124話 イルレイア大陸魔王領、魔王と極秘会談
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ここはイルレイア大陸の魔族領にあたる場所である。
以前聞いていた通り、何もない不毛の土地である、夏の終わりに近い時期とはいえ、さすがに北に位置する大陸である、既に気温が低く雪が降りそうな感じである。
「ここがイルレイア大陸の魔族領?」
「はい、もうすぐ長い冬がやってきます」
「そのようだな、かなり気温が低い、同じ大陸でも獣族のあたりとはまた違っているようだな」
「あちらの方をご覧下さい、獣族側との国境に当たります」
一行は少し小高い丘のような場所に転移してきた、そしてノワールのいう方向を雪華とピートが見て眉を潜めていた。
「おい、あれって……」
「すごぉ~~~く場違いな物が建っているわね」
「っというかこの世界の人間が知っているはず無いよなあれ」
「そりゃ無いわ、あり得ん!」
「でもアイツヨーロッパの人間だったろう? あそこまで細かく解るのか?」
「まぁ~一応世界遺産だったからねぇ~写真とか資料は何処にいても手に入れられるわよ」
雪華とピートが魔法を使ってまで見たそれは、いわゆる「万里の長城」である。全く同じという訳ではないが類似しまくっている。
「これは決まりだな」
「そうねぇ、決まりよね、確実にマクディナルで間違いない」
「魔素はどうだ感じるか?」
「そうね、ちょっと見てみるわ」
雪華はそう言いながら意識を集中して霊体を飛ばす為の体制をとった、それを見たピートが雪華の体を支えて守っている。
雪華の意識は大きく飛び例の万里の長城もしっかりと見聞して、それを越え獣族側に意識を集中する。そして5分程たった頃だろうか、戻ってきた雪華が溜息と共に目を開け術を解除した。
「………はぁ~~」
「どうだった?」
「当たりよ! マクディナルとハディ・クランの魂を感じた、と言うよりマクディナルと融合しているわ、どうやったらそんな事出きるのよアイツ!」
「でぇ姿は?」
「ライオン、百獣の王の姿をしている、しかも図体がデカい、更に二足歩行してくれちゃってるわ」
「マジか……」
雪華の説明にピートは呆れながらも少し笑った、二足歩行のライオンって、まるで映画にでも出てきそうな姿である。
「まぁ獣族にはそう言うのがいても不思議ではないが……強さを主張したいって事かねぇ?」
「……まぁ~~300年前は大司教なんて仕事をしていた分羽目を外したかったんじゃない? 実際裏では羽目を外しすぎだったけどねぇ、そうだピートも見てきたら、あんたの旧知の欠片と元凶魔王の気配を確認してよ」
「解った、じゃ俺はこのまま行ってくる、ノワール雪華を頼んだぞ」
「畏まりました」
ピートはそう言いながら、飛行魔法を使って国境まで行ってあり得ない城壁を一別して、視線を獣王の気配を追った、そして確信して戻ってきた。
「どう?」
「当たりだよ!」
「間違いなく?」
「あぁ間違いない、それと例の異物だけど、奴の場所にある」
「本当ですか? ピート様!」
「あぁどうやら雪華の結界で阻まれているようだな」
「そのようね、でも時間の問題って事も視野に入れておく必要はあるわね」
「そうだな」
かなり不遜な態度で獣族側を睨みつけている雪華をみて、一緒に来ていた宰相のマルク・ベルフィント伯爵は何を言っていいか解らない、更に例の異物があったと言われたのも困惑した。
そもそも魔族領等に足を踏み入れる事じたいあり得ないと考えていたし、まさかデーモンロードという滅多にあえない悪魔が側にいるのだから、緊張しているのだ。
「ノワール!」
「はい」
「直ぐに魔王の所に行くわよ」
「畏まりました、では再転移を行います、途中で魔族に会えば面倒ですから」
「そうね、それで良い」
そう言うと、一同は一カ所に集まりピートは宰相と小花衣の体に手を当てて庇護結界を張る、そして雪華は自身に対して印を結んで結界を張った、魔素がある分そこまでは必要がないのだが、人族側の領域ではない分警戒は必要だった為だ。
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転移して姿を見せた一行は、目の前にあるデカい魔王城の前に立っていた。当然警戒する魔族が姿を見せていたがノワールの姿を見て、魔王からの命令を思い出して出迎えをした。
「ノワール様、そちらの人族が魔王様の仰っていたお客ですか?」
「そうです、よって手を出さないように、また失礼なことをすればあなたの命はありませんから」
「はっ、ではお通り下さい」
門番はそう言うと一行を奥に通した、そしてノワールが先導して城の入り口までやってくると、今度はデーモンロードの二人が姿を見せていた。
「ようこそおいでくださいました、始祖姫様、私は魔王様の側近の一人アモールと申します、お見知り置きを……」
「私も同じく魔王様の側近の一人タナキと申します」
「雪華様、この二人が魔王ルージュの所まで案内をしてくれます」
「そう……でもその始祖姫ってのやめて貰える? 私は雪華よ!」
「……畏まりました」
タナキと名乗ったデーモンロードは、背が高く細身であったが力も魔力も多い。そしてもう一人はアモールと名乗った者もデーモンロードでこっちも背が高く威厳ある風貌の男の魔族である。雪華の支配下になったノワールと同等のデーモンロードである。
一行は二人のデーモンロードに連れられて謁見の場所に向かった、当然そこには多数の魔族が揃っている。
これに動じないのはピートと雪華だけである、人族であり陰陽師家に仕える小花衣も周りのプレッシャーに絶えながらも肝が据わっているのか、警戒をしながらも主の後をついて行く、ただ宰相のマルク・ベルフィント伯爵は恐怖で体が強ばっていた。
「でぇノワール、紹介してくれるんだろうな?」
「えぇ当然です、こちらの方が、雪華・ウィステリア様、ウィステリア領主の公爵様です、そしてそちらの方が……」
「十二神魔様……で良いのかな?」
「さすがだな、ルージュ……俺のこの姿でも解るのか?」
「えぇ300年前にお越しの時は人の姿ではありませんでしたが、始祖姫様のお側にいる神族と言えば、あなたしかいない」
「……なるほど、さすがだな300年前よりも力も増している魔王らしくなったじゃねぇか」
「褒めていただいたと受け取らせていただきます、でぇそっちの人族二人の男は?」
「お初にお目にかかる、雪華様の執事の小花衣と言います、お見知り置きを……」
「ほぉ~人族の割には度胸がある、と言うことはもう一人はフェスリアナ王国の国王代理か?」
「フェスリアナ王国宰相、マルク・ベルフィント伯爵です」
「なるほど……」
ノワールによる紹介とピートとルージュの会話などを聞きながら、雪華はこの場にいる魔族の魔力量やランクなどを見定めていた、そして当然その中でも一番力のあるのは魔王ルージュである。それを確認して再度魔王を名乗るルージュを見た。
間違いなく名持ちである、しかも魔王種に進化している。他の悪魔など足下にも及ばない程だ、今のノワールでも勝てないだろうと判断した。
そして自身も今のままでは五分と判断した、とはいえ魔王のレベルは限界突破には達していない、だが相手は魔王だ、どの程度隠蔽をしているか解らないのだ。それにこの場にいる魔族達は皆3桁レベルだが群を抜いてレベルが高いのは目の前の魔王とその側近二人だけである。規格外である雪華とピートにとっては大した相手ではない。
「魔王ルージュ、お初にお目にかかる雪華・ウィステリアと言う。時間が惜しいので単刀直入に話をしたいのだが頼めるだろうか?」
「……始祖姫様からのお話なら拒否はできませんので」
「……そう、あなたも私を始祖姫と認識するのか」
「当然です、たとえ人族として生まれたとしても、その魂は間違いなく始祖姫の物、覚醒すれば間違いなく神族として本来の地位に戻られる。なぜならそこにいる人の姿をした十二神魔という神族があなたの側にいるのが、何よりの証拠となります、我らは神族に対して敵対はせぬ、特に始祖姫に対しては……、それに300年前に神族からの進言もあるのでね」
「それってピートが言っていたアレか……、魔族殲滅」
「そうです、さすがに魔王を名乗るうえ、魔族を守る義務が生じますからね」
「……なるほど……」
雪華の問いに関して説明をした魔王ルージュは、このまだ人である始祖姫の人となりを含め魔力の程度を観察していたが、雪華は完全に感知されないように秘匿魔法を張り巡らせていた。
それを感じた魔王ルージュは、なるほどノワールが気に入る訳だと納得した、魔王相手に怯むことなく秘匿魔法で自分の全てを見せないようにしている、見ることが出来るのは人が感知できる程度の冒険者レベルだけである、それ以外の情報は全く見ることが出来ない。それだけの魔力を持ち合わせているという証拠でもある、覚醒していない状況で人が出きることではないのだ。
「では場所を変えて始祖姫様のお聞きしたい事を窺いましょうか」
「助かる」
そういうと、一同は魔王の側近に案内されて魔王ルージュの後をついて行った。
通された場所は以前ノワールが会ったときの場所である、冬が近いため、もう緑がなく雪化粧になりつつあった。
「……この間は緑があったのに、もう雪が降ったのですか?ルージュ」
「あぁ二日前にな初雪だった」
「そうですか、ではここは氷の世界になるのですね」
「あぁ氷しか見えない、まぁ俺にはどうでも言いがな」
「相変わらず風情が無いですね、君は……」
「お前に言われたくない、何を好んで神族の配下になったのか不思議でならん」
「おや、もう理由は解っているんじゃないですか?」
「まぁ~な……」
そんな事を言いながら冥界以来の旧知の二人は部屋の様子を見て話していた。
場所は露台のようになっている所で外には緑の葉が散った後の木々が見えていた。夏だけは緑が堪能できるとルージュは説明してくれた。
魔王の側近たちは客をそれぞれの席に案内し、飲み物の準備をして目の前に出していた。魔王の席の前には雪華とピート、そして国の代表として来た宰相のマルク・ベルフィント伯爵が座り、その背後にノワールと小花衣が立っていた。
「でぇ~始祖姫様はいったい俺に何をお聞きになりたいので?」
「その前に、その始祖姫ってのやめて貰えないかしら?」
「どうしてです? 転生してもその魂は間違いなく始祖姫のモノです、ただ今はまだ人族として生きているようですが、覚醒すれば間違いなく神族に戻られる、故に始祖姫と申し上げても差し支えはないと考えていたのですがね」
「………確かにあなたの言うと通りよ、そうよそうなるでしょうね確実に、でも私はまだ人族なのよ、人として生きている間は雪華と呼んで貰いたいわ、だいたい人族ではウィステリア領民と国王とここにいる宰相だけしか知らない事よ、混乱を生じたくないためにまだ内密にしておきたいんだけど……」
雪華が強めの言葉で言った為、ルージュは雪華の背後にいるノワールと横に座っている人の皮をかぶった神族の顔を見た。
「おいルージュ、雪華の言葉どおりにしておいた方が無難だぞ、ノワールなんぞ雪華に命じられていなかったのにお前と会ったことで仕置きされてたからな、しかも素手で」
「デーモンロード相手に素手で?」
「あぁまぁ拳に強化魔法を施していたとしても、ノワールの奴は死にかけてたぜ、雪華も多少手加減はしたみたいだが」
「……事実ですよ、私が雪華様の逆鱗に触れてしまったのが原因です」
「なるほど、悪魔と神族二人からのお墨付きか、なら言うとおりにしよう、では今後覚醒されるまでの間はウィステリア公爵とお呼びした方が良いと言うことですね」
「そうね、それで頼むわ……」
「では、改めて質問とやらをお聞きしましょうか公爵殿」
「聞きたいことはただ一つ、あなたが300年前に戦った獣王の事よ、そしてその時に何があったのかをね」
「なぜそんな事をお聞きしたいのか理由を聞いても?」
「……この世界にあるまじき物体が存在しているからよ! もう一つ言えば獣族ごときに魔族が負けるはず無いでしょうが! 魔王ルージュ、あなたの力はどの魔族よりも強いわ、そんなあなたが負けるとはとても思えないんだけど」
強いまなざしで見つめ返された魔王ルージュ、この相手に嘘は通じそうにないと直感で分かった、あるまじき物体といったそれは、彼らが使っていた武器の事を言っているのだと感じとったのだ。
「……300年前の争いは領地争いが最初の発端ですよ、ノワールに聞いていると思いますが」
「それは聞いていけれど、そのときに使用されてた獣族の武器ってどんなモノだったのか聞きたいわ」
「……武器……アレのことか」
ルージュは300年前の戦争を思い出していた、確かに武器はあった我らも使ってたが相手の方が見たこともないモノだった、しかも獣王は魔法も使っていた、獣族も魔法を仕えるモノはいるがあの獣王は普通の魔法ではなかったのだ。
「獣族が使う様な武器と共に何かが飛んできて破裂していたなぁ」
「破裂?」
「おいそれって爆発みたいな感じだったのか?」
「いや、爆発と言うよりは……、地上で割れて何か煙が出てきた」
「……煙?」
「あぁその煙を吸って目が見えなかったり、痛かったり何らかの状態異常があったと兵が言っていた」
「……ちょっと待ってよ、そんなモノなら魔法で排除できなかったの? 魔族は魔法が主体でしょ?」
「魔法で排除しようとしたが、数が多くてな……排除した後から大量に降ってきた」
「降ってきたって上からって事?」
「恐らく浮遊魔法だと思うんだが、獣王の使う魔法が一般的に使う魔法とはどこか違っていた」
「どこか違っていた魔法……」
「あり得ん、魔族がそんな程度で負けるか?」
「破裂してって事は何かに入っていたって事よね、多くあったのなら、それいくつか保管とかしてないの?」
「危なすぎて残ったモノは消し炭にした」
「そう……」
雪華はその現物があれば原因が分かると思ったのだが、無いのならどうしようもないと思った、とはいえ破裂させて目が見えなくなったり痛かったりといった症状が出るような武器って言えば、もう確実に300年前の武器を再現している事になると思った。
「でぇちょっと気になったんだけど、獣王の魔法がちょっと違っていたと言ったわね、どう言うことなの?」
「一般的に魔素を使う魔法であるのは公爵も知っていると思うが、獣王が使っていたのは魔素を使わないものって感じだったと思う……」
「魔素を使わない魔法?」
「……いや魔素も使っていたのだろうが、何て言うか……死んだ獣人が復活して攻撃してきたんだ、あれは死霊術師みないな者だったのか?」
「………それってネクロマンサー」
「待て待て、雪華あいつがネクロマンサー? エクソシストの間違いじゃないのか?」
「マクディナルは『皇騎士団』としての立場ではエクソシストとして、『幻魔団』の立場ではネクロマンサーだったのよ」
「えっ、マジで?」
「えぇ、どっちも魔力を使うし、エクソシストとしてなら300年前も普通に大司教として使っていただろうけど、ネクロマンサーの術は闇魔法の部類だから、可能性として300年前も使えたかもしれないわ」
「それにエクソシストの術は私も使えるし、大司教なら使えて当然だわよ」
「正直訳の分からないモノが飛んできて兵が混乱している中、死霊の獣人が襲ってくるのだからな、こっちも必死だった」
「魔族には浄化魔法を使えるモノはいないの?」
「魔族だぞ雪華、元々は冥界の悪魔達だ、そんなコイツ等に浄化魔法は扱えん、せいぜい治癒魔法程度だ」
「そっか……そうよね……、でぇその後兵に何か病気とか出なかったの?」
「病気というか咳をするモノが多かったなぁ~、死ぬ前に血を吐いていた、後は……そうだな目から涙が止まらなかったりしていたか……」
「うそぉ~~マジ?」
「ちょっと待て、それ本当の話かルージュ!」
「あぁはい」
「………おい雪華………」
「あんのバカ!!! この世界にそんなモノを……」
雪華の怒りは頂点に達して恐怖の霊気のプレッシャーを立ち上がらせていた。それを見たルージュは驚いてた、さっきの魔力より一段と大きなモノだったのだ。普段は力を押さえていると言うことだと理解した。
「ねぇ~今もそんな症状のある魔族はいるの?」
「いや、一応治癒魔法で完治させたが、後遺症なのか息苦しさを訴える者が多く原因が解らんので、戦闘部門からは外してあるが、最後には呼吸困難になって死亡する事になる、だから獣族関連は警戒している」
「でぇ武器はそれだけ?」
「通常の槍とか当然獣族も魔法を使うからそれも使っていたが、最終的には、その破裂したモノが原因で撤退する以外に無かった、兵が次々と倒れたモンだからな、だからこの不毛の土地しか手には入らなかった」
「はぁ~~~全く……アイツ絶対に殺してやる!!ピート、止めるなよ!」
「止めない、止める必要は感じない、やるなら徹底的にやってくれ!」
「本当にいいの? アイツの中にいるのも死ぬけど?」
「かまわん、もうずっと前に決着をつけた、いつまでも引きずるつもりはない、俺も覚悟を決めたからな、それでもマクディナルの一部になったのなら、もう俺がやるよりお前の方が絶対殺せる!」
神族二人が揃って相手を殺すと言った、止めることもしないと言ったのだ、さすがに魔王でも驚いた、悪魔の上位にいる神族が命を刈ると言っているのと同じなのだ。
「あの神族が殺すのですか?」
「神族が殺すんじゃなくて、まだ人族である私が殺すのよ!!!」
「しかし出来るのですか? あの変な武器も、恐らくあれ以降300年も経過していたら威力は上がっていると思うのだが……」
「そうでしょうねぇ~他にも色々とんでもないモノを作っている可能性だってあるわよ、しかも人族相手ではなく魔族にも影響を与える様なモノを作ったんだから、恐らく300年前のソレは実験だった可能性だってあるわ」
「なぁ雪華、アイツ大司教だったのに、何でそれ知っているんだ?」
「大司教になる前の一般人の時代に大学で学んでいるとしたら知っているでしょうが」
「えっ大学行っているのか? アイツ、大司教って修道会に入るんじゃ無いのか?」
「大学卒業してからでも修道会に入れるでしょうが!」
「………なるほど、その手があったのか」
かなりの怒りようだとその場にいる誰もが思った、一切言葉を発していない宰相も怖いと思ったほどだ。
「いったい何だったのですか、その武器っていうのは?」
「………確証は無いわよ、その時に落とされたモノが存在していないから確認できないからね、でも確実にそれは次元移動前の300年前には普通に存在していたものよ」
「次元移動前っていうと、我々がまだ冥界にいた頃ですね」
「そうねぇ、そうなるわねピートの話を聞けば、冥界は移動しなかったって聞いてるから」
「では対処方法もご存じで?」
「一応知っている、けど300年経って現状がどうなっているのかは解らないわよ、さっきあんたも言った通り性能が上がっている可能性もあるし、魔族に効く様なモノまで作ったのなら、奴が他に何を作っているのか解らない以上下手に手を出すのは得策ではない」
そう断言した雪華は少し沈黙して思考を巡らせた、現状を考えると魔族側に動かれるのは不味いのだ。そのため雪華は現状のハルシェット辺境領の事を話した、そしてこれが宰相としては魔王に話すのは困ると慌てて雪華に異議を申し立てていたが、雪華は気にしていない。
「知っておいた方がいい、ハグレ魔族を討伐もしくは魔族領に入れないようにしている魔王ならね」
「しかし……」
「宰相……ハルシェット辺境伯はハグレ魔族を利用している、利用されているという可能性もあるんだけど、ここで魔王にまで王都に来られるとフェスリアナ王国は負けるわよ」
「ですが……」
「じゃ正直に言いましょう、獣王が元凶魔王の生まれ変わりなのよ」
「えっ?」
「何だと??」
「ここに来た時私は獣王を探った、私が知っているのはマクディナルとハディ・クランの魂の気配、でもピートは元凶魔王の気配を知っている。その結果その魂を感じた、これがどういう意味か解っているわよね?」
「そ、それは……」
「ウィステリア公爵……元凶魔王と言うのは本当ですか?」
「ピートがそう感じているからねぇ~、私は元凶魔王を知らないから」
「お前もノワールも冥界にいたから知らないだろう、でも俺は当時の初代始祖を守るために部下と共に下界に来ていた、そのときに元凶魔王と会っている、だから魂の気配は覚えている」
「では、獣王が元凶魔王のあのダミアスの生まれ変わり……」
「現状は300年前のマクディナルって奴の人格が主体となっている、そいつの中にダミアスは眠っていた様だな、俺にも解らないくらいに小さく、復活のために自身の体の一部をフェスリアナ王国の神殿から奪われている、ソレが復活の鍵にならんとはかぎらん」
「とりあえず、私が結界を張って復活阻止をしているわ、記憶を取り戻していないのなら大丈夫だと思うけど、それは確証がない、ただ元凶魔王の復活は絶対に阻止しないとダメなのと、復活したら殲滅が絶対条件よ、そのときはルージュにも手を貸して欲しいんだけど?」
「……我らにも手を貸せと?」
「おい雪華元々あれは俺たちが対処していた奴だぞ、アイツのせいで、まだ冥界にいたコイツら以外の現世に出ていた魔族は全滅している、だいだい初代始祖は種族に関係なくダミアスを殺した筈なんだ、その残滓が残ったからこんな状況に陥った、落とし前は俺たちでつけるべきだ!」
「……そうね、本来ならそうよ、でも神族を降臨させるつもりはない」
「マジで言っているのか?」
「そうよ、復活したとしても完全じゃないと思いたいんだけどね、でもマクディナルの人格が主体なら、これは人が対処すべき案件よ、特に私はアイツを許さない、300年前からずっとね」
「しかし……」
「それにねぇ、冒険者のレベルもあがって欲しいのよ! ちょうど良いのよマクディナルの獣王が相手なら、ラスボスと言うことで冒険者が戦って欲しいわね」
「公爵、さすがにソレは無理があるのでは? 元凶魔王については今現在のどの種族も知らない者ばかりです」
「私も知らないわよ、知っているのは神族だけ、宰相には前も言ったけど神族が降臨することはない、ならば我らで対処しなければならないのよ、弱腰になってまた同じ事の繰り返しはバカらしいわ」
「そうですが……」
ここまで話を聞いていたルージュがいきなり笑い出した。それに一同が集中して顔を見た。
「転生された始祖姫とは、面白い方だ。解りました了承した。我らも獣族というより獣王には腹を立てている方だ。フェスリアナ王国の現状も理解した、今は表だっての国交は控えよう、だが情報交換は必要だと思う」
「そうねぇ、本来なら国王陛下と会って欲しいとお願いしたいんだけど……」
「そうだな、出来れば次はこっちから出向こう」
「えっ!」
「それって不味いだろう! お前聞いてなかったのか!!」
「だから王宮ではない場所で会おうと言うことだ、どこかに無いのか? 会えそうな場所、転移魔法で行けば問題なからろう」
「転移魔法……って」
「転移魔法陣にしてくれない? 提供する場所の人にも配慮してよ、魔王なんて怖くて迎えられないのが人族ってモンよ」
「たしかに……神族の庇護下にある場所には行くことが出来ないからな」
「じゃ、宰相さんの家になるか……」
「私のですか???」
「ベルフィント領なら陛下が視察に行くって事で通るでしょう? 私とピートも転移魔法で行くわよ」
などと話が弾み、フェスリアナ王国に魔王が転移魔法陣でくることが決まった、とはいえ国王との謁見には準備と時間がかかることを納得させてる事と、期日もフェスリアナ王国側が決めさせて貰う事を承知して貰った。
事情が事情であるためと言うことにも納得して貰えた事に安堵する宰相マルク・ベルフィント伯爵であるが、雪華達からすればえらくすんなり受け入れてくれたなぁ~とある意味不気味だと感じたのは間違いなかい。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。