。
山越えをしてくる冒険者や商隊の者達の為にできたといってもいいのだろうが、宿場町という風情で冒険者ギルドなどはないが防具や武器、旅に必要な物を揃えるには丁度良い村である。
「さて、チヨリ村に着きました、もう陽も沈みかけていますので、宿屋に向かいましょう」
「そうだな、おなかも空いたし」
そう言いながら、ロドリアについて宿屋に向かった、雪華は1人部屋で後は男衆ばかりのため、3人部屋にスキルマスター達にあてた、ロドリア商隊はそれぞれいつも通りに部屋を取ったのである。雪華は部屋を見渡して一息ついた。
「やれやれ、車のない世界って不便よね」
『材料を集めて車を作製しますか』
「………久しぶりに声を聞いた気がするんだけど」
突然声が頭に響き驚いた雪華は一瞬沈黙して、相手に話しかけた。最初にここで目覚めてから何度か話したが、村人と話して情報を取り始めた頃から話しかけてこなくなっていた始祖の魂の残滓でユニークスキルの「見通すもの」
「あんた、今まで何してたの?」
『何も、共に話を聞いていました』
「それで、何か助言が合ったりはする事は無かったわけ?」
『現状、助言の必要性を感じていません、今後は必要ですか?』
「……あんたがこっちの世界の亊を十二分に知っているのなら助言が欲しいわね」
『畏まりました』
「ならばピートの居場所って解る?」
『情報不足です』
「ならば、ここの領主について何か解ることはある、あるいはこの村についてとか、後王都や王族なんかのこともね」
『この村についてはロドリアが言った以上のことはありません……ただ、領主の関係者はいるようです』
「やっぱりか」
『先ほどの検問で、兵の1人が領主に連絡をした様子が見られました』
「なるほどねぇ、やっぱり動いていたのか」
『こちらの領主、ベルフィント伯爵よりも、別の男爵と思われる者が探りを入れているようです』
「……やっぱりそうか、私たちをつけていた者の気配を感じていたけど、男爵かぁ、でも男爵家って聞けば田舎貴族って感じだけど合ってる?」
『はい、間違いございません、また上位者の命令を断ることが難しいようです』
「その男爵の素性って探るには、やはり式神を使うしかないわね」
『必要な駒として動く者が必要というのであれば、式神風情よりも悪魔召還などで、悪魔を支配下に置けば良いのです、器を用意し上級悪魔を召還すれば逆らえないはずです』
「……始祖の魂の残滓のくせに、悪魔を召還する事を進言するの? 始祖って神様じゃなかったの?」
『始祖は神々の頂点、ですが悪魔はあくまでも種族です』
「……種族だったの、あれ?」
『はい、ただ魔力は多く取られるでしょうが、問題ありません』
「魔力を多く持って行かれるのって問題あると思うけど」
『大丈夫です、逆に配下になるのを喜ぶのでは?』
「……ちょっと考えものね、まぁ~いいわ、あんたの意見は参考にするって事で頭の隅において置くわ」
雪華はそう言って、色々考えることにする、またこの話ピートに話すとどうなるかも気になる所である。
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一度部屋で休み、それぞれが1階の食堂に降りて、夕食を摂ることになった、取りあえず目立たない様に奥の部屋を頼んだので、そして雪華が遮断結界を張った。
「……思うに、何でいつも私が結界を張るわけ?」
「この中で一番強いのはお前だからだよ」
「簾のいう通りだよ」
「あんたたちも遮断結界くらい使えるでしょが!」
「それでもだ、だいたい俺達は規格外じゃねぇし」
「規格外じゃなくても限界突破者でしょうが!」
「姉貴、先輩たちの言うとおりだぜ諦めな」
同級生や弟たちの話を聞いて不公平だと文句を言っている雪華たちを見て、ロドリアは溜息をついていた。
「それはそうと、ロドリアさん他の商隊の人たちは?」
「彼らは別の所で食べています」
「別の所で? 一緒に食べたらいいのに」
「それは無理でしょう、第一今この場にいるのは、幹部ばかりですから、それにウィステリア領を出れば私のような犬族は嫌がられますから」
「それって差別よね」
「多種族共生はウィステリア領だけですので、今後は私と一緒にいることに不快な思いをされることもあるかと思います」
「ちょっと待て、ロドリアさん商隊にいるのは殆どが人族だろ、彼らもそうなのか?」
「全員では有りませんが、中には煙たく思っている者もいます、ただ仕事だと割り切っているのでしょう、他領に行商に行くときはいつも別々に食事をします。ウィステリアでそのような事をすれば逆に彼らが叩かれるからです」
言われてみればそうである。といってもスキルマスター四人と商隊の代表のロドリアだけの五人だけであるが、我々の話を誰かに、特にスパイに聞かれるわけには行かないのも事実である。
またロドリアは犬族である、周りはそんな彼らに対して明らかに嫌そうな態度である。
「まぁ、状況は理解できたわ、でぇ出発は明日ですか?」
「はい今日はここで一泊し、明日必要物資を購入してからの出発となります」
「必要物資はどれほどいるんですか?」
「取りあえずこの領土を抜けなければ王都には付けません。食料補充などが主な買い付けになります、後は薬草などですね」
「薬草? 薬関係?」
「はいこの先も魔物は居ますので、そのときの為の薬です。毒薬を使う物も居ますから」
「なるほど、じゃこのお金を使って下さい」
雪華はそう言いながら中銀貨五枚(50万円)をロドリアに渡した。その金額に目をむくロドリアは慌てて返そうとする。
「だめですよ、ここでこんな大金だしたら」
「大丈夫よ、この結界外からは見えないから」
「しかし……みなさんを王都にお連れするのが今回の我々の仕事でもあります、お客様から必要以上の代金を頂くわけには……」
「こっちは人数が多いからね、物資も多くなるでしょ、それでなくても護衛隊をウィステリア領に置いてきたんだから、これくらいはさせて下さい」
「そうそう、それに周りを見ればあの態度だ、パロル隊長達がいなければ買い付けも大変じゃないのか?」
中銀貨1枚で前世界の換算で言えば10万円にあたる。その中銀貨が五枚となると50万円である。旅費としては法外である。それに確かに浅井賢吾のいう通りパロル隊長達がいた為、文句を言いながらも取引をしてくれた者達もいた、だが今回は誰もいないのだ、そのためちゃんと買い付けが出来るかどうかも不安である。
「まぁ雪華が良いっていうんだから貰っといた方がいいよロドリアさん」
「そうですよ、それに今後もお金は必要でしょ」
「そうそう姉貴の機嫌が良いときに貰うお金だから気にしないで下さいね」
「取引で文句がでるなら、私が対応しますよ、安心してくださいね」
4人の言葉でロドリアは戸惑いながらも礼を言って全額受け取った。正直色んな意味で嬉しかったのだ、犬族である自分はウィステリアでは自然でいられる、でも一歩他領に行くと周りに気を使いながらの商談をしてきたからだ。そこに強力な後ろ盾を手に入れた様なものだった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。