118話 ハルシェット領潜入 その1
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
セトレイア大陸の北部に当たる地域にハルシェット辺境伯領、ここに雪華とピートは認識阻害と隠蔽魔法を使用して潜入していた。降りたった場所は貧民街だった。貧民街の様子を見た後、結界を調べるために領内の奥に続く城壁に向かい、飛行魔法で上空に行って偵察をした、そして再度城壁の側に現在降りたった所である。
「あの魔法、普通の人間が張れるものなのか?」
「無理ね、あの魔法はこの城壁に掛けられているものとは全く別のモノだわ」
「じゃ何だ?」
「………私が昔日本を守るために張った結界……覚えてる?」
「……ああぁ~あの結界、無敵の日本の結界になってしまったヤツか?」
「そう、アレに近いのよ」
「ちょっと待て、その魔法って神崎家の秘伝とか何とかいってなかったか?」
「反撃魔法の方は秘伝の術よ、でも全土に掛けた魔法は、メアリー・グランバークの魔法、私の高祖母の研究魔法の一つだったモノ、当時は魔力不足で実際に使えたなったけれど理論上は出来ると考えたメアリーは私に託して世を去った」
「なら何でここで使われているんだ?」
「マクディナルの可能性があるかな」
「マクディナル?? でもお前受け継いだ魔法書は全てお前以外が触れられない様になっていたとか言ってなかったか?」
「言ったわね」
「じゃ、何で?」
「まだメアリーが生きていて研究途中だったら、部屋に入ることも可能じゃない? 記憶を取り戻していなくても何気なく書類を見てしまった場合なんかはね」
「人の部屋に勝手にはいるのか?」
「何かの用で二人一緒に部屋にいたとかなら可能でしょ、それにメアリーの書類は殆どがケルト語で書かれてあったし、中にはルーンで書かれたモノもあったのよ」
「ケルトにルーン!! そんな古代文字で研究書類を書いていたのか?」
「秘伝ならそう簡単に見られるわけにはいかないでしょ、大昔の錬金術師なんかは暗号使っていたんだから」
「……確かに……」
「まぁ錬金術なんてはっきり言って只の科学知識だからねぇ、陰陽師もしかりよ」
上空で二人が見た結界は髙さ5000mの城壁結界の上に蓋をするように、更に結界魔法が張られていた、自然環境は素通りするが異物は通さない様な、だが何を異物と認定しているのかは不明である、故においそれて突破が出来なかった。
そんな話をしているときに、子供が数名警戒して声をかけてきた。
「ここで何をしている!」
「見たことがない顔だ!」
「あらぁ~マズった、見つかったわ」
「魔法を解除していたからな」
「でぇあんた達は一体何モンだ」
「ここは俺たちの縄張りだ、出て行け!」
「縄張りねぇ~」
雪華達はどうしたものかと考えた、相手はまだ子供である、年長者らしき者でもまだ14歳くらいと見た。
そんな所に、別の人物5人が姿を現した、こっちは更に険悪である。
「何をしているお前達は、城壁に近づくなと言ったはずだな」
「申し訳有りません、この二人が近づいたので注意をしておりました」
「何っ?」
5人の大人相手に子供達は言い訳を言った、だが指名された雪華達にとって問題だったのは、その5人の大人達である。
「お前達はここの領民じゃないようだが、どうやって入った」
「さぁ~どうやってだろうねぇ~」
「貴様! 素直に言え! さもないと!」
「さもないと? 殺すって事か?」
「やれやれ、この程度の連中に何でいちゃもんつけられなきゃならないのよ!」
「確かにそうだな、どうする? 殺すか?」
「そうねぇ~~、どうしよう」
「ダメだ! 殺しちゃダメだ!」
「えっ?」
そこで反対したのは子供達の方だ、なにやらせっぱ詰まった感じで訴えてきた。
「何でよ、向こうから喧嘩売ってきてるのに」
「ダメだ、俺たちだけじゃない、アイツ等もみんな識別番号をつけられているんだ」
「識別番号?」
「そう、これ」
そう言って見せたのは腕輪の様にはめているモノだったが、凄く違和感がある代物である。
「これが何か影響するのか?」
「そう、生きているかどうか解るんだ」
「そういう事なら。ピート取りあえず殺さずに気を失わせる程度で良いでしょう」
「はいはい、解った」
「ちょっとまって、そいつ等は皆、ハグレ魔族!!」
子供達の声を後ろに聞いて二人で5人を一発でシトメていった。他愛もないあっさりである。
「この程度のハグレデーモン大したこと無いわよ」
「っとはいえグレーターデーモンになる寸前程度のレッサーデーモンだったぞ」
「そうねぇ何人人を殺してきたのかしら?」
二人の戦いを見ていた子供達は驚いていた、悪魔をあっさりやっつけたのである。
「あの、あなた達は一体何者なんです?」
「そうだ、あの悪魔を一発で気絶させるなんて」
「あぁ~それより聞きたいことがあるんだが、その識別番号ってのは何だ?」
「これは、この領民の証みたいなモノだ、これで生きているか死んでいるかも解るらしい」
「どういう仕組みかは解らないけど」
「領主様が領民を監視しているって噂がある」
「監視しているのか? アイツ!」
「ねぇ~ピート、その腕輪を調べるから、この5人のレッサーデーモンを並べて腕だけを集めてくれない?」
「はぁ~調べるってどうするんだよ」
「ここでこんなモノを作ったって事は本来あり得ないのよ! 内部を見てやる」
「待て待て、いじると相手にバレるんじゃねぇの?」
「あぁ透視するから大丈夫よ、ただどういう仕組みになっているか見るだけだから」
そう言った雪華の顔は科学者の顔をしていた、未知のモノに興味津々という所である。
「やれやれ……」
「待て、あんた達何をする気だ」
「それは外せないぜ」
「そう、外せないんだ……」
雪華はと言うとピートが寄せて集めた5人のレッサーデーモンの腕に集中して透視した、これは魔法ではなく彼女が元から持っている力である。
「へぇ~動力源は魔石なんだ」
「魔石?」
「そう魔石で動いているわよ、そしてその魔石に動画のように行動記録がされるって感じかな」
「それ、不味くないか?」
「そうね、不味いわね、だからイジってやる」
「……もはやお前のおもちゃだな」
「うふふ、久しぶりだねぇ~こんな気持ち、とはいえ分解は出来ないから力を使うしかないわね」
「魔素の残滓が残るぞ」
「残らないようにするだけよ」
そう言って雪華はなにやら楽しげに実験をするように行動を始めた、それを横目に溜息を付いてピートは子供達から出来るだけの情報を引き出していた。
「俺たちはここの状況を確かめに来ただけなんだが、城壁に結界が張ってあってな、平民が暮らす所に行きたかったんだ」
「平民の住む場所に行くのは簡単じゃねぇよ」
「そうか、さてじゃどうするかねぇ~」
「なぁあんた達が俺たちの敵じゃないってのは何となく解ったけど、ここで話すのは不味い、ひとまず俺たちのアジトに来てくれねぇか?」
「いいのか?」
「少なくともあのハグレ魔族を一発で倒したんだ、普通の人じゃないんだろう?」
「……まぁ普通じゃないな」
「じゃ、来てくれ」
「解った、……おい雪華改造はまだか?」
「出来たわよ、後はコイツ等の記憶を何とかしたいんだけど」
「記憶を消すのか?」
「そうねぇ、ここでは何も起きなかった、只巡回していたっという記憶にすり替えて、この腕輪の方はそういう設定にイジったから」
「解った」
雪華の言うとおり、ピートは指輪を外して5人のレッサーデーモンの記憶を改竄した。すると5人は立ち上がって踵を返して歩いていった。
「これで取りあえずは大丈夫だろう」
「本当にあんた達は何者なんだ?」
「その話はアジトとやらに行ってからだな」
「解った」
雪華達と子供達は彼らの言うアジトにレッサーデーモン達とは別方向に向かって歩いていった。
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子供達につれられて来たのは貧民街でもかなり貧しい場所で、大人もあまり寄りつかない所である。その一角にあるテントに入ると布に隠された地下室のような入り口があった。そこに入るように言われて、最後に入った子供が扉を閉め、外にいる子が布を敷いて何もなかった様になった。
地下に向かう階段を降りたった場所は、地下道になっていて領外の川へ流れ着くようだった、つまり汚染水垂れ流しである。
その下水道を歩いて500m程いった所の横穴から別の階段を上にあがると、今度は別の部屋に出た。
「ここは?」
「以前神殿の神官が住んでいた家だよ」
「神官?」
「そうこのハルシェット領では神官も領主の言うことが聞けなかったら貧民街送りになってしまうんだ、それでここで生活していた神官が俺たちをかくまってくれていた」
「でもその神官も病で死んでしまったんだ」
「じゃここは、誰もいないのか?」
「今は神官に着いてきていたシスターが管理している」
「俺たちはみんな孤児だから」
「孤児なの?」
「あぁ」
「誰! その声はキートン?」
「シスター」
「ここを使うなんて何かあったの?」
「レッサーデーモンから助けてもらった人たちを連れてきた」
「えっ?」
雪華達が姿を見せると相手は少し困った顔をしながらも笑顔で子供達を助けてくれてありがとうと礼を言った。
「あなたがここのシスター? 子供達を庇護しているの?」
「あぁはい一応、ですが彼らがここに出入りしているのは内密になっています、それよりあなた達は一体何者なんですか? レッサーデーモンから子供達を助けられる程のお力をお持ちのようだとか」
「私たちの事は気にしないで良いわよ、長居するつもりもないし、それよりあなた本当にシスター?」
「えぇそうです、こちらに流された神官様のお世話を仰せつかっていました」
「じゃ神官が亡くなれば、あなたの役目は終わったのではないの?」
「神官様が居なくなって、この子達のお世話を頼まれましたので」
「そう……」
雪華はそういってシスターに対して警戒した、この貧民街で女一人が暮らすのは危険きわまりない、なのにどういう事か気になっているのだが、既に正体を見破っている雪華は相手に対して握手を求めた、そしてシスターもまた戸惑いながらも手を出してきた。雪華はしっかりと挨拶代わりに手を握った。
「悪いんだけど、子供達と話がしたいんだが」
「あぁでしたらこの部屋をお使い下さい、子供達が来た時はいつもここで過ごしております、他の所だと誰かに見られかねませんので」
「助かる、悪いけどシスターあんたも部屋を出ていてくれ」
「私もですか?」
「そうだ」
「ですが子供達の保護は私の仕事ですので」
「大丈夫よ、この子達には危害をいっさい加えないわ」
雪華がなにやら鋭い目つきでシスターを威嚇した、それを感じたシスターは後ずさって、解りましたと言って出て行った。
「なぁシスターを追い出すこと無いだろう?」
「はぁ、それよりお前達のボスは誰だ?」
「一応俺だよ」
「キートンとか言ったか年齢は?」
「14歳、もうすぐ15歳になる」
「そうか」
「ピート結界を張るけどいい?」
「あぁ張ってくれそれも最大級のヤツな」
「了解!」
雪華がピートの言葉と同時に張ったのはマックスの遮断結界だった、これで進化したてのグレーターデーモンには盗み聞きも何も出来ない。
「やれやれ、お前達とんだ相手を慕っているんだな」
「どういう事だよ!」
「あのシスター、人の皮をかぶったグレーターデーモンだよ」
「えっ?」
「グレーターデーモン??」
「嘘だろう?」
「本当よ! まっさっき私が握手したときに先手を打って私が遮断結界を張った時点で記憶を消す術を掛けておいたから、私たちの事は漏れないとは思うけど」
「あの時そんな事したのか? お前」
「あのグレーターデーモンはまだ進化して日も浅いわ、対して力もないけど、殺すとやっかいでしょ」
「確かに……、しかし何だな、ハルシェット辺境伯はこれほどハグレ魔族を自在に扱えるのか?」
「まぁ本人に聞いてみたい所だけど、それはやめましょう、だいたい検討はついているし」
「そうだな」
そんな事を言い合う二人を見て子供達は不思議そうに彼らを見ていた、グレーターデーモンといえばレッサーデーモンよりも強い悪魔である事くらいは知っている。そんな相手に対して堂々とした態度をとっているのだから不思議で仕方ない。
「それよりお前達、基本的に孤児ってのはどうやって生きているんだ?」
「孤児は基本的にこのシスターに預けられるか、奴隷商の所に連れて行かれる」
「ここに預けられるのは奴隷商から買われなかった孤児達だ。最終的には二大勢力のグループか、他のグループに送られるか、受け入れて貰えなければ、そのまま放置される」
「何だそれ、じゃ結局お前達もそうなるって事か?」
「あぁ、だからそうならないために何か策を練っている所だった、地下道を通って平民街に行けるから、それで……」
「悪事を働くって事ね」
「悪いか、そうじゃなけりゃ生きていけない、この貧民街では食べ物は配給制なんだよ、より大きなグループや軍兵と取り引きしてやっと食べ物を得るしかない」
「シスターは食べ物をくれないのか?」
「シスターがくれるのは衣服とかお風呂とか、そんなモンだ、食べ物は少ないからって」
子供達を見て雪華は溜息を付いた、一体このハルシェット領は領民に対して何もしていないのかと思ったのだ。
「ところであなた達の仲間の孤児は何人くらいいるの?」
「俺たちは10人だ、でも今4人は病気だ、医者にも見せて貰えないからたぶん死ぬと思う」
「なるほど、あのシスターはそこまで面倒はみないって事か」
「シスターは何も出来なくてごめんって言った、代わりに祈ってあげるって言ったんだ」
「あのデーモンの祈りなんか神界には届かんぜ」
「そうねぇ~悪魔だし」
「王都に行こうとは思わなかったのか?」
「思ったさ、でも行こうとしたら領外禁止令がでて、外に行けなかった」
「あぁ~~なるほど」
「それっていつ頃?」
「辺境泊様が行方知れずになった後だよ」
「でぇその辺境泊は今どこに?」
「まだ解らないっていう人と、城に隠っているっていう人がいるみたい、平民街での噂だったから本当かどうかは知らない」
「やっぱり平民街に行く必要が有るわね」
「だな……上の結界も貧民街以外だけしか張ってねぇし」
「じゃ俺が案内する」
「えっ?」
「待ちなさい、あんたリーダーでしょ?」
「だからだよ、平民街にも貴族の密偵がいるからさ」
「危険よ 私たちなら大丈夫だから」
「いいや一緒に行く」
絶対に行くと行って譲らないキートンである。これは何かあるのかと疑ってみたが、彼の心はまだ綺麗な方だと雪華は感じた。
「取りあえず病人はどこ?」
「病人はシスターの部屋で看病されている」
「うそぉ~あのシスターに預けてるの?」
「うん、いつもそう病気になったらシスターに預ける」
「それで戻ってきた子はいるのか?」
「……いない……」
「だろうなぁ~~」
「ねぇ何で戻ってこれないの?」
「えぇっとそれはねぇ~」
雪華達に聞いてきたのは小さな女の子である、涙をためていた。真実を話せばギャン泣きされそうで怖いと雪華は思ったのだ。
「えっとあなた名前は?いくつなの?」
「この子はナンシーで5歳だ、五日前に一つ上の兄貴が亡くなったんだ」
「それってシスターに預けてたの?」
「あぁ」
それを聞いた雪華とピートは溜息を付いた。間違いなく病の子供はハグレ魔族の餌だろうなぁと思ったのだ。
「取りあえず、キートンあんたが案内してくれる? 私が一緒に行くわ、ピートはこの子達と共に、さっきのテント小屋まで戻って庇護をお願い」
「解った、でもシスターに見つかるなよ」
「解っている」
雪華はそう言ってピートが他の子供達をつれて戻っていくのを確認してから遮断結界を解除した、そしてキートンと自分に認識阻害魔法と隠蔽魔法を掛けて部屋を出た。
「いい、声は絶対に出さないこと、相手は悪魔だからね」
「解った」
キートンの案内で2階にあるシスターの部屋に向かった、だが既に先客としてシスターが居た。
「さぁこのお薬を飲んで、大丈夫よ」
「ねぇシスター本当に治るの?」
「えぇもちろん、甘いお薬でしょ」
「うん、とっても甘い」
「シスター、マーチンとダニーはどこ?」
「昨日具合が悪くなったって……」
「あぁあなた達に影響があってはダメだから別の部屋に移したわ、ちゃんと別のお薬を飲ませているから安心しなさい」
「うん」
「さぁ、ゆっくり眠りなさい」
シスターはそう言って笑顔で子供達に言い聞かせていた、それをドアの外から雪華達が聞いていたが、状況の展開を考え一度離れることにした。そして部屋から出てきたシスターが向かったのは1階にある別の部屋である。
「さて、この二人はどんな味かしらねぇ~」
「おい、自分だけ新鮮なモノを食べてるとはな」
「あら、来ていたの? これは私の役得じゃない」
「役得かよ」
「そうよ、あんただって奴隷商から貰っているんじゃないの?」
「あぁそうだよ、でもたまには子供の味見もしてみたいモンだけどな」
「諦めなさい、孤児は私が預かっているのよ、育てておいしくいただくの、育ちすぎても賢い子はそっちに回していたでしょ」
「確かにな」
「今も一人候補が居るんだから、その子が育つまで待ちなさいよね」
「わかった」
この会話を聞いていた雪華はやはりと思い、キートンは何を話しているのか解らず声を上げそうになっている所を雪華の魔法で声を失っている。暴れる彼を押さえて雪華はテレポートした、つまりテントの場所まで転移したのだ。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。