111話 ピートの謁見と爆弾発言
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
8月に入り、雪華とピート・ルゥ・パートそして小花衣と雪華の側仕えのメイドで、エルフ族のエルルーンが王都に来ていた。
エルルーンについては雪華が必要ない等と言い出していたが、今回は此方からの正式な謁見でもあるし、公爵としての立場上執事を伴ってメイドがいないのは不自然であると言い負かされた次第である。
ただエルフ族の彼女が嫌な思いだけはして欲しくないと雪華は心に決め、彼女を守る事に気を配った。ただ本来なら馬車に乗せても良いが、スキルマスター3人と一人は人間ではない為、話を聞かれては不味い事もあり、大きなフード付きのマントを着せて、御者の横に座らせていた。
兼ねてからの謁見申し込みは受理された形ではあるが、王宮に泊まることは今回も誇示したいが1泊だけを条件に直接王宮へと向かった。
「雪華何で王宮に泊まるのがそんなに嫌なんだ?」
「自由に動けないでしょうが! それでなくてもあんたが私に押しつけた動物園があるんだよ、それに王都周辺の状況も視察したいしね」
「あぁ~~動物園かぁ~、危険極まりないヤツだな」
「……それ、あんたが言う? あんたの迷宮も大概だと思うけど!」
「お前の所も似たようなもんだろう、何だよあの地上4階層以降は地下迷宮って、既にダンジョンじゃねぇ~かぁ~! しかも階層不明って!」
「忘れただけよ! 不明じゃないわよ!」
「じゃ地下何階層だよ!」
「だいたい100階層程度だと思うけど」
「……確定じゃないんだな……」
「まぁ~そこまで到達できるとしたら化け物だよねぇ~、あんたみたいな」
「あのぉ~お二人にお聞きしますが、天神将の迷宮はそんなに解らない物なんですか?」
「あぁ~うちのパーティーは迷宮作るときって殆ど遊び感覚だったのよね」
「確かに遊んでいた、趣味に走るものもいたが、適当に作るヤツもいるし、ちゃんと理論立てて作る者もいたな」
「そしてお互いに干渉しない」
「そう協力は惜しまないが干渉はしない……確かそういう約束だったはずだ」
天神将の規格外二人の話を聞いて六花メンバーの小花衣は唖然とした。六花でもスキルマスターだったのは月宮と小花衣だけだ、二人は堅実な迷宮を作っている。なのに天神将は全て遊びで適当というトンでもない集団だと、改めて思ったのだ。
そんな話をしている間に王宮に到着した。当然身分確認がされ陛下直筆の招待状を手渡して無事に王宮内に入ることが出来た。
「へぇ~これが王宮かぁ~、やっぱりゲーム時代とは少し違うな」
「………あんたが移植作業をしたんだから変わってないんじゃないの?」
「まぁ~俺がしたのは次元移動前には大方済んでいたんだが、その後は実際に元NPCが世界を動かしていた事になるからな、例の領主間戦争も続いていた筈だ」
「って事はハルシェット家が王家だったのはその時代って事?」
「恐らくそうだろう、日本支部が撤退した後のことだからお前達は知らないって事だ、俺は他の作業に入っていたから、そっちは無視をしていた」
ピート・ルゥ・パートの話を聞いた雪華と小花衣は開いた口が塞がらない、日本支部を閉鎖した後もフェスリアナ王国は起動していたと言うことに、本来日本支部の管轄はフェスリアナ王国だった、だが閉鎖したらそちらも起動しないと思っていたのに、起動していた原因は、目の前にいるこの人の皮を被った神族だったのだ。
「はぁ~~信じられん……」
「日本支部が閉鎖しても起動しているとは思いもしませんでした」
「だから移植作業は大方済んでいたから、運営が居なくても動いていたんだよ、実際辻褄を合わせる必要があったからフェスリアナ王国を含めてセトレイア大陸は通常運行出来るように一番最初に手をつけていたんだよ」
「なるほどね、これで疑問が解けたわ」
「疑問?」
「そうよ、私たちずっと疑問だったのよ、何で運営がいないのに歴史が存在しているのかとか色々ね、原因はあんたの移植作業って事で一応は納得したんだけど、ハルシェット家が王家って事だけは解らなかったのよ、その疑問も今解けたわ」
「そうか、それは良かった」
笑顔で言うこのピート・ルゥ・パートにクッションを投げつけた雪華は、溜息を付いた。やはり全ての元凶はコイツだったと。
話をしていて脱力感に見回れている雪華達に王宮の城に着いたと報告があり馬車が止まった。御者がドアを開け、まず小花衣が降り、続いてピート・ルゥ・パートが降り、最後に雪華が降りた。
本来なら謁見する本人が最後に降りるのだが、ピート・ルゥ・パートからしたら雪華は主であるため、先に降りると言ったのだ。雪華はそれを聞いて大きな溜息を付いた。
出迎えは宰相のマルク・ベルフィントである。そして親衛隊のゴラン隊長達兵士達が両サイドで出迎えていた。
「遠路遙々お越しいただきありがとうございます」
「宰相、表向き此方は臣下なんですけど?」
「確かに、ですが陛下はそう思っていませんので」
「はぁ~先が思いやられるわ」
「今回の謁見は文武の貴族達も同席いたします」
「えっ、何で!」
「公爵様以外の『至高の存在』がこの国に居るのですから当然の事、失礼があっては困りますのでご尊顔を見せておく必要があると陛下のお達しです」
宰相の言葉を聞いた雪華は呆気にとられた、まさか事前にピートの正体を教えておいた結果がこれかと思ったのだ、しかしどうも正体を公表している様子はない、ただ『至高の存在』という事のアピールだけと言うことの様だ。
とはいえ、まだ油断は出来ないと考えたのも事実、ここにハルシェット辺境伯の手の者がいる可能性があるからだ。
「あの、そちらのエルフ族は……」
「あぁ以前は連れてこなかったからね、私の側仕えのメイドのエルルーンよ、そしてこっちが私の執事の小花衣で、それが問題のスキルマスター」
「おい何で俺だけそれ扱いなんだよ!」
「あんたはそれで十分でしょう!」
「……相変わらずひでぇヤツ」
「左様でございますか、では此方へどうぞ、ご案内致します」
宰相に促されて通された部屋は、以前もよく使っていたサロンである。
「公爵様、今回の謁見も前回同様の御衣装ですか?」
「当然です、アレは300年前のレッキとした正装ですからね」
雪華がそう言ったのは、前回の謁見時に来ていた洋装である。前世界では最高位の正装、女性はローブモンタント、男性はモーニングスーツである、昼間の最高位礼装で、どうせ今回も晩餐会をする気だろうと、一応夜の礼装の為もローブ・デコルテで、ピート・ルゥ・パートは燕尾服、執事である小花衣はタキシードである。
「畏まりました、ではお部屋をご用意いたしますのでお召し替えをお願いいたします」
「解ったわ」
小花衣とピート・ルゥ・パートは宰相が案内し、雪華とエルルーンはメイド長が別室に案内をしたが、やはり他種族に対する忌避感があるのだろう、エルルーンの姿を見て何かを囁く者やあからさまに嫌な顔をする者が多い。
「エルルーン大丈夫?」
「はいお館様大丈夫でございます」
「無理はしなくて良いからね、辛かったら正直に言いなさい」
「はい、ありがとうございます」
通された部屋でエルルーンは手際よく荷物を解いて雪華にローブモンタントを着付けた。そして雪華の長い髪を綺麗に結い上げて髪飾りと今回ピート・ルゥ・パートから預かったティアラを付けていた。
「お館様、このティアラと耳環ですが、すごく貴重な物の様に感じます」
「あぁ~~そりゃアレだ、あのピート・ルゥ・パートの持ってきたものだ、この世の物ではないのだろうよ」
「なるほど、それで納得いたしました」
「……それで納得できるの?」
雪華はエルルーンにすらピート・ルゥ・パートの正体は話していない、でもエルフ族である、なにかしら感じる物があるのだろうと思った。
「はい凄く澄んだ綺麗な魔素を感じます、これは人族にはあつらえることは出来ないと感じました」
「……そう」
そんな会話をしながら雪華の髪を整えていくエルルーンを鏡越しで見ながら、雪華は思い出していた。
『これは何よ?』
『ユパから預かった物だ』
『あの化け物上司?』
『……化け物ってお前……、まぁ~とりあえずだな、まだ覚醒はしないだろうが、万が一って事もあってな、本来はサークレットと両耳の耳環でお前の神力を封じるんだが、転生したあげく人としての魔素が人並み以上だから、恐らく元から持っている神力を上回る可能性があると判断されたんだ、でぇ立場を考えてティアラと言う形でもう一つの封具作製する事になった』
『それって、前も膨大だったって事?』
『前は三つの封具でも多少漏れていたからな、今回も漏れる可能性はあるし、どれだけの量が漏れるかも不明ときてるから増やしたんだろう』
『……なんかそれって既に化け物だね』
『だから魔王ダミアスを倒せたんだけどな』
等の会話を得て、このティアラと耳環を受け取り、現在両耳の耳朶のイヤリングの上に耳環を、そして頭にはティアラが載っている。綺麗な形で色とりどりの宝石が散りばめられて一際目立つ、だがピートに言わせれば、下界にはない素材で作られているという、宝石は神界で晶石と言われ、神界でも貴重なものらしい。
全ての準備が整って、雪華はエルルーンと王宮のメイドに連れられて、最初に案内をされたサロンに向かった。既に小花衣もピートも来ていた。
「ほぉ~やっぱりそのティアラで良かった様だな、耳環もサイズは自動で嵌まるから問題なさそうだ」
「そうなの?」
「あぁ問題ない、両方とも封具として十分に役立っている」
「そう……」
「あのピート様、封具というのは?」
「あぁ~コイツの本来の力を押さえるための物だ、現状は必要がないんだが、万が一ってことがあるから、俺の上司が持たせたものだ」
「なるほど……」
小花衣は神崎家の使用人であり雪華が何者なのかは昔から知っている、故にピートの正体を知っている為、説明を受けて納得していた。
三人でお茶を飲んでいた所に、宰相であるマルク・ベルフィント伯爵がやってきた、今後のスケジュールを報告するためである。
「やっぱり晩餐会があるの……」
「当然です、この国では舞踏会と晩餐会は同時に行っていますので」
「えっそうなのか? 普通は別々だろう?」
「それは300年前の事と言うことでしょうか?」
「あぁ、そうだな俺はそう習ったが」
「私は平民だったからねぇ~そんな物に参加する事はなかったわ」
「嘘付け、お前の家系は上級家庭だろうが!」
「そうだけど、直系筋だったから隠れて生きていたのよ、そんなのに出ることは命の危険を覚えるわ、分家はそんな物に出ていたんじゃないかな」
「確かに分家筋は社会的に顔が広かったので、そういう会には参加されていたましたね」
「ですが公爵は前回の舞踏会でしっかり踊られていましたが」
「あぁ~それはね、うちの学校、つまり私達天神将とルイスとリリアナの通っていた学校の方針で上級クラスは社交ダンスやマナーをしっかり叩き込まれていたからよ、成績に反映されてたし」
「それは貴族、いえ上級家庭というのですか、その方々の行く学校ですね」
「違うわよ、平民が行く学校よ、っと言うか貴族がいないって言ったでしょ、まぁ先王みたいな家庭環境の方が行く学校もあるには有ったけれど、それでも平民が通学する事は出来たわよ、入学人数は少ないけど」
300年前と今の違いを聞いた宰相は驚いていた、貴族がおらず平民だけの世界で平民も学校に通っていると言う事も考えられなかったのだ。
「でぇ宰相さん、さっきの話だけど晩餐会と舞踏会が同時ってどういう意味だ?」
「あぁはじめに舞踏会で顔合わせをして舞踏を披露します、その後はそれぞれ相手を変えて踊ります、子息女を連れている場合は、そこが社交デビューとなりますが、暫く経つとそのまま晩餐会場に移動になります、立食式なのでお互いの情報交換などがメインとなるのです。また晩餐会場に入ることが出来るのは、事前に招待状を持っている者だけです、なので招待状を持つ方々は再度衣装替えをされて晩餐会場に入ることになります」
「なるほど、でぇ俺たちの場合は?」
「両方に参加いただくことになっています、ただお付きの方は別室でお待ち頂く事になります」
「前回とはだいぶ違うわね」
「前回はスキルマスターの方々だけでしたので」
「あぁ~そうだった」
そうこうしている間に時間になった、宰相の案内で雪華とピートは謁見の間に行く、そしてその後ろに執事の小花衣とエルルーンがついて行った。謁見の間の近くの控え室で二人は待つこととなるが、雪華は小花衣に対して絶対にエルルーンを守ることを命じた、他の貴族の付き人も居るため偏見の目で見られたり嫌みを言ってくることもあるだろうと予想しての命令だった。
謁見の間の扉が開くと、前回同様に左右に重臣たちと貴族が並んでおり、中央の赤い絨毯の上を宰相の案内でレイモンド・フェスリアナ国王の前まで進んだ、そして今回もまた陛下の横近く迄来るよう言われ、雪華は溜息を付きながら数段の階段を上り玉座の近くまで来た。
するとまたもや前回と違う行動にでた陛下が二人の前に立って、片膝を立てて令をし頭を下げた。当然これは宰相を含め全ての貴族が驚いた、当然雪華もである。
「………陛下いったい何をなさっておいでか………」
「これは私からお二人に対して敬意を示します」
そう言ったレイモンド・フェスリアナ国王は立ち上がったニヤリと笑うと、今度は貴族諸侯の方に向き直り宣言した。
「ここに二人の『至高の存在』が我が国にそろった、一人はウィステリア公爵、そしてもう一人は……」
「ピート・ルゥ・パートだ」
ピートが自分から呟くように名乗ると、レイモンドはにっこりとして頭を下げた。
「ピート・ルゥ・パート様である、このお二人に対して私は敬意を表する、故に諸君もこのお二人に対して無礼な働きをすることは絶対にならぬ、なぜならウィステリア領は神族の庇護領であり、現存するスキルマスターが全てウィステリア領に居るだけでなく、スキルマスターの上位である『至高の存在』のお二人もウィステリア籍であるからだ。これは神々がお決めになった事だと私は信じている」
レイモンドの言葉を聞いた雪華は呆気にとられて開いた口が塞がらなかった、そしてその横で立っていたピートがニヤリと笑っている。丁度良い機会かも知れないと思ったのだ。
「あぁ~レイモンド・フェスリアナ国王、俺からも一言いいか?」
「あぁ構わぬ、どうぞ」
「ちょ、ちょっとピート!!」
ピートは雪華の声を聞いてニヤリと返して、王の横に立って居並ぶ諸侯を見据えた、そして爆弾発言をしたのだ。
「えぇ~っと、ウィステリア領が神族の庇護領であるのは歴史的に知っていると思うが、もう一つ忘れているようなので通達しておく」
「えっ……ピート、あんたまさか……」
「ウィステリア家の興りは始祖姫である。これも歴史上知っているはずだが、300年前の事で忘れ去っている人間が多いようだから、もう一度思い出して貰おうと思って伝えておく。そして始祖姫は再度、ウィステリア家で転生されると言い残している、この意味が解るようなら、今レイモンド・フェスリアナ国王が言った言葉や行動の意味も解るはずだ」
ピートの言葉を反芻するように謁見の間はザワツき始めた。そしてピートは国王の顔を見て笑っている、それを受けレイモンドは再度頭を下げた。
だがそれを見ていたのは貴族だけではなく怒り心頭の雪華である。
「ピート……あんた何言ってくれてんのよ」
「ちょっと早いかもとは思ったが、レイモンドの言葉で調度良い機会だと思ったんだよ」
「理由を言え!」
「敵の動きが解る……」
「………敵………」
「あぁ間違いなくこの話はイルレイアにも伝わるからな」
「………なるほど、一応理解した」
そしてますますザワツき始める為、雪華はレイモンドに静かにさせてと頼んだ。さらに幾人かの貴族が質問をしてきた。
「あの陛下、今のその『至高の存在』のお方が話した事は、本当ですか?」
「いったいどういう意味なのでしょうか」
レイモンドも諸侯の質問には当然であろうと思うが、さてどうしたものかと考えていると、今度は雪華が話し始めた。
「はぁ、このピートの発言に対する質問は一切受け付けない、それよりも自分たちで考えなさい、頭の良い重臣たちでしょ、あなたた達は、陛下を困らせるような事をするなら私が許さないけど、300年前に王家に降臨して私達ウィステリア家とスキルマスターを眠らせたという話は事実だし、神族が存在してしるのも事実だからね、私から言えるのはそれだけよ」
「しかし公爵、ウィステリア家が始祖姫が興したというのはお伽噺としか我らは聞いておりません」
「あぁ~まぁそうなるわよね、長い時間がそうさせているのだから、でもそれは事実だから、お伽噺でも何でもない事実よ、子供達にもそれはしっかり伝えなさい、だいたい何でウィステリア領が神族の庇護下になっているのかすら覚えていない方がどうかしているんだけど!」
「庇護下になった理由……」
「歴史書を漁ってでも思い出しなさい、私から言うつもりは一切ないから」
「なぜですか?」
「前回の謁見時に言ったわよね? 私は権力を握る貴族と為政者と私利私欲にまみれて考えながら動く者が嫌いだって、事実をお伽噺に変えてしまったのは、時の権力者たちだろうからね」
雪華の言葉を受けて貴族達が黙ってしまった。現在この場にいる人間は大昔の出来事でお伽噺という認識でしかない。正直雪華にとってもお伽噺である、実際自分が書いたシナリオが実在していた等とあり得ないと考えていたのだから、それが事実だと認識するまで頭を抱えたのだった。
だが現にこの世界を物理世界に弾き飛ばした者の魂は雪華の中にあり、原因を作った魔王が現在のこの世界にいる可能性があるのだから、それを人間が知れば大問題で済まされないのだ、だから歴史を思い出せと示唆する以外雪華に出来ることはない。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。