96話 ノワールの話とピートの上司
※何度か読み返し、色々話がおかしくなっている所や誤字・脱字は不定期に修正・加筆をしております。(更新日が多々変更あり)
領内からだいぶ離れた場所、領門も見えない所で姿を見せたのは魔族と偽ったアークデーモンだった、だがこの悪魔はピートの知るもので、神族としての姿を顕現したピートとノワールと名乗るアークデーモンとの会話を雪華は静かに見守っていた。人が介入してはいけないものと感じたからだ。
「……わかった、その約束を破った場合は、その命貰い受ける」
「承知いたしました」
ダークデーモンとの会話を経てピートはため息を漏らし、それでも警戒心は解かず雪華に向き合った。
「……話は聞いていたとおりだ、こいつは冥界でノワールと言われるほど強く、冥界二大デーモンと恐れられていた、現世では人の手に余るほどの強敵となる」
「それって今の魔族を滑る魔王と同じって事?」
「そうだ魔王はルージュって言われていたが、これはあくまでもあだ名みたいなものだ、恐らくヤツも今は名前を持っているだろう」
「でぇ彼は名無し?」
「主を持って、気に入られたら名を貰えるって感じだな」
「そう……名前だけしか知らなかったけど本当にアークデーモンって居たのね」
「名前だけは知っていたのか?」
「魔術書の中にはでてくるのよ、序列っていうのかな、そういうの」
「なるほど……でもお前すぐにアークデーモンって見破っていたよな? 何でだ?」
「あぁ~~グレーターデーモンはあっちの世界で会ったことがあったのよ、それを上回っていたから、そうじゃないかなぁ~って思っただけ」
「………あっちの世界で会ってたのか??」
「うん叔母がね悪魔召還の出来る魔術師に頼んで私を殺すようし向けてきてたからね、こっちもそれに対応するために魔法書を漁ってたから、その時に序列のことも書いてたのよ」
「マジか……」
「まぁ取りあえず、どうするの? この悪魔」
「まぁ一応お前に会いに来たらしいのと、イルレイア大陸の情報を教えてくれるとか言ってるが、お前はどうしたい?」
「そりゃ知りたいわよ! けど信用できるの?」
ピートと雪華が目の前の悪魔について色々話をしているのを、じっと静かに見守っているアークデーモンことノワールは、雪華の前で片膝をついて礼の姿勢で恭しく頭を下げて言った。
「信用するかどうかは、まず話をお聞きしてからご判断願いたく……始祖姫様」
「……その始祖姫様って止めてくれない?」
「しかしあなた様の魂は始祖姫そのもの、いづれ時が来れば解放されるのでは? ならば問題はないかと……」
「今は問題ありありなのよ! いい私はウィステリア領主の雪華よ! 時が来るその時まではそんな呼ばれ方は嫌なのよ!! わかったアークデーモン!!」
「……畏まりました」
雪華と悪魔のやりとりを見てピートは思った、こういう所は初代と同じだと全く負けてない。
「でぇイルレイア大陸の情報を教えてくれるって本当なの?」
「はい、ですがどうか私もウィステリア領に入れていただけないでしょうか?」
「……何でうちに来たいわけ? 悪魔は神族の管理下にある所なんて嫌じゃないの?」
「確かに神力の気配の強い場所は苦手では在りますが、どの地においても魔族は存在できます」
「……そうなのピート?」
「まぁ、間違ってはいないな、ただお前の場合一応上に掛け合ってみる必要がある 只のデーモンじゃねぇし」
「ごもっともな判断です、ではウィステリアに住む件はその判断に基づいてと言うことでかまいません、始祖、いえ雪華様のご質問にはお答えいたしましょう」
何なのこの悪魔と思いながらも雪華はピートの顔を見ながら、どうしようと思った、とはいえ情報は欲しいのだ、そんな雪華の思いを汲んでピートはデーモンに向き合った。
「お前、情報をこちらに渡して利があるのか?」
「大きな利は在りませんが、魔族にとっては利となるます」
「魔族にとって……って事は魔王にとって利があるって事か?」
「はい、300年前の魔族と獣族の領土争いとその結末は、魔族が負けてしまったからです」
「……それって事実なんだ、魔族側も獣族側も歴史書にはそう書かれているって言ってたわね」
「ウィステリア領に住む魔族も獣族も現在のイルレイア大陸の事は知るものは少ないでしょう、ウィステリア領で生まれ育った者ばかりですから、ですが魔王の支配下にないハグレ魔族なら他の大陸に移動は出来るので現状のイルレイア大陸の情報は提供できます」
「魔王に利があるって事は獣王には害がある?って事になるのかな?」
「わかりません、ただ雪華様なら何かしらご存じなのではと思ったのです、本来短命である獣族なのに獣王は魔王と同じだけの年数を生きていますから」
「やっぱり300年生きているんだ」
「マジかよ……」
「はい魔王は冥界時代を合わせれば獣王よりは長命です、ですが現世に来てからの年数を考えれば対等、本来ならあり得ないのです」
「……ねぇあんた獣王にあった事はあるの?」
「いえ、直接的には会っていません、ただ獣族の領域で姿を見た事は御座います、一般的な獣族と変わらないと思いましたが、何か違和感がある……と言う印象です」
「……違和感かぁ~~~アークデーモンのあんたでも違和感があるって感じるのね、って事は直接対決をしたことのある魔王はもっと何かを感じている可能性があるわね」
そう思った雪華は空を仰いでため息を付いた、そしてピートも雪華の疑念の正体に少し気づいて怪訝な表情をしている。
「……よし、少し考える時間が欲しいわね、あなた悪いけど暫くの間このあたりで過ごしていて貰える? ピートが上層部とらやに掛け合っている間だだけになると思うけど、今は領内に外部の者を入れることに神経を尖らせているのよ」
「ではお話を信じていただけるのですか?」
「まぁ一応ね、とはいえまだ確証には情報不足だから絶対にとは言えないのだけど……」
「有り難う御座います、ではこのあたりで姿を隠しております」
「姿を隠すの?」
「雪華様にとって利とならないこともおありでしょうから……」
「……そう、わかったわ、何かあったら式を飛ばすけど、わかるかしら?」
「たぶん大丈夫だと……」
「そう、じゃピート戻りましょう」
「……こいつ放置でいいって事か?」
「今はね」
「わかった、じゃ結界を解く」
ピートは溜息混じりに人の姿に変え結界を解除した、この状況は既に神界は気づいていた。
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深夜遅くに戻ってきた2人に、門番は眠い目を擦りながら開けてくれた、そして2人は礼を言って領城に戻った、当然遅い帰りに家族は心配していて、祖父母と父が起きて待っていたが、詳しい話はまた今度と言って、2人とも自室に向かって仮眠を取った。
翌朝朝食後すぐ、雪華はピートの迷宮に向かった、この件について家令の月宮は質問してきたが、今はちょっと話せないと言って迷宮に向かったのだ。
家族にも執事達にも詳細を言わないままピートと出かけていった雪華に、残された者は心配をしていた。
実はピートの迷宮行きはピートから言い出した事だった、どうも人には話せない事があると言われたら雪華も反対できないのだった。でぇピートの塔に入って更に迷い家擬きの中に入っていった。
「此処まで来なきゃならないの??」
「あぁ……」
ピートはいつもよりも口数が少なく険しい顔で日本屋敷に入っていった、当然雪華もついて行く。すると次席と言われる副官が出迎えてきた。
「お帰りなさいませ始祖姫様、筆頭」
「お前がいるって事は、上は昨夜のことを知っているって事だな」
「はい」
「そうか……、俺も上に話が合ったから知っているのなら説明は要らねぇって事でいいな」
「筆頭、報告は必要と思われますが……」
「二度手間だ、それに今回戻ったのは雪華に一つ話しておかなければならない事があるからだ」
「えっ、私に?」
「あぁ昨日あのアークデーモンが言っていただろう、冥界の悪魔が何故存在しているのかって」
「あぁ、そういえば言ってたねぇ~、あんた凄く怖かったけど」
「……正直な所、本来始祖はそれを知っている、だがお前は覚醒していないから理由を知らない。それをあいつに知られるわけにはいかないと思ったんだが……お前が覚醒していない事は知っている様だったからな、だからあんな話をした可能性もある」
「アークデーモンとピートが知っていて私が知らないこと? それって始祖なら知っていて、転生している私は知らないって事なのね」
「そうだ、覚醒すれば思い出すだろうが、正直伝えておく必要があると俺は判断した」
「筆頭、上に報告もなく始祖姫にお教えして良いのですか?」
「あのノワールが出てきたからな、話しておかないとひっかき回されても困る」
「……ノワール……って、えっ昨夜会った悪魔がノワールだったのですか??」
「あぁ、そうだ冥界には戻らず現世に留まっていた、しかもグレーターデーモンからアークデーモンに進化していた」
「アークデーモン! あのノワールがですか?」
「あぁ、上はお前にそれを話していないのか?」
「えっとはい、昨夜始祖姫様と筆頭が悪魔と会って話をしていたとだけ……」
「……えらく簡潔だな」
ピートの部下ですら驚くほどの悪魔なのかと、雪華は不思議でならなかった、悪魔如きで神族が驚くものなのかとも思ったのだ。
「えっと次席さんも驚く事なんですかね、そのノワールという悪魔のことは?」
「えっと、はい冥界の二大デーモンとして有名でしたので、彼らは数千年冥界で生きていましたから」
「あぁ~~なんかそんな事ピートが言っていたわね」
「とにかく話を始めるぞ」
「待て……」
「……げっ……何で此処に……」
ピートが話を始める前に一人の男が姿を見せた、とてもピートよりも背の高い男で、頭にはターバンで髪を隠していて髪の色はわからないが、薄明るいカーキ色(DarkKhaki)の瞳を持っている。また内包される魔素というか神力はピートを遙かに上回っていると確信した雪華、これがピートがいつも上とか上層部とかいう者かと思ったのだ。
「……ちょっとピート、誰よこれ! 何なのこのプレッシャーは!!」
「えっと、一応俺の上司だ」
「じょ、上司ぃぃ~~~」
雪華は言いながらもピートの服を握って後ろに隠れるように半立ちである。
「ライファ、茶の準備を……」
「はっ、畏まりました」
「えっと……あのユパ様、一体何故こちらに?」
「お前は私に報告が在るのではなかったのか、ハダル」
「うっ……、まぁ~その一応在りますが……」
「では何故すぐに報告に来ない」
「そっ、それはですね……、色々と在りまして、纏まってからご報告をと思いまして……」
「ほうぉ~それで纏まったのか?」
「いえ、そのまだなので、もう少し後にと……」
「始祖姫様をこちらにお呼びしてからとは、悠長な事だな」
「それは……」
「現状事を急くのは危険ではあるが、報告が遅れるともっと危険である事は、お前が一番よく知っているのではないのか?」
このプレッシャーに負けそうになりながらも、ピートの後ろに隠れている自分を少し恥じていた、ピートは雪華の自分の気持ちを大事にして行動してくれている、それを理由も聞かずに頭ごなしで怒っている方に対して腹を立てていた。
「ちょ、ちょっと! あんた! ピートが報告を遅らせているのは、私の気持ちを考えてでしょ、いくら上司だからって酷くない?」
「せ、雪華! 待て待てお前が怒ることはないって、俺が遅らせているのは事実だから!!!」
ピートの服を握りながらも威勢良くとはいかなくても反論をした、そして精一杯の力を込めて睨み返していたのだ。それを見た相手はじっと雪華を見ていた。そして膝を付き恭しく叩頭礼を取った。
「な、何よ!」
「いえ、……お変わりないご様子に安堵いたしました、ご挨拶が遅れ申し訳御座いません、私は神界三聖天の末席に連なる大元帥明王と申します、人の世界ではユパと名乗っておりました、今生ではお初にお目にかかることになります、以後お見知り置き下さいませ始祖姫様」
「………ピートこの人何言ってんの?」
「あぁ~簡単に言えば俺の上司で、始祖姫の三人の側近の中の末席にいるお方だよ、一応この方も俺と同じで昔は光臨を許されていたから人としてのユパって名前を持っているんだ」
「……そ、そう……」
「んっ……お前どうし……た?」
ずっとピートの服を強く握りしめて後ろに隠れているというか、隠れなおしたっていうのが正しいか、どうもユパの気配に耐えているらしいとピートは認識した。
「……あっ、そうか、あのユパ様、雪華様はそのまだ覚醒していませんので、その気配がプレッシャーになっておいでです、どうか少し収めていただけませんかね?」
「ふむ、なるほどこれは失念をしていた、申し訳在りません始祖姫様」
「……あのその始祖姫っての止めて貰えませんか、私は雪華よ」
「しかし始祖姫様の魂を持つあなた様はいづれ、覚醒の時を迎えます、その時は正真正銘の始祖姫様です」
「……悪いけど、まだ人なのよ私、それに始祖姫の魂を持っているかも知れなくても、そんな人知らないからね! 私は!!」
「あはははは……流石雪華、そういう所も変わらん」
「どういう意味よ! ピート!」
「あぁ~いやこっちの話」
「ねぇ~ピート私の塔に行かない、何か居づらいわここ……」
「そうしたいのは山々だけど、話の内容はちょっとなぁ、守護者にも聞かれたくないぞ俺はぁ~」
「マジで言ってる、それ程の話なの??」
「まぁなぁ、それに上司がいるからなぁ~……逃げられん」
どうやら『逃げられん』ってのが本音のようだ、まぁ確かにこれだけのプレッシャーを秘めた上司相手では逃げようもない事は雪華ですら理解できる。
そんな話をしている間にお茶が三つ用意されそれぞれの場所に置かれた、当然本来なら雪華が真ん中で、ピートは末席になるのだが、雪華がピートから離れないため2人の正面に上司が座って話すことになった、まるで生徒と教師の面談の様である。
「でぇハダルお前が始祖姫様、あぁいや、雪華様に話そうとした事は何だ?」
「あぁそれは冥界に悪魔が存在する理由です、あのノワールに示唆されました、とはいえ雪華様はまだ覚醒しておりませんので記憶がありません、かき回される前に説明だけしておこうかと……」
「なるほど、ノワールがそう言ったか、しかし何故接触してきた」
「イルレイア大陸の情報を話に来たと言っていましたね、こっちも知りたい情報でしたから」
「イルレイア大陸の魔族と獣族の事ならお前も知っているだろう」
「実は報告が遅れているのは、在ることに関して確証が無いからです」
「在ること?」
「はい、それを確認するために魔王と接触する必要が出てきました。ですが現状簡単ではないのです、雪華様はウィステリア領主であり公爵という貴族としての顔を持っています、事が魔王と接触となると外交問題になります、国王との話も必要になりますので、もう少しお時間を頂きたかったのです」
「在ることとは何だ?」
「それは……」
上司と部下の話を聞いていた雪華、そこに自分から説明というか質問をしてきた、ピートばかりに話させるわけにはいかないと言う思いもあった。
「ねぇピートの上司さん、私たち神崎家は神族に眠らされて300年後の今に目覚めたのよね?」
「はい、神崎家だけではなく、雪華様にとって有益と判断した者だけを守りました」
「他の魂の行方とかは知っているの?」
「次元移動前の魂たちが移動中にどうなったかという質問であればすべて魔素に耐えられずに生きてはいないとお答えします。ですがそれ以外の事であれば、私では知る権利を要しません」
「………、えっと一応ピートの上司で上位の神族と判断して、それでも知る権利を要さないわけですか?」
「はい、仰るとおりです」
「うそぉ~~~どうすんのこれ! やっぱり魔王に会わなきゃ、最悪、獣王にあって確かめるしか無いじゃない! 神界の上層部ならわかると思ったのに……」
雪華は頭を抱えてピートの体を揺すっている、何でピートの上司もわからないのよって事である。
「あの、いったい何をお確かめになるのですか? 内容によってはこちらでお調べいたしますが……」
「えっ、調べられるのか?? 魂の管理はユパの管轄じゃないんだろう??」
「本当に調べる事って可能ですか??」
「内容によるとは思いますが……」
「マジで……」
「勢至天様になら何とか出来るかも知れんが」
「なるほど勢至天様かぁ~」
「誰よ?」
「私と同じく三聖天の一人で、第一席の方です」
「なぁ雪華この際だから、頼んでみたらどうだ? イルレイア大陸に行かずに確認できるなら助かるんじゃねぇ?」
「そりゃまぁ助かるけど、あんたには迷宮を何とかして貰うために行って貰うけど……」
「そっちは任せろ、魔王や獣王に会わずに作業出来るのならこっちは楽勝だ、でもお前も行くとなると大事になるからな」
「……確かにそうねぇ、あっそうだあの悪魔どうするの」
「あいつかぁ~それもあったな……」
始祖姫の魂を持つ雪華と部下のピートの会話を聞いていた、上司通称ユパは、話を整理する必要があると考えて2人に対して提案をしてきた。
稚拙な文章をお読みになって頂きありがとう御座います。
ご感想に対する返信返しは超苦手なので、出来ないことが多いかもしれませんが、出来るだけ頑張りますので、長い目で見ていただけると幸いです。