13話 領内周辺討伐と魔素過壊病
雪華が町を一人で散策していた時、スパイ臭を隠しながら町中に溶け込んでいる者達を感知能力スキルで察知していた。ただ悪さをしないのならば放置を決めている雪華である。
また町に出ているときは冒険者のレティとして冒険者ギルドで依頼を受けるなどをして相手の様子を見ていた。当然屋敷には分身雪華を置いてあり、意志疎通同調も可能である。
この日は迷宮に向かう森に行こうかと思ったのだが、町を出て少し離れた林でビッグベア3体と遭遇、ここ最近ビッグベアがよく出て行商に困っているという依頼が張り出されていた為、受けていたのである。
でぇビッグベアの皮は高めに売れるし肉も美味しいため高く買ってくれる。それもあり雪華はついでに、襲ってくるビッグベアに指一本て心臓を突き絶命させた。指から放たれる魔力の強さで心停止を起こされた様なもんだ。
それをアイテムボックスに収納して町に戻った。その一部始終を見ていたのは密偵の誰かである。雪華は承知上で討伐したのだった。
「これはレティさんビッグベア3体、早かったですね」
「さっさと終わらせたら、行商人も楽でしょ、それに傷つけていないから皮も綺麗に剥ぐ事が出来るわよ」
「確かに受領いたしました」
そう言って冒険者ギルドの受付嬢は受領印を押してくれた。すでに雪華の冒険者ランクを知っている者は、畏れて近づいてこない。「これがあの規格外冒険者の破壊神」「これがあの無慈悲なる魔女?」等という不名誉な名称が囁かれているのを知っており、聞こえてくる方に対して「何か言った?」と言いながら威嚇と恐怖の念を送っている。
相手は「何も言ってません」と言って逃げ出していた。それを横目に雪華は冒険者ギルドを出て、少しお昼にしようかと食堂に向かった。入った店にはロドリア商隊のまとめ役のロドリアさんと「暁のファルコン」のリーダーパロル隊長がいた。
雪華は店のオーナーに頼んで少し奥まった席を用意して貰いロドリアさんとパロル隊長と三人で話せるよう、誰も近づけないように頼んだ、ついでに結界も張ったのだ。
「お久しぶり出すねロドリアさんに隊長さん」
「あぁこれは、りょ、レティさんお久しぶりです」
「お元気そうで…」
「元気だけど忙しすぎてねぇ~」
「ですが討伐でもしてきたって感じですね」
「あぁビッグベア3体捕獲の依頼を終えた所なのよ」
「……ビッグベア3体って、相変わらずですね」
「まぁレティさんからすれば雑魚になるのでしょうけど、お怪我などされませんように」
「えぇありがとう、それより皆さんはどうしてここに? 仕事なのはわかるけど」
「あぁ材木の取引が終わって戻ってきた所なんですよ」
「材木かぁ~」
ウィステリアは山もあり森も林もある緑豊かな領地である、しかも何故か背後にはあの富士山が陣取っているという不思議な領地である。当然活火山だった。ゲーム時代は存在しなかった山である。とはいえ領地にすっぽり丸々入っている、以前の様に他県に跨がって存在しているわけじゃなく、そこに陣取っている為に、これも守らなきゃならんという状況だった。
そのため建材用の樹木は多く植樹されており、経済が回っているのだ。あの山の麓は元樹海というか今も樹海になっており魔物が多い、いつか調べに行かなければと思っている場所の一つでもある。
「ウィステリアの材木は建材としては良質なので、助かっています」
「儲かるの間違いだろう」
「ははっ、でも魔物には気をつけてね、いくら伐採用の材木のある場所に結界を張っているからと言っても出ないわけではないから」
「当然だが、そこにビッグベアなんぞ出たら1つのギルドパーティじゃきついと思う」
「あら、本音を言えばパロル隊長にはもっとランクを上げて貰って迷宮の森に挑んで貰いたいくらいなんだから」
「め、迷宮の森ぃぃ~~~、そりゃ無茶ってもんですぜ」
「どうしてよ、元々あそこの森を抜けて迷宮の1層~2層程度は予備校卒業生の為にランク上げと経験を積む所だったんだから」
「あの、ちなみにそのランクはどのランクで?」
「当時ならFランクでLv90~100はにはなっていたわよ、その程度で卒業だったのに」
「それって300年前の話ですよね」
「そう、今じゃ誰も行けないみたい。というか何で三桁Lvがこんなに少ないのよって話よ」
雪華としてはこのレベルの差こそ疑問の一つでもある。まぁ人族に魔素がほぼ無いことも要因の一つでもあったが、スキルの数も減っていることも原因でもある。
「ねぇパロル隊長一つ話を聞いてくれない?」
「俺で出来ることなら……」
「もちろんよ、暁のファルコンのみんなのランク上げ、してみない?」
「はぁ? パーティのランク上げ?」
「そう、今まで私が見てきた人族の中で暁のファルコンが一番適任だと思ったんだけど、どうかな?」
「どうかなって言われても……ランク上げですか?」
「そうそう、全員最低300年前のAランクになって貰いたい!! んでもってLvは当然三桁!」
「三桁!!!」
「そうよ、三桁少なすぎて将来が心配なのよ」
「将来が心配って……いったい」
「……あぁぁ~~、この話内緒なんだけど、今よりも強い魔物が出てくる可能性を考えてね、人族以外は割と魔力コントロール出来るし魔法も使えるでしょうけど、人族はそうではないでしょ?」
「まぁ、そうですが人族が魔法を使う者が多くなったり、ランクが高くなれば、昔話に出てくる魔王を思い出してしまいますよ」
「そうですねぇ、魔王は元々人族ですし、また魔王が生まれたらって思う種族は多いはず」
「そうねぇ、でもたぶん心配ないと思うわよ、そんなに魔素量が多い人族いないもの、魔素量が多くても、それを魔力に変換するスキルやコントロールが出来なきゃ魔法は使えないしね」
そんな話をしていた三人の所に、兄の春樹から連絡が来たと残滓の「見通すもの」が言っている、何かがあった、何があったのか返信してみるよう頼むと、子供の魔素が多すぎてどうすれば良いか解らないとの事。その返事に今から付属病院に行くと答えておく。
「ねぇ二人とも、ちょっと私に付き合って付属病院まで来てくれない?」
「病院?」
「どうして?」
「兄の呼び出しがあったんだけど、二人にも見て貰いたいというか、意見を聞いてみたい」
二人は顔を見合わせて了承し、三人で付属病院に向かった。
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ロドリアさんとパロル隊長と雪華の三人で付属病院に着いた。
門番に兄から連絡を受けた事を話すと、そのまま通してくれて案内をする事務方の者が迎えに来た。
「領主様、ご足労頂き申し訳ありません」
「気にしなくて良いわよ、それより兄の所に案内して、あぁこの二人も連れていくから」
「畏まりました」
付属病院の建物は何故か藤華国際大学医学部そのままである、ただ建物の高さや機材等はこの世界にあわせてあるようだが、1階はロビー2階以上が講義を受ける教室になっており3階は実験室や手術実習室等があった。
今回雪華達が通されたのはその医学部の付属病院である。
建物は横に建てられており、同じく3階立ての1棟建ちで1階はロビーで外来、2階に検査室や手術室にICUやNICU等重傷者専用病棟になっており、3階は一般病棟である。当然2階のICUの前まで案内された、事務方の者が外から声をかけると、暫くして兄が出てきた。
「雪華! すまないな」
「いいけど、丁度依頼を終えてお昼を食べていた所でしたから、でぇ一体なんです? 医者じゃない私を呼び出すような事ですか?」
「あぁまぁ、っというかそちらのお二人は、確か夏椰とお前を城に連れてきてくれた人たちだな、どうして一緒に?」
「症状を見て、彼らの意見も聞いてみたかったんですよ、旅をしているのだから、見知った症状なんかもあるでしょ」
「なるほど、そう言うことか、じゃ三人とも衣服を整えて滅菌服に着替えてくれ」
春樹はそう言うと、三人に軽装になってもらい前世界で言う滅菌予防衣と帽子にマスク手袋をつけさせられた。
何故かウィステリア領だけは前世界の影響を強く受けているようで本来ならこの世界にない機械がある。その動力源は父や兄が、そして霧島と浅井が戻ってから開発された物だった。
「雪華……」
「父さんもいたの?」
「春樹が少し気になると言って呼び出だされてな、だがこの症状確かに気になる。前に見たことがあるような感じだな」
雪華と他の二人は問題の子供の所に向かった、そして二人は顔を見合わせて頷いている。そして雪華も顔をしかめていた。
子供は息苦しそうにしており高熱が出ている。前の世界の医療機器が少ない状態のため、対処が出来ないのだ。
『体内に膨大な魔素が蓄積しています』
『見れば解るわよ、でもこんな病気見たこと無いわね』
『魔素過壊病です』
「えっ?」
「おい、これってアレだよな?」
「そうですね、魔素過壊病」
「魔素過壊病?」
「あぁ魔素過病ともいう人がいますね、体内に魔素が多くなって身を滅ぼす病気って言われてます」
「……なるほど、確かに子供の体には多すぎる魔素量ね」
「ウィステリア先生、この子人族ですよね?」
そう言ったのはパロル隊長である。自身も人族であり、昔村で見たことがあるとの事で覚えていると言う。
「ウィステリア先生は二人いるから、海李先生か春樹先生のどちらかで呼んであげてパロル隊長」
「あぁそうですね、すみません気づかず」
「でぇ父さん隊長の言うとおりなの?」
「病名は初めて知ったが、春樹が王都図書館で医学書を読んだ時に似たような症状の病名があったと思い出してな、治療法が書いてなかったらしい」
「先生この子の魔素量、もう限界こえてますよね?」
「これでは後どれくらい持つか、解らないですねぇ」
「ねぇ、パロル隊長はこの病気を見たことがあるって言ったけど、治療法は覚えてない?」
「子供の頃だったので、よく覚えてないんです、ただ凄く苦しんでいて、魔素が溢れ出ているのが見えていたんだ、でも村の連中には見えてなくて」
「そう言えばパロル隊長はオーガが先祖にいたのよね」
「雪華、そんな事よりこの溢れた魔素何とか出来ないか?」
「そうねぇ~、とりあえず私がある程度の魔素を吸収してみるわ」
「魔素を吸収??」
そう言って雪華は子供の体に手を当てて「吸引」と呟くと、子供の体から魔素がドンドン雪華の手に吸収されていった。その光景に一同が驚いて雪華を見ていた。
「あのぉ領主様、一体なにをされたのですか?」
「ん? ただの吸収スキルを使ったのよ」
「そんなスキルあるんですか??」
「まぁねぇ、でぇパロル隊長に聞きたいんだけど、この病気は昔からあるの?」
雪華がパロル隊長に質問している間だ、父と兄は子供の診察を始めた、体内の魔素が定量に落ち着いた事で危機を脱したが、また魔素量が増える可能性もあるため、暫く様子を診るため、そのままICUに止まることになった。
そして二人は雪華とパロル隊長達の話を聞くために別室に向かった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。