117話 ハルシェット領と精霊達の訴え
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
神殿襲撃から状況判断をして、秘物はハグレ魔族と獣族によって奪われたと断定、確証はないが恐らく獣王の所に持ち込まれたと判断しても良いだろうと雪華は言った。
「取りあえず、敵の出方を見ましょう」
「それしかないな」
「それより食事にしない? 私たちお昼もまだよぉ」
この状況においてお腹が空いたと訴える雪華に、ピートは溜息を付いた、しかし事実であるから仕方がない。神殿襲撃の後始末は国王であるレイモンドに任せ、今日の所は一度宿に戻り明日再度王宮に行くことを伝えると、王宮で摂れば良いと言われたが、雪華が断固拒否をした。
「本当にいいのか? お前レイモンドが困った顔をしていたぞ」
「いいのよ、王宮なんかでゆっくり気楽になんか食事できないでしょ」
「まぁ~お前が言うならいいが……なんかレイモンドが気の毒になってきた」
「……何でよ」
「お前の正体知ってなおも拒絶されたら傷つくだろうが普通」
「……私は人族だし、別に正体なんぞ知られなかった時から王宮には近づかないようにしていたから大丈夫よ、今更よ!」
雪華はピートにそう言いながら、宿屋の近くにある行きつけ食堂に来て、遮断結界を張って美味しそうに食事をしていた。当然ピートも食事をしているが、デーモンロードは食べないため、外で警戒に当たっている。
「それより、もし元凶魔王が復活したらどうするんだ? 今の状況で同時対応は不味いんじゃねぇ~の?」
「貴族関連は国王に任せるとして、その貴族共が獣王関係者との繋がりがあるかどうかは気になるわね」
「まぁ~確かに、今まで直接獣族は出てきてねぇ~しな、もっぱらハグレ魔族ばかりだ」
「そう、でぇルージュに会って獣王の事を探りを入れてから考えるしか手がないって事もね」
「それはアレか? マクディナルの可能性を考えてって事か?」
「そうよ、武器を使って魔王を退けるって、私たちには普通でも今現在のこの世界の住人には考えられないことでしょう、武器はどんな物だったのかとか一番気になるわよ」
「気になるのはそこかよ!」
「当たり前でしょ! 300年前の次元移動前はその武器で戦争をやってのける人族だったんだから、マクディナルとしての記憶を持っているとしたら当然、物理世界の武器を作るでしょうよ」
「なるほど……」
「まぁ私たちも作るつもりだったから、おあいこなんだけどねぇ~」
「はぁ~~~武器を作るつもりだった???」
「そぉ、今の人族は魔素が殆どなく魔法が使えないなら、武器を使って防御に徹する方が有効よ!」
「まさかと思うが、核兵器なんぞ作らないだろうな?」
「……それ魔法で作れるでしょうが、スキルマスターなら」
「そうだが、こっちでそんな武器を使って汚染させるなんて事考えてないだろうな!」
「はぁ~冗談じゃないわよ! そんな危険を冒す気はないわよ! いくら私でも! 第一この世界でそれを作れるかどうかもわからん! 魔素が中心の世界で物理がどこまで通じるのかも不明でしょ? 道具を作る程度の物理はともかく、藤華でやっていた化学道具なんぞ作れるとは思えんがねぇ~、魔素の解明もしてないのに……」
「魔素の解明なんぞしなくてもお前は理解できているんじゃないのか?」
「藤華の者も理解はしているけど、だから研究しているのよ、何なのかってね、もうこれは科学者にとっての職業病みたいなもんでしょう、諦めてねぇ~」
「突き止めた後はどうするんだよ」
「それは私が決める!」
藤華出身の、それもSクラスの者達は大学レベルの実験なども教授の指示の元簡単な化学実験等をしていた。そして特にAクラスは個々にて興味がある分野の自主的に学び研究していたのだ。
これは中等教育学校の理系の教師も驚き協力大学の教授達へ相談をした程だったが、本来の中等教育課程の勉強を疎かにしないという条件付きで実験と研究を大学教授達から学んでいたのだ。故にこの世界の魔素も興味本位で調べる等という事を始めていた。
とはいえ、毎日の仕事が多過ぎであまり手をつけられていないのが現状ではある。
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翌日、この日は王宮に行く約束だったのだが、その前にハルシェット辺境伯領の件を片づける必要があった為、王宮の使者に対しては先に調べることがあるから、その後に王宮へ行くと伝え更に迎えはいらないと伝え国王に報告するよう命じていた。
朝食を終えて雪華とピートは小花衣達を留守番とし、その宿屋の警護にノワールを残した後、飛行魔法にてハルシェット辺境伯領へと入った。門を通過することはまず無理だと解っていた為ではあるが、上空からまず領内の観察と、魔素の観測にハグレ魔族の存在の有無を調べた。
ただ結界が張ってあるため、かなり上昇しなければならなかった。
さすがに元王国だけありハルシェット辺境伯領は思っていたより割と広い大きな領地である。いくつかの地区に分けられて統治しているのだろう、中央を囲む様な感じで一定領域毎に城壁があり、そこに住む者達は階級別になっている様子も伺える。
辺境泊の城はちょうど領地の真ん中あたりに建っていた。そして北側に漁業が盛んな町があるようである。王都側を含め他領と接する場所には軍事訓練場の様なものがいくつも配置されており、中央の城の周りは行政府といった様相を呈しており、壁を挟んで二つ目の領域が、貴族街といった所である。
三つ目の壁を越えるとこちらも貴族専用の商業施設といった感じのため、領地自身はそれほど広くもない。
四つ目の壁を越えれば平民が暮らす領域で割と人口が多い為か少し広い、ただ仕事関係は全くなく一般的に住宅地という様相である。ただ壁は二重構造になっており、貴族と平民が交わらないような作りをしていた。
五つ目の壁を越えると、平民の為の職場がある区域となっていた。こちらは商業区域と農林業区域と漁業区域等に分かれていて、それぞれ放射状に職場が分かれていた、そのため壁の出入り口は複数ある。
六つ目の壁も二重構造になっており、軍関関連の施設が多いようだ、他の壁内にも訓練所を含め軍事関連施設はあったが、こちらの場合は魔物に特化した配備になっているようだ。
最後の七つ目の壁も二重構造になっており、それを越えると、治安が悪い貧民街となっている。奴隷商人の等の店はこちらに存在していた。
ハルシェット辺境伯領では外敵から守るために、貧民街に住む人を盾代わりに配置しているように見える。この貧民街にいる兵士は他領と接する最終的な八枚目の壁とも言える物で国境の壁が高くそびえ建って外から入ってくる者達への警戒と城壁の守護の為に配置されているだけで、貧民街の人々を守る気はサラサラ無いようである。
「なんか割としっかりと統治されているようだな」
「そうねぇ~、でも身分制度は厳しそうだけど……」
「確かに、アレ見ろよ貧民街って事か? 兵士が住人を痛めつけている」
「それだけじゃないわね、他の兵士が見て見ぬ振りとか、あぁ~奴隷商が居るようね」
「どういう基準で貧民街に住んでいるんだ?」
「平民から脱落って事は間違いないだろうけど」
「って事は税が納められなかったとか?」
「それもあり、貴族に対して無礼を働いたとか、後は犯罪者と認定された人なんじゃないかな?」
「なるほど……、これは夜も見た方が良さそうだけど……」
「そうねぇ~まっ、取りあえず降りましょう」
「このまま降りるのは不味くねぇ?」
「だね、じゃ認識阻害と……」
「透明人間だな……」
「……ちょっと、そんなスキルあったっけ?」
「隠蔽スキルに有るだろう」
「あぁ~あれか、じゃそれで行こう」
「それと念のためだランクはマックスで行くぞ」
「ハグレ魔族対応ね、了解!」
二人はそう言いながら認識阻害魔法と隠蔽スキルレベルをマックスに設定して貧民街の地に足を着けた。
貧民街ではテント暮らしが主流なのだろう、粗末なテントをつなげていたり、単独のモノもあった、そして縄張りのようなモノも存在しているのか、有る場所では喧嘩が始まった。様子を見ていた二人は殴り合いを始めた両集団を見て溜息を付いて呆れていた。
「なんか300年以上前の不良集団の諍いみたいに見えるんだけど」
「まぁ武器が木製の棒とか桑とかだからな、昔みたいな武器を持っていたら、有る意味マフィアとも言えなくもない」
「そこまで賢くないでしょう」
「昔の暴力団もマフィアも頭は良かったからねぇ~、あれは只の不良集団って感じよ」
「つまり自分たちの縄張りを侵したって感じの喧嘩だって言いたいのかよ」
「私から見たらそうよ、それに縄張り争いと言うよりも仲間が怪我させられた報復って感じもするけど」
雪華達が見ている場面は両陣営のトップの指示の元に配下どうした睨みあっているというものだ、そして言った仲間を怪我させられたその落とし前をつけると、雪華の言う方が正しかった。
「この騒ぎに兵士が動く気配がないな」
「この貧民街では兵士は無関係を装うのかも知れないね」
『そのとおりです。始祖姫様』
『そうそう、ここにはいくつかのグループのボスがいて、自分たちの縄張りを守っています』
『国の人間はそのそれぞれのボスと結託しています』
二人に答えたのは精霊達だった、人には見えなくても人ではないピートや陰陽師の雪華には精霊は見えているし声も聞こえる。
「兵士と結託かぁ~」
「おおかたボス達は自分たちの争いには手を出さないように、自分たちで解決するって言ったのでしょうね」
「そんな簡単に言うことを聞くのか?」
「袖の下を握らせたら?」
「……なるほど……でもアイツ等は国から派遣されているんじゃないのか? レイモンドを裏切るのか?」
「確かに派遣されているけど、基本的にはこの領地出身者だからねぇ、自身の領主様の命令も大事なんじゃないの?」
このフェスリアナ王国では独立自治を許されているウィステリア領以外の領主達の領地には国から憲兵や軍兵を派遣している、私兵を許されているのは城内を守る者達だけである。
国の軍兵や憲兵は基礎訓練後王都の警備や軍に所属する、だいたい3年程王都での基礎訓練を含めて基本的な事を学んでから、次の派遣先へと配置される。その時に派遣先の希望は考慮されるが、基本的に出身領となることが多い。
但し故合って出身領を避ける者もいる。そう言う者達は大概故郷に帰りたくない者が多いのだ。理由は個々それぞれである。
「ここに居る人たちは何故貧民街にいるの?」
『貴族に対して無礼を働いたり、反感を持つ者』
『犯罪を犯した者』
『孤児の者』
「えっ、孤児?? 孤児もここに入れられるの??」
『そう、身よりのない者は生きていけないから』
『町の平民は、そうならないようにしているけれど、見つかる』
『養子にする事もできない』
「それほど厳しいの?」
『ここは領というより国みたいなもの』
『昔のハルシェット王国の……』
「昔の王国の法が生きているって事?」
『そう、貧民街の中で生きる者の中にはハルシェット辺境領を出たがっている者が多い』
『でも、兵士がボス達に依頼して出さないようにしている』
「それで捕まった人は?」
『処刑されるか、奴隷商に売られる』
「……最悪だな」
「奴隷商に売られた人たちはどうなるのか知らないの?」
『詳しくは解らない、けど一部は悪魔に連れて行かれている』
「何ですって!」
奴隷商に売られた一部が悪魔に流れていると言うことは、餌として流れているか、もしくは受肉対象としての可能性がある。
「この状況を陛下は知らないのかしら?」
「なぁ~お前達、王都からの使者達もこの貧民街は通るんだろう? だったらこの状況は見ているはずだな?」
『外から来る王都の貴族は馬車から外を見ない』
『城門の兵は領主の許可が無いモノは入れない』
「なるほど……外の連中にはこの状況を見せないように口裏を合わせているって事か」
「……ありがとう精霊達、教えてくれて、でもあなた達は無事で居られるの?」
「あぁそうだなハグレ魔族がいるんじゃ精霊達も絶対安全とは言い切れない」
『今は隠れている、この地の大精霊様が守って下さっている』
『会ってください始祖姫様』
『お願い……』
切実な思いで訴えている精霊達を見て雪華は気になった、何か必死になっているのだ。
「何かあったの?」
『大精霊様が狙われているの』
「狙われている?」
『今は隠れているけれど、ハグレ魔族と獣族の一部が探している』
「獣族が居るのか?」
『ハルシェット王家は昔から獣族と貿易で契約をしているの』
「大精霊が隠れているのはどこ?」
「解るか?」
『解らない』
「解らない?」
『あの城壁から向こうには精霊が通れない魔法が掛けられている』
『城壁毎にる精霊しか住めない』
「………精霊を通さない結界魔法って事??」
『そう……古の魔法と聞いた』
「古の魔法かぁ~~」
「お前達も知らない魔法か?」
『知らない、悪魔達も知らない魔法』
「ハグレ魔族も知らない魔法って事ってあるの?」
「悪魔達も長寿だが、そいつ等も知らないとなるとかなり昔の魔法って事か……」
「取りあえず城壁まで行って見てみましょう、手に負えるかどうかの確認は必要だし、平民街に行って様子も見てみたいわ」
「そうだな、こっちにも冒険者ギルドは有るだろうし」
『お願いします、始祖姫様……』
精霊達の声を聞きながら手を振り、二人は城壁に近い場所まで歩いていった、ハグレ魔族がいるのなら自分たちの存在に気づかれる可能性はある、故に慎重に動く必要があると考えなるべく人目を避け、城壁まできた。
「………結構高いな、さっき上から見た時には感じなかったけど」
「そうねぇ~確かに魔法が掛けられているけど……」
「けど?」
「これ、只の魔法じゃないわね」
「えっ、只の魔法じゃない?」
「えぇ……」
「どういう意味だ?」
「エクソシスト系の魔法って言う感じがする」
「……それってマクディナル?」
「可能性は否定できないけど、彼がここに来てそれをするか解らないでしょ? 本当に獣王がマクディナルなら王自らが来るなんて事をするかしら、只の一介の領主ごときに?」
「でもハルシェット家がまだ王家時代なら可能だろう?」
「……300年前か」
そんな事を言いながら雪華は上空を見た、城壁の上の方を結界がどのあたりまで影響を及ぼしているのかを見定めていた。貧民街は結界が弱かったのだ。
「……上空5000mって所かなぁ~」
「5000m?」
「そう、結界が張られている限界値」
「……そんな上空まで結界が張られているのか?」
「行ってみようか!」
「えっ?」
「上よぉ」
「ってさっきも思ったが、かなり高く上昇していたんだけど」
「そうねねぇ、たぶん1万メートルくらいは上昇してたと思うけど」
雪華はそう言いながら指を上空に向けてピートに言った。つまり飛行魔法で上空を飛べと言うことである。
スキルマスターの場合は飛行魔法を使っても3000mが限界である。というよりプログラミング時点でそう設定していた。それ以上高いと酸欠になるという限界点を作っていたのだ。
しかし、現実になってしまったこの世界にはそれが解除されている、雪華が訳の分からないスキルアップをした時にそれが解ってしまっていたのだ。故にスキルマスターも飛べる可能性は有るのだが、酸欠を考えると無理という事になっている。
しかしこの二人は規格外、しかも人ではないのだピートはともかく雪華の場合はスキルとして何故か獲得済みのため飛べてしまうのだ。
「……お前本気で言っている?」
「本気だけど?」
「飛行魔法の限界値は知っているよな?」
「当たり前じゃない」
「じゃ何で行けるんだよ! だいだい何でさっきも1万メートル迄上昇できたのか不思議で仕方ない」
「あんた人じゃないから行けるでしょ! 私はいつだったか訳の分からない突然のスキルアップ獲得で無制限飛行とかなんか訳解らないモノを獲得して行けるようだから提案してるんだけど?」
「……訳のわからんスキルアップをしていたのか?」
「そうよ、見てみる?」
「あぁ見せてみろ」
そう言ってピートは雪華のステータスと見た、そして青ざめた、それは殆ど本来の雪華、つまり始祖姫が持っていた力そのものがスキル変換されていたのだ、当然人が扱うために制限はかかっているが、覚醒したらその制限は完全に解放される。
「ねっ、訳解らないのよこれ全部、スキル名の意味は解るつもりなんだけどねぇ~、でも普通は持てないでしょ?」
「………お前このスキルをやたら滅多に人前で使うなよ」
「どういう意味よ、それあんたなんか知っているの?」
「……これ元々始祖姫の持つ力の一部だ、ただ人であるお前が使うためにスキル扱いって形で制限が加えられて使えるようになっている様だが、お前が覚醒したら全て無制限で扱えるだろうな、言ってみれば人が使うモノじゃねぇよ」
「…………マジ…………」
「あぁ、現状表示されているスキルは神族も使える極々簡単な初歩的なものだからな」
「うそぉ~~~~」
「これはユパに報告する必要が出てきたな、全くどうなっているんだよ」
「こっちが聞きたいわ、次元移動でこっちをいじって調整したのはあんたでしょうが!!」
「そうだけど、個々のスキルには干渉してねぇ~っての」
魔法とスキルの表示に愕然として頭を抱えるピートと、訳がわからんスキル獲得に頭を悩ませていたのが、ここであっさり解消されたが、内容が最悪だと思って溜息を付いた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。