108話 戻ったピートと王都の状況
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
次元移動後の世界の気候に関しては、移動前の地球とは全く違っていた。
現在すでに7月、夏の季節になっているが、次元移動前の異常気象時代の夏ではなく、最高気温平均でも27度から28ど前後で30度を越えることは希に有る程度で今の所はない、逆に真冬は地域差こそあれ、寒く氷点下となり最低マイナス40度程になる事もある。これはセトレイア大陸においてと言う意味で、その他の大陸ではまた違っている。
漸く戻ってきたピートは今雪華の執務室にいる。やはり表情は厳しいものである。それを見た雪華は執事の小花衣を退出させて遮断結界を張った。
「でぇ~漸く戻ってきたのに、何よその顔」
「……本当なのか? 『皇騎士団《こうきしだん』の件」
「あぁ~それね、えぇ間違いなくそのギルドよ、結構苦労したんだけどね、あの次元移動で全て無くなっていると思っていたんだけど、あんた達神族のおかげかね、全てでは無いにしても辛うじて一部は残っていたのよ」
「でぇそのギルドが元凶魔王かもしれないマクディナルの表のアカウントだったって事か?」
「そう、まぁ~ギルド内では目立たず控えめな魔法使いをしていたみたいだから、あまり印象がないんだけどね、あのギルド人数は結構いたから」
「確か30人くらいはいたか、時と場合によってはチーム毎に行動していた」
「そう、しかもチーム人数やメンバーはいつも変わっていたわ、リーダーが余程の慎重派か確実に頭の良い戦略家だったんじゃないかな」
「ギルドリーダーって確か……人族だったよな」
「そうねぇ……名前はクリスだったか、リアルではマティアス・ハート枢機教ね」
「枢機教? なのか?」
「えぇ、あのギルドの半分は公には司教達で残りは信徒だったり……まぁリアルの教会のメンバーとしては目眩まし、実際は魔術師協会のメンバーよね」
「マジか……」
「後はその地下組織に共感している信徒達がメンバー、マクディナルは表向き枢機教を目指していた大司教だったはずよ」
「ここであのギルドの名前が出てくるとはな」
「っていうよりマクディナルが表裏でメンバーだった事の方が驚きよ、しかも目立たず下っ端って所がね」
「なぜだ?」
「私がリアルで会ったアイツは欲の塊の目立ちたがりと言うか権威をかざして部下を叱りつけるようなヤツだったわよ」
「それで枢機教を目指していたのか?」
「威張り散らしていたのは魔術師協会の方で表の教会では穏やかな優しい大司教様として信徒の信頼を得る為に精一杯良い人を演じていますって感じだわね。でも権威主義は変わらないからメルリアで大統領と一緒にいて攻撃してきたのよ、直接手を下さなくて良いからね」
「その時点で記憶は戻っていなかったって言っていたよな、本当か?」
「えぇたぶんって単語が付くけどね、でもあんたの上司の報告を聞いてレクト、リアルのハディ・クランは優秀なスナイパーで一流の殺し屋よ、そんな彼が殺された、普通ならあり得ないんだけどね、マクディナル如きに殺されるなんて、でも事実だった。それを考えると、もしかしたら記憶を思い出していたか、魔法を使ったかのか、もしくは両方か……」
「魔法!」
「地下組織の魔術師協会に所属していたのよ、多少の魔術は使えないと所属出来ないからね、当時魔素はかなり多くなっていたから、あるいはと思っただけ、魔法を使えたとしたらハディ・クランの狙撃を止めることは出来るし、場合によっては殺せるでしょ」
雪華の言葉を聞いて大いにあり得ると納得できたピートだった。そしてそのマクディナルが取り込んだ者があの残滓……
「なぁもう一つ聞きたい」
「あんたの友人の残滓の行方ね」
「あぁ」
「マクディナルがハディ・クランを殺した時に魔法を使ったとしたら可能性があるって意味よ」
「じゃ確実じゃないのか?」
「だって私はマクディナルとハディ・クランの魔素や魂は解るけど、あんたの友人の残滓は知らないもの、判別出来ないわよ」
「あぁそうか……」
「でもそれを確かめに行こうかなとは思っている」
「えっ、確かめることは可能なのか?」
「まぁ~今は無理だけど、それ以外の案件で非公式で王都に行く予定なのよ」
「何で?」
「実は今王都とその周辺の貴族の動きが怪しくて、下手をすれば領主間戦争になりようなのよ」
「領主間戦争???」
「えぇ、でもウィステリアは一切関知しないと宣言しているから手は出さない、とはいえ確認は必要なので、特にハルシェット辺境伯に関してはね、それの確認の為に行くんだけど、あんたも連れて行くからね」
「でもマクディナルは居ないんだろう?」
「恐らくイルレイア大陸だとは思うけどね、まだそっちは下手に動けないのよ、イルレイア大陸だけじゃない他の大陸に関しても外交問題になるから陛下に迷惑をかけるからね」
「そうか、しかしマクディナルが居ないんじゃ探っても意味ないかな」
「そんな事はない、ハルシェット辺境伯はイルレイア大陸と関係を持っている、今回私が行くのは転移魔法陣の存在が有るかどうかの確認の為に行くのよ」
「転移魔法陣?」
「高等魔法だったあれ、今じゃロストマジックの部類に入っているでしょ? 辺境伯の気配を兼吾と廉が関知しているのよ、その確認をかねて行くつもりよ、あんた転移魔法陣は放置しているんじゃないの?」
「あぁ~~そっちまで手を回せなかったからな、遺跡を残したから、別に良いかと放置した」
「……やっぱり、そうだと思ったわ」
ピートの言葉を聞いて溜息を付いた雪華、王都行きにはまだ少し時間がかかるから、少しゆっくりしているといいと言われ、遮断結界を解除して小花衣にピートを頼んだ。
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丁度、雪華がピートと話している頃、この時期になって王都周辺の不審な噂は冒険者達にも広がっている、特に王都周辺では口に戸が立てられない程である。
「陛下かなり噂が流れているようですね」
「あぁ、出所はまだ解らないのか?」
「はい、ただ近隣領主の報告は今の所どれも怪しい所はございません」
「腐心を抱く者がそう易々と本音は言わん、だが警戒は必要だな、この時期に領主同士のイザコザは正直避けたいのだが……」
「それはなに故にございますか?」
「当然ウィステリア領の事があるからだ、あちらは只の領主ではない」
「確かに……では娘に連絡を取りましょうか、級友であるのならば何かしらの情報を得ているはずです」
「ダメだ、お前の娘を巻き込むようなことは絶対に出来ない、それ以前に公爵自身がお怒りになるだろう、あの方を怒らせる方が領主間戦争になるよりも厄介だ」
レイモンド・フェスリアナ国王は常に領主達の動向を監視しているわけではないが、派閥に関しては敏感に監視していた。特にハルシェット辺境伯がらみは要注意としてである。
そして王妃の動きにも水面下で注意を払っていた、昨年のウィステリア公爵の有る一件の可能性を捨て切れていなかったからだ。
「あぁそういえば陛下、今話に出ていたウィステリア公爵からの手紙届いております」
「手紙?」
「はい、我々が使った方法と同じようにでした」
「ほう、でぇそれは今持ってきているのか?」
レイモンド・フェスリアナ国王はそう言うと側近達を含めて全ての者を部屋から出して、宰相と2人だけどなった。
「でぇ手紙というのは?」
「陛下宛のものが入っておりました、これでございます」
「………ふむ、確かにウィステリア公爵家の家紋だな、お前には来ていないのか?」
「はい私宛にはただ陛下にお渡ししてほしいというメッセージカードの様なものだけでした」
「なるほど……、この手紙魔法がかけられているようだな」
「魔法ですか?」
「あぁ、どうやら私以外に封を切ることは絶対に出来ない様な類だな」
「解るのですか?」
「わからん、ただ何となく嫌な気配を感じるだけだ、どれ読んでみよう」
レイモンド・フェスリアナ国王はそう言いながら、魔法がかけられていると言うのなら、少し魔力が必要だと考え自身が使える魔素を注いでみた、すると封蝋が少し光を帯び自然と開封した。
「なんと、魔素で開封出来るなんて」
「あの方ならこのくらい出来るのだろう」
レイモンド・フェスリアナ国王はそう言いながら雪華からの手紙を読んだ。
『拝啓、レイモンド・フェスリアナ国王陛下
ご無沙汰しております。如何お過ごしでしょうか?
この手紙を読めたという事は、ちゃんと魔素開封ができたということですね。
では、本題に入ります。
まずは冒険者達からこちらの方にも噂となっています、王都周辺の領地間の動向がおかしいというものです。冒険者によっては武器を大量に納入する貴族を見ただとか、魔術師を募集しているとか、まぁ~平民が知られる程度の噂に過ぎませんが……
実際の所はどうなのでしょうか?
私としては恐らくハルシェット辺境伯がらみと考えています。
理由としては友人2人からの報告でハルシェット辺境伯の気配を感じだと言うものだったのです。
イルレイア大陸にいると思っていたのですが……
実際辺境伯は領地に戻っているのを陛下は確認されておりますか?
もしそうならば、イルレイア大陸のハグレ魔族か獣族の中に、味方をするモノがいると言うことになります。
もし戻っている事が事実なら……、以前陛下に話した事がある方法を使った可能性も考えられます
慎重になさいますように……
それと、この手紙は読み終わった後、自然と燃えますのであしからず、私と連絡を取る場合は陛下お得意の方法でロドリアさんに渡してください。ただし迷惑はかけないで下さいね。
では、お返事をお待ちしております
雪華・ウィステリア』
レイモンド・フェスリアナ国王が読み終わった瞬間に持っていた手紙が不思議な蒼い色で燃えてしまった。それを見た宰相は声を上げた。
「陛下、大丈夫ですか? いったい何故燃えてしまうなど」
「大丈夫だ、これは公爵の魔法がかかった紙で書かれたようでな、読み終わったら自然と燃えてしまうらしい。熱くはなかった」
「なんと、そんな魔法があるのですか? さすが至高の存在ですね」
「私も初めてみたがこんな魔法もあるのだな」
「でぇ手紙には何と書かれていたのですか?」
「我々と同じだよ、王都周辺の噂が真実かどうか、それと辺境伯が領地に戻っている可能性があるのではとの事だな」
「辺境伯が?」
「しかし、誰も彼を見た者はいないのでは?」
「ハルシェット領民も誰も見た者はいないのならば城に隠るもっている可能性もあるが、ただ公爵の友人お二人はスキルマスターで同じ天神将だ、その方々が辺境伯の気配を感じたと話していた様だ」
「本当ですか?」
「あぁ手紙にはそう書かれていた」
「しかし港も検問をしていた筈ですが、ハルシェット辺境伯の姿を見た者はおりません」
「……魔法の可能性がある……」
「魔法……」
「そうだ、そう示唆されていた……」
レイモンド・フェスリアナ国王は、以前雪華が話した転送魔法の事を思い出していた、上位の中でも更に高等魔法で現状ロストマジックに状態になっている、誰も手にしていない魔法である、だがイルレイア大陸の様に魔素を持ち魔法を扱える魔族や少なくとも人よりは魔法を扱える獣族などで有ればあるいはと思ったのだ。
「とりあえず、ハルシェット領の情報と辺境伯が戻っているのかの確認が必要になる」
「そちらはこちらで手配しましょう」
「くれぐれも気づかれずにな、そして魔法には気を付けるように」
「はい、畏まりました」
レイモンド・フェスリアナ国王とマルク・ベルフィント宰相の2人は雪華からの手紙の返事を書く前に、ハルシェット辺境伯領の調査を極秘裏に進めることとした。
その三日後、雪華宛にベルフィント伯爵からの手紙が来ていた。当然ドロリアさんから直接届いたものだったのだが、宰相が個人的にリリアナに手紙を託していた為、雪華の怒りにふれた。
即座にリリアナが呼び出されて子細を説明され怒られたうえ、今回だけ返信を書くよう通達、リリアナは父親宛に怒りの手紙を書くことになった。
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7月も下旬にさしかかっていた時期に雪華からの返事が国王に届いた、当然ベルフィント宰相経由であるが、雪華からの手紙を読んで国王は眉間に皺を寄せた。
「マルク……」
「はい」
「個人的な手紙を同封したようだな」
「あぁ~はい、申し訳有りません、その娘に宛てた手紙だったのですが、そのことが公爵の怒りに振れたと娘からこっぴどく怒りの返信が来ておりました」
「………だろうな、こちらにも注意して下さいと書かれている」
「申し訳ございません、以後このような事はいたしません故、お許し下さい」
「あぁ以後は無いだろう、それが出来ないようにすると書かれている」
ウィステリア領主の『雪華・ウィステリア公爵を怒らせることは世界の崩壊を意味する』と内心確信しているのは間違いなくレイモンド・フェスリアナ国王だけであろう。後は半信半疑の貴族達である。直接何度も合っているマルク・ベルフィント宰相ですらこの体たらくであるからだ。
「とにかく今後は通常の手段で手紙のやりとりをするんだな、あの方を怒らせるわけにはいかない」
「はい、肝に銘じて……」
「ところで例の件の調べはどうなっている?」
「今はまだ調査中ですので、特に詳しい報告が来ておりませんが、商業ギルド経由では有りますが、ハルシェット領への出入りが厳しくなっているとの事です」
「厳しくなっている?」
「はい、何でも手荷物から荷台まで全てくまなく調べられて、許可がされなければ追い返されるそうです、また常時取引がある商会に関しても例外なく検問で調べられているとのこと」
「そんなに厳重なのか?」
「はい、また貴族に関して言えば、領主の許可がなければ入領出来ないとの事です」
「ふむ、なるほど、でぇそれ以外の領地に関しても同じ様な対策をしているのか?」
「まだそこまでは調べられておりません、現状ハルシェット辺境伯周辺を第一に調べておりますので」
「ならば他領に関しても、同じ様な対応をされているのか調べろ」
「畏まりました」
宰相の報告を聞いて、レイモンド・フェスリアナ国王は少々状況が悪い方向へと向かっていると確信した。
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その夜、深夜にレイモンド・フェスリアナ国王は全ての側仕えを下がらせて、独り本を読んである人物を待っていた。
そこに窓も開けていないのに静かな風が国王の顔を撫でた。
「お待たせしましたか?」
「……いや、少しゆっくりと本を読む時間ができた」
「そう、遮断結界を張るけれど良いかしら?」
「あぁ、それが最前であるとあなたが判断したのなら問題はない」
「ありがとう」
深夜に国王の寝室を訪れたのは、雪華・ウィステリアである。昼間に届けていた手紙に深夜会いに行くと書かれていた為、レイモンド・フェスリアナは全ての側仕えを下がらせていたのだ。
「でぇ急にお越しとは何かあったのか?」
「その前に宰相さんには注意をして頂けたので?」
「あぁ厳重に注意をしておいた」
「そう、ならばこれを陛下にお預けします」
「……これは?」
「ロドリアさんと直接やりとりできる魔道具、今までの極秘の手紙を直接私に届く物と言えばおわかり?」
「なるほど、これを使っていたのか」
「えぇこれを陛下にお預けしますので、私との直接連絡に使って下さい、但しこれの存在は極秘にお願いしますね」
「わかった、厳重に保管しよう」
「では、この箱に手を当てて出来る限りの魔素を流して下さい」
「解った」
雪華の言うとおりにレイモンドは片手を箱の上に置き、自身の持つ少ない魔素をありったけ流し込んだ。王室には多少でも魔素があればコントロール出来るよう指導がされているため、魔素を流し込むという意味合いも理解できるようだ。
「はいそこまで、これ以上はダメです、体力が待ちませんよ」
「この程度でいいのか? まだもう少し流せそうだが」
「魔素はその人の生命エネルギーも同義なんですよ、使いすぎれば命に関わります、まぁ体が防御反応でストッパーはかかるのだけど、その結果倒れますよ」
「そうか……」
「では、後は私が魔素を流し、陛下以外がこれを開けることができない様に術をかけますね」
雪華はそう言いながら同じように箱に片手を乗せ、反対の手で印を結んで何やら呪文を唱えていたが、レイモンド・フェスリアナ国王には何を言っているのかさっぱり解らなかった。
雪華が使ったのは神崎家の秘伝のような術である、当主だけが使える陰陽術で例の神崎家の『当主の証』の入った箱にかけられていた術式である、指定者以外は弾かれる術である。
「はいこれで完了ね」
「ふむ、助かる、宰相とロドリアを通して公爵と連絡を取るには少々面倒でもあり時間のロスも考えていたのだ」
「まぁそれは私も考えていたので、いつ渡そうかと思っていた所なのですよ、でぇロドリアさんの所に預けてあるモノは回収する予定なので」
「いいのか?」
「ロドリア商会は、ウィステリアに支店を出しているので問題はありません。それにリリアナ・ベルフィント嬢とルイス・ウィルシュタイン子息はウィステリアに居ますので、連絡を取る必要性が無くなりましたので」
「なるほど……」
雪華はそう説明しながら魔道具の使い方をレイモンド・フェスリアナ国王に説明していった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。