97.5話 閑話(本来のハルシェット家)
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
少し時を遡り、雪華一行ウィステリア組が王都からウィステリア領への帰還をしている間、スキルマスター一行の動向を探っていた輩達。当然ハルシェット辺境伯の手の者達である。
王都にある辺境伯邸で監禁、襲撃、人身売買の疑いと地下に捕らえられて生きている者達を救出し、証拠も挙がっていた事で辺境伯は捕らわれた。だが家族は全てそこにおらず、どうやら領地に逃がしていた。
辺境伯は尋問を受け自供し概ね罪は認めたもものの、家族は関わっていないと強く否定していた。そして国王の裁可の通達予定日に、牢に行けばもぬけの殻だったのだ。
すぐに国王に知らせが走り、憲兵にはウィステリア公爵への連絡と、全ての兵を動員して行方を探すよう命令を出したが、すぐには見つからなかった。
国の者が右往左往している間、逃げたハルシェット辺境伯は自身の息のかかった者の手引きで牢を抜け王宮を抜け王都を抜け、さらには港町までまんまと逃げおおせていた。
当然王宮を出た後は、フェスリアナ王国も者ではない魔族が手を貸していたこともあり、見つからないように港迄来られて無事に船に乗ることができた。そして国王及びウィステリア公爵を欺くための囮も周到に準備をしていた。船に乗り目指したのはイルレイア大陸である。
「本当に大丈夫なのだろうな?」
「あぁ、心配はない、ただお前は自分の魔素を隠して別の魔素を放出するそのガウンを着ていろ、絶対に脱ぐな」
「解っている」
カイゼル・ハルシェット辺境伯が一緒にいるのは、イルレイア大陸に住むと言われるハグレ魔族である。彼らとはもう長いつきあいであった、というより彼らの雇い主と、と言う意味である。
彼らハグレ魔族は誰かを主と定めてはおらず、傭兵の様な関係で辺境伯とは知り合いだった。
表向きハルシェット家はどこにも属さず中立の立場と見せかけているが、本当は王太子派である。謀反に関わっていたという証拠がなかったため、先王からのお咎めはなかった。故に王宮では要職には付けなかったものの、他の貴族達には今は中立派であるという印象を付けるために目立たないようにしていたのだ。
だがカイゼルは王太子派を口実に王室を裏から自由に操る事を考えていたのも事実だった。しかし王太子が先王派の者から暗殺された事を突き止め、先王もこの事態を重く見て関わった自分の派閥を断罪した。
これを見たハルシェット辺境伯は、次の王太子は孫のレイモンド王子になることが決定づけられた事で、中立派を装う事にしたのだ。上手くレイモンド王子に取り入れられれば、この王子を利用できると考えていたのだが、王子がとても優秀であった為、思うように事が進まなかったのだ。
そんな事が5年程も続いて、王子自身が先王から直接、王太子教育の一部を受ける事になり、更に優秀な側仕えや護衛が付けられ、自分が元王太子派であることから役職がどんどん王子の側からは離されてしまう。
その間にウィステリア家の関係者が目覚め始めたという情報が入っていた。王太子が暗殺されて数年、息子のレイモンド王子が14歳で王太子となった、18歳で王太子妃を迎えたが、その数年後に、先王が魔素過壊病で亡くなった為、レイモンド王太子が28歳で国王に即位した。
その経過を見続けてきたカイゼル・ハルシェット辺境伯は、本来の目的に立ち戻ろうと決意したのだ。元々ハルシェット家は、イルレイア大陸側にあるハルシェット国という一つの国だった。
300年前の領地間戦争に負けフェスリアナ王国の一部になった国だったのだ。それ以来ずっとフェスリアナ王国に仕えてはいるが、本来ハルシェット家は王家である。王族は処刑となるが、ハルシェット家の血を受け継ぐ小さな王子、まだ言葉も話せない赤子だけが処刑を免れ、将来ハルシェットの名を受け継ぐ事を許され、フェスリアナの王宮内で育てられた。
武勲を上げ王家の信頼を得て漸く本来の領地を返還された、その末裔がカイゼル・ハルシェット辺境伯だったのだ。
「ついたぜ」
「そうか」
辺境伯が馬車から降りたそこはイルレイア大陸の東側に広がる獣族の支配地域である。獣族側の港町からすぐに馬車に乗って1時間程揺られていたが、町並みは都市部である為か人族と代わり映えのない建物が並んでいる、ただ全てが商業系であった。
獣族は基本的に種族ごとに暮らすことが多いため、仕事が終わればそれぞれの縄張りに戻っていく。そこが居住区となっている為、大きな買い物が必要な場合はこの都市部にやってくる。
また獣王は獣族の支配地域の奥地に城を建てて住んでいると言うが、平民は会うことすらできない。会えるのは獣王に仕える者達だけという事である。
ハルシェット辺境伯が着いた場所は、その都市部にある立派な建物でできた宿屋である。ここで一泊して翌日森に向かう手はずになっていると連絡を受けていた。
「やっと来たか。カイゼル」
「ラドフ、久しいな」
「全くだ、いつもは手紙だけだからなぁ」
「そうだな、とはいえ長くは居られないが、とりあえず部屋に行こう、話はそれからだ」
「わかった」
ハルシェット辺境伯の知人でもある、ラドフという者は二足歩行をする虎族である、昔からハルシェット家とは懇意にしている相手である、特に裏の仕事も表の仕事もである。故にハグレ魔族とも知り合いと言うわけだ。
「でぇ準備は?」
「大丈夫だ、手はずは整っているから心配するな」
「そうか、助かる」
「それよりも、計画を進めるのか?」
「まぁそうだな、直ぐにという訳ではないが、準備はほぼ整いつつあるからな」
「そうか……だが国王に気取られたら終わりじゃねぇのか?」
「……まぁ国王と言うよりはウィステリアだな」
「ウィステリア? 何で?」
「お前も知っているだろう、ウィステリア領がどんな所か」
「噂くらいだけどな……」
「その噂、どうも本当らしい」
「本当かよ!」
「あぁ、元々あそこは神々の支配下の土地だ、魔核が合っても可笑しくはない、それに……」
「それに?」
「ウィステリア家の当主も目覚めた」
「本当なのか?」
「あぁ、しかもスキルマスターだった」
「……って事は三桁レベルって事か?」
「違うな、スキルマスターは4桁の筈だ」
「よん!!」
「セトレイア大陸の者では誰もその数値を見ることはできないな」
「それが事実ならこっちも無理だろうな」
ラドフは少し考えるような感じであるが表情には出さずに返事をした。
「でぇ、スキルマスター相手に勝てるのか?」
「俺はスキルマスターと戦う訳じゃない、宿願を果たすだけだ」
「でも、出てくるんじゃねぇの?」
「……可能性は五分だな」
「五分?」
「ウィステリア領主は、どうも変わり者のようだ」
「変わり者?」
「貴族や役人が嫌いらしい、国王は守るがその家族を含めて他者を守る気はないらしい」
「……国王だけ守るって? 王室の人間は守らないってことか?」
「あぁ、そう断言していた」
「何だそりゃ、普通国王を含め王室も守るってのが本来あるべきなんじゃねぇのか? ウィステリア領も一応フェスリアナ王国の国民だろ?」
「一応はな、だが独立自治を認め治外法権も認められている為、ある意味一つの国と変わらん」
「んじゃお前の計画って問題ないんじゃねぇの?」
「さてな、こっちは昔の件があるから簡単じゃないだろう」
久しぶりの知人と話をして夕食を摂った後、翌日に迎えにくるといった相手を見送り、カイゼル・ハルシェット辺境伯は宿の部屋に戻った、そして歴史で習った昔の事を思い出していた。
当時、領地戦争時代はあちこちで争いがあった、特にフェスリアナ王国軍は周辺の小さな国を次々と併合していった。ただウィステリア領だけは、神々の支配下であり守護地でもあり精霊達が結界を張っているため手も足も出せなかった。そのため何処の国も一度は攻撃を仕掛けると神罰の様に災害に見舞われていた。
手を出さなかったのはフェスリアナ王国軍のみである。故に王国軍はウィステリア領に手を出して弱った国々に侵攻し勝利の結果統廃合し、ウィステリア王国の一部となったのだ。ハルシェット領もその一つだった。
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カイゼル・ハルシェット辺境伯と分かれたラドフは、そのまま森の奥に入っていき、準備の進捗状況を確かめに行った。数名の魔族と獣族が何やら地面に描いている。
「どうだ?」
「お帰りなさいラドフ様」
「何とか間に合いそうです」
「そうか……」
「それより、これはいったい何ですか?」
「詳しくは知らねえな、ただ古代の魔法陣らしい」
「魔法陣を覚えるのは苦労しますが、これは見たことがありませんね」
「魔法書なんかにもないのか?」
「ありませんね」
「そうか……」
作業をしているハグレ魔族と獣族を見ながら溜息を付いたラドフは、自分の種族の族長の話を思い出していた、何か気になるのだが、ただ詳しくは聞いていない。ただ一つだけ、セトレイア大陸の情報とウィステリア領の情報が欲しいとだけ聞いたのだ、それが今回の知人の頼みを受ける条件でもあった。
翌日、ラドフは知人であるカイゼル・ハルシェット辺境伯を宿まで迎えに行き、この森までやってきたた。既に作業は終了しており、地面には魔法陣が描かれていた。
後は魔力の多いハグレ魔族が陣の周辺に数人立っているだけである。
「これは何だ?」
「よくは知らねえが、古代の魔法陣らしい、お前の屋敷に紙で書いたヤツを置くように言ったヤツと同じものだそうだ」
「これで行けるのか?」
「一度しか使えない物らしいからなぁ、使った後は魔法陣が消えるらしい、恐らくお前が戻ったら紙が消えるか燃えるんじゃねぇか?」
「……そうか、これが転移魔法陣ってヤツか」
複雑に描かれているそれを見て、ハルシェット辺境伯は大きく溜息を付く、本当に大丈夫だろうかと少々不安でもあった。
「カイゼル、この魔法陣の真ん中にたってくれ、陣の中心に立ったら目的地を思い浮かべるんだ、その間コイツらが魔力を魔法陣に注ぐと陣が発動する」
「解った……」
言われたとおりにカイゼル・ハルシェット辺境伯は、魔法陣の中心に向かって歩く、そして振り向いて知人のラドフの顔を見た。
「一日だけだったが、助かった」
「いいや、俺も久しぶりに人族の話が聞けたしな、また手紙でもくれや」
「あぁ、元気でな」
「お前もな、無理すんじゃねぇぞ」
「適度に休むさ」
「……そうか、じゃ始めるぞ」
「やってくれ」
カイゼル・ハルシェット辺境伯の言葉を受けて、ラドフはハグレ魔族に魔力を注ぐように指示を出す、そして暫くすると魔法陣が輝き始める、その光に包まれかき消える様にカイゼル・ハルシェット辺境伯の姿が消えた。そして直後、地面に描かれている魔法陣も消えていった。
「上手く行ったか?」
「恐らくは大丈夫だと思う」
「そうか……」
「じゃ、報酬を貰って解散って事でいいな?」
「あぁ、承知している」
ハグレ魔族の代表がラドフとの商談契約としての報償の話をして、用意してあったお金の入った袋2つ渡した。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。