125話 細菌兵器と魔法紙とハグレ魔族対策
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
イルレイア大陸に転移魔法で来ていたセトレイア大陸の客人を見送った後、魔王ルージュの側近二人が今回の一件で質問をしていた。
「あの、魔王様」
「何だ?」
「一つ質問をしても宜しいでしょうか?」
「……許可する」
「では、何故今回はあの公爵にあそこまで遜っていたのですか?」
「そうすべき相手だからだ」
「しかしあのウィステリア公爵は人の気配しかありませんでした、とても十二神魔様の様な……」
「十二神魔であるピート殿は人の気配を持っている、それは昔からだ、でもあのウィステリア公爵は人の気配をしていても、始祖姫には変わりない」
「しかし、魔王様が遠慮をされるような相手ではないと思います」
「今はな……、とはいえこの時代でもスキルマスターで限界突破と言うのも事実だ、今の私ではそこまで到達していない」
「魔王様が負けるとは思えませんが……」
「人が相手なら負ける気はせん、だが……彼女は人の皮をかぶった神族だ、たとえ覚醒していなくても逆鱗に触れるわけには行かない相手だ」
自分たちの主がここまで人を警戒すると言うのは見たことが無い為疑問に思っている、それ故に少し今日来た者達に対して腹立たしい気持ちも出ていた。ソレを読みとった魔王が言った。
「お前達は知らないだろうがな、俺とノワールがまだ冥界にいた時の事だ、初代始祖の怒りの波動が冥界にまで届いていた。当時冥界にいた悪魔全員が息潜めていた、魔力の弱いものや生まれたての悪魔はその怒りの波動だけで消え去っていった、だから耐えられる者達が嵐が去るのを待っていたのだ」
「そこまでなのですか?」
「そうは見えませんが、それにそれは初代始祖であり今は違います」
「確かに初代始祖の力は強大だった。冥界にまで影響を及ぼす程だからな、でもその初代始祖の魂を受け継いだあのウィステリア公爵は、間違いなくソレを上回る存在だろう」
「まさか!」
「……いや、間違いない、下手をすれば世界が滅ぶ」
「世界が……滅ぶ?」
「あぁ初代始祖は世界を滅ぼすことはしなかったが、あの御仁はおそらく容赦なく簡単にやってのけるだろう、絶対に怒らせてはいけない存在だという事だ」
「例の元凶魔王が復活をしても?」
「恐らくは、元凶魔王自身も復活したら力を増している可能性は否定できん、だが同じくらいあの公爵は絶対に敵に回してはならない相手だ。お前達も覚えておくがいい」
魔王一行が雪華の話をしていた頃、漸くイルレイア大陸魔王領から帰還した人族一行は、一度それぞれの家や宿に戻った、帰還した時点で既にセトレイア大陸は夜になっていた、僅かな時差でもあるようだ。
ベルフィント伯爵も一度、王都の屋敷に戻り今日一日の流れや話を思い出していた、正直最悪な結果と言えなくもない。なぜなら我が領地にかの魔王を招くことになったからだ、これは大問題である、領地の整備も必要だが万が一ためにも領民の安全が第一優先となる、直ぐに領地から代官をしている息子を呼び出すよう執事に命じた。
更に問題は、今回の結果を明日国王陛下に報告することになる、話をして謁見に望んでくれるのかどうかという事と、反面謁見をさせても良いのかという相反する思いで困惑していたのだ。しかもハルシェット辺境伯とその繋がりのある貴族には悟られないようにと言う条件付きである。
「難しい……、とんでもない難題だ」
伯爵が困惑している頃、宿屋にいる雪華一行はと言うと、フレンド登録から状況を説明した、そして父と兄に対して結核菌の治療薬製造に最優先で当たって欲しいと依頼した。
いきなり結核菌の治療薬と言われて困惑する両者に対して、300年前の魔族と獣族との領地戦争で使われていた事と、神殿襲撃で使われた事を報告、神殿襲撃にサンプルを採取しているから調べて欲しいと言うことと、これが獣族にも効かないのか、効くなら間違いなく変異している事になる事も伝えた。
明日王宮で報告後直ぐにウィステリアに戻るからと伝えたのだ。
「それにしても雪華の予想は確定だな……」
「確定と言うより100%という事ではありませんか?ピート様」
「まぁ確かになぁ~、なぁ雪華これ予想していたのか?」
「予想と言うより可能性かなぁ~、夢は見なかったからねぇ~」
「夢?」
「お館様の夢見の力は100%当たるのです、故にお館様の夢にはみな慎重に聞いておりますよ」
「そうなのか?」
「はい、歴代のご当主様の中で100%は誰もおられませんでしたから」
「へぇ~」
「正直な所夢なんか見たくないわ……」
「それって予知夢って奴だよな?」
「……それだけならまだしも、過去視なんて夢までみたらもう怖いわ」
「過去視って言うことは、前に言ってたアレか?」
「そうよ! アレは私の記憶じゃないもん、どう考えてもあんたの知っている初代始祖の夢でしょうが!」
そう断言した雪華が言いたいのは、初代始祖としての自分が元凶魔王に剣を突き刺したという事と、その周りには間違いなくピートの部下達であろう羽を持つ者達の夢だ。
「とにかく細菌兵器を作るとか思わなかったのだがなぁ」
「正直私もよ、でもマクディナルの大学時代は確か理系よ、私達とは違う工学系だったと思うけど」
「はぁ? 工学系の理系?……って事は自作可能って事になるのか?」
「まぁ~ね、材料さえあればだけど……」
「でもこの世界は物質と言うより魔素だぞ、質量なんかはまぁ~確かに少しはあるが、全てが魔素還元するんだぜ?」
「そこなのよねぇ~私達が魔素の原理が解らない状況だから、藤華組は時間が空いた時に魔素の解明実験をしているんだけど、何をしても光の粒になって消えるのよ、ゲームみたいにね」
「まぁそうだろうよ、ハッキリ言って魔素もソーマもお前達の言う霊気とかオーラだからな、顕微鏡で見える何て代物じゃない」
「それって感覚的なモノじゃない」
「あぁそうだ、感覚的なものだ、だから魔法が使える。体中の中を巡る魔素を感じ取ってそれをエネルギーに変換して魔法を発動する。そのエネルギーを具現化して鉱物が出来たり物質が出来る世界だぜ、お前達の知る前の物質世界とは全く異なるからいくら調べても無駄だ」
「ふぅ~じゃお手上げね、とはいえ細菌兵器はどうやって作ったのよ、あんなの持ち込めるの?」
「次元移動時では持ち込めないな、移動時に全て抹消される」
「じゃ何でこっちの世界に結核菌なんて存在するのよ……まさかと思うけど、こっちにもあるの? そんな病気??」
「治癒魔法があるからなぁ~病原体なんぞの研究をする者など殆どいないんじゃねぇか?」
「だよねぇ~、治癒魔法は高等魔法と言われていても初級魔法なら癒し系は扱えるものね」
「肩こりとか痛みを消すとか、まぁ~簡単なモノだが、今の人族ではソレを使える魔素はないだろうな」
「使えるとすれば神殿の神官達くらいか……」
「でもその神官達ですら、あの神殿襲撃では治癒魔法は効果無かったようだが……」
「アレは相手が悪い……」
そう襲ったのは3桁レベルの魔族である、人族が太刀打ちできない相手である、そんな攻撃を受けてたとえ神官の治癒魔法でも追いつかないのだ。
「とりあえず明日王宮に行って報告して直ぐに戻るわよ」
「解った……」
雪華の決断を持って今日は就寝することにした。
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ハルシェット領から王都に戻った日は既に9月1日だった、その翌日に雪華達と宰相が魔王に謁見した。つまり今日は9月3日でイルレイア大陸から戻って報告を兼ねて再度王宮になった来ていたのだ。
通されたのは国王の執務室で神族結界を張って話し合いが持たれ、全ての事情を報告し終えた所である。
「魔王との謁見かぁ~」
「いくら何でもさすがに一領主の私が陛下を差し置いて交渉は出来ないでしょう? それに事が大事に発展する可能性が高まったのだし、ここは先に極秘に会っておいて貰いたいわよ」
「しかし、大丈夫でしょうか? 魔王と言えばレベルは相当なものだと聞くし、魔族は殆どが3桁レベルだという、我らが会っても命の保証はあるのだろうか?」
「あぁ~そこは問題ないぞレイモンド、雪華と俺が側にいてバカなマネはしないだろうよ」
「本当ですか?」
「あぁ悪魔の上位は神族だ、それに300年前に命じているし雪華を怒らせる程バカではない」
「まぁ~あの魔王ルージュのレベルは限界突破はしていない程度だからねぇ~スキルマスター全員で攻撃すれば何とかなるでしょうが、あいつも隠蔽魔法を使っていたから何を隠しているかは不明だね、でもとりあえず私に喧嘩をふっかけるのなら魔族領は吹き飛ばすというか消滅させるけど?」
「……お前本気で言ってる?」
「本気だけど?」
「……お前が言うと洒落にならんから止めてくれ、大陸が消える」
「あら、神族はそういう命令を魔族にしていたんじゃないの?」
「まぁ~一応しているけど……、それはお前が覚醒していたらという意味だったんだが、最近自信がなくなってきているのは否めないな」
「……それはどういう意味でしょうかピート様?」
「コイツがまだ覚醒していないのに、神族の上層部は既に人である雪華の命令に従っているっていう状況が出来上がっているんだよ」
「それは、事実ですか?」
「あぁ事実だ、既にコイツの頼みごとをいくつか実行しているからな、上司達は……」
神族達と雪華の関係を改めて聞いた国王と宰相は大きな溜息と緊張をした、既に始祖姫としての力を示し始めていると言う事実を突きつけられたからだ、だが本人は自覚がない様子である。
「とりあえず宰相さんの領地で謁見場所をお願いできると助かるんだけど、大丈夫でしょうか?」
「あぁ~それですね、息子と話し合いをしなければと思い昨夜早馬で王都に来るよう命じた所です」
「マルクの息子に迷惑はかけられん、以前使わせてもらった場所はどうだ?」
「なるほど……、それは良い考えね、小屋と言っても広さも十分あった」
「お待ち下さい、さすがに一国の王である魔王をお呼びするのにあの小屋では失礼になります」
「いや……そうでもないぞ、ハルシェット辺境伯側の手のモノが探りを入れているのはまだ継続中だろうし、宰相の屋敷に魔王が来たなんてバレるのは良くない、屋敷が物々しさを感じさせたら、探られやすくなるからな」
「そうねぇ、一応極秘だからと魔王ルージュには言ってあるし、こちらの貴族事情も説明しているから了承してくれるでしょう、というか無理にでもそうさせるわ」
「お前ほんと怖いもの知らずだな……、昔からだけど……」
「そう? 面白そうなら何でも良いわよ、あの魔王も面白そうだったし」
「そうかぁ~~?」
雪華とピートの会話を聞いていた面々は溜息をついていた。そして謁見場所が決定したが、期日に関してはまだ決定していない。
「陛下がベルフィント領に来られるまで半月はかかります、それを踏まえて期日を決める必要があると思います」
「そうねぇ~、私達と魔王は転移可能だから痕跡は残らないけれど、陛下はどうしよう、動くと不味いわよね?」
「今の情勢では私が城から消えるのは不味いだろうなぁ」
「なら転移魔法陣を使用したらどうだ?」
「転移魔法陣かぁ~それなら問題ないか」
「お待ち下さい、お二人様今回我らが転移魔法で魔族領に行けたのはお二人がいらっしゃったからです、お二人がいない状況では扱え無いのではありませんか?」
「あぁ~~~そうぉ~だねぇ~」
「じゃ使用前に結界を張ればどうだ?」
「結界魔法を先に施してって事?」
「あぁ、それと魔法陣ではなくて紙の方が無難だろう」
「………なるほど、それなら足がつかないか」
転移魔法を使用することが、どうやら決定事項らしいと国王と宰相は思った。だが魔素の少ない人族は転移魔法に耐えられないと言っていなかったか?と思ったのも事実だった。
「じゃ、そうね陛下と宰相は執務室から転移魔法陣を使ってベルフィント領の例の小屋に来れば良いわね、私達はウィステリアから直接行くわ」
「待って下さい、その転移魔法陣をどうやって起動すれば良いのですか? 我々の魔素の量で起動出来るのですか?」
「それは心配ない、起動できるようにこっちで設定するし、陣の中に立った瞬間に結界魔法が発動出来るように付与魔法をつけておく、お前達二人はその魔法陣が描かれた魔法紙に少しだけ魔素を流せば良いだけだ」
「ねぇ~ピートそれって魔法紙を作れって事よね?」
「そう言うことだ」
「それ私が作るの?」
「お前が作る方が色んな意味で安全だろう、妨害障壁も付与したら、転移魔法陣を発動しても邪魔はされないだろう」
「妨害障壁も付与するの?」
「ハルシェットのハグレ魔族がいたら感づかれるだろう?」
「………解った………」
渋々と言った感じで了承した雪華、ピートから面倒事を頼まれた時はいつもこんな感じである。とはいえピートの話も一理ある、雪華の場合呪力や妖気によって付与をつけることが出来る、これは陰陽師であるが故の事でありピートでは無理な事だった、魔族を欺くには呪力や妖気の方が良い。
ただこの作業はもの凄く面倒な作業である、それを知っている為ピートは雪華以外には出来ないと判断したのだった。
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王宮から宿屋に戻った雪華は、夕食後から早速魔法紙の作成に取りかかっていた、元々持っていた魔法紙を数枚出して、それぞれに魔法陣を描く、当然往復分である、魔法陣の発動は一般的に詠唱で出来るが魔法紙に描く魔法陣の場合は魔力を込めたインクで目的の魔法陣を正確に描かなくてはならない。
ここまではスキルマスターなら誰でも出来る。ただ魔法紙は誰でも作れるというわけではないので貴重品である。
ここからの魔法付与に関してはだいたいの者が一つないし二つ程度しか付与できない。それ故に付与魔法が付けば、どれほど難しい魔法であるかがわかるのだ。
だが規格外の二人は三つ以上付与できる。これは魔力量による所が一番多いが才能も必要であった。
一般的に道具屋で売られていた魔法陣が描かれていた魔法紙は付与魔法がついていないモノが多かった、たまに付いていても一つだけである。故に高価で貴重品だった為、一般的に手にすることは無理とまで言われていたくらいのレアアイテムである。それを手に入れられれば奇跡で幸運でしかなかった。
「できたか?」
「まぁ~~一般的な魔法陣と結界魔法付与までは何とかね」
「妨害障壁は?」
「それはこれからよ……、だいたいこんな面倒な事私にさせるか?普通!」
「だって呪力や妖気を扱えるのはお前だけだからな、俺は無理だ」
「そうだけどぉ~~」
「妖力を押さえ込む事なら私にも可能ですが、変換となるとお力にはなれません、申し訳ありませんお館様」
「気にしなくても良いわよ、こんな面倒な事、神崎家ではしたこと無いでしょからね」
「お館様は今までにもした事がおありで?」
「まぁ~ね、霊気を妖気や呪力に変換するのは信之介様や璃桜様から徹底的に叩き込まれてたから次元移動前にもしてたのよ、妖怪相手にね、だから今更だけど……久しぶりにするとしんどいわ」
「……怨霊と幽鬼に変換術を叩き込まれるっていったいどういう事だよ、普通有り得ねぇーぞ!」
「知らないわよ! 私に聞くな! 今はいない二人に聞いてくれ!」
ピートの言葉を聞きながら、ぶつぶつと文句を言って雪華は作業をしている、魔素を呪力や妖気に変換して妨害障壁を作成付与していくのだ、次元移動前なら普通に呪力や妖気を使わず霊気だけで対処していたのを、変換に変換を重ねて複雑な術になっているのだ。
神崎家でこんな変換が出来るのは怨霊だった信之介と息子で幽鬼になっていた璃桜だけだった、故に璃桜が後継者たる由縁でもあった。そしてそれを受け継いだのが雪華である。
それから2時間かけてゆっくりと変換作業をしていた雪華、疲れ切った声で「できた」と言った。往復分で4枚、それぞれの入り口と出口である。
魔法紙は使用後燃えて消えるため枚数が必要なのだ。ただもう少し大きな魔法紙があれば一枚で二人乗れる魔法陣が描かれたが、生憎と一人が立つだけの大きさの魔法紙しか持ち合わせていなかった為4枚必要になったのだ。
「……疲れたぁ~エルルーンお茶くれない?」
「はい、ただいま」
「お疲れさん、しかしアレだな付与魔法を三つづってよくやるなぁ~」
「仕方ないでしょ、結界魔法と隠蔽魔法に妨害障壁魔法の三つ、ハグレ魔族と魔術師対策もしなきゃならないでしょうが、それに人に対しても必要だし……あんたが呪力や妖力を扱えたら、こんな苦労しなかったわよ!」
「悪いな、人の姿の場合では無理だからさ」
「……って事はアレか? 神族の姿だったらできたって事?」
「あぁ~えっと、出来るのは妖気に変換ってヤツだけだな」
「神族も出来るんだ?」
「全員が出来る訳じゃないさ、まぁそれはそのうち思い出すだろうから気にするな」
ピートの含みある言葉に対してジト目をした雪華は、言われたとおりに無視することにした。
「さて、今日はこれで休みましょ、明日はこれを王宮に持って行ってから領地に戻るわよ」
雪華の合図で、それぞれが帰宅準備と就寝準備をした。
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翌日9月4日ウィステリア領への帰宅準備をして宿屋を出た一行は王宮へと向かった、そこでは何故かスルーで王宮内に入れてもらえたのだ、不思議に思ったが、これ以上厄介事にかかわり合いになりたくない雪華は、そのまま国王のいる執務室に案内された。
「お早いお越しですね」
「そりゃねぇ、こっちも早く領地に戻りたいので」
「ふむ、確かに……」
「でぇ早速話をする前に、ピート結界をお願い」
「また俺かよ……」
「人に化けたハグレ魔族がいる可能性もあるでしょうが!」
「あぁ~~~そう言えば、こっちに来る途中でみたな、全くハルシェットの奴、どれだけのハグレ魔族を使役してんだ?」
「人にアレを使役出来るとは思えんがねぇ~、どうぜ獣族に頼んだんでしょ」
「じゃ裏切られる可能性もあるって事か?」
「どういう契約をしているかによるけどね、そっちは知らん、私達には関係ない」
「そりゃそうだ」
そんな話をしながらピートは結界を張っていく、またその二人の話を聞いていた国王と宰相はハグレ魔族が人に化けて王都にいるという話で少し気色ばんでいた。
「あのそのハグレ魔族が人に化けて王都にいるというのは本当ですか?」
「えぇ、そんなに多くはないのだけどね、さしずめハルシェット側からの依頼だとは思うけど、獣族側も王都の内情を知りたいだろうから偵察もかねているかもね」
「だろうなぁ、人族が魔素や魔力を感じ取れねぇ~からな、堂々と歩いていた」
「まぁ今の所何か問題を起こすような事はなさそうだけど、ハルシェット側の連中との連絡役とかもしている可能性もあるでしょうねぇ」
「っと言うことは王宮内にもいる可能性がある……と」
「ん~~そうねぇ~王宮内はいないわね、とりあえず今の所は」
「そう、ですか」
レイモンド・フェスリアナ国王とマルク・ベルフィント宰相は少し安堵した様子を見せていた。
「連中からすれば、俺たち二人が王都にいる間は王宮に近づかねぇと思うぜ」
「それは何故?」
「連中は人じゃねぇからな俺たち二人の魔力が連中を上回っているのは明白だからだろうけど」
「だねぇ~あの程度なら、私達にあった時点で即死だね」
「まぁ~今はそこまで心配する必要はないだろうよ」
「ですがこちらの情報が獣族側に渡ってしまう事になりかねません」
「それは今に始まった事じゃないと思うわよ」
「どう言うことですか? 公爵」
「つまりお二人が仰りたいのは、既に昔からハルシェット経由で獣族側に内情が漏れていると言うことではないのか?」
「まさか!」
「陛下の仰る通りねぇ、でもそれは恐らくスキルマスターが目覚める前までは悠々自適に探られていたと思えばいいわ」
「だな、スキルマスターが王都に姿を見せれば慎重にならざるを得ないだろうからな」
「それは……どうしてですか?」
「王都に入り込んでいるハグレ魔族程度ならスキルマスター達は直ぐに気配を察知できるからだよ、あの程度なら問題ない、たとえ3桁レベルであろうとね」
「特に雪華達スキルマスターだけで王都に来た時点でハグレ魔族は一度全員引き上げているはずだ、いくら3桁レベルの魔族だからといってもスキルマスター相手で勝ち目はないからな」
「なるほど……」
「ですがあの時は雪華様達4人の方がハグレ魔族に絡まれたのでは?」
「あぁあれはハルシェットの命令で残っていた者達よ」
「ではスキルマスター様が王都と関係を良好にしているという情報があれば無茶はしないと言うことですか?」
「いや、それはないだろうなぁ、スキルマスターは今の所全員ウィステリア領籍で王都に常住はしていない、ならいない時に動く事はある」
雪華達の話を聞いて溜息を付いた王は、内心ハグレ魔族の対応をどうすれば良いのかと思った。ウィステリア領は関知しないと既に宣言されている、その上で自分たちでどうすれば良いのかと考えていた。宰相も同じ様なモノだった。
それを感じた二人は溜息を付いて顔を見合わせた。
「ねぇレイモンド?」
「はい何でしょう雪華様」
「手を貸すつもりは無いけど、基本冒険者がハグレ魔族の対応が出来れば良いのよ、そのための鍛錬所を作る話でしょ」
「ですが、それでは間に合わないと思っています、王都周辺の魔物はウィステリア領周辺よりも弱いと聞いていますし、それも倒せない様では……」
「あのねぇ、さっきも言ったけど内政や謀反関係に手を貸すつもりはないのよ、でも王都だけにハグレ魔族対策をする事は出来る」
雪華の言葉で国王と宰相は揃って雪華の顔を見た。それはどう言うことかと問いたかったのだ。
「雪華が言いたいのはハグレ魔族が入国できない様に結界を張る程度はするって事だろう」
「……そうなのですか?」
「えぇ、内政干渉をしてくる獣族なんかは除外よ、正直獣王の手先なんぞに情報を渡す義理はない、レイモンドと魔王の謁見が済んだ後、国土に対して獣族及びハグレ魔族の入国不可結界を張っておくから、心配しないでいいわよ、その間に冒険者がレベルアップ出来ればいいんだから」
「ですが既に入り込んでいるモノは?」
「それは間違いなく弾かれるだろうよ、なぁ雪華」
「強制転移させて国外追放するわ」
雪華が不適な笑みを浮かびながら楽しそうに言う姿を見て国王と宰相は安堵している、だがピートは違った、この笑みの怖さを知っている。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。