120話 ハルシェット領潜入 その3
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ハルシェット辺境領の平民街に地下道を通って潜入した雪華達、現在孤児達の協力者という店の地下食料庫にいた。
「ねぇ店主、ここから城の方角ってわかる?」
「はい、解りますが城壁に囲まれており城は見ることが出来ません」
「それで良いわ、別に城に興味はない、有るのはハルシェットの存在だけよ」
「……っと言うか雪華よ、ハグレ魔族の気配は感じるんだけど」
「それは私も感じているわよ」
「なぁ店主のロバートさんよ、何でこの領地ってこんなにハグレ魔族がいるんだ?」
「領主様が受け入れているからとしか聞いておりません」
「領民に危害を加えることはないの?」
「基本的に平民街で騒ぎを起こすことは出来ないらしいのです。許されているのは貧民街だけだそうです」
「なるほど……」
「そういえば魔族もその腕輪をしていたな」
「あぁこれですか識別番号ですね、これはこの領地にいる者は貴族以外全員つけています」
「貴族以外??」
「はい、何か解りませんが、実験をして調べるからとだけ聞いています」
「実験ねぇ~~」
「そういえば、この腕輪が魔石で動いているって言ってた、言ってましたね」
「魔石? どういう事だキートン」
キートンの言葉でロバートが気になるのか説明を求めて、キートンは貧民街で何が合ったのかを雪華達とあった時から細かく説明していた。
「魔石ですか……」
「何か?」
「あぁ~いえ、実はこの腕輪は2週間に一回神殿に行って一度外されます、そして何かの道具で腕輪の何からを取り替えるのです、その後再び腕輪をつけられます。何をされているのかは全く解らないのですが、そうですか魔石ですか」
「魔石に魔素を注入して作動させているのよ、そしてその魔石にはその人物の記録がされる、おそらく神殿に行くのはその魔石の交換の為でしょうね」
「キートンは貧民街でそういうのは無いのか?」
「俺たち貧民街の場合は軍兵がやってきて集合させられて、順番にたぶんお爺さんと同じ事をさせられています」
「この腕輪の出所が気になるんだけど、恐らくイルレイア大陸だろうね」
「だから魔族が多いのか?」
「恐らくそうでしょう、魔族と人族のデータでも取っているんじゃないかな」
「って事はハルシェットのヤツはそれを知っているって事か?」
「さぁ知らされていないかも知れないし、知っているかも知れない。要は獣族との関係の深さでそれが解るでしょうね」
「公爵様……」
「何?」
「この子達だけでもこの領地から助けられませんか?」
「それはまたなぜ?」
「私はもう年です、ここから逃げることは出来ないでしょう、ですがこの子のような孤児がまた増えるかも知れないのなら、せめて今いるこの子達だけでも安全な場所に……」
「……この領地が危ないと?」
「いくら年老いても私も現状くらい解ります。あなたを殺そうとした領主様は、何か理由があったはず、しかし今貴族達の動きが変なのも事実なのです」
「何か知っている?」
「貴族達は秘密にしているようですが、領主様と縁のある貴族が外から来ているという情報は平民もしっています。何かが起こるのではと不安に思う者もいるのです」
「貴族ではなく平民にまで異変を感じさせているって事か」
「我々はこの城壁からは抜けられないのです、結界の薄い貧民街の者なら何とかして出られるかも知れません、ですのでどうか……この子達をお願いします」
「あのさぁざっと見た感じ食料庫の在庫が少ないんだが、理由はあるのか?」
「貴族が買い占めているので、平民が手に入れる分がないのです」
「貴族街にも貴族専用の店があるんじゃねぇの?」
「そちらが底をついたようです、なので平民街の物を搾取しています、私も店を閉めざるを得ないのはそういう理由も含まれています」
「なら、一緒に来る?」
「えっ?」
「そうだよ、お爺さんも一緒に行こうよ」
「一緒って何処に?」
「王都だよ、俺たち王都に逃げようって言っているんだ」
「王都に!」
「貧民街の孤児達は奴隷商に売られるか魔族の餌にされるか、そのどちらかになるって聞いたわ、そんな酷い扱いあり得ないでしょ、今生きている孤児はキートンを含めて6人だけ」
「6人だけ?? 他の子は?」
「みんな死んだ、今病気でシスターの所にいる子もたぶん助からない」
「なんて事……」
「だからね、一緒にどうかって話よ、子供達だけのつもりだったんだけど、安心できる大人が一人いれば知らない土地でも子供達は安心して暮らせるでしょう?」
「ですが……この腕輪が……」
「それは私が何とかする、というか出来るから心配ない」
「本当ですか?」
「そうだな雪華が大丈夫といったらまぁ~間違いないだろう」
ピートの言葉に雪華は薄笑いをしている、こんな彼女はよからぬ事を考えている事が多いのだ。だが今回は仕方がないとピートは諦めた。
「……解りました、では直ぐに店を畳む準備をします」
「大事な物はちゃんと持って行くのよ、持って行く量は気にしなくて良いからね」
雪華は笑顔でそう言った、そして城の方角が見える場所に案内をして貰った、夜明けからもうだいぶ経つ、仕事に出かける人々が出てきていた。
2階の窓際から見える城壁その奥が貴族街の商業施設のある地域、そしてその更におくの城壁を越え中心にそびえ立つであろう城の方に意識を飛ばす雪華、それをピートは見守りながら、店じまいをするロバートと周辺の魔族の気配を監視していた。
「……いた……」
「本当か?」
「えぇ魔素と魂を関知した」
「やっぱり戻ってやがったか」
「魔法陣の気配はもう無いわね、でも恐らく紙の魔法陣を使った可能性はある。城の方角に魔法陣の痕跡は感じなかったからね」
「あぁそれは俺も感じた、というよりこの領地に魔法陣はない」
「探知したの?」
「あぁ」
魔族の気配の察知とロバートの店じまいを見守りながら、更に雪華の側で魔法陣探知をしているとは、雪華は感心した、これが神族の主を守る者かと、小花衣達とはまた違った守りであることは十分に感じていた。
「ねぇ公爵様?」
「どうしたのキートン」
「俺たち本当に王都に行ってもいいの?」
「どうして問題ないわよ」
「でも俺たち、このハルシェット辺境領の住民だよ」
「その前にこのフェスリアナ王国の国民でしょ? 陛下はそんな差別はされないわよ」
「陛下?」
「この国の国王だ」
雪華とピートが説明している頃、開店準備をしていたロバートに近隣住民が声をかけていた。
「ロバート爺さんおはよう」
「あぁおはよう」
「今日で店じまいかい?」
「あぁもう限界だからね、品薄だし私も年を取ったから、余生をゆっくりと過ごしたいからね」
「前から言っていたからねぇ~店じまいをするって、アレは本当だったんだ」
「でも良いのかい、憲兵に食材を卸していたんじゃなかったの?」
「あぁそれはもう解決しているよ、憲兵さん所の責任者にも話は通して貰って許可が下りているからね」
「そうかい、じゃ問題ないねぇ~」
「あぁ」
そんな近所の世間話を聞いていた雪華とピートは、ロバートがどれほど神経を使ってここで生活をしていたのか見て取れた、そしてそれを知っているキートンも話をした。
「ロバート爺さんってもう80歳近いって聞いた、憲兵に品物を卸して信用を得ていれば危険は少なくて済むからって言っていたんだ」
「そうなの」
「だからさ、そんな爺さんを王都に連れていけるのかなって少し心配になる」
「それは心配しなくても良いぜキートン」
「えっ?」
「俺たちを誰だと思っているんだ?」
「えっと」
「私たちはスキルマスターの上のSLランクの冒険者よ、この世界で私たちに太刀打ちできる者なんて今の所いないわね」
「本当?」
「あぁ、だから心配しなくて良い、ちゃんとロバートも連れていく」
力強くいう二人に勇気づけられたキートンは安心した、この二人なら大丈夫だと、そして今心配なのは貧民街に残してきた仲間達だ、大丈夫だろうかと思ったのだ。
「ねぇピート」
「何だ?」
「先にキートンを連れて貧民街に戻っていてくれない?」
「……それはかまわんが……」
「ハルシェットの存在が解ったらもうここに用はない、後は王都に戻るだけでしょ、キートンも仲間が心配だろうし」
「あぁそうだな、あっちの方が正直危険か……、解ったでぇお前は?」
「こっちの後始末をしてからロバートを連れてアジトに向かうわ」
「って事は夜になるな」
「そうね、場合によってはだけど」
「解った、あっちにも大人がいた方が何かと安心だろうからな」
「えぇ」
二人の話を聞いていたキートンは少し安堵したような、そして少し困ったような表情をした。
「あの……」
「気にしなくても良い、必ずロバートを連れて戻るから、今はピートの言うとおりにして」
「でも帰りの道は……」
「それは大丈夫よ、帰りは転移するから」
「てん……い?」
「魔法だよ、一瞬で別の場所に行ける魔法だ、だから途中で危険はないんだ」
「じゃ!」
「そうだ、お前も今からその魔法でアジトに戻るんだぜ、初めての体験だろう?」
二人に言われて何となくワクワクした気持ちになるキートンである、その様子を見た二人は苦笑した、まだ齢14である、もうすぐ15になるとはいえ、この領内でいればまだまだ子供の域を出ないのだ。
「でぇ直ぐに行動を起こした方が良いか?」
「ロバートに伝える必要は有るけど、ここは2階だからね地下まで降りなきゃだし、店を通ることになるからお客にバレるのは不味い」
「そうだな」
「お昼ならどう?」
「お昼?」
「そうお爺さんが食事を摂るために昼間は店を一時的に閉めるんだ、その間なら動けると思う」
「昼食かぁ~~」
「うん、その時間帯なら近所の人も憲兵の人も知っているから、よっぽどの用事がなければ訪ねてこないと思う」
「じゃ、その時間帯にしよう」
今後の方針が決まった所で昼間での時間はどうしようかと考えていた時、雪華がリバーシを出した。大声を出さない約束でピートがキートンと遊ぶことにした。始めてみる物に目を輝かせている子供にピートが楽しげにルールを教えている、その様子を見ながら雪華はと言うと、ロバートの様子と店の周辺の警戒を怠らず、様子を見ていた。すると二人の憲兵が店にやってきた。
「ロバート! 今日で店じまいって聞いたぜ」
「これは憲兵さん、おはようございます」
「あぁいつも良い食材を卸してくれているって料理長が寂しがっていたぞ」
「そうですか、ですがもう年ですのでこれ以上働けませんよ。それに最近は品薄ですから」
「まぁ確かになぁ~貴族街も品数がそろわないとか言われてイルレイア大陸から調達しているって噂を聞いたことがある」
「そうなんですか?」
「あぁ代官様が交渉をしたらしいから、貴族街はそれで対応するんじゃないかって話だ」
「じゃ平民街の品数は少しマシになりますね」
「だと良いがな」
「そういえばロバートの店が閉まったら何処で食材を調達するんだ?」
「それはもう隊長さんと料理長さんに紹介していますよ」
「そうなのか? どこの店だ?」
「ハッチントンさん所ですよ、彼も私が取引をしていた農家と取引をしていましたからね、同じ食材の方が良いと思いまして」
「おぉ~あの店か、結構大きな店だったな」
「えぇうちよりも品数も多いし種類も多いですからね、それに食材以外も取り扱っています」
「そうだったな、なら俺たちも店に顔を出せるか」
「そうだな、確か服も売っていたよな」
「良い所を紹介してくれて助かったよロバート」
「あぁ、今までご苦労だったな」
「いいえとんでもない、こっちが取り引きしていただいてありがたかったんですよ」
「そうか」
「じゃ俺たちは仕事に戻る、元気で暮らせよ」
「はい、ありがとうござます」
雪華は二階からそのやり取りを見ていて平和に暮らすために、かなり気を使って生きてきたのだろうと察しが付く。王都に行って安心して暮らせるよう手を尽くそうと思った。
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漸く昼になり、昼食のために一時的に店を閉めたロバートは店に鍵をかけて二階にあがってきた。ゲームに夢中のキートンを見て微笑んでいた。
「あっ、お爺さんお店休憩?」
「あぁお昼にしようか」
「うん」
「それよりもそれは何だね? 見たことが無いが」
「これはリバーシっていうゲームなんだって、超越者迷宮に行くならこういうのも知っておかないとダメだって」
「これは只のゲームだよ、300年前は普通に家族で遊んでいたおもちゃだ」
「おもちゃ……ですか?」
「えぇ、でもこのゲームに競技大会みたいなのがあってねぇ、プロもいたわね、昔の話だけど」
「これすっごく面白いんだぜ、今度お爺さんも一緒にやろうよ」
「そうだねぇ~」
そういいながらロバートは雪華の近くにやってきた、そして貧民街に子供達だけを残していることが気がかりだと言ってきた。
「そのことなんだけどね、この後ピートとキートンには貧民街に戻って貰うことになったのよ」
「えっ?」
「あなたの言う通り、子供達だけではさすがに心配でね、一応軽く結界を張っては来たんだけど、やはりリーダーであるキートンがいないと、小さな子は不安になるだろうし、キートンも不安そうだから」
「そうですね、では来た道を戻るのですか?」
「そんな手間はかけない、転移魔法が有るからそれを使う」
「転移魔法ですか? あのそんな高度な魔法を使って魔族にバレませんか?」
「大丈夫だよ、そうならないように注意しながら対処するから、とりあえずは子供達を安心させる方が先決だ」
「では、いつ行かれるのですか?」
「直ぐにでも行くつもりだったんだが、お前に話しておかないとって雪華が言ったんでな、昼まで待っていた」
「そうでしたか……でしたら昼食をご一緒しませんか? それと食材を少し持って行って貰いたい、子供達がお腹を空かせているはずです」
「あぁ解った」
「じゃ手伝いましょうか?」
「そんな公爵様のお手を煩わせるわけには……」
「それは気にしなくても良いぜ、そいつの料理は滅多に食べられないけど、料理は上手いから」
「はぁ~」
そんな事を言いながら、雪華はロバートと共に昼食を作っていた、当然できあがるまでの間はリバーシで遊んでいる男共を放置した。
暫くして昼食が出来上がった、パンとジャガイモのスープに滅多に手に入らない肉のスライスだ。ロバートは野菜を切ったりする程度で、殆ど雪華の手料理である。
「旨い! 何これ!!」
「本当においしいです、どうしてこんな味になるのですか?」
「この時代の料理って、旨味成分まですべて捨ててしまっているでしょう? それじゃ美味しくないのよ」
「旨味成分ですか?」
「えぇ、そう恐らく宮廷料理人も知っている人は少ないんじゃないかな? 料理の好きな人はスキルを磨いて研究するからね、この味にたどり着けるはずよ」
「そういえばお前宿屋の近くの食堂って何で旨いんだ?」
「私が教えたのよ、初歩的な料理の基礎をね、後は自分たちで改良したようだから、美味しくなったのよ」
「お前が教えたのかよ」
「当然じゃない、確かに彼らも料理スキルは高いんだけど、まだまだよ、だから300年前の料理法を教えてあげたのよ」
「はぁ~なるほど、だから知っている味なんだな、あの店」
「そういう事!」
「お前さぁ~もしかして三つ星の味目指してる?」
「別に目指してないけど、だいたい味に格付けしてどうすんのよ、有る意味差別でしょ、料理の味っていうのは個々の舌と感性でしょうが、そりゃ美味しい味ってお墨付きを貰えば店も儲かるけど、それって店主のエゴじゃない? お客が感じる味って言うのは千差万別、家庭料理が好きな人もいれば、自分で創作して満足する人だっているんだから、一定の基準が満たされたらそれは美味しいに決まっている、当然基礎は大事だからそれは絶対に守らないといけないだろうけどね、作っている人の努力を格付けで判断するなんて私は好きじゃない、ちなみに私はお婆ちゃんの味付けが大好きよ」
笑って言う雪華のこの変な感覚って一体なんだろうと思うピートではあるが、間違っているとも言えない。彼女なりの思いなのだろう。
そして昼食が終わり後かたづけも終わってから、ピート達がアジトに向かう準備を始めた。
「ピート様この食材を持って行って貰えるでしょうか?」
「これは? ジャガイモ?」
「はい今回一番収穫が多くて余っているのです。これで子供達のお腹を満たしてあげて下さい」
「そうだなぁ~しかし味付けはどうするか?」
「じゃがバターにすればいいじゃない?」
「じゃがバター?」
「ジャガイモの芽を取るくらい、あんたでも出来るでしょう。はいこれバターと塩よ」
「……なるほど、これも久しぶりだなぁ~」
「でしょ? くれぐれも周囲に気をつけてバレないようにね」
「解った! じゃ行くとするかキートン」
「はい」
そういってピートは荷物をアイテムボックスにしまうとキートンの手をつないで転移していった。
「……これが転移魔法」
「そう、転移魔法は魔力が多くなければ出来ないし、魔素を持ってないと使えない、今回はピートがいたからキートンには被害が無く転送できたはずよ」
「被害とは?」
「魔力を持たない者が転移魔法を使うと、魔素の本流に流されて命を落とすのよ」
「そんな!!」
「だから高等魔法なの、ピートや私なら魔力を持たない相手を守る結界を張って転移出来るから心配はない」
「……魔法とはそれほど危険なものだったのですね」
「別に使い方を間違わなければ危険じゃ無いわよ、でも何でそんんな事を言うの? ロバートは昔冒険者だったのよね?」
「はい、冒険者でした、ですがレベルは90の戦士系です、もちろん採集にて探知スキルも索敵スキルも持っていましたが、それほどランクは上がりませんでした、一緒にいた魔術師がいたのですが、仲間の中で一番魔力が多かったのです、でも魔法を取得するにはまだ足りないとよく言っていたのを思い出したのです」
「そっか、でぇその魔術師さんやほかの仲間はどうしたの?」
「仲間の一部は魔物の犠牲に、魔術師は……私の妻でした」
「……奥さん……」
「はいもう30年ほど前になりますか、病を患いまして、息子夫婦が貧民街送りになってから貴族や憲兵に対して抵抗したのです、その時に怪我を負い毒が全身を侵していました、それが致命傷でした」
「毒? でも魔術師なら毒消しの魔法を持っているんじゃないの?」
「その毒は魔術師にも対処不能でした、ほかの治癒魔法師にも頼みましたが無理でした」
「無理って……」
そんな魔法合ったか?と雪華は思った、彼女に知る限り無いはずである。
「ちなみに奥さんはどんな症状だったの?」
「風邪のような感じでしたね、咳が酷くて高熱もあり、それに最後は血を吐いていました、医者も手の施しようがないと匙を投げていましたから」
「…………それって、他の人は感染していたの? ロバートあなたは?」
「か、かんせん? えっと私も少し症状は有りましたが、血を吐いてはいません、ただ当時貴族街で疫病が流行っていましたので、平民街に逃げてくる貴族も多かったのです」
雪華はロバートの話を聞いてすぐに彼の診察を始めた、魔素の流れ、肺の状況などだ、潜伏していると判断するとして年齢も考慮すれば発症する可能性が高いからだ。
「あの公爵様?」
「ロバート今からあなたを治療します、いい動かないでね、あなたの体の中には奥さんが死んだ原因が眠っている、それを駆除します」
「えっ……」
「説明は後、すぐに服を脱いで上半身よ!」
「あぁはい……」
雪華は服を脱ぐロバートを診て確定した、肺が白くなり始めていた、恐らく時々咳をしているはずだと確信した、そしてまだ全身に広がってない状態である為完治可能と判断をして、彼の肺に手を押し当てた、魔素を凝縮して治癒魔法を掛けたのだ。
「……?」
「はぁ~どうやら間に合ったみたいね」
「えっと、なんだか呼吸が楽になりました」
「そうでしょうね、あなたの奥さんや貴族街での疫病、そしてロバートあなたも感染していたものは、300年前に存在していた病気よ」
「病気?? 毒では無いのですか?」
「えぇ結核という病名のね、初期治療が遅れれば死に至る病よ、300年以上前から治療薬はあったのだけど、今の時代にはなぜか無いのよ、それで病名も知られていない、だから疫病としたのだろうね、貴族も大勢死んだのではない?」
「えぇ確かに大勢亡くなりました、平民にも使者が出ていました、その為病気になった後、貴族も貧民街に送られたのです」
「えっ? 貴族が貧民街に?」
「はい、疫病を沈めるためという理由です」
「……まぁ有る意味間違ってはいないけれど、貧民街の人間にかなり被害が出たんじゃないの?」
「はい、殆どが治療もして貰えず亡くなったと聞いています」
「だろうねぇ~、じゃここまでの秘密の地下道ってのはその感染した貴族が作ったのかな?」
「その通りです、私がお慕いしておりました伯爵様でしたので」
「伯爵ほどの身分で貧民街に送られたの???」
「はい、伯爵の家族は皆、病で死亡され残された伯爵は、領主様によって貧民街に連れて行かれたのです」
「……マジか……」
雪華はロバートの話を聞いて呆れ果てるどころか、ハルシェットの対応のバカさ加減に怒りを覚えた、病の根本を調べずに誰彼構わず貧民街に送り込んだと言うのだ、ヤツにしてみれば魔物やハグレ魔族の餌食にちょうど良いとでも思ったのだろうと考えた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。