110.5話 閑話(元冥界二大悪魔)
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ここはイルレイア大陸である。魔族と獣族が存在している。
緑豊かな場所と荒れ地の広がった場所の二カ所が存在する。魔族と獣族の仲は正直良い関係とは言えない。
理由は、豊かな土地と荒れ地の二カ所の取り合いで両者の戦争が繰り返されてきた為である。300年前まではずっと領地戦争ばかりしていた。
丁度300年前に現魔王と現獣王の戦いにより緑豊かな場所が獣族に取られてしまい、魔族は荒れ地の広がった土地を領土にすることになった。その結果、大陸は魔族側と獣族側と国境線が布かれている。
気候に関しても天と地ほどの差ががある、獣族側は緑豊かな夏が長く冬は短い、逆に荒れ地に住む魔族側は冬が長く夏は短い、両地側とも緑豊かな夏は暑く冬は極寒、特に魔族側は氷の世界といっても言い程である。
そんな土地柄で現在短い夏の魔族側、短期間の緑の実りの時期に沢山の食材を確保しようと下級魔族が働いていた。それを久しぶりに見ていたのは、ノワールである。
初めて主と決めたのは自身とは反対の側に存在する神族である、いやまだ覚醒はしていないため人族であるウィステリア領主だった。悪魔喚契約という形ではあるが名を貰った事で既にアークデーモンではなくなり、デーモンロード(悪魔公)である。
「悪魔は人族の様に食事に拘りは無いのですがねぇ、やはり魔物以外も必要という訳ですか」
などと独り言を言いながら、主に命じられたわけではないが、魔王城を目指して歩いていた、特に急ぎと言うわけでもなく、ゆっくり状況を確認していたのだ、言ってみれば偵察も兼ねていた。
時々会う魔族は知らない気配に対して攻撃をしてくる者もいたが、それは相手の力量を計れない下級魔族くらいである、ある程度相手の魔力を計り勝てないと思えば手も出してこない。
魔王城に近い所に村を見つけた、中級魔族が住んでいるようだと認識できた、魔族を率いる事を命じられたルージュはそれなりに魔王として仕事をしているようだと思った。
少し立ち寄ってみようと思ったノワールは、何食わぬ顔で村に入った、彼の魔素を感じた村人が全員警戒をして出てきていた。
「おや、みなさんでお出迎えですか?」
「お前は何者だ?」
「ハグレ魔族か?」
「魔王様に忠誠を誓う者か?」
「いえいえ、魔王に忠誠など誓いませんよ」
「じゃ何をしにきた!」
「ハグレ魔族ならば、出て行け!」
「失礼ですね、私は旅をしているだけです、それに……君たちの主とは昔なじみでしてね、少々会いに来ただけですよ」
「何っ! 嘘を言っているのではないのか?」
「そうだ、魔王様の知り合いなどあり得ぬ」
「本当ですよ、ルージュとは冥界時代からの知り合いです、今日は魔王城に行く途中でこの村を見つけたので少し休もうかと思ったんですが、どうやら歓迎されていないようですね」
「……魔王様を呼び捨てに……」
「冥界時代からの知り合いなどと嘘ではないのか?」
「300年以上前の事だぞ」
「そうですよ、300年以上前はまだ二人で冥界にいましたからね、ここの村長さんは誰ですか?」
「村長ではないが、責任者で言うなら私だ……」
殆どが人族に近い姿をした魔族である、300年前の戦争で人に受肉したのは間違いない、当時の事はノワールも知っているからだ。
村長だというその者の風貌は老齢になりかけ執事風な男であった。魔力量も多いグレーターデーモン(上位悪魔)でも200年以上は生きていそうだと認識できる。
「そうですか、そう長居をするつもりは無いのですが、一日だけでも泊めていただけますか?」
「魔王様と冥界時代からの知り合いと仰った……」
「えぇ、そうです」
「ではノワール様ですか?」
「おや、知っているのですか?」
「冥界では有名でしたから」
「そうですか、私のことを覚えている者がいるとは思いませんでしたが……」
「この村の村長はそこにいるアークデーモンです、私はこの一体を治めておりますボルドワと言います、我が屋敷へお招きいたします」
「ほぉ領主的なお立場でしたか?」
「えぇ人族のいう所の領主という事になるのでしょう、時折ハグレ魔族が出現するので見回りを兼ねて、今日はここに来ていたのです」
「そうですか、それは幸運だったと思った方が良さそうですね」
「はい、どちらにとっても……」
そういったボルドワの意味する所は双方が戦えば確実にこの村は崩壊するという意味であり、ノワールにとっては魔王と喧嘩をすることになる、つまり魔族領を危険に晒す事になり主に大迷惑を掛けてしまうことに繋がるためである。
村人はボルドワが言った通り、相手があの冥界で二大でデーモンと言われた魔王と対をなす一柱である事を知ってざわめきから落ち着きと畏れを抱いて後ずさった。力の差を思い知ったのだ。
ノワールはボルドワの後を着いて馬車に乗せられた、そしてそのまま彼の屋敷に連れて行かれた。村からは30分程の場所にある屋敷で敷地は少し広い。
馬車の中では村やこの領内の話を少ししていた、魔王がいくつかの領に区分けしてグレーターデーモンの中でも時を重ねた者を領主代わりに配置してハグレ魔族や魔物の対応を行っている事や魔物や、また魔王を裏切る者がいないかなどの監視も含まれてる事などを話して聞かせた。
「そんな事を私に話しても大丈夫なんですか?」
「えぇこの程度は問題ありません、それにあなたが魔王様と旧知であるノワール様でしたら、隠し事など無意味でしょう」
「なるほど」
「今日一泊されるのなら少し、魔王様の昔の話などお聞かせ願えませんか?」
「聞いてどうするのです?」
「何も、ただの興味本位です」
「ほう、興味本位ねぇ~あれが聞いたらどんな顔をするのか見てみたいモノですね」
ノワールは楽しげにそう言って、ルージュの話をする約束をした。その日の食後に冥界での時や300年前の話などを少し話した。翌日は王城への最短ルートを教えて貰いボルドワの屋敷を出た。
300年前とはかなり地形が変わっている、道が整備されていたり、時々魔物がでている所に統一された衣服を身につけた魔族が討伐をしているのを見て通り過ぎていた。
魔王としてしっかりとこの地を治めているルージュを彼は感心して笑っている。
最短ルートは間違いなかった、魔族側の地形の把握もしておくと決めていた為、浮遊魔法をである程度把握していた。しかも魔王の配下に関知されないように気を使っていたが、恐らく魔王には把握されている可能性があるのも認識していた。
魔王城の門で門番と一悶着があったが、魔王から通しても良いとの命令を受け、胡散臭そうにしながらも魔族は城に入れてくれた。
城内に入ると自身と同じくデーモンロード(魔族公)であろう者が姿を見せた、背の高い威厳ある風貌の男の魔族である。
「お迎えに上がりました、私は魔王様の側近の一人アモスと申します、魔王様の命により参りました」
「なるほど、私が来たことはやはり知っているのですね」
「はい、ではご案内致します」
側近の一人アモスに着いていくと、玉座の間らしき場所に案内された、両側に多くの魔族達が勢ぞろいしている、人族でいう所の文官と武官が左右にいる感じであろうか、とは言え魔族である、人族の姿をしている者もいれば、魔族本来の姿のままの者など様々である。しかも揃って上級悪魔達、つまりアークデーモン以上、デーモンロード以下が揃っている。
「久しぶりだな、ノワール」
「えぇあなたも元気そうですねルージュ」
「全くだ、300年ぶりか?」
「えぇ、ですがあなたはその間に魔王になっている、一つ二つの国を潰しましたか?」
「そりゃ潰すさ、当然相手が誰かも知っているよな」
「えぇもちろん」
「でぇ今日は何をしに来た? いつの間にかデーモンロードになったお前が、なっていなくでもだが、単独で来ることは珍しくはないが、理由もなく来ることなんざ無いからな」
「そうですね、出来れば二人だけで話がしたいのですが」
「ほぉ~、それほどの話か?」
「えぇ」
「……わかった、ついてこい」
玉座に座っていた魔王ルージュはそう言うと、立ち上がって側近二人を連れてノワールを案内した。もう一人の側近も同じくデーモンロードである。
魔王ルージュは一見して細身ではあるがしっかりと筋肉の付いた肉体を持つ、身長も高く魔力量もハンパない、ここにいる誰よりも多く名前の通り赤い髪しているが長髪ではない。
通された所は見晴らしの良い場所でこの時期には緑がよく見える場所である。しかし冬は氷しか見えない場所でだ。
「えらく良い場所ではありませんか、あなたらしくもない」
「そうかぁ? 夏だけだぞこの景色が見えるのは、まぁ別に風情を楽しもう等とは思って無いがな」
「そうですか……」
「どうぞお掛けください」
そう言ってきたのはもう一人の側近タナキと名乗った、此方も背は高いが細身であっても力も魔力も多いようだと判断した。
側近達はワインの準備をしそれぞれの前に差し出した後、魔王の指示で席を外した。
「でぇいったい何の話だ?」
「大した話ではないのですがね、ただ久しぶりのこの魔族領を見てみたいと思いまして」
「……それだけの理由で来たわけではあるまい」
「もちろん、でもあなたがちゃんと魔王をして領地を治めているのには驚きましたよ、ここに来る前に立ち寄ったボルドワという魔族が治めている領地で一泊したんですが、良く治めていると思いました」
「ボルドワに会ったのか、あれは俺に忠実だからな」
「そのようですね、途中で魔物を討伐している者達も……あなた下級魔族をよく兵として鍛えているようですね」
「当然だ! 300年前の二の舞はごめんだからな」
「……あの当時魔族に統一性が少なかったですからねぇ」
「確かに、とはいえ当時の領地を守りながらあの豊かな領地を取る事に、皆必死だったんだがな、お前が協力してくれたら勝てたかも知れない戦いだったんだぞ、なのにお前ときたら……」
「当然です、私はあなたの配下にはなりたくありませんよ」
「配下になれとは言ってねぇだろうが、ただ力を貸せって言ったんだぜ」
「それでもです、ここだけで生活するなんて考えられませんでしたからね、それに……」
「それに?」
「私達が現世に出たあの時、神族が姿を見せた」
「あぁ~~あれかぁ~、あれには驚いたな、まさか神族が口を出すとは思ってなかったが」
「ですが、あなた達の争いに口を出したわけではありません」
「あぁ、そうだ。あれは予言だった」
「予言ではありませんよ、事実です」
「事実? やはりウィステリア領の今の領主がそうなのか?」
「知っているのですね」
「噂くらいに聞いただけだ」
ノワールはそうですかと一言いうと、少し沈黙してルージュを見つめた、此方の話をちゃんと聞いてくれるとは思っている。彼は自分と違って悪魔らしからぬ所がなきにしもあらずの人物だ、自分の方が悪魔らしいと自負はしていた。
だからこそ彼の傘下には入らず、自身の考えとは異なる生き方に賛同出来なかった、だが今は、自身が主と決めたのはあろう事か神族である、これに対して彼はどう答えるのか、気になる所でもあった。
「ルージュ……」
「何だ?」
「今まで私は自由気ままに生きてきました、もちろんあなたの考え方には賛同出来ない事もありましたが、理解できる事もあります。ソリが合わなかったのも事実です」
「あぁ~そうだな、俺は多少の情けは持っているし慈悲も持っている、悪魔といえど仲間に対してだけだがな、だがお前は違う!お前は仲間であろうが関係が無い、自由気ままで好き勝手、お前を制御できる者などいないに等しいと俺は思っている」
「えぇそうですね……ですが……」
「………まさか、お前を制御できる者がいるのか?」
「えぇ、私は今まで生きてきて畏れるもの等ないと思っていました、それは神族に対してもです、確かに神族は下界への干渉はしません、魔素を自在に操ることも出来ます、それでも勝てないと思うだけでしたが……」
「そうだ神族に勝つことはまず出来ないだろう、だが畏れは無かった」
「えぇでも、その理由が解りました」
「解った??」
「えぇ神族への畏れは無くても勝てない、その理由です」
「それは何だ?」
「始祖です」
「始祖?? あの始祖姫か? この世界を異次元に飛ばした??」
「いえ、あの始祖姫ではありません、あの時我々はまだ冥界にいました、ですから神族を畏れるという事は解らなかったのですよ、300年前に我らの前に現れた神族は始祖姫の配下です、かなりの魔素量を感じました、我らよりも遙かに多かった」
「あぁ覚えている、だが俺はあのとき今は無理と思っただけだったぞ、魔王として君臨して魔力も増えているから今度はと思ったが」
「いいえ、無理です!」
「無理だと!!」
「えぇルージュ、あなたでも無理、私と共に戦っても間違いなく命を取られます」
ノワールは人族としての雪華を見てそら恐ろしく感じたのだ、相手はまだ覚醒もしていない人族だったのに、なのに畏れた、既に魔力量がハンパない量だったのを身を持って感じたのだ。
「今はまだ覚醒していません、ウィステリア領主がその始祖姫の魂を持っています」
「会ったのか?」
「私は、彼女の配下になっています」
「………はぁ~~~??? お前それがどういう意味か解っているのか! 相手は神族だろう?」
「えぇ解っています」
「魂を持っている、それは覚醒したら人ではなく神族に戻るって事じゃねぇのかよ」
「そうです」
「……お前、今のお前はデーモンロードだ神族の庇護下にあるウィステリアには入れないんだぞ」
「えぇそれも承知の上です、あの領地はアークデーモン迄なら領民になれます、ですがそれ以上の悪魔や魔族は排除されます」
「それが解っていて……」
「それほど彼女の魔素量が多かったのですよ、まだ覚醒もしていないのに、だから神族には勝てないと思ったんです」
「始祖姫とはそれほどの者か?」
「そうですね、どちらかと言うとあなたの持つ慈悲を持ち合わせ持ちながら平気で人も殺せる方ですね、元来の神族では考えられませんが、そういう人物です」
「……お前と同類と感じた訳か?」
「それだけじゃありませんが、あの魔素をずっと浴び続けるのは怖い、そう思ったのは間違いないのですが、同じくらいに喜びもありました、魔力が増え安心感が合ったのです」
そう告白したこのソリの合わない旧知の相手を見てルージュはため息を付いた、何を好き好んで神族の配下になったのやらと、そして悪魔の興りが元神族だった事も知っているのに、それも解った上での行動に驚いていた。
「でぇ今回俺にそれを話にきたのか?」
「いえ、本題はこれからです」
「今までの話は本題じゃねぇのかよ」
「えぇ、実は主である雪華様が、あなたに聞きたいことがあると仰っていました」
「俺に??」
「えぇ、ただ彼女はウィステリア領主という立場でもあり、あなたは魔族側の王でもある、そのため外交上で問題もあり私が遣わされたと言うわけです」
「……外交上かぁ~なるほど、それは理解したが、何で俺に聞きたこ事があるんだ?」
「300年前の話をお聞きしたいそうです」
「それならお前でも話せるだろうが!」
「いいえ私には無理です、何故ならルージュあなたが唯一獣王と戦ったからです」
「獣王と戦ったから??」
「えぇ雪華様は、獣王の事をあなたから直接聞きたい様なのです」
「アイツの話を聞いてそのお前の主に何の得がある」
「………魔王ダミアスの件です」
「…………魔王………ダミアスって……あの?」
「そう、雪華様は今の段階で詳しくは話してくれませんが、どうも魔王ダミアスの事を元凶魔王と言って気になさっているのです、獣族がたとえ王であってもあなたと同じだけの年数を生きることは無い」
「あぁそうだ、だから俺も奴が気にくわない」
「直接対峙したあなたなら何か感じるモノが合ったのではとお考えのようです」
ノワールの話を聞いてルージュは何かを考えていた、当然獣王の事だ、あの時の獣王は強かった獣族らしからぬ所があった、しかも見たこともない武器を使っていた。故に負けた時に理由が解らなかったのだ、しかも奴はそれ以来ずっと生きている。
獣族で長生きできても種族によるが300年も生きる者はいない。だからおかしいとずっと思ってきた、その答えがウィステリア領主が知っている可能性があるかもしれない、そう思った。
「ノワール……」
「何です」
「外交上の問題があるのなら、立場上許可があればお前の主はこっちに来られるのか?」
「恐らく無理でしょうね」
「何故だ?」
「ウィステリア領はフェスリアナ王国の領地内ですから、一介の領主が国王を差し置いて他国の王に会う事は出来ないと思いますよ」
「なるほど……ならば俺がフェスリアナ王国の国王に会いに行くという理由でなら会えると言うわけか?」
「恐らくは……」
「ならば決まりだな、俺がフェスリアナ王国に行ってやる、だが時期はこっちで決めさせて貰うが良いか?」
「それは構いませんが、一応雪華様への報告の後にして下さい」
「何故だ?」
「人族の貴族の動きが怪しいので、恐らく雪華様もそれに対応をされていると思います、時期を誤れば神界の怒りを買うことになるでしょうね」
「そこまで干渉しないだろう、本来下界に干渉しない連中だぜ?」
「実は神族が一人降臨しているんですよ」
「何だと!」
「雪華様の護衛のために、十二神魔です」
「……マジかぁ~」
「えぇ、ですから間違いなく雪華様を始祖姫として認識して下界の監視をしているはずです」
「……それは慎重に事を運ばないと魔族が全員殲滅させられる」
「そういう事です、かく言う私も、雪華様を裏切れば死が確定しています」
「確定しているのか?」
「えぇ十二神魔から言われた事です」
死が確定しているにも関わらず、配下になったノワールに対して複雑な思いを持ったルージュだった。
「わかった、じゃその返事はお前が報告してその結果次第って事で良いか?」
「えぇ、そうして下さい、次は直接この魔王城に来ますので通して下さいよ」
「了解した」
嘗て冥界で二大悪魔と称された二柱の魔族は、それぞれの立場からそれぞれの意見交換をして、次の再会をする約束をした。
冥界にいたときから意見が合わないときには戦ってきた二人はお互いの事を良く知っている。そして力も同等だった。だが現世に召喚されたら力は半減される、故に受肉して本来の力を解放するしかない、その結果二人は本来の力を取り戻すが、進む道は違ってしまった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。