1話 ゲーム内での会話
VRMMORPGゲームハイフリーワールド内のフェスリアナ王国、それが今ゲーム内で雪華や廉達が所属している国である。その国内の辺境に近い場所にあるウィステリア領の、ある村の宿屋に「天神将」のメンバーがいた。
本来なら正式版稼動から3年目でウィステリア領を領主間戦争によって手に入れて領主となった雪華の城で集まると思っていたのだが、冒険者として主に動いていることもあり、仲間が集まりやすいようにと宿屋に集まっていたのだ。
そして正式版稼働から早4年、本来なら大学4年生で就活時期ではあるが、籐華国際大学の選抜特待生クラスにいる雪華と廉、そして兼吾は揃ってメルリア国のバード大学に留学していた。
この頃にはゲームも国内だけでなく世界でもログインできる仕様になっている。
その為人種間や国籍間でのトラブルも増えている状況に辟易している雪華であった。
「ねぇ、この状況どうするよ」
「どうするって言われてもなぁ~既に俺たちの手からは離れているし、運営に任せるしかねぇじゃん」
「運営忙しそうだしな」
そう言ったのはハイエルフ族のセレスティア、通称レティである雪華と、人族のロインである廉と同じく人族のノアこと兼吾である。
「確かにこのままだと戦争が起こりかねない、世界大戦とか…」
縁起でもないことをあっさり言った人物こそ魔人族のピートである。魔人族にしては頭に角があるだけで、後は普通の冒険者っぽい格好である。また国籍はメルリア人の男性であるという自己申告であった。
「リアルで出来ないならこっちで戦争しようって事か、あり得そうで怖いわ」
「でも一応戦争期間はイベント扱いだからな、そうそう大事にはならないんじゃないか? それよりもうちのギルドの人数も増えたし、そろそろ拠点くらいあってもいいんじゃない?」
「ふむ、確かにロインの言うとおりだな、ギルマス」
「はぁ~~~~何で私がギルマスなのよ、ピートがすればいいのに」
「二人は限界突破な上規格外だからねぇ~他のメンバーはどっちでも良いって事だったし」
「そうだな、俺もそう思う、だいたいレティの方がリーダーっぽい、ピートは強いけど何故かレティを守るのを最優先にして暴走ぎみだからね」
「このウィステリア領主はレティだし、いいんじゃないのか?」
「いっそ城を拠点にしても良いんじゃねぇ?」
「………自分たちの迷宮があるじゃない」
レティは盛大な溜息をついてピートを睨むが、相手は笑っているだけである。このゲームの最高到達レベルは1000、ピートと雪華のレベルは既に1200を越えていてスキルマスターでもある。他のメンバーも全員スキルマスターなうえ限界突破者であるが1100程である。ピートとレティの二人は既にあり得ない規格外レベルなのだ。
正式版になってまだ4年だと言うのに既に限界突破とか普通はあり得ないのだが、何故か天神将メンバーはある魔物の森のラスボス討伐してレベルアップ率とスキルアップ率が100%という飛んでもないスキルを手にしていた。但しこのスキルある一定以上の条件と運が重ならないと出現しないと言うものだった、それにたまたま出くわしたのが天神将メンバー全員だったのだ。
更に運営からは世界にまで広がったプレイヤーの管理が大変な事もあり、このとんでもない限界突破者集団でもある「天神将」にGM権限を与えており、違反者は垢バンされたのが1000人以上いる。
現在の「天神将」は日本人が5人で他5人は多国籍でメンバー10名全員がスキルマスターで、限界突破者なうえGM権限を持っており、うち二人は規格外レベルのオールマイティーである。
四人がギルド拠点をどうしようかと話し合っているときに、宿屋のマスターから客が来たと伝えられた、それは「情報武術会」というギルド名のギルマスでサマーと言う人族の人物である。
「失礼します。ピートさんロインさんノアさんお久しぶりです」
「ようサマー久しぶりだな」
「元気そうだね」
「元気が一番」
「はい、お陰様で色々忙しくさせて貰っています」
「ちょっと、三人に挨拶して私は無視か!」
と、少々むくれ気味にレティであるが、ピートもロインもノアも笑っているだけである。
「別に無視はしてねぇよ、それより連絡の一つくらいくれてもいいんじゃねぇか姉貴」
「……こっちでもそう呼ぶか、あんたは」
何を隠そうサマーとレティはリアルで実の姉弟である。姉がひとりメルリアに行ったため実際には会えず、会えるとすればゲーム内でアバターを介してだけである。
「でも何で俺たちがここにいるって解った?」
「マリンさんが教えてくれたんですよ、今頃ウィステリアの隅っこで顔あわせてるじゃないかと」
マリンと言うのは人族でフリフリの服が大好きな変わった女性であり、無類の動物好きという変人で「天神将」メンバーのひとりである。
「でぇ何の用でこっちに来たのよ」
「あぁそれな、実は戦争クエストの情報を掴んだんだけど、ちょっとまずいような気がしたから知らせに来た」
「まずいってどういうことだ?」
「俺たちのギルドがどんなギルドかは知っていますよね、姉貴以外の皆さんは」
「あぁ 知ってるけど」
「最近うちのギルド内で嫌な雰囲気とか出始めていたんです。それは姉貴には伝えていたんですが、ここ1ヶ月ほどギルド内で国同士にグループを作って抜けていく者が続出してまして」
「何だそれ?」
「それって、つまり…」
「やっぱりそうなったんだ、恐らくうちのギルド内でも起こりそうだね」
「うちも??」
レティは事前に弟にだけギルド内で分裂が起こることを知らせていた。そしてそれが始まりに過ぎないことを示唆していた。つまり大規模戦争の勃発である。
現在世界中でログインできる状況で老若男女、政治家や投資家等も参加している場合がある。また軍関係者が訓練と称して参加していることも水面下ではおこっていた。
つまりゲーム内でスパイ活動をしている者もおり運営側はそれの対処に忙しく、プレイヤーの管理にまで手が回らなくなってきている状況だったのだ、その結果限界突破者にGM権限を与えたと言うのが本当の真相である。
「うちのギルドで多国籍な人って五人いるでしょう」
「……そうだな、ピートにジェノにマリオ。エルネシア、タイガーだな」
「ピートは何か言われてないの?」
「俺か? 俺は…声はかけられたな、でも断ったぜ、俺はレティといる所にいるって決めてるからな」
「大丈夫か?」
「平気だから気にしなくてもいい」
ピートは笑いながら断言した為、雪華意外の皆は呆気にとられていた、「国を捨てる」とハッキリ言ったも同然であるからだ。前々からピートと言う人物に対して、「どっかで会ったことがある」「懐かしい」でも「何か隠している」という感じを持っていたからだ。信用しても良いとは思うが、国を捨てると言う意味を本人はどう思っているのか不思議でならなかった、あまりにも躊躇なくあっさりと決めた発言だったからだ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「情報武術会」からの情報を受けて数日後、急遽拠点をウィステリア城と決めて「天神将」のメンバー全員が珍しく揃っていた。日本人半分残りが外国人である。
ギルドマスターであり魔術師でハイエルフのレティシア、通称レティ(雪華)
サブマスターであり魔術剣士で魔人族のピートは連合国(メルリア国)所属
魔法加工技術士で人族のロイン(霧嶋 廉)
弓使い魔法師の人族のマリン〈宮代 茜〉
剣士でドラゴノイドのジェノはエリン王国(ギリス国)所属
錬金術師で人族のノア(浅井 賢吾)
忍者で人族の狭霧〈望月 狭霧〉
召喚士でエルフのマリオンはフラク王国(ブルゴ国)所属
ヒーラーで人族のエルネシア、通称エルはロロロア帝国(ソルア国)所属
戦士で人族のタイガーはストラン人でその他の小国所属
全員がスキルマスターであり限界突破者のうえ運営側よりGM権限を与えられた10名、内二人は規格外
※()内の指名は籐華中等教育学校のSAクラスメート
※〈〉は日本人のリアル名
「でぇその情報からどうだっていうのよ、このウィステリアが狙われるって事?」
「ウィステリアじゃなくて、日本人が一番多い、このフェスリアナ王国が標的にされる可能性が高いって事!」
「って事は国からの要請が来る可能性があるって事か」
「なるほど、そうなれば確実にうちのパーティーは強制参加と言うわけだ」
「えぇぇ~そんなぁ」
「めんどくさい」
「そもそもなんでこの国が狙われるんだ」
「布石じゃないかな」
「布石?なんの?」
支配下に置いても意味もないとは言い得ない、実際このフェスリアナ王国はリアルな日本と違い、領地や魔素量に鉱物資源が多いという利点がある。
特にその中でもウィステリア領はその筆頭といって良い程の豊かな領土である。ただその分強い魔物も多いが、それで自分たちが自由に使えるならばと考えた輩がいるのは前から噂されていた。
更にリアル世界では実質戦争を起こしたくても起こせない状況である。ならばバーチャルならばと思った者がいても可笑しくはない。
「う~ん、布石というか、ロロロア帝国・僑国含め大陸側と連合国がこの国を支配下に置こうと考えてるとか」
「うちのギルドで言えば連合国国籍のピートとエリン王国のジェノ、フランク王国のマリオンとロロロア帝国籍のエルネシアにストランのタイガーの五人だけど、本国から何か言われてないの?」
「リアルとゲームを混同することはしないわよ、私自身はね」
「俺は元から日本びいき、あぁいやフェスリアナ王国びいきだからな、関係ない」
「まぁあんたの場合、いつもレティとセットにするのが当たり前だからねぇ」
「逆に探りを入れてこいなんて言われてそうだけど」
「悪いが、俺はそんな事に手を染める気はない」
そんなことをエルネシアとマリンとピートは話しており、周りの者達は色々と思う所がある様で、エリン王国のジェノとフランク王国のマリオン、ストランのタイガーはそれぞれの意見を言い合っていた。
「どうも政治家や軍連中は何か話しているのは聞いたことがあるな」
「あっ、それは俺も同じだ、マリオンの所も話はあったのか?」
「あぁ、どうせゲームだしな、リアルだったら出来ない亊ができるから、パーティー抜けて国に貢献しないかって誘われた、ソルア国が近いしな」
「でぇお前なんて答えた?」
「当然ノンと答えたぜ、お前等はどうなんだ?」
「俺も似たようなもんだな、この再ギリスとやるのもあり、なんて言っていたけど、俺は反対したんだよ、でぇ、国には参加しないと公言してきた。お前の所はどうなんだタイガー?」
「う~~ん、こっちはギリスと近いからなリアルで戦争起こせないから、ゲーム内ならいいだろうなんて風潮は世間一般に蔓延しつつある。でも俺もノーと突きつけたよ。その代わりかなりきついバッシングはあるが……」
「えぇぇ~~~それ酷くない? あくまでもゲームなのに!!!」
「ゲームだからと思っているんじゃないか? 政治家を含めて知識人や国を動かしているレベルの人間もゲームにいるのは、既に事実としてみんな知っているし」
「なるほど、でも仮にそれが真実ならムカつくわね、リアルで散々日本を良いように扱ってるメルリアとか、日本の領地を買い占めてる華国とか、昔の旧ソにも戻るような思考回路の国とか」
剣呑な雰囲気と「恐怖」と「殺気」を漲らせて発言するレティに皆の目が集まる。
「でもさ、戦争クエストなら期日も奪える領地も運営側が決めてるだろうし、大丈夫じゃないの?」
「何呑気な事言ってんのよ、うちの領地の半分もとられたら、二重国家じゃん、占領されてそこに住んでた人たちはどうなるのよ」
「確かにそうだな、住むとこないし」
「その戦争クエストの発動はまだなんでしょ、運営からまだ何処の国同士でどの領地までかの公表はないし、今はまだ判別できてないんじゃ、何も出来ないんじゃないの?」
「取り敢えず、レティよ、サマーと連絡とって情報集めた方が良くねぇ」
「そうだな、こっちも王都の様子の探りを入れてみる」
「しかし……王都にいる王室ってNPCだよな?」
「日本の運営がそれをいじるかね?」
「………わからいわねぇ~、でもとりあえず王都情報は必要だから探っておいて」
「わかった」
もっと確実な情報を入手するという事でいったん解散となったのだが、レティはどうしても違和感や不安が拭いきれない。
ただ漠然と何かが起こっている様な気がするのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。