14話 魔力の暴走を防ぐ為に遺憾ながら国防をする
6月中旬、総帥と執事の佐伯の遺体を乗せた車が神崎領に戻り、神崎家に運び込まれた。そして最後の別れをする為に葬儀の前に神崎家とその使用人を集めて雪華は言った。
「通夜・葬儀が終わってから、本当に最後の別れとして総帥と会えるようにしてあげるから、それまでしっかり職務をこなし、通夜・葬儀を乗り切りなさい」
「雪華様、それはどういう事ですか?」
「雅彰叔父さん術師でしょ、視えていますよね」
「……まぁ」
「今回の通夜・葬儀を終えた後、初七日までは残るでしょ、でもそれが見えるのは術師のみ、術師ではない使用人には見えないでしょ」
「そうだけど、なにをするつもりだ? 雪華」
「葬儀が終了した後丸一日、ある一定空間に結界をはるから、見えない使用人達と最後のお別れでもしたらどうかと思ってね、佐伯さんだって使用人を沢山育ててきたんでしょ、お別れしたい人だって居るでしょう」
雪華の言葉に皆が驚いていた、そんな事が出来るのだろうかと、それを証明したのが雪華を除く榊家の人間達だった、
雪華の母が亡くなった時、京都で雪華が施した最後の別れの為の結界の事を説明したのだった。時間が来たら自然と結界は消えていくと言うものだった。
雅彰や神崎の使用人達はお礼を言っていた。通夜・葬儀には榊家の神崎も出席したが、雪華が一日限りの結界を張った後は、御陵屋敷へと戻っていった、ただ御陵屋敷で勤めている使用人の中にも佐伯に世話になった者も居るため、神崎家での最後のお別れに参加しても良いと許可を出し、ほぼすべての者が葬儀後の結界内のお別れ会に参加した。
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神崎総帥が亡くなり四十九日も過ぎた7月末、本来なら暑い夏真っ盛りで蝉の鳴き声が五月蠅い時季のはずが、異常気象に見まわれている現状、すぐそこに秋が来ているのかと思えるような涼しさと、夏の花ではなく秋の花々が咲き誇っており、夏はどこに行ったという毎日を過ごしている。
それでも神崎領内には避難生活が続いていても、以前のような生活に近い日常を過ごせていることに安堵している者の方が多い、首都圏のニュースが入る度に、そういう思いをする者が多くなっていた。
総理を狙った一連の事件以降も、首都圏では不安定な日々をが続いているからである。そのため神崎領に逃げて来る者達もおり、一時期減っていた避難者が、ここ最近また増え始めている。
「最近も以前にも増して避難者が増えております」
「仮設住宅はたりているの?」
「今の所ギリギリなので。追加建築を命じております」
「そう」
「隣県を中心と、以前沢山あった里山と言われるあたりにも広げております」
「ならば地盤の強化は必要ね、地質調査を結果として報告をあげてくれる? その結果で強固魔法をかけるわ」
「畏まりました」
神崎領の本拠地があるのは藤ノ宮市である。基本的な行政機能は藤ノ宮市長を始めてとする役所の職員達に任せてあるが、市長と各部署の責任者は一日一回報告をするために神崎の御陵屋敷を訪れて雪華の指示を仰いでいる。
元神崎領の県知事の行政を肩代わりしている神崎雅彰叔父も報告に来ている。更に隣県の神崎領となった地域は現在通信を駆使して、知事や副知事を含め各部署の責任者達は、隔離されたある通信ボックスの中で一対一で報告をするよう対処していた。
遠方の場合は移動に時間の無駄もあり、他者の意見で本音が言えなければ意味がない事も考え、雪華自身が設置した特別通信ボックスを置いて身分証明書(IDカード)がなければ開け閉め出来ない様になっていた。
まぁ、雪華の場合式神を送っているので通信など必要は無かったが、一般人には解らないのでその対処でもある、直接あって話を聞き指示を出すと経過をとった方が相手への信頼を得ることを考えたのだ。
そんなある8月に入って直ぐ時期、首都圏からホットラインが届いた。雪華と直接話をしたいと総理を含めた執行部が連絡してきたと執事の小花衣から報告があった。
「ホットライン?」
「はい今すぐではないのですが、日程調整をしてオンラインでとの事ですが、如何されますか?」
「はぁ~そんな事している状態ではないでしょう……」
雪華はそう言うと少し考える風に天井を仰いで溜め息をついた。そして小花衣に日程調整をして応じるようにと命じた。
ホットラインがあった日から1週間後に関係者が集まってのオンライン会談となった。
「でぇ、いったい何のご用ですか総理?」
『実は知っているとは思うのだが、前々から首脳会議を月に一回はしようという話をしていた』
「えぇ知っています、それを決めた会議に強制参加させられましたからね」
『その後なんだが、徐々に参加国が少なくなっており、どうも近隣どうして小競り合いを始め戦争に至ってきているようなのだ』
「戦争? あのとき互いに戦争する事は禁止した筈では?」
『えぇ、確かに禁止すると発言をされていましたが、どうやら一部が破ったようです』
「それで、他国がこちらに何か言ってきたと?」
『メルリア国は同盟国である我が国に対して自衛をするようにと言ってきている』
「それは妥当な話だとは思いますよ、駐留軍は大陸側の警戒で忙しいでしょうし、それに自衛軍は国防の為に反撃が出来るようにと法律を変えていたんじゃありませんか?」
『そうだ、ただ現状の国防力では他国に対して、特に大国相手では太刀打ちが出来ない状況でもある』
「…………それは何、私に何とかしてほしいとでも?」
『ご協力をと……』
「言ったはずです、領内の安全を守ることで精一杯だと……」
『だが、このままでは世界大戦になり我が国も危険にさらされる』
「どういう意味です、どの国も自国の災害や魔物の対応で戦争どころではないはずですよ」
『我々もそう思っていが、どうやら大陸のほうはいくつかの国が同盟を結び魔物退治をしているようで、それに対して領土拡大を狙った反勢力も出てきているようなのだ』
『我が国は島国だ、大陸のアジア圏とメルリア国が戦争をした場合、影響を受ける可能性が高すぎる』
「…………はぁ、この異常事態に領土拡大の為の戦争って、バカじゃ無いの? ……でぇ今我が国の国防はどうなっていますか?」
『空母や哨戒機などで監視をしている程度です』
「………おっしゃりたいことは解りました、申し訳ありませんが、少し考えさせていただけますか? 急に言われては判断が付きかねます」
『出来れば早い回答を頂けるとたすかる』
「もう一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
『なんだね?』
「我が領内以外の国民の状況はどうなっているんですか?」
『出来る限り避難を勧告している、だが世界的放射能汚染の為、逃げ場がないと判断した国民は今まで通りの生活を望んだ者も少なからずいる』
「その者達に対して医療的な何かは?」
『一応定期的に検査をするよう通達はしているが、どれだけの者が従っているかは解らぬ』
『ちゃんと医師も巡回させている』
「そうですか……まぁ、とりあえず先の話の返答は後日と言うことでお願いします」
『早急な返事を待っている』
通信が終了して、雪華は少し考え込む様に天井を見た。そしてやはりと思った、こうなる予想は出来ていた。
戦争になれば確実に危機にされされるしメルリア軍は正直当てにならない。現状本国自体が駐留軍を見捨てる可能性があるのだ。
首都圏のホットラインから数日8月中旬に入っていた。既に残暑や紅葉は何処へやら、雪が降り始めた、それも大雪である。
もう季節云々言っているような気象状況では無くなっている。北方の大陸などは北極の雪が溶け町が水に浸かる被害が続出しており、北方での戦争にも影響が出ている、更に雪の魔物スノーマンが跋扈しているという噂が流れていた。雪華は首都圏にホットラインを開き、直接荒木総理と話をした。
「お返事が遅くなり申し訳ありません、総理」
『いや、こちらが急に話を持って行ったのだ、現状の防衛では心許なく、神崎当主に相談するしか無く不甲斐ない政府だよ』
「メルリア軍は当てになりませんしね」
『当てにならないとハッキリいうかね』
「えぇ、恐らく自国民とはいえ見捨てるでしょうよ、食糧事情や燃費の問題が最大の理由でしょうけど、武器弾薬なども足りないでしょうし」
『ふむ、やはり君もそう思うか、実は防衛大臣からもそういう話があった。その為どうすれば良いかと早急に考えてほしいとな』
「それについてですが、沿岸の防衛に徹して頂けませんか?」
『沿岸の防衛?』
「えぇ、今回のドカ雪は全国に広がっていますし、避難するにも大変でしょう、国民の命を守るのが国なのだから、政府はそれに集中して下さい」
『そかし、それではもし大陸アジア圏からの攻撃があった場合はどうするね』
「そちらは私が対処します、なので総理は国際報道や機関を通じてこう言って下さい。『日本に一発でも攻撃すれば榊…じゃなかった神崎雪華が直接反撃します』と」
『君、一人でか? どうやって』
「私は神崎領の領主ではありますが。日本国民でもあります。国を守るのなら手を貸しますよ、今回だけは、但し、私だけです領民は一切関係ない」
『しかし相手は軍隊だ、一人では無理だ』
「普通ならこんなこと言いませんよ、ただ最近魔力が増えちゃって、困っているんですよ」
一体何を言い出すのかと驚き反論する総理を他所に、雪華は苦笑して言い切ったのだ、正直魔力が増えすぎているのは実感できており、暴発が怖いと思うことすら有るのだ、それをぶつける場所を探していて、最初は周辺の森や山での小物魔物を倒して対処していたが、最近じゃ弱い魔物も出てこなくなり榊島でも行こうかと思っていた所だったのだ。おかげで日本での魔物の被害は最小限で済んでいた。
『……魔力って……、とっとにかくその件は一度防衛大臣に相談するとして、取り敢えず今は沿岸防衛に徹すれば良いのだな?』
「えぇ」
『諸外国への公表する時期の返事は検討して早急に行うので、それまで待ってほしい』
「かまいませんが、先に向こうから攻めてこないとも限らないので早めにお願いしますね」
『解った』
総理との通信が終了した後、雪華は執事の小花衣に領内のどか雪の対応について報告を聞いた。除雪車を出して道路の整備、屋根の雪下ろしなども住民が協力してやっているとの事、また慣れていない事もあり対応にはグループごとに数人を組み必ず一人は術者を同行させ雪に埋もる等の事故に備えていると話した。
「ならばついでに戦争の被害の可能性もあるため、さらなる避難準備と備蓄の確認などの手配もしておいて」
「戦争、ですか?」
「えぇ日本が仕掛けるのではなく、やられる方ね、島国だし抵抗できないでしょ、自衛軍では力不足かもしれないし」
「しかしメルリア軍は」
「当てにならない、メルリア国はたぶん自国のメルリア兵を見捨てる」
小花衣は主の言葉を聞いて緊急事態が更に増したと感じ、御陵屋敷の使用人と神崎家のものに報告した、当然領内の地域指導者(元知事やら)にも通達した。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、長い目で見ていただけると幸いです。