131話 お貴族様一行到着
ご無沙汰しております。
個人周辺が少々忙しく執筆が滞っている状況でアップも遅れ気味になっております。申し訳有りませんがゆっくりと進ませていただきますm(_ _)m
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
年が明けて諸行事が済んだ後に王都を出発した貴族一行が、高い城壁に囲まれたウィステリア領側の関所を通過したのが2月の中旬である。
少々大所帯の移動のため一般的にウィステリアから王都までは約1ヶ月で移動出来る距離ではあったが、途中ベルフィント伯爵領で休息をとったり、道中で出くわす魔物討伐で時間が掛かっての移動だった。
この移動で王都スリアに王が不在という事になり、代わりが王妃が残っているため、王太子派がどう動くか気になる所であり、あわよくば謀反などになっては重大である。その不安をレイモンドは雪華に相談していた為、王不在の間の王都スリアは雪華の許可無しに玉座が奪われないよう結界が張られていた。
一応結界という形ではあるが、「雪華の許可なしに」という言葉が神界に伝わっている事は明白な上、現状の王はレイモンド・フェスリアナと明確に雪華が認めていることもあり神族上層部が密かに動いていた。これは人が知る必要のないことの為ピートしか知らない。
関所を通過しウィステリア領内に入ってからはウィステリアの憲兵隊が護衛に付いていた、また3桁レベルに近くなっている冒険者のパーティがその護衛隊に加えられている。
「何故憲兵隊の中に一般の冒険者が混じっておるのだ?」
「わかりませんが、ウィステリア領内は魔物のレベルが高いと言う噂がございますからな、そのせいではないかと思われます」
などと話しているのは、国王派の一行が乗った馬車内の事である。今回は貴族が多いこともあり一台の馬車に数名の男性貴族が乗り後続にご婦人達の馬車、最後には従者達の馬車と分かれて乗っての移動である、こういう乗り方になったのは、ウィステリアの関所で憲兵隊長に言われた為に移動となった、いわゆる護衛をしやすいためである。
そもそもウィステリアの魔物はレベルが高い故に貴族を優先に守らなくてはならない為である。また大所帯でも有るため野営を数回行うことや途中の村々で休みを取りながらの移動である。
「ここの領民は貴族に対しての礼儀を知らぬのか?」
そう言ったのは王太子派の貴族である、それに対して憲兵達が言ったのは、ウィステリアに貴族はおらず、民が敬うのはウィステリア家のみであるという言葉だった。故に貴族に頭を下げるものなどいないと説明したのだが、これに憤慨したのは当然王と宰相以外の貴族達である。
「その方等、黙らぬか!」
「陛下!」
「しかしながら陛下、明らかに失礼ではございませんか! このような侮辱は受け入れがたく……」
「ウィステリア公爵は今は人族であるが、それ以前に至高の存在でもある、また300年前の大災害を唯一知る方でもあるのだ」
「しかし……」
「確かに300年前の大災害は次元移動とも呼ばれており、魔力のない世界だったとは歴史で習っておりますが、あまりにも不敬に感じます」
「あの次元移動前は魔力もなく貴族も存在していない世界である、公爵がその様な世界から帰還されたとあればウィステリア領はその世界と何ら変わらぬ可能性があるとは考えぬのか!」
「では、陛下はウィステリアは魔法が無い貴族もいないそのような世界と同等とお考えなのでしょうか?」
「そうだ、故に公爵は今後のために皆を先にウィステリア領を見てみよと申されている」
「しかしウィステリア領は神々の庇護下にある領地で魔素はこの世界の中でも一番多く大事な場所であると言われています、そのような領地に魔法が使えぬとは考えられませぬ」
「確かに……とはいえ我らの誰もが、今のウィステリア領を知る者はおらぬ、特に公爵が戻ってからはな」
「マルクの言うとおりだ、今のウィステリア領内がどうなっているのかは不明であるに等しい、領民の出入りを含め外からの入領もかなり制限されていると言われていたからな、我らの知る常識など通用せぬやも知れぬ、よってその方等も心しておくがいいだろうな」
ウィステリア領都であるウィスリアの近くの村で泊まった貴族達が宿屋の王の部屋で集まり話をしていた。小さな村の為、従者は野営をし貴族だけが全ての宿を占拠して泊まったのだ。
事前に村には通達がいったいた為、冒険者も素通りし泊まることもなく、村民は貴族達の滞在中はトラブル防止の為、外出を控えるようにと言われていた事で、直接対応するのは村長と宿屋の主のみだったが、対応が貴族からは受け入れがたかった様だ。
これがウィステリア家の者なら問題は無かった、何せ300年前の一流ホテルの従業員と同じ対応をしているだけである。これは宿屋研修というものを領都ウィスリアで月一回行ってきた為で、指導したのはウィステリアの月宮と小花衣である。
本来ならいっさい問題なく失礼にも当たらないが、気位の高い貴族達にとっては遜って当たり前の者達からの態度が許せなかった様だ。
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貴族が憤慨しながら領都ウィスリアを目指している頃、雪華達は迎賓館での準備に追われていた。
出迎えるのは領主である雪華一人である。むやみに家族を会わせたくないと言うのが本音である、ただし一度は会わせる必要がある者はいるため、タイミングを見て祖父母と父、そして兄と弟だけは会わせることにしていた、春菜と秋枝は今後の事も考え見送ることにしたのだ。
「どういうこと?雪姉ぇ?」
「決まっているでしょ、安心できない貴族なんぞに会わせられないって事です」
「それってつまりは政治的な事って?」
「えぇそうです、連中はウィステリア家との縁を結びたいと思う者が少なからずいる、下手に若い女性を表に出せません」
「なら春樹たちはいいの?」
「そうよ! 春兄ぃ達だって貴族の令嬢をって言ってくるかも知れないじゃない?」
「それは私が認めませんので安心して下さい、私の許可なくそのような愚かなことをするなら家名断絶だってしてやります」
「雪華、なにもそこまでしなくてもいいのではない?」
「おばあちゃん! 貴族を嘗めないで下さい、あの連中は永田町にいる政治家どもと何も変わらないのよ、それよりももっと酷いわ、平民を人間扱いしない者だっているし、女性に対しては子供を産む道具くらいにしか思っていない者だっているのよ、この世界に奴隷が存在するのだから安心なんて存在しないわよ!」
雪華はこの世界で目覚めてから少しずつ神力を取り戻しているようなのか、肌で世界を感じられるようになっていた、ただ本人に自覚がない。それでもピートはそれを薄々気づいているため、雪華と再会してからずっと覚醒を警戒しているのだ。神界との連絡は常に行っている。
そんな家族と話しているサロンに小花衣が入ってきた。
「お館様、そろそろ迎賓館にお越しいただけるでしょうか?」
「あぁ、わかった」
「ピート様もご一緒に願います」
「俺もか?」
「はい、お館様の神族としての側近でおられるあなた様はお側にお控えいただけると、貴族達の牽制にもなりますので」
「……ピートだって人として、スキルマスターとして下界にいるのに神族としてなんて無理強いは止めなさい」
「お館様のお気持ちは存じておりますが……」
「あぁ~わかった問題ない、俺としてもその方が色々都合が良い」
「何よその都合って!」
「お前が突然覚醒したときの対処が出来る」
「はぁっ! 突然覚醒って何!!」
「最近のお前の疑いたくなるような魔素の使い方とか、正直俺も困惑している、ついでに言えば上層部も心配されている」
「そんな使い方なんてしてないけど? 前にも言ったけど神力の使い方なんて知らないからね」
「既に無意識に神力が漏れているんだよ! お前、まだ人族のままでいたいって言ってただろうが! だからその時の対処をするためには側にいないと出来ねぇんだよ!」
「それって何をするのよ」
「何、簡単だただ封具を増やすだけだ」
「封具なら既に付けているじゃない両耳に!」
「それだけでお前の力を封じられると思ったら大間違いだ! 前にサークレットを一時的に付けて貰っただろう、アレを常時付けて貰う必要があるのと、仮に覚醒したとしてそれでも漏れる可能性が有るから、本来なら自分でコントロールして欲しいんだよ、でもそれが出来るか今は不明、そのために俺が側にいて上層部と対処法を考える手はずになっている」
「………マジで言ってるの?」
「大まじめに言っている」
「そこまでなの?」
「現状、完全覚醒をしたお前の力を制御できる神族は誰もおらん」
「……って事は、昔は居たの?」
「大昔はいた」
「大昔って……」
「初代始祖の時代だな」
「……初代始祖の時代って……凄い昔だね」
「お前が覚醒して記憶を思い出せたらわかるかもな、でもまぁ記憶が戻るかどうか正直確証は無いんだよなぁ」
「えっ、前は覚醒したら記憶が戻るとか何とか言ってなかったっけ?」
「……そうなんだけど……上層部もそう思っていたんだけど……、どうも今一つ確信がなくなってきたっと言うのが正直な所だ」
「何で?」
「お前の行動・言動が既に予想外に動いているからだよ、覚醒していないのに神力を無意識に使ってみたり、魔素を無意識にソーマに変換してみたり、俺たち神族も困惑状態なんだよ」
「………何それ……」
「それはこっちの台詞だ! だから常に側にいることにした」
ピートの説明を聞いた雪華は頭を悩ませた、あり得んと自身は常にいつも通り300年前から変わらない生活をしていると自負している、当然大きく変わった事などしていない、変わったのは世界が変わった事への対処だけで、行動も言動も全く変わっているとは感じていないのだ。なのにピートは予想外と言っているのだ、故に何がどう変わっているのか理解できない為反論すら出来なかったのだ。
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雪華が悩みを抱えながらも迎賓館での準備を整えている頃、国王とその追従する貴族達が領都ウィスリアに到着、門前での通行許可証を提示し、全ての検閲が済んで漸く入領となった。
当然検問という物は知っていても、この検閲という制度を知らないこの世界の住人には憤慨の様子であるが、国王レイモンドが貴族を含めて従者を宥めた。ウィステリア領に入った瞬間、そこは治外法権であるという事を再度通達したのだ、故に素直に従うようにと命じた。
「しかし持ち物を全て調べるとは……」
「この領地は治外法権だ、我らの法は通用せぬ。調べられても仕方有るまい」
「おそらく帰りも同じ様な事があるでしょうな」
「間違いなくあるだろう、公爵は有る意味厳しいお方だからな」
「しかし書物や衣類などまで調べる必要が有りますか?」
「そこは我らには知り得ぬよ、公爵に聞くしか有るまい」
「確かに、今回こちらに留学をしている娘とも会えますので、詳しく聞けると思います」
「あぁ~そう言えばベルフィント宰相のご息女は転生者出ございましたね、昔のご記憶があるとか」
「えぇ色々と教えてくれました、特にカレンダーなるものを公爵から頂いた時には細かく説明をしてくれましてな」
「ふむ、私も令嬢から説明をして貰った、確かに説明が分かり易かったのもあるが、300年前の文明という物に精通している事には驚きでもある、これが転生者なのかと改めて思い知った」
「そう言えば今回はウィルシュタイン家の方も同行されているのではなかったか?」
「あちらもご子息が転生者であるそうですね」
「ルイス・ウィルシュタインだな、だが彼は家族とは不仲と聞いている、公爵もそれを考慮されていたから、今回会えるかどうかは不明である」
王が乗っている馬車に同乗しているのは宰相と三権の大臣達である、他の上位貴族達や下位貴族は、6人乗りの馬車で後続に乗っている。
今回の招待客は以下の通り
現国王:レイモンド・フェスリアナ国王
宰相:マルク・ベルフィント(国王派)
(三種権)
財務相:ベルク・ルクセン伯爵(国王派)
防衛相:ジョージ・グラマン子爵(元男爵の中立派)
神殿長:ヘンドリック・マールセン神殿長(中立派)
近衛隊長:マイク・ゴラン子爵(国王派)
騎士団長:ハリー・ジスタグ公爵(中立派)
マーモント公爵:エリザベート王妃の父親(王太子派)
ボルド・ウィルシュタイン伯爵(ルイスの父・中立派)
マイケル・ローランド伯爵(表向き王太子派、実際にはハルシェット派)
ロイ・ゴーダ男爵(表向き中立派を装うハルシェット派)
それぞれに婦人が居れば同行していおり、当然従者も増えるのだ。ただ二台目の馬車にはそれぞれの派閥が混在して乗っているため緊張感があり、当然その後続の三台目は婦人達のみ乗っている。四台目以降は従者達とその荷物の馬車が続くため馬車の数だけで10台分近く列をなして街道を通っていた。
故に途中で出くわす領民も唖然として見送る者ばかりであったり、トラブルに巻き込まれないようにと身を隠す者までいた。
「貴族相手にトラブルに巻き込まれるわけには行かない」というこの世界の暗黙の回避術である。
本来ウィステリア領内ではそんな心配事は無いのだが、今回は領主が領民に「トラブルは自ら避けよ」と広く通達していた。もっとも領民は領主が治めるこの地で何かあっても領地の法で裁くと通達している事もあり、安心してはいるが相手が貴族だから不安も拭いきれないのは事実であった。
「しかし何と広い道であることか……」
「確かに人が歩く場所と馬車が通る場所が分かれていますね」
「街道の整備がしっかりなされておりますし、人が歩く場所と馬車が通る場所の隔たりには木々があり交わらない様になっているようです」
「しかしやはり多種族共生の領地と言いますか、獣族も魔族もおりますな」
「ドワーフ族もエルフ族もいるようです」
馬車の中から見える街の様子に驚くばかりの面々達である、道路も整備され、道の真ん中にはなにやら白い線が引かれており行き交う馬車が交差する、また建物も見たこと無い材質なのか、ガラスもあるのだ、しかも窓の外から木材でできた扉まであるが、形が見たことが無いものであった。いわゆる300年以上前にあった雨戸である。中には戸袋まである家もあった。
この世界にガラスは少なく雨戸の変わりに板で窓を覆うという程度の物だった。しっかりとした雨戸を付けるのは貴族くらいである、それでも扉のような物ではなく細板をロープで縛り並べて窓に覆うという物だった。出し入れが簡単でロープで固定が出来る分、民よりは良い方である。
また交差点の真ん中には人が台の上に乗って笛を吹き旗を振っている、それに合わせるかの様に人や馬車が行き交っていた。昔風に言えば手信号である。人と馬車の事故を防ぐために雪華が最初に取り組んだものだった。ただ領民が慣れるまでには時間が掛かったのは言うまでもないが、今ではこういう仕事に就く者も増えていた。さらに赤いとんがり屋根に数名の人が立って周囲を見ている。そこには「交番」と書かれてあった。
この大所帯の馬車の行列が通り過ぎるのを優先に手信号が動いていたのは言うまでもない、領民の迷惑にならないために早々に迎賓館に誘導できるよう指示が出されていた為、馬車が途中で停まることはなかった。
国王は何とか停めて街の様子を見てみたいと御者に頼んでみたが出来ませんという返事が返ってきた、それに対して他の貴族が苦情を呈したが、王自らがそれを制した為、それ以上何も言えなかった。
「後で公爵に聞けばよい、それに領民の迷惑になるのであればしてはならない」
「ですが……」
「よい!」
こうして一行は思うとこ満載で迎賓館に向かった、道行きの様相が少しずつ変わっていく、城壁を抜けてからの喧噪が少し静になってはいるが街並みは変わらない、どちらかというと住宅街という感じである、右を見れば大きな建物が見えていた、ふと見ると正面に大きな門が現れ右の壁には「藤華中等教育学校」と書かれており左側には「ウィステリア大学」と刻まれていた。当然この中には初等教育課程も存在する。
見た目は雪華たちが通っていた学校の門そのものだったのだ。つまりこの先は関係者以外立ち入り禁止区域となっている。
馬車は正面の門を入らず右に折れて迂回する形で学校の奥に見える城を目指していた、それが現在のウィステリア城である。学校敷地ともう一つの不思議な大きな建物を迂回する形で道が出来ており殆どがウィステリア家の者か行政を担当する者、もしくは患者以外使われていない道だった。
馬車で20分程小山になった道を上っていくと城門に着く、だが馬車はさらに右に折れて15分程走ると迎賓館の門が見えてきた。そこで一度馬車が停まり、御者が何かを門番に伝えると門扉が開かれて、馬車の者列が中に入っていった。おおい茂る木々を挟んでまっすぐ進むと中央に噴水がありそれを左回りに馬車が進んで迎賓館の入り口に到着した、出迎えているのは雪華とピート・ルゥ・パートである、そして使用人達であった。
「ようこそウィステリアへ、陛下」
「これはお招き嬉しく思うウィステリア公爵」
「道中大変ではなかったですか?」
「確かに大変だったが、城下町に入ってからの方が目移りする、色々と説明願いたいのだがね」
レイモンド・フェスリアナ国王が言うのを聞いて同じ馬車から降りてきた貴族達を見て苦笑した。
「なるほど……、では中へ入って少しお茶にいたしましょう」
「助かる」
雪華はレイモンドにそういうと、マルク・ベルフィント伯爵達とその婦人や従者達を広めのサロンに通した。当然中央のテーブルには国王と雪華が座り、丸テーブルがいくつか用意され、派閥ごとに夫妻で座れるように席を用意していた。
また従者は各一人だけ控えさせて後の者達は休ませるよう雪華が王に提案、王は素直に受け入れたが貴族が苦情を呈したが、長旅で従者にも休息は必要であると雪華が力説、また従者を一人残せば問題なし、後はウィステリアの使用人が対応すると言ってのけたのだ。
前代未聞だとか色々苦情を並べたが、ここは治外法権であり、主は自分であると主張したことで、とりあえずは収まった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。