106話 迷い家と亜空間
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
ピートは自分の迷宮奥深くの迷い家にいた。雪華に話した後、どれだけの日にちが経ったのか、それすらわからないくらいだ。
日本屋敷の縁側に座ってぼーっと庭を眺めている、そんな上司を見ながら副官は溜息を付きながら配下の2人をつれて上司であるピートの世話をしていた。
「ライファ様」
「大丈夫でしょうか?」
「あぁ、そうだな……」
2人の配下は事情を知らない、あの場に立ち会ってはいないのだ、だがあの時ともにいた副官であるライファは上司の気持ちが分かっていた。辛いのだ。もうどれだけの時をかけて、最後に決着をつけた筈の相手だったのに、残滓が残っていた。
自身もあの決着は知っている、まさか残滓が残っているなど思ってもいなかった。
かつて、遙か遠い昔はまだ友人だった相手、主を裏切った者、そして長い時をかけて決着を付けたはずだったのだ。
あのとき、主は彼を労っていた、心が痛い彼を優しく包み込むように、友人の命を奪ったのだ、彼の心に優しく寄り添っていた。でも今はもうその主はいない。
新たな主は魂だけ受け継がれた別人である。その方に同じ事を求めるわけにはいかない。
「ハダル様……」
「あぁ、どうした?」
「どうぞ、お茶が入りましたよ」
「あぁ悪いな」
「いえ……」
ボーとしながらお茶を啜るピートを部下達は眺めるだけしかできなかった。何をどう言えばいいのかわからないからである。
そんな所にピートの上司ユパがやってきた、ただ、ピートには知らせるなと三人の部下を呼び寄せた。
「どうだ?」
「あの通りです」
「……そうか」
「大元帥明王様、どうしたら良いのでしょうか?」
「食事は摂っているか?」
「食べていらっしゃいますが、以前のような食欲はございません」
「今の状態では不味いのでは有りませんか?」
「そうです人の身でいらっしゃいます、せめて本来の姿にお戻り頂いた方が」
「もう暫く様子を見ていろ、少しは食べているのなら問題はない」
「……はい」
「畏まりました」
「ライファ、一緒に来い」
大元帥明王と呼ばれたのは、前にユパと雪華に名乗ったピートの上司である。その彼が部下の様子を見る為に来たのだが、もう一つ用向きがあった。
副官であるライファをつれて屋敷の玄関の方に向かったのだ。
「あの……」
「実は下界に降りる許可が出た、一日だけだが」
「それは……」
「雪華様のご様子を見てくる」
「ですが何故?」
「あれの様子を見て勢至天様がかなりご心配をされていてな、それに雪華様のご様子も気になると仰せだ」
「確かに……」
「故に私が少し雪華様のご様子を見てこようと思う」
「わかりました、ハダル様の事は我らでお支えします」
「頼んだぞ……」
そんな事を話していた時、突然背後から声が聞こえた。
「その必要は無いわよ」
「……えっと雪華様?」
「しっ~~大声出さないで、ピートにバレるでしょうが」
「えっとあのどうしてこちらに?」
「ピートがこっちに籠もって何ヶ月経っていると思っているの! いい加減心配にもなるわ!」
「つかぬ事をお聞きしますが、下界では何ヶ月ほど経っておられるのか?」
「三月よ! 三ヶ月!! もう直ぐ夏になるわよ!!」
「それほど迄に……」
「ねぇ……ピートの上司さん悪いけどそのハンパないソーマ押さえてくれない? しんどいわ」
「あぁこれは失礼をいたしました」
さすがに一度浴びた強烈なプレッシャーのソーマである、慣れることはないが耐える事は出来るが長時間はやっぱりしんどいのである。
「さっき下界に行くとか言っていたけど?」
「はい一日だけ許可を頂きました、部下があの様子なので三聖天の長が心配をしております、また護衛任務のトップがあれでは部下に示しがつきませんし……雪華様の事も心配なのです」
「あぁ~~まぁそれは仕方ないか、でも心配されるほど今は危険じゃないわよ、でもまぁ許可が出ているのなら丁度良いわ、副官さんも悪いけど一緒に来てくれない?」
「私もですか? 私は許可が出ておりません」
「大丈夫よ、下界と言っても今から行く所は亜空間だから人間はいないからね」
「しかし……」
「雪華様のたっての頼みならば致し方ないだろう、勢至天様たちには後で私から説明をしておく」
「あぁはい、わかりました」
「じゃ……急に2人がいなくなれば心配する者がいるんじゃない?」
「いますね」
「その2人を呼んで、説明してから行くとしましょう、これはピートに内緒で行くんだからね、気づかれずに連れてきて」
「畏まりました」
そう言って副官は屋敷の中に入っていった。以前と違って堂々としている雪華を見てユパは不思議に思っていた。
「何?」
「あぁいえ、以前お会いしたときよりも堂々となさっておいでなので」
「あぁ~あれか、それはあなたが原因だったのよ」
「私ですか?」
「そう、私から見たらあなたは化け物にしか見えないのよ、そのハンパない力、怖すぎるのよ、普通の人間じゃないと言われ続けて来た私ですら怖いわよ」
「では、今は?」
雪華はその言葉を聞きながら、背の高いユパを見上げて言った。
「今も正直怖いわね、でもピートの上司だし、力を押さえてくれるのがわかったからね、敵じゃないのならまぁ我慢くらいは出来るというか、するわよ」
「さようですか……」
喜んでいいのか悪いのか、とりあえずは自分を認めてくれたと思うことにしたユパだった。
そんな話をしている間に副官が2人の人物を連れてきた、初めてここに入って牽制してからピートの所に案内してくれた者達だった。
「ご紹介します、この者達一般の神魔でデマンドとサフィルと言う者達です、前回はご紹介が出来ませんでしたから」
「そうね、あの時はピートを殺すつもりで来ていたから警戒されても仕方ないわよね」
「数々のご無礼をお詫び申し上げます」
「申し訳有りませんでした」
「……別に謝って貰う必要は無いわよ、それがあなたたちの任務だったのでしょ」
優しくそう言った雪華を見た2人は驚いた、この主にも慈悲の心はあるのだと、前回は怒り狂っていたのが強烈に印象として残っていたため、少し畏れていた。
「それよりピートは? 気づかれてないでしょうね?」
「はい、大丈夫でございます」
「少しウトウトされておられました」
「………寝てるの?」
そういって雪華は二枚の紙を取り出して何かを書いた、そして一枚を飛ばし、もう一枚を自身の目に張り付けた。その力は霊力でもなく呪力でもないれっきとした神力である、無意識に発動していたのだ。
式紙はピートを上から観察するように見ていた、同時にその光景は雪華の目に飛び込んでいる、そして気配を少し伺って熟睡しているのを確認できた。その確認を終えると式紙は雪華の元に戻ってきて霧散した。
「熟睡している今が丁度良いわね」
「ねぇ、えっとデマンドさんとサフィルさんだっけ? こっちの2人を少し借りるから、ここの留守番お願いしても良い?」
「えっとここから出られるのですか?」
「えぇここにいたら時間の感覚がズレるのよ、幸い下界降臨を許可されているっていうから丁度良いって思ってね。なるべく早めに戻るけど、ピートには内緒にして欲しい、頼めるかな?」
雪華の頼みごとを断れないのは事実である、とはいえどう返事をしたら良いのかわからないのも事実だった。
「雪華様のご命令通りにしろ、上への報告は私からする」
「命令じゃないわよ! 頼んでるの!」
「はい、畏まりました」
「悪いわね、じゃ行くわよ」
雪華はそういって2人の神族を連れてピートの迷宮に出た。するとすぐさま出てきたのが火の精霊である、神族が出てくるなどと考えておらず、とはいえ上位の存在である2人の前で叩頭礼をしていた。そんな精霊に対して雪華は直ぐにここを発つから気にするなと良い、また戻ってくるからと伝えて、雪華の転移魔法で自分の迷宮に到着した。
「ここは?」
「私の迷宮よ、地上4階層の後は地下で100階層くらいはあったと思うけど、覚えてないわね」
『お帰りなさいませマスター』
「うんただいま」
出迎えてきたのは雪華の式神である古代中華風の服を身につけていた。
「悪いけど今日もいないものとしてくれない?」
『二度目ですね』
「そう二度目ね」
『畏まりました』
「ありがとうね」
雪華は守護者にそういいながら2人を連れて以前ピートを連れて入った場所に来た。
始めてみる景色に驚いているのは神族2人である。
当然である、周囲はだだっ広く澄んだ空気が満ちており空には青空で地は水面のように空の色を移しているが水ではない、鏡面の様にも見えるがそれでもない、足下は柔らかい、とても気持ちがいいものだった。
「雪華様ここはいったい何処ですか?」
「亜空間よ、先祖から受け継いだ空間魔法の応用に色々実験していたらできた空間、まぁ一種の秘密基地みたいな感じかな?」
「ここが亜空間」
「時間の流れは迷い家の反対って思ってくれたらいいわ」
「迷い家の逆って事は時の流れがこちらの方が早いと言うことですか?」
「そうなるわね、外に出ても大した時間は経ってない……と言う感じかな今日は……」
「今日は?」
「そう、空間は完璧なんだけどね、時間の流れはまだ時々不安定なのよ。前にピートと来たときは外の時間を全く同じだったからねぇ~、でも今日は大丈夫みたいね」
「わかるのですか?」
「まぁね、自分が作った所だからわかるわよ」
雪華はそういいながらアイテムボックスから飲み物を出した。今回はレモンジュースである。
「これは?」
「この間貰ったレモンで作ったジュースよ、下界の飲み物だけど飲めなかったかな?」
「あぁいえ、その下界に降りるのがかなり久し振りでしたので」
「そう」
「頂きます」
戸惑いながらもレモンジュースを飲んだ2人、少し酸っぱいが甘みがあると感想をくれた。その言葉に嘘がない事に納得した雪華は笑顔である。
「さて、じゃ本題に入ろうか?」
「あっ、お待ちを」
「何?」
「あの言姿伝を作動しても宜しいでしょうか?」
「……言姿伝? ……あぁあの盗撮機かぁ~、何で?」
「雪華様との会話を上司2名にも聞いていただくためです」
「……なるほど、わかった良いでしょう、別に秘密になるような話は無いからねぇ、神族相手に……」
「ありがとうございます」
そういってユパはなにやら道具を出してそれを作動している。直系7センチ程のソーマ球の一種らしいが、魔道具みたいなものかなぁと雪華は思った。
「じゃ本当に本題にはいるわよ」
「はいでは、何故私たちをここに呼んだのですか?」
「ピートの事を聞きたくてねぇ~」
「ピートのこと?」
「アイツ辛いんじゃないの?」
「またそれは、どうしてそう思ったんですか?」
「ん……ピートの過去は知らないし聞いてないんだけどね……、まぁ、たぶんだけどアイツの過去って私の魂の過去に繋がる訳じゃない」
「そうですね」
「魂の記憶だから、私自身の記憶じゃないからねぇ~でもアイツが苦しんでいるのはわかるのよ」
そんな事を言い出した雪華を見て、2人の神族は不思議に思ったのは間違いない、魂だけ受け継いだ彼女は人格もすべてにおいて別人である。ただ魂だけが主なのだ。
「3月にピートから話を聞いた時に色々正直困惑どころじゃなかった、仲間が殺されて魂もない、あの時の元プレイヤー達の顔は凄く覚えている、何が起こってそうなったのかわかない、裏社会の掟とかまぁそんなのは私も知っているし、幻魔凶がどう言ったギルドでリアルで何をしていた連中かも私は知っていた、でも一般人は知らないからね、当然驚くでしょう、普通……、でも私はそうなった理由がわからないだけで連中がやったことには腹が立つけど連中もプロだからね、獲物は逃がさないでしょう」
「雪華様……」
「私はそういう連中と長い間戦って来た人間だから今更、そういうことで泣き言を言うほど弱くはない。ただ……ピートは違うでしょ、彼、人としては結構な事やっているけど心根は神族だもの私とは違うわ、友人を殺すなんて事は辛いでしょ」
雪華はそこまで言って神族2人を凝視した。何故かピートが悩んでいる事ってそれだと直感的にわかってしまったのだ。
「何故それを……」
「わからないわ、ただ直感でそう思っただけ。私は友人だって殺せる人間だもの」
「雪華様……」
「たぶんだけど、過去のピートを立ち直らせたのは、恐らく初代始祖だったんじゃない? でも私に彼を立ち直らせる術はない、私の記憶にあるのはゲームで知り合ったピートだもん、まぁリアルでも何度か会って知ってはいるけれど、初代始祖とは比べものにならないでしょ」
正直に話す雪華、ピートとはゲームで知り合った間柄である以外に彼を知っているわけではない。
たとえ覚醒して記憶が戻ったとしても雪華の記憶は初代始祖の記憶を持つだけのただの雪華である。記憶に流されるほど夢見がちな女ではないのは本人が一番知っていることだから。
「雪華様……、恐らく遠い過去の記憶としていつか思い出されるのでしょう、ですがそれは初代始祖の記憶であり、雪華様の記憶ではない、それをご承知の上で、そのような話をなされておられる、感服いたしました」
「………そう、それほどのことではないけど」
「お話いたしましょう、ピートの友人の事を、そしてその友人が裏切った事でピートは友人の命を絶つ事を決めました」
そこから話されたのは遠い遠い遙か遠い過去の話だった、まだ初代始祖姫が存命中の事、神界で裏切り者が出て始祖姫に刃を向けた事、初代始祖の大事な方を亡くされた事、それを慰めたのがピートであり、主従を越えた友人関係であったこと。裏切り者の中にピートの友人がいたこと、故にピートは友人の命を絶つ決意をしたことなどだった。
「そう、そんな事があったんだ、神界も一筋縄にはいかないって事だね」
「申し訳有りません、人が思っているほど神界は神秘などとはほど遠いのです」
「別に謝ることは無いでしょ、ただ神族は人を導く義務があるってくらいじゃないの? 降臨も干渉もしない関知もしない、でも見守っている、そんな所でしょう、稚拙な文明ほど神頼みが多い、そういう時だけ知恵を与える、いいんじゃないそれでも」
「雪華様……」
「ピートが言っていたのよ、下界に干渉できるのは始祖姫だけだって、それって過去に何かあったのかもしれないけれど、間違ってもいないと思う、下界に過干渉になれば害となる、人は考えなくなる、文明が発展しない原因だからね」
レモンジュースがなくなりグラスを手の中で転がしながら言う雪華は何かを悟っている、そういう風な貫禄がある。
「とりあえず、私の思っていることや考えていることは一応伝えた、直ぐにピートに戻れとは言わないけれど、腐ってもらってもこまるから、伝言頼めるかしら?」
「伝言ですか?」
「えぇそう、幻魔凶のリーダーのレクト、リアルでハディ・クランと言う人物に入っていた彼の友人だった残滓だけど、マクディナルの魂と融合しちゃってる可能性があるって、それともう一つ」
「もう一つ?」
「マクディナルの表のギルドがわかったと伝えて、たぶんこのギルド名を聞けば、何かしらの行動を起こすかもしれない」
「その名前がわかったのですか?」
「えぇかなり時間と労力使ったけどね、何とかね、その名は『皇騎士団』よ」
「皇騎士団……」
「えぇ頼んだわよ」
「畏まりました」
「じゃ、ここを出て戻りますか、あなた達もちゃんとピートの迷宮に送らなきゃね」
笑顔で言う雪華はそういいながら亜空間を出て2人を迷宮に送り届けて迷い家に入るまで確認をした、その後守護者に礼を言って帰宅したのだった。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。