130話 ウィステリア硬貨と貴族達
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
雪華たちが王都で、トンでもない代物である「始祖地図」を作成して、ウィステリアに戻ってきて一ヶ月がたった。時既に11月である。領民は冬支度の準備に入っていた。
雪華は王都の大火災については王に一任、ウィステリアはいっさい関与しないと断言し、鍛錬場を作る目途が付いたら連絡を寄越すようにと伝えていた。そのため鍛錬場建設に必要な材料や素材などは、全てウィステリア領で用意をすると伝えている。
理由は大火災の調査で大変な上、鍛錬場は冒険者のレベルアップを目的にしている事と、王都スリアでは調達が難しいためだ。故に全ては火龍の島である魔素の充満しまくっている場所から調達して準備を整えていった。
それと同時に、ウィステリア硬貨の作成にも取り組んでいた、「始祖地図」を作成後に、レイモンド・フェスリアナ国王に対してピートが提案した時の事を思い出していた。
「ウィステリア領は独立自治領である事から、ウィステリア内のみ使える硬貨が必要である」として作成する許可を取った、当然これは人が偽物を造られないように神族の力が少し作用し、硬貨の表は始祖の顔を裏にはウィステリア領の紋章を刻み込まれる物である。
ただしこの硬貨がウィステリア領以外で流通することは無いよう、ウィステリア領への最初の関所で両替をしてから入領する事になり、領から出るときにはフェスリアナ王国硬貨に両替をしてから出領する事となる。
更に、ウィステリア領に入領する時には、通行税を取られる事となり、将来的には物価変動による変動為替になることを伝えた。現在この世界は一つの通貨で統一されている。ただ暫くの間は通貨価値は変えないし硬貨の種類は今まで通りで変えるつもりはない。同等の硬貨で図柄のみ変更する事に決めていた。大きな混乱を生まないためである。
ピートの提案について雪華もウィステリア領の特殊性から独自の通貨作成が必要であるずっと検討していた事だったのだが、まさか神界の力を少し使うと言う発想まではしていなかった、というか人間が使う物に神界が関わる必要はないとさえ思っていたのだ。それを神族の立場でピート自身から出るとは思っておらず驚いていた。
それでも、その為にはレイモンド・フェスリアナ国王に一度ウィステリア領に来てもらう必要がある、何故ピートがそう言いだしたのか、その理由を知っておいてもらうためである。
ウィステリア領は300年前、正確には次元移動前の遺物が多く残されている、それに迷宮の殆どがウィステリア領にあり、スキルマスターの半分近くがウィステリア籍だからでもある。
決定事項であるとはいえ、やはり知って貰い、その上で「始祖地図」を作成した時と同じように、神界契約魔法を使用する必要があった。
「ピート様のお話について承知いたしました、直ぐに調整をしウィステリアに向かう準備を致しましょう」
「雪華もそれで良いな?」
「えっ、えーっとまぁそうね良いわ、とりあえず……」
「納得できねぇか?」
「あぁ~いや納得はできているしピートの提案は私も考えていた事だから反対はない」
「じゃ何だ? 気になることもであるって感じだが?」
「あぁえっと、その硬貨の図柄なんだけど、何で始祖?ウィステリア領の紋章は理解できるんだけど?」
「当然だろう、あの領地は神界の庇護地であり始祖が統治しているんだから始祖のお前の顔を図柄にするのは当然だ」
「って事はこの先ずっと私の顔が硬貨に刻まれるって事?」
「問題はない」
「……それってあんたの上司は許すの?」
「そんな心配はないな、上は初めからそのつもりだったみたいだし」
「うそぉ~~そうなの?」
「あぁ、独立自治って事はいつか硬貨を造るだろうと予想していたみたいだぜ」
「……マジか……あんたの上司というか上層部って何でもお見通しって感じで怖いわ」
「それっ、お前が言うか?」
神族ピートと、覚醒前の神族でウィステリア領主の雪華達の話を聞いていたレイモンドとベルフィント宰相の二人は、まだ人である雪華と降臨しているピートの会話の認識の違いに少し戸惑ってはいたが、それは雪華自身がまだ人としての認識で物事を考えているせいであるとピートからの助言で納得していた。
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現状領内で流通している硬貨は現状維持をしてピートが「火龍の島」から硬貨に適した魔鉱石を採取し、通常硬貨の原料となっている金・銀・銅の鉱石と魔鉱石を少し混ぜて、新しいウィステリア硬貨を作成している。その新しい硬貨にウィステリア紋と雪華の始祖としての本来の姿を念写したものが、雪華の手元にくるようになっていた。
それを今度は雪華が神族封印を一つ解いてソーマ、つまりまだ魔素ではあるがそれを注ぎ込んでいく作業をしていた。ピートからは雪華が覚醒したらその魔素は自然と神族のソーマに変換されるから気にするなと言われ、魔素を注ぎ込むときに偽物作成と他領での流通が出来ないようにと強く念じながらするよう言われた、この注意は雪華も当然納得できていたから素直に言うことを聞いて強く念じながら作業をしていた。
レイモンド・フェスリアナ国王と神界契約魔法が締結すれば、領内に布告と同時に流通させる段取りになっている。
「はぁ~この作業も疲れるわね……」
「しかし、これはお館様も以前からご計画をされていた事では?」
「そうだけど、まさか神界の力を使うとは思ってなかったのよ」
「確かに、私も考えもしていませんでした」
執務室で雪華にお茶を入れながら、執事の小花衣が雪華の呟きに答えていた。
「それより陛下のお迎え準備は順調にいっているの?」
「はい月宮さんが先頭にたって全ての指示をされています。また大旦那様もともにお力添えくださっておりますし、私も微力ながら協力をしております」
「そう、ゲーム時代に迎賓館なんて造ってなかったんだけど、何であるのか不思議なんだけどねぇ~、あれ何で、しかも我が敷地内だし」
「まず夏椰様がお戻りになられた後、大旦那様が将来的に必要だろうと仰ったのがきっかけで、目覚め組で相談して建設を致しました。幸いスキルマスターが3人からお二人が増えて、建設スピードがあがり出来上がりました」
「じゃあの迎賓館は、スキルマスターだけで造ったわけ?」
「はい、魔法を駆使して後は物理世界の応用も使って、貴族としてならば、いずれは国王をお迎えする日が来てもおかしくないとの話になり、ならばと敷地内に建造する事が決まった次第です」
「なるほど……、まぁ理に叶ってはいるけど……」
雪華は小花衣の話を聞きながらせっせと硬貨に魔素を注ぎ込んでいった。
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雪華がせっせと領内硬貨を作成している頃、王都スリアでは国王自ら臣下に対して叱責した上で焼け野原となった地区の調査を急がせていた。その甲斐あってかおおよその進展があった。
やはり主体的に動いたのはハグレ魔族であったが、同時に王太子派と、一部の国王派がそれぞれの立場で動いた結果、ハグレ魔族と王太子派が各所にそれぞれ燃えやすい場所に油を流し込み、国王派の一部が平民を唆して一服盛って寝煙草を促した事が解った。
当然発覚をした王太子派と国王派はそれぞれの罪を負うこととなったが、特に王が一番激怒したのは自身の派閥に汲みする貴族達にである。忖度の結果もあるが、一般国民を巻き込んだ事に一番怒っていたのだ。そのため王太子派よりも重い罪を課せられた。更に焼け野原になった場所は王室が買い取り冒険者ギルドへ譲渡する形を取った。
ただそこに住んでいた平民達の住まいに関しては罰を受けた貴族達の王都での所有地を国に没収され、その場所に平民達の住まいを造り直す事になった。ただ貴族街ではなく平民街にある貴族の所有地が主な没収対象となったことで、殆どの貴族の平民街の権利が失われた。
「陛下、今回は多くの貴族が関与していました」
「全く……まさか本当に忖度して罪を犯すとは……」
「多くの貴族の権利を剥奪したことで問題は出ませんでしょうか?」
「貴族街には手を出してはいない、平民街のみだぞ、それで文句を言うなら自身の利権しか考えない者だ、そういう臣下は必要ない」
「確かにそうですが……」
「忖度した者達は私がウィステリア公爵に対して礼を欠くことのない様になどと言っていたようだが、公爵自身はそういう事をお嫌いだからな」
「そうですが……今回の一件はあの方も少々気にされていらしたので心配です」
「心配かぁ~まぁあの焼け野原を冒険者ギルドへ譲渡という形を取った事に対して何と言われるかの方が私は気になるがね」
「結構広い土地ですからね」
「ふむ、ただその土地の周辺には当然、今まで通り道具屋や武器やなどの店が有った方が良いだろうし、当然宿屋や酒場も必要になる、それらはこちらで対処しなくてはと思うのだが……」
「そうですね、以前住んでいた者達を中心に声をかける方が良いかと存じます」
「ならば冒険者ギルドや商業ギルドに相談をする必要があるな」
「ギルドマスターをお呼びになると?」
「あぁ冒険者達が必要としている物をどうすればいいのかは、ギルマスに聞くのが一番だと思う」
「畏まりました、明日手配しておきます」
「わかっているだろうが、相手の予定を優先に無理強いをするでないぞ」
「承知してございます」
こうして国王レイモンド・フェスリアナと宰相のマルク・ベルフィントは今後について話をしギルマスの意見を聞くことになった。
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レイモンド・フェスリアナ国王が宰相と話をしている頃、貴族街のある屋敷で数名の貴族が集まって話をしていた。
「陛下は我らに対してあれほどのお怒りを示されるとは?」
「忖度をした結果がアレではお怒りにもなろう」
「しかし、陛下がお探しの広さの土地はそうそう多くはない」
「確かにそうだが、しかしやり方が良くないうえにやり過ぎだ」
「我らだけではなからろう、王太子派とそれに手を貸しているハルシェット辺境伯側の魔族でも一枚かんでいる」
「まさかあちらも動くとは思っておらなかったのだが、それ故の大災害となったのかもしれぬ」
貴族街の国王派に属する数名の者達が集まり、今回の一件を問題にしていた。まさか事がここまで大きくなるとは予想していなかったのだ。単なるボヤ程度から少しの延焼で済むだろうと安易な判断をしていた者達が実行していた事で、国王派の主立った者達が集まり実行者達やその協力者に対する避難の声を上げていたのだ。
「それで焼け野原になった広大な土地は王家が冒険者ギルドに対して無償と、無条件で譲渡なさるとの事だったか?」
「そのようだな、だが元々あの地にいた職人や民達はどうするのだ?」
「詳しくはわからぬが、冒険者ギルドと商業ギルドのギルドマスターに相談する可能性はある」
「う~んギルマスか……確か冒険者ギルドの方はウィステリアの冒険者ギルド本部から派遣された者だったな」
「……確か名前は……」
「ロイド・三橋、そんな名前だったと記憶している」
「本部から派遣されるまではウィステリア公爵が自ら代行されていたな」
「ギルマスはウィステリア公爵から厚い信頼を得ているらしい」
「陛下も公爵を敵に回したくはないとお考えのようだな」
「まぁあの領地は昔から特別な場所でもある、領主一族が目覚め戻ってきてからは色々と変わっていると聞いた」
「それまでは確か精霊達が領地を庇護していたと聞いたが、今はどうなっているのだ?」
「領主一族が結界を張って人の出入りを制限していたが、今は領主自身である公爵が戻っているため、頑丈で高い城壁が領地をすっぽりを覆って、今までよりも更に強い結界になっており、簡単に入領出来ないとのことだ」
「そこまでのお方なのか?」
「貴公らは会ってはおらなんだか、あの公爵は一見して普通の少女のような面差しではあるが、威厳がある」
「そうだな、それだけではないスキルマスターであり至高の存在でもある人物だ、この世界では敵に回すとやっかいなのではないかな」
「ふむ、まるで見透かされているような感じだったか……嘘が通じないと言う意味でだが……」
現在この場にいる者の中には雪華が王宮でお披露目された時に居合わせていなかった者も数名居たのだ、故にウィステリア公爵とはどのような人物か知らない者もいる。
「とにかく平民街の領地だけで済んだのだ、これ以上陛下の意に添わぬ事をすれば、今度はどうなるかわからぬ」
「そうだな貴族街の屋敷を取られたわけではない、今回は我ら国王派の不手際もあり、一番重い処罰となったのは仕方のないことだ」
「ハルシェット辺境伯側や王太子派の方はどういう状況なのだ?」
「あちらは証拠不十分という事で厳罰にはできなかったようだ」
「証拠不十分ですか……」
「痕跡は有ったらしいのだが、確証が少なかったといった方が良いのだろう、憲兵達がかなり調べ尽くしていた様だがな」
今回の大火災の顛末に各貴族達は、この程度で済んで良かったと思うものと、重すぎる処罰と思った者も居たようだった。
そして翌日の朝議の議題の一つに貴族の一部がウィステリア領への視察の発表がなされた、これには国王派や王太子派といった区別無く、それぞれの領主代行と王都スリアの主だった諸侯が夫婦で同行することになった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。