11話 領内の視察
冒険者ギルドから冒険者カードを更新して数日経っていた。ここ数日は城下を散策して現状の把握につとめた、お供をするのは小花衣と篠崎である。
領内には種族の差別はない、獣族も居ればオーガもいる、リザードマンもいるし、エルフ族もいて、雪華が望んで統治したウィステリア領のゲームの中そのものである。
ただ、所々にある建物の中や町の雰囲気等は藤ノ宮の面影残っている。途中貨幣価値を知るために食べ物を買ったり、服を買ったり、お店に入って食事をしたり、とにかく情報収集を兼ねて色々見て回っていた。
「ここで目を覚ましてから何度か思ったんだけど、貨幣価値がだいぶ変わってるわよね?」
「えぇ、物価が下がっていますね」
小花衣と歩きながら店や露天の値段を見ながらそういっていた。ゲーム時代の貨幣ではあるけれど、基本的に「ウィス」が単位である。平均的には平民は銅貨までで生活が出来るが、貴族は銀貨も使うことが多い。金貨は滅多にお目にかかれない代物で以下の通りある。
一応国内共通ではあるがウィステリアのみ例外的に貨幣にウィステリアの印が刻印されている。しかも魔法で細工されている為、偽造は出来ない。
1ウィス=1円
500ウィス=500円(唯一硬貨に穴が開いている)
1小銅貨=千円
1中銅貨=5千円
1大銅貨=1万円
1小銀貨=5万円
1中銀貨=10万円
1大銀貨=100万円
1小金貨=1千万円
1中金貨=1億円
1大金貨=10億円
また普段の日の子供たちはしっかり学校に通っている、これは義務教育として定着しており文字の読めない子や算術の出来ない子はいない。基本的に学校は無料である。
その分親は税を多く払っている。初等科、中等教育科、さらに高等教育科がある、保育・幼稚園と小学校が初等教育課程となり、中学校、高校が中等教育課となる。
保育、幼稚科を含め初等教育課から中等教育課までは無料である。また中等教育課程からもっと高度な学力を付ける者は受験をして藤華中等教育学校に進学することになる。
ここは本来の雪華達が通った学校そのもので、その為に入試があり、入試料と入学金や教科書などの雑費以外は無料で勉学に励めるが、競争率が激しく学力も高く難しい。
つまり雪華達元プレイヤーのSAクラスを目指すような高学歴を目指す子供達が入る学校である。
高等教育課は大学や大学院となりここは無料ではない。ウィステリア領内には大学が二つある、一つはウィステリア大学とウィステリア総合大学である。ウィステリア大学の方がレベルが高く、元の藤華国際大学であり藤華中等教育学校の卒業生が多い。
そしてもう一つのウィステリア総合大学の方はそれほど敷居が高くはなく、普通程度の成績なら受験して合格できるレベルである。
フェスリアナ王国内で大学があるのは王都とこのウィステリア領だけである。その為、多領や他国からの受験生も多くいる。
そういう環境のため、元プレイヤー達の身分証明書(IDカード)にはしっかり学歴も記載されるが、彼らは藤華出身者はそのまま、藤華中等教育学校卒業と記載され大学もウィステリア大学に名前は変更されているものの、藤華国際大学そのものだと夏椰と秋枝は言っていた。春樹と春菜達他の者の場合はウィステリア国際大学の卒業生という事になっていた。
「なんか神崎領がそのままウィステリア領になった様な感じだね」
「そうですね……、私も最初は驚いたものです、教育機関と病院は前世界の建物がそのまま残った感じです」
「そのおかげで領地管理に大きな混乱はなかったと月宮さんは言っていました」
「そうか、それは良かった。でもまぁ貨幣価値も変わっているし、慣れていくしかないわね、これは」
「雪華様なら大丈夫ですよ」
「そうです」
そう言ってくれる執事と護衛の二人は優しい笑顔をくれる。守るべき相手であり。主でもある、いつか人でなくなった時には恐らく神々の使者か何かが来るかもしれない、それまででも自分たちが守ろうと心に決めていた二人である。
「冒険者学校はどうなってる? あれもゲームと同じ?」
「はい変わりなく……」
「週末には子供達が冒険者学校に来て講義を受けています、もちろんランク別クラスです」
「そう、一度覗いてみたいわね」
「では今からでも参りますか?」
「それはダメ、明日にしましょう、急に行って困らせたくはない」
「解りました」
雪華の言葉を受け、本日の視察は終了し、城と言われる家に戻っていった。
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翌日、雪華は護衛に篠崎だけを連れて、祖父の惣摩と共に予備校へ行った。小花衣は自分の迷宮へ様子を見に出かけていった。
「悪いわね急で」
「大丈夫さ、松崎さんもお前が来るなら今日は学校に来ると行っておったからな、それに週末の方が忙しいから、今日来てくれた方がまだ助かるよ」
「平日は大丈夫なの?」
「平日は子供達は居ないだろう、殆どがI~Gランクの者も達だけだからな」
「なるほど、前と変わらないのなら18歳以上の者だけという事か、でぇその18歳は大学に行かなかった者なのね」
「そういう事だが、Gランクの者も大学を卒業して思うような進路に進めなかったり、中退したものだな、藤華の出身者もいるが本当に冒険者になるのは居ないな」
「へぇ~藤華出身者も居るんだ、皆大学進学するだけだと思ったけど」
「進学して最低限の冒険者経験をして、研究に力を入れているんだろう、冒険者として一度登録する理由は、自分で採取して研究するためという者が多いが……」
「でも採取なら、低レベルランクの仕事になるじゃない、ギルドで買い取れば済むのに」
「そこまで資金がないんだろう、お前にも経験があるんじゃないのか? 物理なんて途方もない未知な分野が満載だったしな」
「……まぁ確かに……」
「それだけじゃない、薬草・香草などの採取の場合は魔物も出るからな、最低限の防衛手段を身につけたいって事だろう、そのためEランク止まりが多いがな、偶にFランクまでいく者も居るようだが」
「ふ~~ん、それは今のランクよね、300年前ではなく」
「あぁそうだ、夏椰が嘆くようにそう言っていた」
「……やっぱり」
祖父の話を聞きながら、予備校へと着いた、門を潜って暫く行くと校舎に入れる。前の世界ではないため、上履きなど履き替えはない。
一度校長室に向かうとギルマスの松永さんがいた、学校案内についてはギルマスがするので、祖父は教務室に向かい胴着に着替えに行ったようだ。
「ご足労頂いて申し訳ありません」
「気にしないでください、突然の申し出だったし……、それとここではレティシアでお願いしますね」
「はい承知しております」
まずランク区別教室を案内してもらった、普通の学校の教室という感じである。現在はI~Gランクの教室が使用中で、Gクラスの授業を見学することになった。
このクラスは大学卒業生か一般から冒険者登録をした者のクラスであるが、クラスはAクラスとBクラスの二つある。前者は子供の頃から入学して昇格してきたクラス。
後者のBクラスは、全くの初心者のためのクラスである為、内容もゲーム時代の初心者の館でNPCに教わるような事を教えていた。基本中の基本である。
採取の仕方や魔物の種類にランクとLVの話など最低でも知っておかなければならないことを教えている。そしてクエストを受けて規定の数をこなすと昇格していくと言う基本的な事も話された。
それだけではなく魔法やスキルの種類や取得の方法等も教えていた。雪華が見学をしたのはそのBクラスである。
「松永さん、質問良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「魔力操作というか魔力コントロールなんかはどうやって教えているの?」
「初等教育学校等を含めて授業の一巻として教えられています、魔素が無い人族とはいえ、中には多少の生活魔法を使える程度の魔素は持っている者もいますで、自分の魔力を感じ取れる練習は子供の頃からしています、また自分の魔力を感じ取れるようになればコントロールの仕方を学んでいきます」
「それは初等教育課で習うの?」
「学生時代は必ず最低でも週2時間のカリキュラムが組まれています」
「そうなんだ」
「それにここ20年ほどで魔素量が少しずつ増えている子供が居るようなのです」
「増えているの?」
「はい、なぜ増えているのかは、解りませんが」
「増えているんだ、じゃレベルアップの可能性はあるわね」
まさかここに来て子供達の魔素量が増えているなんて聞けるとは思わなかった、それが増えていれば魔力もまた増える、ただ魔素を魔力に変換できるかは、また別の話でもある。
「じゃスキルのランク上げなどは教えていないのですか?」
「スキルのランクあげですか? スキルにランク上げと言うのがあるのですか?」
「………? もしかしてスキルにもランクがあってあがる事をご存じない? 」
「あぁいえ、ランクが在るのは存じております、ただえっと……詳しくは解らないのです、私も気づいたらスキルが1から2にあがっているのを見た覚えはありますが、どうやってあがっているのかまでは知りません」
これを聞いて雪華と篠崎は唖然とした、当然ゲーム時代はあったからで、そのためスキルマスターにまでなれるのだ、篠崎はいくつかのスキルを最高ランクまであげられたが、全てのスキルを拾得できなかったのだ。
またスキルはその種類によって最高ランク値が違う為、知っておく必要もあった、それは初心者のレベルでは知ることが出来なかった、中堅レベルのあるイベントで聞かされることである。
つまりこの世界に中堅レベルがいないという事になる、Aランクのギルドマスターがいてもそれを知らないと言うことは、本来の中堅レベルでは無い為、そういうイベントが出現していない可能性がある。
ただ運営が存在しないためその辺も変わっている可能性はあるが、冒険者レベルの低さはここにもあるのか?と雪華は考えざるを得なかった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。