123話 王都帰還と孤児から話を聞く国王
ご無沙汰しております、私事が忙しく、かなり更新が遅くなっておりました。
今後も少し遅くなるかも知れませんが宜しくお願い致します。
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ハルシェット辺境領の偵察から戻った雪華はエルルーンに公爵としての着替えをさせられて、ピートと共に客間に通されていた、ピートもまた何故か貴族に近い服装になっている。
当然執事の小花衣と侍女エルルーンが側に控えている。配下になったデーモンロードのノワールは王宮には入らず王都周辺の警戒を命じられていたが絶対に手を出すなという雪華からの強い命令を受けていた。
「ピートって貴族じゃないのに何でその服?」
「知るか、おまえの執事に聞いてくれ!」
「ピート様は特別なお方ですから、我がウィステリア家同等と一般的に考えても良いかと存じます、またこれは大旦那様もお認めになっておりますので」
「……ピートがうちの家族と同等の立場……」
「陛下は既にそういうお考えであると窺っております」
「……マジか」
そんな話をしていると、着替えをすませた子供達とロバートが部屋に入ってきた、見るとロバートは平民でも一番良い服を着せられている、子供達も同様であった。
更に彼らが目の前で見ている雪華達を見て声を失っている。
「……どうしたの? 服良く似合っているわよ」
「あぁえっと、その本当にお貴族様だったんですね」
「まぁねぇ信じられなかったのも無理ないわ、でも冒険者をしているときはあんな服装の時が多いのも事実だから、あまり気にしないでね」
雪華はキートンの言葉に説明していた、ロバートはそんなキートンを諫めていた。
その雪華の服と言えば、貴族が着る上等な生地で作られているドレスではあるが、この時代の物ではなく、300年前の一般的な正装である、つまり平素のスーツだ。ただこの時代に合わせてスカートの裾は長くブレザーの丈は長い、当然ピートが持ってきたティアラもしている。
そのピートも上等な生地で作られたスーツである。普段はあまり着ないと豪語していた。
「それでは皆様、陛下の所に参ります」
「そうね、行きましょう」
「はい……」
宰相の言葉で皆が立ち上がった、ただ緊張をしているのは当然ハルシェット辺境領から来た者達だった。国王陛下に会うなどと考えもしていなかったのだから、緊張するというものだ。
暫く歩いてからある部屋に案内された。その部屋は執務室ではなくまた謁見室でもなく、ちょっと豪華な喫茶店くらいの広さのサロンという所だった。
「……ちょっとこんな豪華な部屋で陛下と会うんですか? 宰相?」
「はい、ですがこれでも控えている方ですよ公爵様」
「……子供達が萎縮するわね」
雪華がそう言うと初めてみる貴族の部屋というものを見回していた、ロバートにしても同じである、貴族の家には行ったことが無いのだ。
「ハルシェット辺境領からお越しの皆は、そちらに座りなさい」
「あっ、はい」
「公爵様とピート様はこちらへどうぞ」
宰相が案内したのはハルシェット辺境領から来た者達と雪華達がテーブルを挟んで対面する形ではあるが、当然上座になる方に雪華達が座っている。国王が座る場所は両者の間になる場所だった。
国王が来る間、王宮メイド達がそれぞれの場所に、飲み物を置いていく、子供達には菓子も用意していた。それを嬉しそうな顔をしている子供達、食べようとしてロバートに注意される。貴族より先に食べてはいけないと言っているのだ。
雪華達としても陛下が来るまで手をつけることはしない。一応身分は臣下というのが表向きの立場である為だ。そんな所に漸く国王が部屋に入ってきた。
「お待たせした」
「いえいえお忙しいでしょ?」
「まぁそうだな、神殿の方の後始末がおおかた済み、後は片づけだけだが……」
「そう神官達は移動したの?」
「あの状況では住めまぬからな、仮の場所で神殿業務を行っている」
「ってことは神殿再建って事なのね?」
「あぁ、当然領民も心配してるのでな」
「なるほど……」
「でぇ今日は、お客様連れで?」
「陛下、とりあえず私たちからの説明の前に、彼らをこの王都に住まわしたいのよ、許可を頂きたいわ」
「住まわせる? ハルシェット辺境領の者と聞いているが?」
「その前にフェスリアナ王国の国民でしょ、それに彼らは領主から殺されそうになってるのよ」
「ハグレ魔族に襲われた上に貰った食事にを盛られていた」
「な、なんと、それは本当か?」
「本当よ、ハルシェット辺境領側の関所を通過して20分くらいでハグレ魔族が襲いかかってきたわよ、全滅させたけど、その後貰った食事をしようとしたら毒入りが解った」
「まぁ~関所を通過した後で何かしらの行動に出るとは思っていたが、悪質だと思ったぜ俺は……」
「ピート様も同じお考えか」
「そう、でぇ今は彼らから、ハルシェット辺境領での生活の実態を陛下が聞いて確認する方が先だと思ったから、連れてきたし、私は保護をすることに決めたのよ、この子ども達を冒険者ギルドの孤児院に預けて冒険者予備校に通わせたいんだけど、許可を貰えます? 当然ロバートにはその施設での指導をお願いしようと思っているんだけど」
「ハルシェット辺境領の代官が一応王都に入る許可証をコイツらに渡していたんだが、王都側の関所でそれを見たら偽物だった、内容は『このもの達を殺せ』って書かれていた。コイツらは何も悪い事はしてねぇのになぁ」
「解った、お二人がそのように仰るのであれば、先に彼らから話を伺うとしよう」
「ありがとう、じゃそうねロバートから話してくれる、出身から生い立ちを含めて今までのこと全部包み隠さずにね、そして子供達も自分の口でゆっくりでいいから思い出せるだけ話してちょうだい、小さい子の場合はキートンを含めて大きい子が助言してあげてね」
「はい……」
雪華の説明を受けで、彼らはゆっくりとロバートから話し始めた、自身が冒険者だった頃のこと関わってきた人達と彼ら孤児を守ってきたことも、そして子供達は、自分の生まれや両親のこと、貧民街で過ごしたこと、ロバートに助けられてきたことなど全て話した。
それを聞いた国王はゆっくりと怖がらせないように、ハルシェット辺境領はどう言った土地柄なのか聞きたいことを聞いていた。それに対して彼らはゆっくりと答えていく。
その様子や話を聞いて国王も宰相も、また雪華の従者達も驚いた顔をしている。
「そうか……、苦労してきたのだな」
「本当は自分が生まれ育った領地の事を悪くは言いたくないのです、ですが平民が貴族の顔色を窺って生きていたり、ちょっとした事で貧民街に送られる、子供は奴隷商に連れて行かれるなんて事はあまりにも過酷でなので……」
「済まなかった、私がもっとハルシェット辺境領の事を知っておくべきだった」
「そんな……陛下にお会いできるとは思っていませんでしたし、それを伝えることができるとは思っていませんでしたから」
「そうか、ならばウィステリア公爵に感謝するのだな、王都にある冒険者ギルドが併設している孤児院はウィステリア公爵の支配下にある為、王都の貴族も手は出せない。安心して暮らすと良い、また子供達は冒険者登録をして採集などの依頼を受けるとよい、今までよりはマシな生活ができるだろう」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます陛下……」
「例には及ばん当然の事だ、マルク、冒険者ギルドのギルドマスターを直ぐに呼べ」
「はっ」
国王陛下レイモンドに命じられて宰相ベルフィント伯爵は部屋を出ていった。その後陛下から菓子を食べるよう言われ、子供達は喜んで食べていた、ロバートも礼を言ってお茶を飲んだ。
それを見ていた雪華とピートは少し安堵した、漸く緊張が解けたようだと思ったのだ。
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一時の時間を国王は子供達とリバーシをして楽しんでいた。これに驚いたのは当然宰相と雪華達でもある。
「これは強い……」
「でも陛下の方が強いですよ」
「俺も負けた……」
「これを教えたのは公爵か?」
「ピートよ!」
「そっ、最初はキートンに教えたんだが飲み込みは早くてな、子供達も直ぐに覚えて、道中馬車の中で時間潰しにやっていた」
「なるほど……、これは王都でも流行ってくれると良いのだが……」
「えっ、流行ってないの?」
「平民は買うお金が足りないそうだ、もっぱら貴族が主体だな」
「それは困るわよ! 貴族が冒険者になる人は少ないでしょ、平民が冒険者になって欲しいのに」
「その事で公爵に相談をしようと思っていた所だ」
「そう、じゃ後でまとめて話を聞くわ」
子供達と一緒にリバーシを楽しんでいる国王から雪華達が教えた遊びの王都での現状を聞いて呆れていた。
その様子を沈黙して見ていたのは言うまでもないロバートである、まさか自国の国王が、こうも平民と親しく話してくれる上、子供達とゲームに興じるなど考えもしなかった出来事だった為、驚きと言葉にならない感動があった。
「どうした?」
「あぁ宰相様、いえ驚いていたのです」
「驚いていた?」
「はい、まさか国王陛下がこんなに平民に親しく、それも貧民街で過ごしていた子供達と一緒にゲームをされるなど考えもしていませんでした」
「そうだな、本来貴族も王室も平民と関わることは少ない、だが陛下だけは今までの王室の方々とは違っている、これもみなウィステリア公爵の影響ではないかと思う」
「公爵様の?」
「そうだ、300年前を知る方達でもあり、陛下の祖父で先王陛下も転生者だった事もあり、陛下は300年前の話や祖父の話を公爵様から多少なりともお聞きされている、貴族のいない世界だったと、そんな世界で生きてきたウィステリア家の方々との交流は陛下の価値観にも影響を受けられた、平民に学問を教えるという事は、今の世界では難題であるが、それを実行されようとしいるのだ、その為には自分から平民に近づく必要がある、そうお考えなのかも知れん」
「平民に近づく……」
「あぁ、お前も短い間だったとはいえ、あの公爵様と共に行動を共にしたのだろう、何か感じるモノがあったのではないのか?」
「………そうですねぇ~変わった方だとは思いました、軽口を叩きながら話されるし、しかもお強い」
「そうだな、強い……さすがは冒険者ランクLSランクの方だ」
宰相とロバートが話をしている時に、王都支部のギルドマスターロイド・三橋が到着したと報告があり、宰相が部屋に入れた。
「失礼します、陛下お呼びと伺いました」
「あぁそうだ、公爵様からの依頼があってお前を呼んだ」
「領主様の?」
「三橋! 久しぶりね」
「これは領主様、ここ最近お見えにならなかったようで、討伐にでも出かけられていましたか?」
「そうね、討伐はついでだったから後で買い取ってね」
「畏まりました、でぇ何かございましたか?」
「そう、ここにハルシェット辺境領の平民がいるんだけど、助けてきたので、孤児院に入れて欲しいのよ、そして唯一の大人のロバートも孤児院の仕事をさせてくれない? ここまでの経緯は孤児院で聞いてくれると助かるわ、そしてこのロバートは昔冒険者をしていたらしいから、記録が残っているかも知れないわ」
「なるほど、でぇロバート殿は今も冒険者カードをお持ちですか?」
「はい持っております」
「では後で提出をして下さい、照会致します」
「はい……あのあなたは冒険者ギルドのギルドマスターなんですか?」
「あぁ自己紹介が遅れましたね、私は冒険者ギルド王都支部のギルドマスターをしているロイド・三橋と言います、以前はウィステリア領の冒険者ギルド本部で本部長の補佐をしておりました」
「そうですか……」
ギルマス王都支部の三橋との面通しと自己紹介を終えると、子供達が不安そうにしていたが、雪華が大丈夫だから心配ないと説得をして、何とかロバートと共に三橋の案内で王宮をでてギルドに向かった。
「さて、お二人がお戻りになってお聞きすべき事もご相談したいことも色々あるのですが……」
「その前に結界を張っても良いかしら?」
「えぇ、構いませんお願いします」
「じゃピートよろしく」
「えぇ~~また俺?」
「そうよ、ハルシェット辺境領に行って解ってるでしょ。あんたの結界の方が安全だって事」
「……まぁ~仕方ないか、解った俺がする。宰相さんは扉前の取り次ぎに対して暫く誰も入れないよう、謁見は暫くできないと命じておいてくれないか? たとえ急用でも……」
「畏まりました……」
「それほどの事ですか? ピート様」
「まぁな、正直重大情報と思った方が良いだろうな」
ピートはそう言いながら神族結界を張った、その様子をお茶を飲みながら眺めていた雪華は溜息をついていた。
結界を張り終えたピートが雪華の横に座り、国王も雪華の前に座り直した、宰相と小花衣はそれぞれの主の後ろに控えていた。
「それでこちらに来る前にハルシェット辺境領に行ったのは、以前からは話されていた辺境伯の存在を確かめるため……っと言うことで宜しいか?」
「えぇ、そう極秘で潜入捜査をしたのだけれど、もうねぇ驚くことばかりで呆れかえったわね」
「驚くことばかり?」
「そうよ、あり得ないことこの上ない……」
そこで雪華とピートは潜入して知った事実を全て語って聞かせた、ハグレ魔族が自由に徘徊している事、領内の身分制度に分かれた城壁の事、領民全員に識別番号をつけて監視していること、更に一番驚いたのが、あのハルシェット辺境伯自身が戻っているだけではなく、大精霊を捕まえて殺した事などである。当然結核菌についても一応話しておいた。
二人の説明を聞いて言葉のない国王と宰相である。
「結核菌については既に300年前からあったから父と兄に頼んで何とかして貰うとして、辺境伯については陛下が何とかして下さいね、間違いなく謀反だからね」
「謀反……」
「彼と繋がりのある貴族の動向や王妃の行動も警戒した方が良いでしょう、それとその戦争にハグレ魔族が投入されるのであれば軍編成も慎重にしなければならないだろうけど」
「ですが魔族が戦場に出てくるとなると、こちらに勝ち目はございませぬのではありませんか陛下」
「そうだなぁ~、魔族は魔法を使う。王都にいる人族は魔素が少なくて魔法を使える者はごく僅か、しかも兵の中に魔法を使え る者はいないに等しい……」
「冒険者に協力を仰げばいい」
「ですがレベルが低いのでは魔族の相手にすらなりません」
「その件だけど、まだ直ぐにというわけでは無いようなのよね、物資を集めているとか食糧確保に動くとか、その程度の話は聞いたけど、それにねあの地の大精霊が殺されているから直ぐに不毛の地になるわよ」
「不毛の土地になるとしても直ぐにと言うわけでは……」
「解ってないなぁ~あの領地の大精霊は元々大地の精霊だ、それが殺されたと言うことは土地が痩せ作物ができないし、今実っている物も出来が悪くなる、備蓄できる程収穫できないって事だ、そしてその原因を奴らは知らない」
「まっハグレ魔族が気づく可能性はあるだろうけどグレーターデーモン程度ではそこまで思いつくかどうか怪しいわ」
「では、まだ対処の準備ができると?」
「えぇとりあえず、王都にも初心者の塔に近い鍛錬所を作るわ、そうすれば冒険者が経験値を得てスキルアップ程度はできるでしょうし、レベルも努力次第ではあがるはずよ」
「雪華の言うとおりだ、現にウィステリアでは3桁レベルの冒険者が出始めているしな」
「ウィステリアとして協力できるのは、初心者の塔迷宮に類似した物建造物を造るだけよ、それ以上は協力できない、貴族達が私に協力をと言ってきても私は拒絶する」
「しかし……公爵様、それで貴族達が納得できるでしょうか? 一応国民であると訴えるのでは?」
「宰相、私は初めに貴族達には忠告してあったわよ、貴族を含め私利私欲で動く者や権力者が嫌いだって、訴えてきても退けるわよ、それにうちは既に結界を張ってあるし、入国に制限を掛けている、領民の出国も戦争の兆し、つまりハルシェット軍が動いた時点で領民の出領を禁止すると通達してあるわよ」
「何故そこまでなさるのですか?」
「解らないかマルク」
「陛下はおわかりに?」
「当然だ、ウィステリア領民が人質になるのを避けるためだ、それに雪華様の立場から手を貸すわけには行かないだろう、そう言うことですよねピート様」
「……雪華がどう思っているのかは知らん、だが神界の庇護下にある領地だからな、神族が手を貸すかも知れない等と人族が考えるような事は出きるだけ避けたいはずだ」
「そうねピートの言う通りよ私が動くわけには行かないわ。だから手を貸せるのはさっき言った事だけよ」
「なるほど、そういう事でしたら仕方がございませんね」
雪華とピートの話を聞いた国王と宰相は、あまり良くない状況を改めて理解した、しかもハルシェット辺境伯の野望もこれでハッキリしたと確信に変わった。
だた今はまだ彼らが動いたという確証と証拠が無いため王都も動けない状況である。故に情報は大事である事も知っているため、今回極秘に潜入して情報をくれた雪華達には感謝以外にないのである。
「これ以上お二人にご迷惑をかけるわけにはいかない、後は我々だけで何とかすべきだ」
「はい……」
「初心者の塔の類似建造物についてはスキルマスターの許可が必要になるけれど、そちらは私が何とかするわ、そのかわり冒険者ギルドからそう遠くない場所に広い土地が必要よ、確保できるかしら?」
「それは何とか致します」
「言っとくけど貴族が関与することは認めない」
「承知しております」
王都の冒険者のために、ウィステリアにある初心者の塔と同じ機能をもつ建造物を雪華が準備すると言った事で、冒険者だけではなく兵士達も訓練が出きると王と宰相は考えた。
「それはそうと雪華様、イルレイア大陸の魔王についてはいかがなさるのですか?」
「あぁそっちに関しては、早急に対処が必要になったわ、あのハルシェット辺境伯が戻っていて、識別番号なんて腕輪が存在するなんて、あの腕輪の存在がこの世界には似つかわしくないのよ、300年以上前ならともかく、これ以上延ばすのは今後この国にとっても弊害にならないとも限らないからね」
「ならば早い方が宜しいでしょう、マルク明日、もしくは明後日など時間はとれないか?」
「明日ですか? ……そうですね何とかできないこともありません、今から部下に予定の引継をすればギリギリ間に合うかと……」
「ふむならば、どうであろうか雪華様」
「そうね……、こっちの都合を無視して期日してくる魔王も魔王だし、良いでしょう、ピート結界を解除して貰える?」
「いいのか?」
「えぇノワールに手紙を持たせるわ、宰相さん紙とペンをお借りできるかしら?」
「直ぐに準備を致します」
そう言うと雪華は胸に掛けていた宝玉に霊力を込めると『当主の証』である箱が出てきた。始めてみるそれを国王は凝視する。
「それは?」
「これはウィステリア家の『当主の証』を入れてた箱です、代々当主にだけ継承される物、つまり始祖が当主に与えたものだから、たぶん人の世界の物ではないわね」
「そうなんですかピート様」
結界を解除してその様子を見ていたピートは、また懐かしい物が出てきたものだと思った。
「あぁ初代始祖がウィステリア家直系に『当主の証』として与えたものだ、それで次の当主が決まる、だから必ず長男とか第一子が当主になれるとは限らない、その箱自体が神界の物だからな」
「なるほど……」
そこにピートが呼んだデーモンロードに進化し雪華の支配下にあるノワールが姿を見せた、当然彼は悪魔である、神族のピートに対して無礼な振る舞いはできない、更にその主である雪華も自身が契約とは名ばかりの支配下にあるため礼儀正しく従っている。一度強烈な仕置きを受けているためという事もあるのだが……。
「お呼びでしょうか……」
「今からお前の旧知に手紙を書く、それを持って直ぐに向かって欲しい」
「承知しました」
「手紙には、私が明日直接数名を連れて転移して会いに行くと書いておく、攻撃するなら反撃するからそのつもりでいるよう伝えよ、当然同行者にはピートも連れて行く、こちらの人族側は国の代表として宰相を連れて行くが、話をするのは私だ、いいな忘れるな、攻撃するなら神族が命じたとおりになる、そう伝えよ」
「畏まりました」
「それと数日前にお前に行った事も覚えているな?」
「はい、手紙を渡して余計な事は一切言わない……」
「そうだ、説明は全て私がする」
「承知いたしました、親書を受け取りしだい直ぐに行ってまいります」
ノワールの言葉を聞いて雪華は魔族語で手紙を書いていく、それを当主印で封蝋して閉じてノワールに渡した。彼は直ぐに窓から姿を消して魔族方面へと向かった。
「ピート……」
「何だ?」
「今の話、あんたの化け物上司達は見ているわよね?」
「当然見ているだろうな」
「ならば私が魔王と会うこと、そして今話していた事も聞いた事になる?」
「そうだな、そして魔王側がそれを無視すれば、上は即座に攻撃するだろうよ」
「………私ってまだ人族なんだけどなぁ~」
「まぁ~諦めろ、既に上は認めているし、何より神剣がお前を主と認めて手元に戻ってくるだろうからな」
「それって私、いつも自分の剣を持っているんだけど?」
「お前心で念じれば神剣はお前の元に戻る、その後はお前が持っていても問題ないし、下界で持つのが心配なら使用するときだけという認識をすれば、神剣は自ずと神界に戻るだろう」
等とグチをピートに言う雪華を見ながら、この国の国王は今後起こるであろう内戦に対して対策を今から考えておく必要もあり、雪華と魔王との会談によっては獣族や魔族とも争いになりかねない不安を抱えていた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。